第二話 苛烈帝
大通りを二人の女性と一人の少年が歩いていた。女性と言っても、一人は少女と言っても差し支えないほどに小柄であり、もう一人の方が女性のわりに長身ということもあって、余計にそれが目立っていた。
もし、それ相応の格好でもしていれば、貴婦人とその侍女、小姓などとでも間違われそうだが、それはない。三人とも旅装束に身を包んでいるし、少女に至っては腰には曲刀まで差していた。
いわゆる冒険者と呼ばれる存在だ。
そして、三人はこの国では知らぬ者がいないほどの有名人であった。なにしろ、数百年続いた奇祭“不死者の祭典”の幕引きを行った英雄であるからだ。
少女の名はフリエス。東大陸からの渡来者で、かつての大戦で戦った英雄でもあり、電撃系の術式を得意としている魔術師であることから、《小さな雷神》の二つ名で呼ばれていた。齢はすでに三十を超えているのだが、自身と同名の雷神をその身に降ろして以来、体の時間は停止しており、その当時のままの姿を維持していた。
巻癖のある金髪をなびかせ、同色の瞳は前を見据え、その意志の強さを周囲に振りまいていた。
その横に立つ女性はフィーヨという。こちらも東大陸からの渡来者で、かつては一国の皇帝として玉座に身を置き、《慈愛帝》の二つ名で呼ばれていた。今は子供に譲位し、旅に出ていた。
癖のない真っすぐな長い黒髪を下ろし。澄んだ黒い瞳も隠しきれない気品を醸し出していた。また、首から軍神マルヴァンスの聖印である車輪と鷲の首飾りを下げていることから、その神官であることも見て取れた。
また、二匹の赤い蛇を腕に巻き付かせており、主体を知らぬ者には大道芸でもやるかと間違われてしまうかもしれない。
最後に、少年の名はラオと言い、へたれた犬耳と尻尾から人犬族だと分かる。杖を握り、腰に巻いた帯には六つの弩が備え付けられていた。修行中の身で特にこれと言った二つ名を持ち合わせていなかったが、旅仲間のセラが《子獄犬》という二つ名を与えてくれた。さっさとミニマムの文字を消せよ、という激励も貰っていたので、修行に余念のない状態であった。
その三名は現在、『崋山国』ヒューゴ王国の王都ベアホンにおり、そこの魔術師組合の支部を目指していた。祭典の報告と、支部に併設された図書館での調べ物のためだ。
数日前に一度訪れていたのだが、間の悪いことに支部の幹部連中が揃って不在であり、まともな報告ができそうになかったので、再び訪問する運びとなったのだ。本来なら書面での提出だけでもよかったのだが、さすがに大陸中に名が通った数百年未達成の任務を終わらせたのであるから、さすがに書類だけでは味気ないと考え、再度の訪問を先方には伝えておいたのだ。
そして、幹部連中が帰ってきたと知らせが来たので、こうして支部に足を運んでいるというわけだ。
「手短に終わらせて、さっさと図書館行きたいわね」
フリエスは手に持っている報告書を見ながらぼやいた。ここ数日は忙しなくあちこち動き回っていた。特に、激戦地であり、数多の戦死者を出したワーニ村に墓所と記念碑の作成のための資材を運ぶのに何度も村と王都を往復していた。
一応、それっぽい物は完成したが、冒険者組合の支部長がもっと立派な物を作ると言ったので、それまでの死者の仮住まいといったところであった。
そのため、調べ物をするために図書館に足を運ぶことができず、今日に至っていた。
そして、ようやく報告できる段取りとなったので、図書館にも立ち入れそうであった。なにしろ、図書館の管理者まで出かけてしまっていて、封鎖されていたためだ。
「そうですわね。魔王や神々の遺産に関わること、私個人としてはスラムドリンに関すること、あとはルークが向かった『金鉱国』ドルブグに関すること、調べることがいくらでもありますわね」
フィーヨもフリエスの意見に同意した。この大陸に来てからというもの、『酒造国』レウマ王国での一件を皮切りに走りっぱなしの状態であったのだ。腰を据えて調べ物をするなど、やっている暇などなかったため、西大陸の基礎知識が不足していると考えていた。
「まあ、大きな支部に移動するというのも手かと思いますよ。この国の支部はそこまで大きくはありませんし、図書館の規模も大したことはないです」
ラオのこの意見も最もであり、フリエスもフィーヨのそれに同意した。調べるなら、もっと巨大な図書館の方が所蔵量も多いであろうし、調べ甲斐があるというものだ。
「ラオ君、どこかオススメの図書館なり研究施設は知ってる?」
「やはり、組合の本部がある魔導都市ポリスムドールでしょうね。かつて東西大陸を統一していた『魔導国』の旧首都でもあり、現在は魔術師組合の本部に加え、各種研究施設に学校、西大陸一の所蔵量を誇る巨大な図書館もあります」
「いわゆる学術都市ってやつね。いいじゃん、それ。よし、セラが冒険者組合からいい話を持ってこなかったら、そこを目指して旅立つかな」
暫定的ながら、一応の目的地は定まったので、フリエスは上機嫌になった。ゆえに、さっさと面倒な報告は済ませたいと足取りを早くした。
そうこうしているうちに目的の支部に到着し、建物の中に入っていった。
中は前に来た時よりかは人の数が減っていたが、それは所用で訪れていた冒険者が減ったからで、魔術師や事務員と思しき者は逆に増えていた。
そんな様子を後目に、三名は受付まで足を運び、報告書を持ってきた旨を伝えた。
「支部長以下、主だった方が揃っておりますので、こちらへどうぞ」
案内の若い魔術師がフリエスから報告書を受け取ると、そのまま奥へと案内した。
会議室と思われる部屋の前まで来ると、二名の衛兵が両開きの扉を開け、三人を中へ通した。案内係もそれに続き、衛兵もそのまま中に入った。
部屋の中にはすでに七人の魔術師が横一列に座っていた。フリエスから見て、長机を前にしてずらりと並んで座っており、それとは別に三脚の椅子が用意されていた。しかも、机から少し離れた位置に置かれており、明らかに報告会などという穏やかな雰囲気でないことが伝わって来ていた。
しかも、逃がすまいと先程の衛兵が扉の前で待機しており、出口を封鎖されている状態であった。
(ありゃりゃ、こりゃ質問っていうより、詰問って言った方が正しいわ。なにやら機嫌を損ねちゃいましたか)
フリエスは気にした風を微塵も見せず、用意されていた椅子に腰かけた。
なお、座り方は左から、フリエス、フィーヨ、ラオの順番で腰かけた。二人の子供とその保護者、と見えなくもないが、場の空気からおそらくは相応のやり取りがあると判断し、交渉の心得があるフィーヨを中心に据えたのだ。
「どうもお歴々の方々には、わざわざお時間を割いて集まっていただいたようで恐縮です。では、早速ですが報告を行いたいと思います」
口火を切ったのはフィーヨであった。こういう文言は報告を受ける側から発し、報告者に始めるように促すのが通常のやり方だが、フィーヨはあえてそれを無視して先制の一撃をいれてみたのだ。しかも、三人の中で唯一魔術師でないフィーヨからの発言である。二人の保護者であっても、この場では立場上“部外者”なのだ。
そのため、場の雰囲気はさらに悪くなったかのように感じたが、三人はそれを気付かぬ風を装った。
フィーヨは淡々と記憶している報告書の中身を披露し、あれよあれよという間に全てを話しつくした。
「・・・、以上で今回の一件の報告を終わらせていただきます」
フィーヨの話し方自体は丁寧であったが、要所要所で慇懃無礼ともとれる口調で話しており、更に場の空気を淀ませた。
実際、目の前にいる七人からは苛立ちや不機嫌さを隠そうともしていない感じが放たれていた。
「まったく、余計なことをしてくれたものよ」
七人の中で中央に座る老人がそうぼやいた。おそらくはこの人物が支部長だと判断し、フリエスも仕掛けて反応を見てみることにした。
「余計な事とはどういった意味でしょうか?」
「そのままの意味だよ。終わらせなくていいものを終わらせた。そういうことだ」
この発言にイラっときたのはラオであった。ラオは今回の任務で三人の旅仲間を失っている。ジョゴ、イコ、ユエ、これら掛け替えのない仲間の死を“余計な事”という一言で片付けられるのが我慢ならなかったのだ。
思わず立ち上がって抗議しようかと思ったが、察したフィーヨが肩を掴んでそれを止め、にこりと笑って落ち着くように促した。それにラオも怒りの熱を冷まし、どうにか落ち着くことができた。
「余計なことでございますか。ええ、仰る通りかと。なにしろ、西大陸の方が数百年かかって終わらせれなかったことを、東大陸からの渡来者が一度の挑戦で片付けしまったのですから、それは面子に関わることでございましょう」
「ああ、それともあれじゃないかな? ほら、祭典の最中は色々と人が集まるし、ここの注目集まるじゃん。あれがなきゃ、こんな田舎の支部なんて、宿と間違えて入ってきた温泉客しか来ないだろうしさ!」
フリエスもフィーヨも相手を小馬鹿にする態度で見下した。しかも、それが図星だったらしく、七人が七人とも渋い顔に変じてしまった。
「黙らんか、流れ者が! それより、火口で手に入れたという呪われた髑髏、今はその額冠に姿を変えているのであったか。それを提出してもらおう。色々と調べたい」
「お断りします」
フィーヨはきっぱりと断った。
火口に安置されていた呪われた髑髏、すなわち神々の遺産《真祖の頭蓋》は不死者を強化したり操作したりする力が付与されていた。まさに、“不死者の祭典”の元凶であり、強力な術具であった。
欲する気持ちも分からなくもないが、頭ごなしに怒鳴りつけて上前をはねようなど、苦労して手に入れた側としては到底承服できないことであるし、なにより呪われてて外せないという事情もあった。
「欲しけりゃ、自分で取りに行けばよかったじゃん。なにしろ、数百年ずっと手付かずだったんだしさあ。祭りの日にドンチャン騒いで、火口まで行けば手に入ったんだし、誰も文句は言わないでしょうよ。言う奴がいるとしたら、そいつはバカか、クズか、状況判断できない間抜けかってところよ」
なお、フリエスの罵声をそのまま喰らう者達が目の前にいた。当然、激高して怒鳴り散らし、顔を真っ赤にして逆になじってきた。
(ああ、嘆かわしい。馬鹿もここまで来ると逆にご立派だわ。もう少し知性や品位のある会話を期待していたのに、こっちの大陸の魔術師ってこうも低能揃いなの?)
これでは狂人と会話している方がマシだと、フリエスは思うようになってきた。
「西大陸に有った物なのだから、西大陸の者が管理するのは当然であろうが!」
「では、管理はラオ君に任せます。ラオ君は西大陸出身だから、問題ございませんね」
「ならば、中級導師ラオ、その額冠をこちらに渡してもらおう」
「お断りします。余計な事をして手に入れた余計な物を献上するのは失礼でありましょう」
ラオもすっかり言うようになったなあと、フリエスは素直に感心した。出会った頃は臆病でビクビクしているのが印象に残っているが、今ではすっかり一端の術士になっていた。技量はまだまだだが、心構えはすでに一人前のそれであった。
「おぬし、組合の要請を蹴ると言うのか!?」
「では、抜けさせていただきます」
「同じくぅ~、抜けますぅ~」
フリエスとラオは腕に着けていた、組合所属の証である腕輪を外し、床にポイっと投げ捨ててしまった。組合所属の図書館が使えなくなるのは痛かったが、今後こういう事態が起こるのではと考えると、さっさと縁切りしたいと思ったからだ。
(まあ、レウマまで戻れば図書館くらいどうとでもなるし、いっその事、フロンさんに頼んで図書館でも新設してもらおうかしら)
信仰する女神の“神託”であるならば、喜んで引き受けてくれるであろう。ちゃんとそれ相応の見返りを与えなければ、神としての面目が立たないため、あまりやりたくはなかったが。
「ならば無理矢理にでも・・・」
「黙れ、下郎。誰に向かって口を聞いている」
ドスの利いた声がフィーヨの口から発せられると、途端に場の空気が重々しくなった。実際、組合の七人が急に苦しみ出し、喉や胸を抑えながら一人、また一人と崩れ落ちていった。
何事かと慌てた衛兵であったが、駆け寄ろうとしたところでこちらもいきなり倒れてしまった。無事なのは先程の案内係だけで、状況が判断できずに右往左往するだけであった。
「もう一度言うぞ。誰に向かって口をきいている」
もう一度、フィーヨの口から恐ろしいまでの殺気がこもった声が発せられ、ゆっくりと席を立ちあがると、そのまま前に進み出て、支部長の襟首を掴み、軽々と持ち上げた。
(あ、やば。出てきちゃった)
フリエスは若干焦りはしたが、目の前の馬鹿共を助ける気もなかったので、静観することにした。
ちなみに、フィーヨは現在、フィーヨであってフィーヨではなかった。というのも、彼女に巻き付いている二匹の蛇には、それぞれ兄ヘルギィと夫ルイングラムの意識が乗り移っており、フィーヨをずっと守り続けていた。
そして、先頃手に入れた《真祖の頭蓋》の力を用いて、普段は本能でしか動けない二匹の蛇から、二人の意識を引っ張り出すことができるようになっていた。
さらに、最近はこの操作にも慣れてきて、短時間であればフィーヨの体を二人の内、どちらかに操作させることができるようになっていた。
つまり今、フリエスの目の前にいるフィーヨは姿こそフィーヨのままであったが、その体を操作しているのは別人。雰囲気から《苛烈帝》ヘルギィが出てきていることを察することができた。
「随分と大きな口を叩いておきながら、この程度でへばるとは情けない。軽く“心臓”を揉んでやっただけだぞ」
フィーヨ(ヘルギィ)の言っていることは本当であった。フィーヨの装備するもう一つの神々の遺産《真祖の心臓》は血を操る力が付与されている。それを用いて、心臓を通る血の流れを操作し、軽く握られているような状態を作り出していた。
ちなみに、背後の衛兵は頸動脈を軽く止め、脳貧血をおこして気絶させた。
(えぐいなぁ~、この人は)
精緻な血流操作によって、相手を生かさず殺さずの状態に落とし込んでいる。フィーヨもここまでの操作はできない。一人くらいならできるが、なにしろ、七人同時に心臓を握り締め、割って入ろうとした衛兵二名も物のついでに気絶させる腕前である。
神々の遺産を完全に制御し、我が物としなければできない芸当だ。
「き、貴様、こんなことをしてタダで済むと・・・」
「ちゃんと喋れ。聞き取れんわ」
フィーヨ(ヘルギィ)はさらにもう一段強めに締め付け、支部長の顔がみるみるうちに青ざめていった。もう一押しで死にかねない顔色だ。
「あぁ~、フィーヨさん、じゃなくてヘルギィさん、そろそろ死んじゃいそうだから、放してあげて。さすがに殺しはまずいです」
「別に死んでも構わんだろう? 爆発させて木端微塵にして、行方不明扱いにすればよかろう。死体が見つからねば、事件としては成立しない」
「さらりととんでもないこと言うなぁ~、この人は」
フリエスは目の前の男に《苛烈帝》などという過激な二つ名が付いているのが、なんとなく分かった気がした。なにしろ、自分以外の皇位継承者を皆殺しにし、さらに反抗的な貴族を大粛清。果ては父親をも幽閉した。戦場においても容赦のない戦いぶりを方々に見せつけてきた。二つ名に相応しい生き様と言えよう。
「まあ、一応言っておくけど、その体はフィーヨさんのものなんだし、フィーヨさんが罪に問われることになるんですよ? それは不本意では?」
「まあ、それもそうだな。フィーヨには迷惑はかけれんわな」
フィーヨ(ヘルギィ)はフリエスからの忠告を受け入れ、締め上げていた支部長を放した。崩れるように落ちたため、机に頭をぶつけたが、その程度で済んで良かったですねというのが、フリエスの偽らざる感想だ。
フリエスの聞いた話だと、父親から帝位を簒奪した直後、玉座の間にいた反抗的な貴族や恨みのある廷臣をきっちり選別して、自身で殺して回ったのだと聞かされていた。逆に、苦しい立場であったときに恩義を受けた者には、それを地位や金銭に変えて返礼をしたのだと言う。
要は、恩義であれ、怨恨であれ、きっちり“返す”人間なのだろう。
そして、何より妹であるフィーヨには大甘なのだ。今のやり取りにしても、フィーヨに迷惑がかかるという論法で落ち着くよう促したので、ササッと切り上げたのだ。そうでなければ、こうも簡単に術を解いたりはしない。
フィーヨ(ヘルギィ)は先程まで自身が座っていた椅子を動かし、支部長の目の前にそれを置いた。机を挟んだ目の前で再び腰かけ、右手を机の上に置いた。右腕に巻き付いていた蛇がそのまま支部長を睨みつけ、大口を開けて威圧した。
こちらにはルイングラムの意識が宿っており、どうやらそちらも先程の幹部連中の物言いには腹に据えかねているようで、いつでも襲い掛かれるぞという意思表示でもあった。
「では、話を続けよう」
「ひぃ!」
支部長は思わず身を仰け反らせたが、どういうことか、足が思うように動かなかった。ちなみに、これもフィーヨ(ヘルギィ)の仕業である。
フィーヨは普段、《真祖の心臓》を自身の強化に用いることが多かった。これはフィーヨ自身の身体能力の低さを補うためであり、前衛で戦う際のやむを得ない措置なのだ。
一方の生前のヘルギィは屈強の肉体の持ち主であり、自身の強化をそれほど必要にしていなかったため、余程の強敵以外には強化措置を取らなかった。逆に相手を弱体化することに特化した使い方を多用していたため、より攻撃的な使い方と言えよう。
ちなみに、今やっていることは、フィーヨが良く用いる《限界突破・脚力増強》の逆で、足の血流を鈍らせ動きを遅くさせる《血流委縮・脚力劣化》だ。
「おいおい、何を怯えている。私はお話合いの続きをやろうと言っただけだぞ。たまたまその交渉相手が一騎当千の猛者であっただけの事。まさかそんな認識もなく、猛獣を部屋に迎え入れ、挑発的で高慢な態度をとっていたのかね? お前らは東大陸の渡来者を舐め切っているようだが、四十から五十前後の渡来者を相手にするときは気を付けた方がいい。そいつらはかつての大戦で最前線を潜り抜けた者。一癖も二癖もある連中ばかりなのだからな。ぬるま湯で過ごしてきたこちらの大陸の人間とは、根本的な精神構造が違うのだよ」
などと警告を発したが、そもそもフィーヨの肉体は二十前後で維持されているし、フリエスに至っては十代前半にしか見えないのだ。外見では今の警告は伝わりにくいかもしれないが、実際にその力を目の当たりにした後では、言葉の重みが違った。
「き、君達の望みなんなのだ!?」
「何もない。強いて言えば、これから組合本部に乗り込んで、今回の件を正式に抗議に行くから、お前らの長に先触れを出しておけ、だな」
もはや、組合全体に宣戦布告をしているようにしか聞き取れなかった。だが、本気でやるつもりでいるようにも見えたので、支部長としても返答の仕方に窮した。
「戦でも始めようというのか!?」
「それはそちらの出方次第だよ。私は元来、平和を愛する優しい皇帝なのだから。まあ、“元”だがな。たまたま今日は鞘に収まっていた刃物が、偶然が重なり、“誤って”飛び出してしまっただけだよ。いやはや、偶然とは恐ろしい」
白々しいにも程があると、フリエスは笑いをこらえるのに必死であった。妹と信頼する三人の部下以外は基本的に高圧的、そう聞いていたためだ。実際、そうした姿を見せつけられては、どういう国家運営をしていたのか、察することができるよいうものだ。それでも国が回っていたのは脅迫と恩賞の匙加減が絶妙であったのと、それを巧みに制御していた宰相の辣腕ぶりが大きかった。
「そんなことになって、勝てると思っているのか!?」
「勝てるよ。現に君ら七人が、っと衛兵を含めると九人か。それらが手も足も出ずに地べたをはいずっていたのだぞ。それが三桁ほど数字が上乗せされる程度だ。余裕だろ? 数は無力だといい加減、悟りたまえ。私が出るまでもなく、今は席を外しているもう一人の男で十分だ」
確かに、別行動中のセラをぶつければ、千や二千など余裕で蹴散らすだろう。
(ちゃんと戦ってくれればだけどね)
フリエスはそう考えたが、さすがに魔王をけしかけるのはやりすぎかと思い直した。
そして、場が再びざわめき出した。七人の目には目の前の人物が狂気に囚われているのではと映っているようだが、それを実感させるだけの力を見せつけている状態でもあるのだ。つまり、どう返すべきか、判断が付かない状態であった。
そんなときだ。扉が荒々しく開けられ、中に事務員が駆け込んできた。衛兵が倒れていることに驚きはしたが、それより伝えねばならないことがあったため、荒れた呼吸を整え、そして発した。
「た、大変です! ど、竜が襲撃してきました!」
その一声こそ、新たなる騒動の開幕を告げるものとなった。
~ 第三話に続く ~




