第八話 鮮血の夜営地
『湖畔国』クレゴン王国に向かう一行も、その旅路は順調であった。そもそも、西大陸は長らく国家間の戦争がないに等しく、あっても軽い国境紛争程度で終わることが大半であった。そのため、人の行き来が多く、それを支えているのが各所に走る街道であった。
街道は誰でも利用することができ、国境には検問が設けられているものの、越境は容易であった。
「この点は、東大陸も見習うべきですわね」
通り過ぎた国境の検問を背にしながら、フィーヨはそうぼやいた。
東大陸は長く続いた戦乱によって街道が廃れ、人の行き来が厳しい状態が続いていた。物流が停滞し、それが貧困や飢餓を生み出しては流民が彷徨うこととなり、治安の悪化を招いていた。
戦乱終結後、真っ先に着手された事業が、まさの街道と港の整備と、それに伴う物流の改善であった。今は亡き《英雄王》が提唱し、それを“白鳥”が引き継ぐ形で実施された。現在では東大陸を十字に通る大街道が整備され、各所の港も改修が完了し、人も物も行き来が以前に比べて大いに改善されていた。
しかし、五十年近く平和が続いている西大陸に比べるとまだまだ見劣りすると思うのが、フィーヨの偽らざる感想であった。為政者として、領内の整備に携わっていたこともあって、その点は西大陸に完敗であると感じていた。
「さて、国境を越えて一区切りついたことですし、そろそろ今宵の寝床を見繕いましょうか」
フィーヨの視線の先には、街道沿いの宿場町が見えていた。行き交う旅人の憩いの場であり、街道沿いにはこうした場所が要所要所に点在していた。こうした場所は宿や食事を旅人に提供し、それが落とす金や運ばれてくる物資が集まる中心地となっていた。近場の農村の人々は食材を持ち込み、それを売ることによって金銭を得て、村では作れない物資を調達する。物資は街道を伝って流れてくるので、行商などがそれらを売りにやって来る。
つまり、こうした宿場町がこの地域の経済的中心地であり、人も物も情報も集まるのだ。
「いや、フィーヨよ、このまま進め。あの町は素通りしろ」
意外な台詞がフィーヨの巻き付く蛇、すなわち兄であるヘルギィから飛んできた。
「お兄様、よろしいのですか? 次の宿場町までは距離がありますし、太陽の高さを見ますと、まず日没までには間に合いませんが」
「ああ、それでいい。今宵は夜営する」
ますますヘルギィの意図が分からず、フィーヨは首を傾げた。随所にある宿場町を無視し、あえて屋外にて夜営する意味を理解できなかったからだ。
「真っすぐ前を向き、後ろを振り向くなよ。国境を越えた辺りから、こちらを探っている気配や視線を感じる」
静かだが、明らかに警戒している感じがヘルギィから伝わってきた。フィーヨは言われるままに前を向き、何も感じていないかのように振舞った。
「野盗の類ではありませんね。周囲にはいくらでも狙う標的はいますし」
なにしろ、今進んでいるのは街道である。行商など他にいくらでもいるし、わざわざ冒険者の馬車を狙うのは明らかに不自然であった。
「後ろから付いてくる奴らの数は三人だな。仕掛けるつもりはなさそうだ、今のところはな」
幌付きの荷台で寝転がっていたセラがいきなり声を発した。寝ているようで、実はしっかりと気配を感じ取っていたのはさすがと言わざるを得なかったが、わざわざそれを知らせてきたことがフィーヨの疑念を呼んだ。
「あなたがわざわざ警告を発してくるなんて、これは何かの前触れですか?」
「強いて言えば、襲撃の前触れかな」
シレっと言い放つセラであったが、フィーヨはその可能性は少ないのではと感じた。
「割と人がいる街道沿いですよ? 町には警備兵だっています。襲撃するのには不向きな場所です。なにより、私達に狙いを絞ったということは、こちらの実力を把握していると考えるのが自然。明らかに数が少なすぎます」
「まあ、普通に考えたらそうだ。だが、町一つが丸ごと襲い掛かって来るのなら話は別だ」
セラの言葉を聞き、フィーヨはハッとなった。ヘルギィが町を素通りしろと警告したのは、その可能性を危惧してのことだと気付いたからだ。
「通常通りの旅であれば、あの宿場町で宿泊するのは当然だ。ならば、相手もそれを考え、町に罠を張るだろう。なにしろ、こちらは魔術師組合に中指を立ててきたばかりだからな。報復に来たか、あるいは神々の遺産が狙いかは分からんがな」
「なるほど。町中なら相手の正確な数が分かりませんが、夜営をして襲われたら、自分たち以外は全員が敵として処理できる、と」
ほんのわずかな時間でここまでのことを考えていたとは、さすがはお兄様だとフィーヨはますます敬意を表した。
そして、馬車はそのまま進み、宿場町へと入っていった。宿屋の客引きに声を掛けられたが、それを何食わぬ顔で無視し、フィーヨは気配を探りつつも通りをそのまま進んで町を抜けた。
ちなみに、通りを進む者は他には皆無であった。時刻が時刻であるし、次の宿場町までは進めないと判断して、その町で宿泊を考える者ばかりであったからだ。あとは地元民と思しき者達ばかりで、フィーヨらのように、旅人の姿は少なくとも街道の上からは消えてしまった。
「焦っているようだな。こちらを監視していた奴の動きが急に慌ただしくなった」
ヘルギィは後ろを振り向き、ニヤリと笑った。やはり町中で何か仕掛けるつもりであったのは間違いなさそうで、それをまんまと潰してやったというわけだ。
「では、お兄様、このまま進んで、適当な場所で野宿、ということでよろしいですね?」
「うむ。警戒は怠らぬようにな」
こうして、馬車は日が傾いていく中、街道をさらに進んでいった。
***
馬車がしばらく街道を進むと、それに並行する形で流れる川を見つけた。水場を確保できたので、この川縁にて夜営することとした。
と言っても、焚き火を起こし、フィーヨ一人分の食事を用意するだけの簡単な作業だ。なにしろ、セラもヘルギィも水も食料もいらない体なので、食事を必要としないからだ。
ヘルギィの蛇の体はフィーヨの魔力によって維持されているため、魔力供給ができていれば、問題がないからだ。
一方のセラは一応食事を必要とする体なのだが、月に一度、女神の体を貪れば事足りるため、今は食べる必要がないのだ。
食事は極めて簡素なものだ。保存の利く硬く焼いたパンに、同じく保存の利く干し肉と硬いチーズ。とても帝位にあった者とは思えぬほど、今夜のフィーヨの晩餐は粗末なものであった。
フィーヨはそれらを水に浸したり、あるいは焼いたりして食べやすくしてから口に運んだ。決して美味しいとは言い難い物であるが、食べないよりかは遥かにマシであった。
「すまんな。町で泊っていれば、今少しまともな食事にありつけたであろうに」
ヘルギィは妹の身を案じ、粗末な食事を睨みつけた。自身はフィーヨからの魔力供給があればなんの問題もないが、その供給元がこの食事である。今少し栄養のある温かい食事が望ましいのだが、そう贅沢なことを言ってられないのも事実だ。
自身の体が自由に動き回れれば、それこそそこらの動物でも仕留めてくるのだが、色々と縛りの有る今の状態ではそれも不可能だ。
気が向いたときであれば、セラがそれを引き受けたりもするのだが、今のセラは相変わらず横になっていて、動く気配もない。
「まあ、仕方ありませんよ。それよりも、お兄様、誰が我々を狙っていると考えられてますか?」
「喧嘩を売ったベアホンの組合員どもではないことは確かだ。しっかりと“躾けて”おいたから、こちらに真っ向から戦を仕掛けるバカはおるまい」
なにしろ、ヘルギィの手によってベアホン支部の幹部連中は全員殺されかけたのだ。恨まれているだろうが、仕返しをするにはあまりにも相手が強すぎて、復讐を成すことはできない。
「となると、やはり狙いは神々の遺産でしょうか?」
「可能性はそれが一番高いが、それにしては敵の力量が低すぎる。神々の遺産で武装しているということは、英雄級の存在と戦うことを意味しているからな。多少の数的有利を以て成せると考えているのであれば、それこそお粗末すぎる」
実際、神々の遺産は強力な道具だ。兵器と言ってもいい。この三人の中で一番弱いフィーヨでさえ、神々の遺産を使っていいなら、百人の兵士が相手でも蹴散らせる自信はあった。
「そう考えると、こちらに仕掛けること自体が目的なのかもしれんな」
「奪うのではなく、こちらに何らかの合図を出すのが目的である、と」
「まあ、それは実際に聞いてみるのが一番だがな」
ヘルギィは首を回し、森の方をジッと見つめた。フィーヨも釣られてそちらを振り向くと、すぐに何かがこちらに迫って来る気配を感じた。明かりは点けず、月明りのみで迫ってくる点は良いにしても、鎧の擦れる音や足音までは完全に消せていない。
練度としては、そこそこできる、と言った程度だ。
「やはりジョゴやユエのような腕利きは、稀だというわけですか」
「だな。さて、招かれざる夜の来客だ」
「ですわね」
フィーヨは気配が迫ってくる方を向いて立ち上がり、それらが森から飛び出してくるのを待った。
そして、それらが姿を現した。数は三十人近くもおり、ちょっとした傭兵団といった趣きすらあったが、フィーヨはそれをすぐに否定した。
「位置取りから察しますに、冒険者部隊が数組、臨時編成で徒党を組んだ、といったところでしょうか」
「おそらくな」
ヘルギィもフィーヨの意見に賛同し、迫って来る連中を舐めるように眺めた。やはりどれもそこそこといった感じで、警戒すべき相手はいそうになかった。
なお、セラはこの状態でも動く気配を見せず、鞄を枕にして横になったままであった。それゆえに、フィーヨは逆に安心していた。セラが動かないということは、強敵が不在な上に、セラの感性で“楽しい”状況でもないからだ。
さて、どうしようかとフィーヨがか思考を巡らせていると、巻き付いていたヘルギィがニュッと目の前に顔を出してきた。
「フィーヨ、少し体を借りるぞ」
ヘルギィはそう言うと、フィーヨの意識と自分の意識をすり替え、フィーヨの体の支配権を獲得した。短時間であれば、フィーヨの体を操って、自分が完全に表に出ることができるのだ。
そうこうしているうちに相手方も揃って姿を現し、焚火を半包囲する形でそれぞれの得物をフィーヨ達に向けて構えた。
「くっ、もう追いついたってわけね。意外と早い」
フィーヨの体を借りてのヘルギィの演技であった。いかにも追いつかれ、追い詰められた雰囲気を出すための台詞や仕草を見せ、相手に被虐心を喚起させるためだ。なにしろ、そういう場面こそ、優位に立った(と思っている)側は口が軽くなるからだ。
「観念するんだな。この盗人め!」
一人の男がそう叫んできたが、もちろん身に覚えのないことであった。だが、相手の反応を伺うため、あえてそれに乗ってみた。
「うるさいわね! 事情を知らない連中が首をつっこまないでよね! この“額冠”は母の形見で、私は盗まれた物を取り返しただけよ!」
「へっ、そんなこっちゃ知らねえんだよ。まあ、思った以上にいい女だし、少しばかり楽しませてもらってから、引き渡すとしよう。どうせ、生死は問わねえってことだしな!」
幾人もの男達から下品な声が漏れ出て、フィーヨに対して情欲しているのは明らかであった。もちろん、ヘルギィは大切な妹をそんな邪な感情を剥き出しにして迫ることを、微塵も許すつもりはなかった。
そして、片手剣を鞘から抜き、右手でそれをしっかりと握り締めた。
フィーヨは《真祖の心臓》を用いて戦うことが多かった。血液を自在に操る能力を有し、しかもそれを用いて顕現させている二匹の蛇を様々な武器に変えることにより、様々な状況に応じた戦い方をしてきた。
しかし、今は二匹の蛇の片割れがいなくなり、しかももう一匹にはヘルギィと入れ替わったフィーヨが入ってる状態であった。ヘルギィは一時的なこととはいえ、妹の武器にして戦うことをヨシとせず、そのため“普通”の剣を購入しておいたのだ。
もちろん、自身の目利きによるそれなりの業物を選んだつもりでいるが、神々の遺産に比べると見劣りするのは否めなかった。
フィーヨが武器を構えたのを見て、手近な男が一人、下卑た笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。その手には長剣が握られていた。
「傷物にするなよ。これからがお楽しみなんだからな」
周囲から囃し立てるように下品な歓声が飛んできた。寄って来る男も、明らかに女手であるからとなめており、ゆっくり歩み寄りながら大上段に両手で剣を構えた。
胴体部ががら空きであり、普段のフィーヨであれば素早く距離を詰めて払い抜けるし、今体を動かしているヘルギィもそうするはずであった。だが、ヘルギィはあえてその一撃を受ける気で構えた。
「フィーヨ、《真祖の心臓》の真価、折角だから見せてやろう」
そう言うと、ヘルギィは剣を横に払った。だが、それは間合いの外であり、男には決して届かない。男も間合いはちゃんと測っていたようで、特に恐れることもせず、ヘルギィが払った片手剣目掛けて、自身の持つ長剣での叩き落としを狙った。
男の狙いはある種、当然の行動であった。女が破れかぶれで振り回した剣を叩き落し、そのまま組み伏せて“お楽しみ”に持ち込む。至極当然な判断だ。
だが、その未来予想図はあっさりと消えてなくなり、男の考えとは違う結果が生じた。男の持っている長剣の方が弾き飛ばされ、月明りに輝く刃が宙を舞った。
その段階でヘルギィは間合いを詰め、相手の喉に剣を突き刺し、そして払った。裂かれた頸動脈から勢いよく血が噴き出し、男は声にならない絶叫を上げながら倒れた。
「〈血流委縮・腕力劣化〉、お前から“握力”を奪った」
フィーヨはヘルギィのあまりの素早い術式の展開に驚いた。なにしろ、剣と剣がぶつかる寸前に《真祖の心臓》を起動し、相手の手から握る力を削ぎ落した。
振り下ろされた剣がその威力を発揮するには、手でしっかりと握っておかなくてはならない。力の発動には、支点と力点が必須であり、握る力がなくなれば、振り下ろされる剣の力は高が知れている。
男が両手持ちで振り下ろした長剣が、女が片手で払った片手剣に弾かれたのは、力の作用を失ったからに他ならない。
(速いうえに、狙いが正確だわ)
フィーヨは基本的に〈真祖の心臓〉の力を、自身の強化に充てる場合が多い。女の腕力ではどうしても男に押し負けるため、肉体強化が必須であるからだ。
だが、ヘルギィはどうか。今のヘルギィはフィーヨの体を使用しているため、身体的な能力はフィーヨに依存している。しかし、剣と剣のぶつかり合いをあっさり制した。
能力を発動し、どういう効果がどれくらいの時間で発揮されるか、それらを熟知していなくてはできないやり方だ。
「フィーヨ、お前の戦い方は“短期決戦”だ。強力ではあるが、すぐに体力も魔力も枯渇する。雑魚を蹴散らす分にはいいかもしれんが、格上の相手には息切れが命取りになる。体力や魔力の配分には気を付けることだ」
実際、ヘルギィのやり方は、とんでもなく効率的であった。一瞬だけ発動し、効力があるうちに致命の一撃を与え、そしてすぐに停止させる。魔力の消費や体への負担が、フィーヨのやり方に比べて圧倒的に少ない。
「やりやがったなぁ、この女ぁ!」
仲間が殺されたことに激高してか、今度は槍使いが槍を構えて突っ込んできた。一直線にヘルギィに向かって走り込み、槍を突き出してきた。
だが、ヘルギィはそれに対して冷静に対処した。
「〈血流委縮・脚力劣化」
突っ込んできた槍使いは突如として体勢を崩した。右足がいきなり言うことを利かなくなり、危うく走る勢いのままに倒れそうになった。どうにかもう片方の足で踏ん張りつつ、槍を繰り出したが、そのような崩れた体勢での突きなど命中するわけもなく、ヘルギィはそれをスレスレでかわした。
そのまま踏み込み、払い抜けで相手の首に一撃を入れ、槍使いは血を噴き上げながら倒れた。
「槍使いは突進力が命だ。足を奪えば、こんなものよ」
ヘルギィは顔にかかった返り血を手で拭い、そして、手にした剣の切っ先を周囲に向けて威圧した。
(これがお兄様の戦い方・・・)
無駄な動きが一切ない。相手の体勢を崩し、ほんの少し力を加えて致命の一撃を叩き込む。自身は消耗することなく、相手は命を散らす。“静”と“動”の切り替えが、とんでもない速さであった。
ただでさえ限りのある体力と魔力を、自分がどれほど無駄に振り回していただけかと、フィーヨは大いに恥じた。同時に、遥かなる高みに存在する兄に、更なる敬意を抱いた。
「こ、こいつ、思った以上に強いぞ! 油断するな!」
声色から相手側に焦りが生じたことがすぐに分かったが、それでも引かないのは、まだ数的有利を確保して余裕があるのか、あるいは是が非でも仕留めねばならないのか、いずれかだ。
「勤勉なことだ。では、こちらも数的不利を解消しようか。起き上がれ、マヌケ共」
ヘルギィがパチンと指を鳴らすと、先程切り伏せた二人の体が赤く光ったかと思うと、ゆっくりと何かに引っ張られるかのように立ち上がった。立ち上がったそれはヨロヨロとふらつきながら、かつての仲間の下へと歩み寄った。
「な、ぞ、屍人!? 〈屍人化〉の術式か!? こいつ、死霊魔術を使えるのか!?」
動揺がさらに広がった。西大陸において死霊魔術は禁呪に指定された術式であり、まずその使役者にお目にかかることはない。あるとすれば、吸血鬼のような闇の術式を使役する怪物か、あるいは禁呪指定免除の特別な許可を貰った凄腕の魔術師のどちらかだ。
もっとも、今のこれは死霊魔術ではない。ヘルギィにしろ、フィーヨにしろ、そんなものは使えないからだ。《真祖の心臓》の血液を操る力を利用し、魔力を糸にして操り人形のごとく操作しているだけであった。死後硬直で固まってしまう前の新鮮な死体だからこそ使える方法だ。
屍人になったのであれば、かつての仲間とて容赦はしない。仲間の下へと戻ろうとした死骸は哀れにも切り伏せられ、今一度の鮮血を噴き出した。
「仲良く抱き合いたまえ、〈血の束縛〉!」
ヘルギィの言葉に反応し、噴き出した血が鞭のように方々に飛び出し、そして絡めとった。
「な、なんだ、こりゃあ!?」
十名以上が血の鞭に絡めとられ、動揺から恐慌状態へと落ちていった。必死で得物で絡みつくそれを斬り落とそうとしたが、ウネウネ動く見た目に反して、恐ろしく硬かった。
絡まらなかった者も恐る恐るだが、仲間を助けようと血の鞭を斬りつけたり、あるいは引っ張って引き剥がそうとしたり、必死で仲間の救助を試みた。
だが、ヘルギィには容赦の二文字はない。
「交戦中に注意を敵から外すのはよくない、〈限界突破・脚力増強〉」
脚力を上げたヘルギィは混乱する敵集団に向かって、一気に斬り込んだ。仲間を助けるためにそちら気を取られたため、反応が明らかに鈍かった。助けようとする者を容赦なく切り伏せ、動けぬ者を突き刺していった。
果敢に向かってくる者は無視し、恐慌状態で逃げようとする者の方を優先的に、背中から切り伏せた。それがさらなる動揺を生み、勇敢にも戦おうとした者にも恐怖を芽生えさせ、それが逃げの一手を脳裏に浮かばせた。そして、逃げようとした者を再び切り伏せた。
それは、もう戦闘と呼べる代物ではなく、一方的な殺戮であった。刃が月明りに照らされながら一閃されるたびに、血飛沫が舞う。その度に命が散っていく。ヘルギィの剣技は、相手の急所、動脈を的確に捉え、次々と命を吸っていった。
襲撃者が、今や一方的に蹂躙されている。目の前の見目麗しき黒髪の美女が、死神にもその目に映っていた。悪い夢でも見ているのではないかと錯覚するほどに。
だが、これは現実であった。耳を突き刺す悲鳴も、飛び散る血の雨も、すべてが本物であった。
そして、気が付けば、動いているのはただ一人。最初に声をかけてきた男で、ヘルギィがこれを隊長格であると判断し、あえて殺さなかったのだ。もちろん、逃げ出さないようにと念のために〈脚力劣化〉を強めにかけてはいたが。
「ひ、ひぃ、頼む! 命だけは勘弁してくれ!」
恥も外聞もない、情けない命乞い。仲間が全員殺されたというのに、この体たらくである。ヘルギィは無表情でそれに近付き、剣の切っ先を相手の鼻先に差し出した。
「では、話してもらおうか。なぜこちらを襲撃してきた?」
「ひぃ、こ、これです!」
男は慌てふためきながら、懐から一枚の紙切れを取り出した。震える手でそれを差し出し、ヘルギィはそれを受け取ると、それを眺めた。
そこにはまずフィーヨの人相が書き記されていた。それなりに似ている程度であり、妹の美しさを表現しきれていなかったため、ヘルギィには大いに不満であったが、その横に“長い黒髪”とか“蛇を巻き付けている可能性大”とか、“軍神の聖印を身に付けている”など、フィーヨの特徴がいくつも書かれていた。それを目印にすれば、初対面であろうともフィーヨの正体を知れることだろう。
さらに目を引くのは、“賞金”と書かれた文字と金貨千枚という高額な提示金額。条件として、“標的の生死は問わないが、所持物はすべて確保すること”と書かれていた。
「なるほど、賞金首か。一人始末するだけで、金貨千枚ならいい稼ぎだな。仮に三十人で襲い掛かったとしても、一人当たり三十枚以上になるしな。で、誰から頼まれた?」
ヘルギィは手配書に目を配りながら、握っていた剣を男の首筋に当てた。
「知らねえんだよ。組合の掲示板に貼られていて、それを見て何組か揃えて網を張ってたんだ。ほら、書類にも書いてあるだろう? 『湖畔国』に向かっているって書いてあったから、街道を見張っててな」
「なるほど、確かにそう書いてあるし、間違いはなさそうだ」
そう言うなり、ヘルギィはストンと剣を振り下ろした。男は何が起こったのか認識できなかったが、肩口から胸の辺りまでザックリ裂けているのを見て、ようやく自分が斬られたことに気付いた。
「な、なんで・・・」
「別にお前の命を助けると、約束などしていない」
実際、助命については、ヘルギィは一言も発してはいなかった。ただ、剣で脅しつけて話すよう命じただけだ。崩れ落ちる男を見下ろし、剣に付いた血を拭ってから鞘に納めた。
すると、そこに拍手が飛び込んできた。ヘルギィが振り返ってみると、そこには先程まで寝転がっていたセラが胡坐をかいて座っており、にこやかな笑みと共に拍手をしていた。
「見事な手並みだ。これほど鮮やかな処理は久々に見させてもらった」
「魔王に賞賛されるのも悪い気はせんでもないが、もう少しだけ続くぞ」
ヘルギィはそう言うと跪き、今しがた切り伏せた男の傷口に触れた。
「汝の記憶を我がものとせよ。赤き水鏡をここへ」
ヘルギィの発した力ある言葉に反応し、男の体から血液という血液が抜け出し、それが球状の塊となってヘルギィの目の前に浮かんだ。そして、ヘルギィがそれを見つめると、まるで滝のように流れ落ち、そこには何かの映像が浮かび上がった。
「ほう、〈赤き血は記憶の通貨〉か。吸血鬼でもないのに器用なマネをする」
セラはヘルギィの使った技術のことを素直に褒めた。なにしろ、今の技は吸血鬼が持つ種族固有の術式であり、それを使って見せたからだ。
「私が使えるわけではないからな。あくまで、〈真祖の心臓〉に備わっている力だ。それを利用しているにすぎん」
ヘルギィの見つめる赤い滝は、その血液の持ち主の記憶を映し出していた。先程の言葉に嘘がないか、魂そのものに問いかけているのだ。
「ふむ。組合の掲示板で情報を仕入れたのは確かなようだ。だが、斡旋している、魔術師風の男がいるな。人相書きもこいつからだな。だが、顔はフードのせいで見えていない。残念、記憶には残っていないか」
ヘルギィはこれ以上の真新しい情報の入手は諦め、術を解除した。力を失った血液はそのまま地面にぶちまけられ、辺り一面を真っ赤に染めた。
「お兄様、今の技はなんですか?」
「吸血鬼固有の術式でな。血液を介して相手の記憶を吸い取るのだ。吸血鬼ならば、吸血の際に相手の力や魔力に加え、こうして記憶を吸い取ることもできる。まあ、私は吸血鬼でないから、こうして血液で水鏡を作り出し、覗き見ているのだよ」
フィーヨにとっては、初めての経験であった。長年使っていた〈真祖の心臓〉ではあったが、使用者が変わればここまで使い方が変わるのだと、素直に感心した。
「いいか、フィーヨ。道具を使いこなすこは、こういうことなのだ。その道具の特性を熟知し、どういう力が備わっているのかをよく理解しろ。そうすれば、使い勝手の悪そうなのに、その実、優れた逸品であるという側面が見えてくることもある。幸い、〈真祖の心臓〉の用途の幅は広い。攻撃や補助術式だけがこれの全てではない」
「勉強になりました。さすがお兄様」
自分がいかに道具の真価を引き出せていなかったかをまざまざと見せつけられ、フィーヨは赤面したくなるような感じになったが、それ以上に兄への尊敬の念がますます強くなり、元々限界まで上り詰めていた敬慕の想いがさらに天上に向かって突き抜けていった。
そんな妹の想いなど知る由もなく、ヘルギィは大きなあくびをした。
「ふぁぁあ。いかんな、そろそろ眠くなってきた。やはり、自分の体と違う分、勝手が違うし、消耗も大きいな。他人の体で戦うのはあまりお勧めできるものではないな」
「そうですか。ならば、後片付けは私がしておきますので、お兄様はお休みください」
「そうさせてもらう。フィーヨ、体は返すぞ」
途端、二人の意識が入れ替わった。フィーヨの意識は自分の体に戻り、フィーヨの体に乗っていたヘルギィの意識は蛇に戻っていった。
蛇の体に戻ったヘルギィは一度大きなあくびをした後、フィーヨに今一度しっかりと巻き付いて、そのまま目をつむって寝入ってしまった。
蛇の姿なのでよく分からないが、おそらくは相当消耗したのだろうとフィーヨは考えた。いつも余裕で応じるヘルギィが人前でいきなり寝入るほど疲れているからだ。
「まあ、慣れぬ体な上に、久々の戦闘だからな。とはいえ、いいものを見せてもらった」
「そう言えば、セラって、お兄様の戦う姿を見るのは、これが初めてになりますか」
「そうなるな。仮の体ではなく、全盛期の奴と戦いたくなったぞ」
セラは強者に対してはかなり優しいのである。強者と戦い、さらに強くなることを至上の喜びと考えているため、戦うに能う者や、将来的な候補などには、非常に友好的に接するのだ。もちろん、その後に殴り飛ばしに行くというオマケ付きであるが。
その点、ヘルギィはセラの求める極上の相手だと、今しがたの戦いで認識した。強いとは色々な人物からの前評判で聞いていたが、やはり実際に戦う姿を眺めてみると、その評価が正当なものであると認識し、久々に高揚感で心が躍っていた。
かつて東大陸で起こった大戦において活躍した二十五人の英雄、すなわち《五君・二十士》。五人の君主と二十人の英雄達で、今もその話は人々の口に登っている。
その中で特に今も論争が続いているのが、「二十五人の中で“二番目”に強いのはだれだろうか?」という題目であった。
「単独なら《剣星》が最強。壁役付きなら《全てを知る者》が最強」
これが東大陸における世間一般で言われている、英雄達の強さへの認識である。戦士と魔術師という区分はあるが、これが不動の評価となっている。では、その次に名前が挙がるのは誰か、これが定まっていないため、未だに論争の題目として続いていた。
戦士としての区分であれば、《剣星》の次に挙がるのは、《英雄王》《苛烈帝》《天空の騎士》《剣の舞姫》の四人である。
魔術師としての区分であれば、《全てを知る者》の次に挙がるのは、《虹色の天使》《全盲の導師》《氷の魔女》《白鱗の竜姫》の四人である。
それぞれに特徴ある強さの持ち主であり、議論の答えは未だに出ていない。
そんな中にあって、《苛烈帝》ヘルギィのみが未知の部分が多いとされている。なにしろ、他の面々と比べて大戦初期に戦死してしまったことにより、確かな実像が知られる前にいなくなってしまったため、本当の実力を測れなかったためだ。
だが、それでも、《剣星》とほぼ互角に剣を交えた、“雷神”フリエスをしとめた、など実力を見せる機会は少なかったものの、どれもが特筆すべきものばかりであり、フィーヨの過剰な吹聴も相まって、ヘルギィの力は半ば伝説化していた。
だが、その伝説化された部分は、実は誇張でもなく、事実であるとセラは認識した。もし、全盛期の肉体を取り戻し、完全なる復活ができるのであれば、間違いなく戦うに能う者だと感じたのだ。
「フィーヨ、気が変わったぞ。ヘルギィの復活には、こちらもできる限り助力しよう」
「そりゃあどうもありがとう」
嬉しい申し出ではあったが、逆に複雑な感情も生じさせることでもあった。セラの行動原理は強くなることであり、強者と戦ってより高みへと昇っていくことを望んでいる。
つまり、ヘルギィの復活は、同時にセラとの対決を意味していた。復活は当然であるけど、余計ないざこざは止めて欲しい、というのが今のフィーヨの心情であった。
「で、結局のところ、これ、何なんでしょうね?」
フィーヨがヒラヒラさせているのは、先程押収した自分の顔が書かれた手配書であった。罪状は“高価な宝物を盗んだ”となっているが、もちろんなんのことだかさっぱりであり、多額の報奨金がかかるほどの重犯罪を犯したことなど身に覚えがなかった。
「まあ、妙な話であることは確かだ。もっとも、魔術師に恨み買っているのは間違いないだろうが」
「ベアホン支部での一件? あの程度で高額な賞金首になってたまるもんですか!」
「だが、神々の遺産の強奪と考えるのであれば、金貨千枚程度ならむしろ安いと考えねばなるまい」
セラの指摘はもっともであった。金貨千枚程度の出費で神々の遺産が手に入るのであれば、破格の安さと言わざるを得ない。だからこそ、この手配書があまりにも不自然なのだ。
「神々の遺産で武装している相手を、わざわざ攻撃してくるとは思えないし、どちらかというと奪うってよりも、攻撃させることそれ自体が目的じゃないかしら?」
「というと?」
「ほら、ここ。身柄の送り先、細かな住所は分からないけど、ポリスムドールなのは間違いないわ。魔術師達の巣窟よ、あそこは」
なにしろ、ポリスムドールには西大陸の魔術師組合の本部が置かれている場所である。そうなると、やはり何者か魔術師の関与が疑わしくなってきた。
「調べる必要はあるわな。どのみち、合流予定地でもあるし、人手が増えてから捜査だな」
「そうなるわね。特に、ヴァニラの目と鼻が役に立つわ」
ヴァニラは竜族であり、人間と比べても格段に優れた目と鼻を持っていた。怪しい奴を見つけるには、その力が大いに役立つことだろう。
「それよりも、だ。今後、賞金首目当てに襲い掛かってくるバカが増えそうだが、どうするんだ?」
「あ~、それ、悩ましい問題だわ」
人相書きにはかなり細かな情報が記載されており、書類を閲覧した人間ならばすぐにフィーヨであることがばれてしまう。このままでは、町で宿をとることすら難しくなってきた。
「その点はじっくり考えるとして、とりあえずはこれを使いましょうかね」
フィーヨは周囲に転がっている死体から、兜を一つ引き剥がして手に取った。顔がすっぽり覆われる重装兜で、これなら移動中に顔を見られる心配はない。
「あとは、念のために髪も染めておきましょうか」
フィーヨがパチンと指を鳴らすと、死体から血が噴き出し、それがフィーヨの髪を覆いつくした。闇夜をそのまま溶かし込んだ艶のある黒髪は失われ、代わりに赤黒い髪が姿を現した。
「死体からの追いはぎに、血化粧とはたまげたな。高貴なる元皇帝陛下とは思えぬ所業よ」
「うるさい。私だってこんなことはしたくないですよ」
フィーヨが即席て用意できる変装は、これが限界であった。とにかく下手に襲われないことが第一であり、この際、体面は考えないようにした。
「あとさぁ、セラ。これ、どうにかなる?」
なにしろ、周囲には死体がゴロゴロ転がっている状態である。こんな現場を見られたら、どう言い繕うとも犯罪者扱いである。偽の手配書に正当防衛を主張しようとも、過剰防衛だと言われるのが関の山だ。
「今から移動するというのはどうだ?」
「夜間の移動なんて、それこそ怪しまれるわよ。巡察の兵士にでも見つかったら、それこそ面倒だわ」
「切り伏せたらどうだ?」
「これ以上厄介事を増やしたくないわ。それとも、馬車を捨てて、狭い林道でも使う?」
そもそもの原因として、セラが馬車を手放したくないと言ったのが原因である。もしそうでなければ、フリエスらと共にレウマ王国に戻っていたかもしれないのだ。つまり、こんな騒動に巻き込まれたのはお前のせいなのよ、とフィーヨは暗に言い放ったのだ。
「なら、仕方ないな。こうするか。起き上がれ、骸共」
セラが右手を上げると、それに合わせて周囲の死体が次々と立ち上がっていった。
「〈屍人化〉ですか。まあ、これで動かせば片付けは楽ですが」
「よし、屍人共よ、このまま街道を戻って、町へ向かえ」
「こらこらこら。騒動はダメだって言ってるでしょ!」
相変わらずの、勢いで妙な行動をするセラをフィーヨが窘めた。屍人が群れをなして町に現れたら、それこそ大事になってしまうからだ。
「もっと穏便な片付け方をしなさい」
「やれやれ、面倒なことだ」
そう言うと、セラは背中に巨大な蝙蝠の羽を生やし、上空へと舞い上がっていった。吸血鬼の能力を有するセラは、様々な技能を有しており、羽の生成もその一つだ。
しばらくすると、セラは再び地面に舞い降り、羽を消した。着地したすぐ側にいた屍人の肩を掴み、そして命じた。
「よし、お前が隊長だ。いいか、屍人共を率いて、このまま真っすぐ北西へ向かえ」
セラが北西の方角を指さすと、屍人達は無言でそちらを振り向き、ぞろぞろとゆっくりとした足取りで歩き始めた。
「北西の方になにかあったの?」
「崖が見えた。あそこまで歩いていければ、全員飛び降りてグチャグチャになるだろうよ」
「まあ、町にお帰りいただくよりかはマシですわね」
フィーヨは納得して頷いた。屍人相手であるので、神聖術式にて浄化するという手段もあったが、先程の戦闘で思いの外消耗しており、魔力を温存しておきたかったので控えておいた。
(お兄様が前面に出て戦った方が強いんですけど、どうも消耗が激しすぎますわね。やはり、いざというときの隠し玉程度に考えておくべきでしょうか)
そう判断し、寝入っているヘルギィの頭を撫で、他に散らかっている物を片付け始めた。何しろ、三十人分の得物が転がっているのだ。鎧はそのまま着込んで去っていったが、武器は地面に転がったままだ。剣や槍、弓にこん棒など、それは多種多様であった。
さすがに街道付近にそのまま放置するのも危険と考え、血の汚れを落としてから、馬車の荷台へと放り込んでいった。
「よし、こんなものでしょうか」
「まるで殺人犯が犯行現場を片付けてるみたいだな」
「売られたケンカを買って、返り討ちにしただけでしょう。まあ、あの死屍累々を見れば、『正当防衛ですから!』って言っても、官憲は納得しないでしょうけどね」
よくて過剰防衛、悪くすれば大量殺人でしょっ引かれるのがオチである。意味不明な手配書を理由に襲撃され、それで罪まで問われようものなら、間違いなく国相手に戦うことになるだろう。
(ああ、でも、勝てるか)
おそらく、ちょっとした小国程度なら、フリエスやヴァニラと合流さえできれば勝てるだろうと考えた。なにしろ、面子で言えばかつての英雄二十五人の内、五人も揃っている状態なのだ。ヘルギィとルイングラムを外したとしても、十分すぎる戦力を有しているのだ。
「それで、これからどうするんだ? 手配書がどこまで出回っているか知らんが、町中で長居するのは危険になったぞ」
「それよねぇ~。今みたいな騒動を町中でやっちゃうと、それこそ罪に罪を重ねるなんてことになりかねないし、物資の調達だけパパっと済ませて、しばらく野宿かしらね。町に入るときはこの兜は必須でしょうし」
フィーヨは手に持つ武骨な兜を睨みつけた。大きさはともかく、兜だけ重装備というのも、端から見れば奇妙この上ないことだ。。フィーヨは速度重視の装備であるため、重たい鎧は着ない主義であった。動きやすいように布製の旅装束だけであり、その出で立ちで兜だけ重たい物を装備しては、却って悪目立ちしそうであった。
「とにかく、今は何事も起こらないことを祈りましょう」
「軍神には祈らん方がいいぞ。面白半分に更なる闘争を呼び込むかもしれん」
「じゃあ、どちらに祈れと!?」
こうして、血飛沫が舞う夜営地に少しずつだがいつもの雰囲気が戻ってきた。だが、この騒動はこれから起こる出来事の序章に過ぎない。
西大陸全土を揺るがす大事件は、まだ始まったばかりだ。
~ 第九話に続く ~




