第二十二話 呪いの顕現
実に爽快な気分であった。今まで思い悩んできたことが嘘か夢かと思えるほどに軽くなった。自分を縛る鎖がなくなった。肩にのしかかっていた重みが消えた。
「素晴らしい・・・。素晴らしいぞ、この力! ああ、全身を駆け巡るこの活力。そして、開放感。なんだ、仲間を殺す、たった“それだけ”のことで手に入れることができようとは!」
ジョゴは大声で叫び、そして高らかに笑った。生まれて初めて得た開放感だ。呪いと共に母の腹より生まれ出て、忌み子と蔑まれ、故郷の村を焼き払ったあのときから、ひたすら悩んでいたのがバカらしい。早くこうすればよかったと、今更ながら後悔した。
その足元には無残な死体が二つ転がっている。つい先程まで、仲間と呼び、あるいは恋人として接してきた二人だ。二人の尊い犠牲のおかげで、自分は今こうしていられる。究極の力と苦悩からの解放を得ることができた。
「イコ、ユエ、君らのおかげで私は目覚めた! 解放、覚醒、ああ、なんと礼を言えば分からぬな。本当に感謝しているよ」
今までの自分が嘘のように矮小な存在に思えてきた。どれほど鍛え上げようとも届きえぬ高み、今、それに手をかけ、登ることができた。
だが、まだ足りない。もっと強くなれるはずだ。体内に神々の遺産を二つも取り込み、想定していた以上の力を得ることができた。不死者化することによる強化と合わせて、先程までの自分を軽くひねれるほどの力を手にした。
まだ強くなれる。まだ高みを目指せる。不死者になったからには、時間と言う縛りも、恐怖と言う枷もなくなった。思うままに殺戮し、思うままに喰らい、思うままに強くなる。それがかなう体になったのだ。
喜ばずにはいられない。さあ、もっと強くなろう。ジョゴは残りの仲間と呼んだ者達も喰らってやろうと、そちらを振り向いた。
「・・・む」
視界にとらえたのは、猛然と突進してくるフィーヨであった。すでに補助術式で強化済みのようで、全身が赤く輝き、両手に持つ剣は白き聖なる力を帯びていた。
「来るか、軍神の下僕め。覚醒した我が力にひれ伏せ!」
ジョゴは六匹の蛇をフィーヨに向け、大口を開けた。そして、そこよりフィーヨに向かって、光弾が次々と発射された。しかも、以前よりも弾は大きく、連射速度も早い。
だが、フィーヨもジョゴの予想を上回る動きを見せる。飛んでくる光弾をかわし、あるいは剣で弾き、怯まず距離を詰めてきた。
「ならば!」
ジョゴはすぐに戦法を変えた。蛇の口からは炎が吐き出され、迫ってくるフィーヨを包み込んだ。更に腕をそちらに向けると、しなる鞭のように伸びていった。
だが、フィーヨはこれも対処してみせた。炎はこれを予想してかすでに〈対火属性防御幕〉を張ってダメージを最小に抑えつつ、伸びてくる腕は滑り込みでなるべく速度を落とさずにすり抜けた。
そして、器用に伸びてきた腕と腕の間を跳躍し、更に斬り上げで両腕を切断した。
フィーヨは体を屈めながら縦方向に回転させ、ジョゴの頭上を飛び越え、その勢いのまま剣を振るい、蛇を二匹斬首した。
軽やかに着地し、優雅な佇まいと共に、改めてジョゴと対峙した。
「見事、とでも言えばいいかな、フィーヨ殿」
「その声で喋らないでいただきたいですわ、化物め。不愉快極まります」
ジョゴの声色自体は変わっていない。強いて言えば、仲間の時は感じなかった圧を乗せている感じだ。
「私の行いを神の信徒として裁くかね?」
「いえ、あなたが取り込んだ髑髏をいただきに来ました」
ジョゴにとっては意外な答えであった。続く言葉が思い浮かばず、首を傾げた。少し考えた末に口を開く。
「なあ、フィーヨ殿。こういう場合は『よくも仲間を!』とか、『この裏切り者めぇ!』とか叫びながら、激昂して斬りかかってくるものだと思うのだが?」
「普通はそうなんでしょうけど、私はそういう感情はわかないのですよね。まあ、お兄様やルイングラム様が攻撃されましたらば、その限りではありませんが」
しれっと言ってのけるフィーヨであったが、実際その通りなのである。フィーヨはとにかく優先順位をきっちり決める性格なのである。イコやユエの無惨な死体を見て憤ってはいるが、目の前の化物の入手宝物が愛する二人に関わる物であるため、そちらに気持ちが完全に移ってしまっていた。
「それと、ジョゴさん、敵を前にしての長口上は三流のやるのとだと、親から教わりませんでしたか?」
フィーヨの声が終わるか終わらないかというあたりで、天より巨大な雷が降り注ぎ、ジョゴを貫いた。眩い電光が周囲を照らし、強烈な電流がジョゴを滅多打ちにした。
もちろん、これを放ったのは、遅れて到着したフリエスであった。
「偉大なる軍神マルヴァンスよ、我は汝の信徒なり。聖なる光を束ね、悪しき者を打ち砕く力を我が手に! 〈聖光気弾〉!」
雷に打ち据えられているジョゴに対し、フィーヨはダメ出しの一撃を放った。聖なる力を右手に収束させ、拳大の弾丸にして勢いよく射出した。狙いは頭部で、文句なしの直撃であった。
顔の上半分が吹き飛ばされ、さらに追撃の雷が駆け寄るフリエスの手からも放たれた。
だが、その状態になってもジョゴは倒れなかった。それどころか、気合いの一斉と共に雷を弾き飛ばし、堂々と立って見せた。
「うそ、効いてない・・・!?」
それなりにダメージが通っていると思ったフリエスであったが、相手の雰囲気からそれほど効いてはいないと判断し、戦慄した。連続で電撃を浴びせた上に、フィーヨの術式も直撃している。それ以前に、すでに両腕と二匹の蛇の頭部を切断している。にもかかわらず、魔力の衰えも乱れもなく、放つ気配も大して弱っていない。
「親などおらぬよ、フィーヨ殿。とうの昔に血肉に変えたわ。それに長口上は三流のやること? 違うな。分かったうえで、あえてやるのが一流の嗜みというものだよ。余裕が貫録を生み、貫禄が威厳と恐怖を生み出す。そう、新たなる“魔王”としてな!」
魔力が膨らんだかと思うと、先程受けた傷がすべて再生した。斬られた両腕や蛇がニョキニョキと生え、頭部すら元に戻ってしまった。
「大した再生力ですわね。それに魔王? 随分と大きく出ましたね」
フィーヨとしては聞き捨てならない台詞であった。新たなる魔王はすでにいる。ジョゴもそれを見ている。だが、それを無視して自分が新たな魔王だと言い放つ。“本物”を見ているだけに、その発言は妙にイラっとくるものであった。
「そいつは大したものね、ジョゴさん。でも、魔王の席はもう埋まってるの。悪いんだけど、あんたの座る席はそこじゃなくて、あの世って所よ!」
フリエスは腰に帯びていた曲刀を抜き、それに雷を注ぎ込んだ。弓使いであるジョゴと射撃戦を挑むよりかは、近接戦の方がよいと判断したのだ。
その考えはフィーヨも同様らしく、すでに二本の剣には〈聖属性付与〉をかけ終わっていた。
一方、ジョゴの方も準備を整え終わっていた。挟まれる格好になっているが、両腕はそれぞれに向けており、背中の蛇も三匹ずつ口を開けて待ち構えていた。
しばしの沈黙の後、動いたのはフリエスであった。まずは牽制の電撃を放った。対角線上にフィーヨがいるため、巻き込まないように注意を払いつつ、一気に駆けて距離を詰めにかかった。
フィーヨもそれに呼応し、両手の剣を改めてしっかりと握り、駆け出した。
ジョゴの両腕が伸び、二人の頭部を鷲掴みにしようとしたが、これは二人ともかわしつつ、腕を切断した。
剣を振った僅かな硬直を狙い、三匹ずつ向けられた蛇の口から、緑色の煙が吐き出された。
二人は離れているにもかかわらず、すぐに肌がひりつくのを感じた。
((強力な酸性の毒!))
瞬時に二人とも見抜いたが、対応は真逆であった。フィーヨは煙の直撃を避けるため、噴き出された煙スレスレを走った。一方のフリエスは電撃を再度放ちながら、正面から突っ込んだ。
フリエスの放った雷は毒をある程度ではあるが払いのけたが、それでもすべてを消せたわけではない。顔や腕があちこち焼けただれ、随所に激痛が走る。自動放電と電撃吸収により再生はしているが、それでも痛いことには変わらない。
ようやくフリエスの曲刀が届くところにまで詰めれたが、ジョゴの腕もすでに再生しており、拳に魔力を込めた強烈な打ち下ろしをフリエスに放った。
だが、フリエスは構わず突っ込み、右手の曲刀を突き出し、ジョゴに突き刺した。刀身が半分ほど刺さったが、ジョゴの拳がフリエスの左肩に命中した。ぐちゃりという嫌な音とともに、フリエスの左肩の肉と骨が圧し潰された。
「〈轟雷!〉」
フリエスは激痛に耐えながら、天より雷を自分に撃ち下ろした。それが曲刀を伝って、ジョゴの体に直接注ぎ込んだ。電撃を吸収できる体質を利用した、捨て身の戦術だ。
そこへ回り込んできたフィーヨが斬撃を繰り出し、電撃に巻き込まれながらも襲い掛かってくる蛇達を次々と斬り落としていった。
ジョゴはフリエスを蹴りで弾き飛ばし、さらにフィーヨの腕を掴んで投げ飛ばした。
そして、追い打ちとばかりに、投げ飛ばしたフィーヨに向かって、斬り落とされていなかった蛇が一斉に光弾を放った。フィーヨは受け身を取って上手く着地し、飛んでくる光弾も剣で弾いた。
(ここで隠し玉を使う。“あれ”の確認のために)
フリエスは蹴られた腹を押さえながら反芻し、胃の中にしまっていた魔晶石を取り出した。魔晶石は魔力を結晶化した物質で、それを握りながら術式を使えば魔晶石に蓄積されていた分だけ、魔力消費なしで術を使うことができた。また、あらかじめ魔術刻印を仕込んでおけば、即座に術式を発動することもできた。
「右手に雷を! 左手に炎を!」
フリエスの声に応えるかのように、右手には雷が取り巻き、右手は炎が燃え盛った。フリエスは火属性の術式はどちらかと言うと苦手であったが、魔晶石の力を借りて呼び出したのだ。
「術式、融合!」
フリエスは両手を合わせ、さらに魔力を高めた。
「合成術式、〈深紅の稲妻〉!」
炎に雷が渦を巻き、一直線にジョゴに向かって飛んでいった。本来、フリエスは合成術式を使うことができない。雷属性以外の練度がそれほど高くないので、魔力は高くとも融合の際の制御ができないからだ。今、制御できたのは足りない練度を魔晶石で補い、制御の難度を落としたからだ。
その代償として、貯めていた魔晶石をこの一撃で消耗してしまった。
しかし、ジョゴは斬り落とされた蛇を再生させてフィーヨの迎撃をさせつつ、自分は向かってくる二色の投槍に向かって拳を突き出した。
フリエスの放った一撃はジョゴの右の拳と激突し、そして、大爆発を起こした。炎と雷が荒れ狂う嵐となって周囲をその渦に巻き込んだ。
それが収まると現れたのは、それなりに傷ついたジョゴであった。爆発の衝撃で多少吹っ飛ばされたものの、受けた傷はすぐに塞がり、迎撃により半ば吹き飛んだ右腕も程なく再生した。
「やっぱりそうか!」
フリエスは再生するジョゴを見ながら叫び、同時に冷や汗をかいた。そして、爆発の間に自分の側まで駆け寄っていたフィーヨに視線を向けた。
「フィーヨさん! こいつは火属性にも、聖属性にも、耐性を持ってる不死者よ!」
「なんですって!」
フィーヨはフリエスから告げられた言葉に衝撃を受けた。
通常の不死者に変じた者は能力値が生前より高い場合が多い。死によって、無意識的に抑え込んでいたものが解放されるからだ。だが、その代償も大きい。汚れた偽りの命を持つ者として、不浄を清める聖なる力や、光り輝く太陽や炎に対する耐性がなく、それが弱点となる場合が多い。
不死者討伐には、浄化ができる神官職を連れていくのはそのためだ。
目の前のジョゴはどうかというと、完全耐性というわけではないが、明らかにダメージの通りが想定しているものより悪い。フィーヨが使う神術も、フリエスが放った火属性の術式も、傷つけることはできても思ったほどに効いてはいなかった。
「当然であろう。赤い産着の半吸血鬼は生まれ落ちた瞬間から呪われている。それが徐々に蓄積されていって、死の契機に呪いが顕現する。完全なる吸血鬼へと覚醒した後は、通常の吸血鬼としての能力に加え、“生前の能力”も上乗せされる」
「おいおい、マジですか・・・」
フリエスとしてはジョゴの説明が死刑宣告文にすら聞こえてきた。
通常の吸血鬼の力に加え、生前のジョゴの力まで乗っかっている。しかも、一切の縛りがない全力のジョゴが乗っかっているのだ。これだけでも上位吸血鬼どころか、吸血鬼公爵と同程度の実力はあるはずだ。
しかも、その体の内には《多頭大蛇の帯》と《真祖の頭蓋》という二つの神々の遺産まで取り込んでしまっている。
「なるほど。生前のジョゴさんは半吸血鬼。化物を狩り取る聖なる戦士。そこから聖属性の耐性を移したかのか。で、《多頭大蛇の帯》は火矢と毒矢も使えるから、そこから火属性への耐性も得た。それに加えて、《真祖の頭蓋》で不死者としての能力の底上げに魔力強化、確かにこれは強いわ」
「もしかすると、真祖の吸血鬼である魔王モロパンティラにかなりちかいところまで迫っているかもしれませんね」
魔王を名乗ったのも、決してハッタリなどではない。それ相応の実力を持っているからこその名乗り上げということだと、フリエスもフィーヨは思い知らされた。
「さてさて、今の私の実力をご理解いただけただろうし、ここで一つ取引を提案したい」
ジョゴはフィーヨと正対し、その手を差し出した。
「フィーヨ殿、あなたの持っている《真祖の心臓》を譲っていただきたい」
「お断りします」
取り付く島もない、フィーヨの即答であった。
「まあまあ、フィーヨさん、ちょい落ち着いて。話くらいは聞きましょうよ」
フリエスは露骨なまでに怒りを露わにするフィーヨを宥め、ジョゴに話を続けるように促した。フリエスとしてもジョゴの提案に乗るつもりはなかったが、それでも時間稼ぎが必要だった。戦うにしろ、逃げるにしろ、頭の中の思案がまだまとまっておらず、とにかく考える時間が欲しかったのだ。
「今、私は《真祖の頭蓋》を取り込んでおり、しかもあっさり馴染んでしまった。どうやら相性がいいらしい。ならば、これの姉妹品であるあなたの《真祖の心臓》とも相性はいいだろう。取り込むことができれば、更なる強化を見込める」
「なるほど、そういうことね。・・・で、差し出した場合の交換条件は? 双方出すもん出さないと、取引とは言わないわよ」
フリエスは相手の回答をおおよそ予測はしていた。だが、まだ時間が欲しい。とにかく長引かせたい。その一心だ。
「そちらの命は保証しよう。この場からさっさと立ち去ってくれてよい。追い討ちもなしだ」
ジョゴの回答は予想していたものだった。手にするものさえ手に入れば、こちらのことは眼中になし。かつての仲間への温情か、あるいは強者の余裕か、とにかく上から目線の言いようだ。
「逃げるという選択肢は考えない方が良いぞ。何しろ、私は今、イコと一つになっている。探知能力の高さは君らも知っていよう? どこまでも逃がさぬぞ」
「夫婦になっての初めての共同作業が、“仲間殺し”っていい趣味とは言い難いわね」
フリエスは表情にこそ出さなかったが、心の内では滝のように汗を流していた。イコの探知能力の高さは今まで散々見てきた。それをどこまで吸収できたかは分からないが、十二分に脅威となる。追われる側にとって、あれは最悪の能力だ。
戦闘特化のジョゴ、探知特化のイコ、これが合わさるなど、ましてその矛先が自分に向けられるなど、勘弁願いたかった。
「フリエスよ、皮肉のつもりかね? 抑圧された魂、そこからの解放、そして反動。今の私はどんなことでも勢いでやってしまうと思うぞ」
「あ~、やだやだ。急に饒舌になってさあ。あなたらしくないったらないわ」
フリエスも覚悟を決めた。逃げの選択肢を封じられた以上、前に進むしか活路はない。そもそも、神々の遺産を差し出すということからして無理であった。
「フィーヨさん、いいですか?」
「もちろんです」
フリエスはこちらにも冷や汗をかかされた。フィーヨは微笑んでいるが、漏れ出る殺意と怒りがフリエスを突き刺さしていたからだ。
フィーヨの持つ《真祖の心臓》には、ヘルギィとルイングラムの魂が定着している。つまり、ジョゴの要求は実質、二人を差し出せと言っているのと同義であった。
到底飲める条件ではないし、その無礼極まる要求一点だけでも、フィーヨにとってジョゴは万死に能う存在となっていた。
フィーヨは握り拳を突き出し、親指を立て、そして、それをクイッと地面に向かって下ろした。
「クソ食らえ、と言って差し上げますわ。あの世とやらへ送って差し上げますから、イコとユエに土下座で詫びてきなさい、ボケナス野郎」
「フィーヨさん、元皇帝にあるまじき台詞ですよ」
それほどまでに怒り狂っているのだけは伝わってきていた。口調こそいつもと変わっていなかったが、それだけに不気味さを醸していた。笑顔の裏では烈火のごとく怒りの炎が心中を制圧し、目の前の化物と成り果てた戦友を葬り去ることだけを考えた。
「フィーヨ殿、少し勘違いしておるぞ。ユエはあの世とやらに旅立ったのかもしれんが、イコは約定通りに一つとなった。つまりここにいる」
ジョゴは心臓の位置に手を置いた。不死者になった瞬間から止まっており、今となっては無用の長物となった物だ。吸血鬼になったばかりの人間は、人間であった頃の癖が抜けず、しばらくは人間であった頃と変わらぬ行動を執ってしまう場合があった。半吸血鬼もそれに近いのかもしれない。
「イコが言っていた一つになるってのは、腕を組んで一緒に歩くことであって、牢獄に閉じ込めることなんかじゃないわよ」
「解釈の違いだな。“一緒”と言う点が重要であるならば、腕を組んで歩いていようが、同じ牢獄に閉じこもっていようが変わりはあるまい? 同じ牢獄に入っているのであれば、一緒にいるということは達成されている」
「無理やり引きずり込んでおいてよく言うわね」
フリエスもフィーヨほどではないが怒りが心を満たしつつあった。
だが、それでも理性の部分がフリエスを怒り任せの突撃を押し留めていた。どうやって目の前の“自称魔王”を倒すか、その答えがないからだ。
不死者相手であれば、フィーヨの使う神術が有効に作用する。しかし、目の前の相手は本来なら弱点になるはずの聖属性への耐性を備えており、想定以下の効力しか発揮しない。フリエスの電撃も通用するが、やはり火力不足だ。二人の手札にある火力では、ジョゴの再生能力を上回ることができない。
(残る手立ては、“心臓潰し”か。でも、セラみたいに正確な場所を捉えることができない。適当に強烈なのを何発もお見舞いして、当たったらオメデトウってのを狙うしかないか)
あまりに運任せの戦い方だが、フリエスとフィーヨの手札ではそれが限界でもあった。
その時であった。二人の肩に誰かが後ろから手を置いた。振り返ると、そこにはセラが立っていた。
「あいつは俺が倒す」
二人は驚いた。普段はとにかくやる気がなく、いつもサボってばかりの役立たずが、真顔で言い切ったからだ。セラは嘘をつかない。だからこそ、その言葉の意味を二人は知っていた。
“魔王”が”全力”で“戦う”ということを。
「セラ、あんた・・・」
「ああ、なんのことはない。あそこの犬っころに頼まれただけだ。『あの“化物”を倒してくれ』ってな具合にな。で、気まぐれにも引き受けたというわけだ」
その言葉も重かった。今、《混ざりし者》で生き残っているのはラオだけだ。イコとユエは死に、ジョゴはあの有り様だ。その唯一の生き残りのラオが、セラにかつての仲間を倒してくれと頼み込んだのだ。
もう見ていられないと考えたのか、それとも現状への怒りや悲しみが突き動かしたのか、子犬が魔王に助けを求め、魔王がそれを受けたということだ。
「何年ぶりかな、全力になるのは」
セラの視線がジョゴとぶつかり、火花を散らす。
次なる魔王は一人で十分。《十三番目の魔王》を真に名乗るのは、セラか、ジョゴか。
魔王を称する者同士の戦いが始まろうとしていた。
~ 第二十三話に続く ~




