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フリーダムファイターズ ~月と太陽への反逆者~  作者: 夢神 蒼茫
第二章  雷神娘と不死者の祭典
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第四話 『崋山国』ヒューゴ王国

 『華山国』ヒューゴ王国、領内にいくつもの火山を抱える国で、各所に温泉が湧いている。その温泉を目当てに旅行客が絶えず、また嶮峻な山々の雄大な景色も名高く、観光地として栄える国であった。

 しかし、今のヒューゴ国には観光客はいない。代わりに、武装した冒険者がそこらじゅうに溢れている有り様であった。

 今、この国では八年に一度の奇祭の真っ最中で、観光客よりも冒険者を引き寄せている状態なのだ。

 祭りは『不死者の祭典アンデッド・カーニバル』と呼ばれており、百の満月の夜を経る毎に、山から大量の不死者(アンデッド)が現れ、麓の村を襲うという魔王の呪いがかけられていた。国の中心にあるイーサ山がその舞台で、かつては火を噴く山であったが、今では火を噴くこともなく、その名残としてその残り火が地下水を沸かせ、温泉として地上に噴き出していた。

 魔王の呪いのかかった危険な場所ではあるが、やはり良質の温泉があるから、そこに保養施設を作らないわけにはいかない。良い温泉は観光客を呼び寄せ、村に金を落とし、ひいては国を潤していく。観光地であるならば、観光客に対して最高のもてなしを用意せねばならないとの考えから、いい温泉が沸くところには、危険を承知で村を作り、宿を建て、観光客を招き入れていた。

 そして、災厄の降りかかる八年に一度の襲撃時には、冒険者がどこからともなくやって来て、不死者アンデッドを狩りにやって来る。

 決められた報酬はないが、それでも冒険者側にも利となることが多い。まず、この奇祭の最中は冒険者組合ギルドの所属員であるならば、温泉村における宿泊費や温泉の入泉料が無料となっている。食堂も格安で料理を提供してくれる。具体的な期間としては、九十九夜の満月の前日から、百夜の満月の翌日までがその期間となっている。もちろん、襲撃してくる不死者アンデッドと戦うことが条件ではあるが。

 不死者アンデッドは太陽を嫌い、昼間は出てこない。曇天の空模様であればその限りではないが、基本的に不死者アンデッドの襲撃は夜になる。そのため、この期間中は昼夜が逆転する生活を送る者が多い。夜は起きて不死者アンデッドを狩り、朝が来ると眠りに着く。

 九十九夜の満月を過ぎた辺りから、イーサ山に死の匂う瘴気が立ち込め、不死者アンデッドが現れだすのだ。

 祭りの時期が近づくと各地の温泉村では旅行者に事前告知がなされ、九十九夜が来る前にはほぼ締め出している状態にしておき、逆に冒険者が泊まれるように準備しておくのだ。冒険者も期間中は寝床の心配をしなくていいので、こぞってやって来るということだ。

 他の利点として、契約と名声も手に入る。なにしろ八年に一度のこの奇祭には、大陸中から冒険者が集まってくるのだ。中には、自分の支部等に腕のいい冒険者を囲い込もうと各支部から、あるいは貴族から、そうした所からの勧誘役が派遣されてくることも多い。その目に留まる活躍をみせれば、高額での契約を勝ち取れる可能性もある。そうでなくとも、名のある冒険者として活躍すれば、周りの同業者が勝手に吹聴してくれるかもしれないのだ。気合いも入るというものだ。

 そうした事情もあって、王都であるベアホンを除けば、温泉村は昼夜が逆転しており、人通りが閑散としているが、王都だけは昼間は活況を呈している。各村では物資の調達にも限度があるが、王都には奇祭の特需を狙って行商人が大挙して訪れており、普段とは違った賑わいを見せているからだ。


「おーおー、賑やかなことで。思っていた以上にお祭り騒ぎだわ、これは」


 王都の大通りを馬車が進み、その手綱を握るフリエスが感嘆の声を上げた。祭りの間は凄まじい賑わいだと聞いてはいたのだが、実際に見るのとでは大違いだと認識させられた。なにしろ、通りを進むだけで人を撥ねないように、馬車をゆっくり進ませねばならなかったからだ。

 フリエスが操る馬車は二頭引きのそこそこの大きさの馬車で、しかも幌付きである。レウマ国王フロンからの贈呈品であるが、これのおかげで楽に街道を進むことができ、どうにか祭りの最中に到着することができた。


「冒険者に加えて、行商人もですからね。武器や防具から、薬に術具、なんでもござれといったところでしょうか」


 荷台に乗っているフィーヨも幌から顔を出し、賑わう通りの風景を眺めながら言った。この前まで滞在していたレウマ国は本当に田舎の小国で、国一番の賑わう商業区ですら人がまばらであったが、今のヒューゴ国は同じ田舎の小国でも、祭りの最中ということもあって、まるで大都市の通りでも進んでいるかのような錯覚に襲われていた。

 ちなみに、荷台の中にはセラも載っているが、町の喧騒など特に関心もなく、横になって眠っている。

 荷台には他にも、毛布などの寝具類や着替えに食料など、以前の旅とは比べ物にならない充実した装備が整っていた。背嚢で運べる量と、馬車で運べる量では大きな差があるためだ。あとは、手土産ワイロになるからと、レウマ産の葡萄酒ワインも幾ばくか貰い受けていた。

 三人がまず目指しているのは、この国の冒険者組合ギルドの支部で、そこにはレウマ国の支部長カミンのかつての冒険仲間が支部長を務めていた。カミンがわざわざ紹介状をしたため、なるべく便宜を図ってくれるようにとかつての仲間に宛てて一筆書いたのだ。

 そして、通りを進み、支部の前まで来ると、これまた多くの人で賑わっていた。人族のみならず、多種多様な種族が見受けられた。また、武装もまるで見本市でも開いているのかと思うほど色々眺めることができた。

 肝心の建物はというと、レウマ国の支部に比べて一回り大きい程度であったが、人の数とそれに裏打ちされた熱気は凄まじい物であった。普段はそれほどでもないのであろうが、今は八年に一度の一大イベントの真っ最中である。おそらくは、支部の職員も大忙しであろう。


「さて、それじゃあ、行きますか。セラはどうする?」


 フリエスの問いかけに、セラは軽く手を振って応じた。やる気がないので後はよろしく、ということだ。いつものことであるので、フリエスはセラに留守番を任せ、フィーヨと共に馬車から降りた。

 行き交う人々の波を上手くかわしながら二人は建物の中に入っていった。

 予想通り、中も活気と熱気が渦を巻き、人々の喧騒が響いていた。受付のカウンターにも列をなし、三人体制でもなかなかさばき切れていない様子であった。


(一人で、しかも大あくびかいてたレウマ支部とは大違いね)


 フリエスは賑わいを眺めながら思わず笑ってしまった。フリエスはこういう賑やかな場所が好きであったが、今は仕事をきっちりこなすのが優先であり、楽しむのは二の次とせねばならなかった。

 とりあえず、受付の列にはフリエスが並ぶことにして、フィーヨには掲示板の確認をお願いした。冒険者組合ギルドは大陸中に支部があり、その情報網は大きく優秀である。そのため、支部を訪れた際にはまず掲示板から情報を仕入れておくのは、冒険者の鉄則であった。

 しばらくフリエスが列に並んでいると、ようやく順番が回ってきた。受付係の女性が軽く会釈してフリエスを出迎えた。さすがに、少女が一人でやってきたので奇妙に思ったか、少し怪訝な顔になったが、すぐににこやかな表情に戻ったが。


「ようこそ、ヒューゴ支部へ。どういったご用件でしょうか?」


「支部長に面会をお願いします」


 これにはさすがに受付係も目を丸くして驚いた。少女が一人で現れて、いきなり支部長に会わせろである。いたずらか、あるいは余程のことか、どちらかだと判断したようだ。


「・・・失礼ですが、支部長へのご予約は?」


「ありません。ですが、これを渡すようにと言われました」


 そう言ってフリエスは、カミンから預かっていた紹介状を懐から取り出し、受付係に手渡した。封書の裏を見るなり、案内係の表情が強張った。封印の印字が組合公認のもので、これによる封書は組織内では公文書に匹敵する重要度であることを意味していたからだ。また、カミンの著名がなされていることも意味があった。レウマ支部長とヒューゴ支部長はお互い知己なのを案内係は知っており、なにか重要な案件を持ってきたのではないか、と考えたのだ。


「受けたわまりました。支部長に確認いたしますので、そちらの椅子にかけてお待ちくださいませ」


 案内係は別の職員に手紙を渡し、職員は建物の奥の方へと小走りで向かった。フリエスは言われるがままに椅子に腰かけ、待つことにした。

 椅子に腰かけてしばらくすると、フィーヨがやって来た。そして、明らかに不機嫌なご様子で、ピリピリとした雰囲気で周囲を無意識に威圧していた。


「フィーヨさん、どうでした?」


「特に目立った情報なし」


 事務的な一言。その口調は明らかに苛立ちを放っており、見ているフリエスもなにやら緊張してしまった。


「ええと、何かありました?」


「仲間への勧誘が五件、“床”のお誘いが二件。神の御許へ送り出して差し上げましょうかと思いましたが、贄としては質が悪そうでしたので、止めにしておきました」


「け、賢明な判断です」


 フィーヨの苛立ちの原因が分かり、フリエスは冷や汗をかいた。仲間への勧誘はまあ妥当である。なにしろ、今から討伐する相手は不死者アンデッドである。フィーヨが神官であるのは首から下げている聖印ホーリーシンボルを見れば一目瞭然であり、神官が最も戦力として期待される不死者アンデッド討伐ならば、神官を揃えておきたい気持ちは分からないでもない。

 だが、“床”のお誘いはさすがに飛ばし過ぎだろうというのがフリエスの考えだ。さすがに、これだけの人数がいて、多種多様な人種や職種の方々がいらっしゃるのであるから、目の前に美女が現れたらお誘いの一つもしてくるバカがいないとも限らない。ただ、フィーヨにはすでに決まった相手がいるのだから、フィーヨが不機嫌になるのも当然である。


「まあ、フィーヨさんを一人でこういう場所に放り込んだのは失策でした。セラを無理にでも付けといた方がよかったかな?」


「そういう意味ではあなたもですよ、フリエス。見た目女の子が付き添いもなく、こんな汗臭い場所をウロウロしていたら、奇妙に思われますよ」


 フィーヨに言われるまでもなく、フリエスは案内係の人からはそういう態度で臨まれたのだ。もっとも、手紙の入った封書を見せたら、クルリと手のひらを返して丁寧な対応になったが。

 あれこれ話をしていると、先程奥に向かった職員が戻ってきて、奥へと案内された。

 通されたのは応接室で、すぐに支部長が来るのでここで待つようにとのことだ。二人は椅子に腰掛け、目の前に用意された“葉の茶”で喉を潤した。

 程なくして、老人が一人入ってきた。頭はすっかり毛髪を失っていたが、背筋はまっすくで年の割には気力が溢れかえっているようであった。また、燭台と炎をあしらった首飾りを下げており、二人はそれが炎の神カヅチの聖印(ホーリーシンボル)であることを知っていた。


「待たせてしまってすまんね」


「いえいえ、このようなお忙しい時期にわざわざ時間を割いていただいて恐縮でごさいます。軍神マルヴァンスの御加護があらんことを」


「炎神カヅチの御加護があらんことを」


 フィーヨと老人は互いの信仰する神の名を唱え、相手の神に対しても敬意を払った。他神の神官と言葉を交わす際には、互いの神を尊重する旨を相手に伝え、敬意を示す。こうしたやりとりをするのが神官同士のごくありきたりなやりとりであった。

 老人は二人に向かい合うように椅子に座り、先程渡した封書を机の上に置いた。


「私はここの支部長マーベという者だ。カミンとは昔からの付き合いがあってな。そのカミンから久方ぶりに手紙が来たから、何事かと思えば、君らの役に立つよう便宜を図ってほしいとのことだ」


「はい、その通りでございます。突然の訪問の上に、いきなりのわがままな要求かと思いますが、何卒よしなに」


 フィーヨは腰かけたままではあるが、深々と頭を下げた。こうした交渉事は皇帝時代に幾度もやって来たことなので、任せてくださいとフリエスに片目を瞑ってそれを示した。


「手紙にも書かれていたかもしれませんが、我々は一刻も早く等級を上げて、高難易度の仕事ができるようになりたいのです。そのためには仕事をこなしていく必要があるのは承知しておりますが、この祭典では全等級が参加できるとのこと。いい場所を教えていただければ幸いです」


 そういって、フィーヨは懐から自信の組合登録証を取り出した。これはある程度の情報が書き込まれており、また魔術師が〈魔力探知(マナ・スキャン)〉で調べれば、詳細な情報が出てくるようになっていた。

 マーベは手に取り、術式で詳細な情報も閲覧した。


「なるほど、冒険者に成り立てといったところか。達成した任務(クエスト)が一件しかない。しかも、カミンの入れ知恵で、“裏技”を使いましたな」


 フィーヨは現在七等級である。通常の感覚だと七等級は、新人を卒業して場数を踏んで中級者の入り口に差し掛かってきたところ、という感じである。

 しかし、仕事の履歴は一つだけで、しかも“裏技”を用いて手っ取り早く加点された状態だ。それを支部長が容認したということは、何かを持っていると判断したからに他ならない。


「まあ、カミンがそこまで世話を焼くのだから、君らはそれなりの腕前なのだろうが・・・。ちなみに、今回の任務クエスト不死者アンデッドの討伐になるが、どの程度の強さの相手ならば倒せるかね?」


 マーベは確認のために尋ねてみた。カミンの紹介とはいえ、まだ目の前の二人の実力には懐疑的であり、どういう反応を示すかを見るためだ。


「こちらの大陸ではどの程度の難易度になるかはわかりませんが、昨年、“血に染まるクリムゾン死霊術士王リッチロード”を討伐しましたが、どうでしょうか?」


「・・・はい?」


 マーベは耳を疑った。目の前の女性が口にした不死者アンデッドは最上位に属する怪物モンスターである。仮に一等級のいる部隊チームであろうとも、全滅する可能性がある相手だ。それをさらりと討伐したと述べるあたり、頭がおかしいのか、七等級という評価がおかしいのか、そのどちらかであろう。

 ちなみに、フィーヨが口にした不死者アンデッドは、かつて死の島などと言われていた、東西大陸の要衝にある死の海域に浮かぶ島で、そこに巣くっていた親玉がそれであった。フィーヨの感覚では、魔王軍の幹部に比肩できる実力を持っていた。それ以上に厄介だったのは、竜脈から魔力を補充していて、それを用いて無尽蔵に不死者アンデッドを召還していたことだ。そこそこの強さの不死者アンデッドが次々と湧いてきたのである。とにかく数が多すぎて、親玉の下へ着くまでにかなり消耗させられた。


「本気で言っているのかね?」


「もちろんです。なんでしたら〈真実看破ペネトレイト〉をお使いになっても構いません」


 術式による聴取は尋問でもない限りは失礼に当たるのだが、質問される当人が了承すればその限りではない。フィーヨはいくらでもどうぞとマーベに向かって手を広げて術の使用を促した。


「・・・いや、いい。カミンの紹介でもあるし、そうなのだろう。まったく、とんでもないのを見つけてきたものだな、あいつは」


 最上位の不死者アンデッドを討伐した七等級など、存在するわけがない。存在しているのは、組合ギルドの等級制の仕様にそぐわない異分子とも言うべき者が現れたことを意味している。


「では、今回の任務クエストである“不死者の祭典アンデッド・カーニバル”について説明しよう。このヒューゴ国の中心にあるイーサ山が今回の舞台だ。ここの山頂にはかつての噴火によって生じた火山湖があり、そこから不死者アンデッドが湧いてくるのだ」


「なるほど、その溢れてきた不死者アンデッドが周辺の村々を襲うというわけですね」


「その通りだ。不死者は生者を嫌い、生者の気配を感じると襲ってくる。仲間に強制的に勧誘するためにな。寂しがり屋なのだよ、あやつらは」


 皮肉交じりの説明の後、マーベは机の上にイーサ山を中心としたその周辺の地図を広げた。かなり巨大な山であり、その麓から緩やかな傾斜部まで、いくつもの村が存在していることも確認できた。


「地形や魔力の具合によって、襲撃してくる不死者アンデッドの強さや種類に差が出てくる。で、最高難易度になると予想されるのがここ、北側の傾斜部にあるワーニ村だ。景色も良くて、泉質も極上なのだが、行くまでにかなり険しい道を通ることになり、相当な“通”が通い詰める秘湯的な温泉村だ。毎年ここが激戦になり、はっきり言えば五等級未満は足手まといにしかならないほどだ」


「ふむふむ。具体的な不死者(アンデッド)の種類は?」


屍竜(ドラゴンゾンビ)魂喰い(ソウルイーター)上位吸血鬼(ノーブル・ヴァンパイア)空飛ぶ死体キョンシー、よく見かけるのがこんなところでしょうか。あと、以前には亡者の支配者(ワイトキング)血に染まる(クリムゾン)死霊術士王(リッチロード)、果ては嘆きの女王バンシークイーン堕とされしヘルヘイム魂の選定者ヴァルキュリアなどの最上位の不死者アンデッドの討伐記録もあります」


 マーベの説明を聞き、フィーヨはなるほどと納得した。高難度の相手が目白押しであり、相当場数を踏んだ者でなければ、まともに立っていることすらできない相手ばかりだ。どの程度の数の冒険者がいるのかは分からないが、五等級どころか三等級以上でないと厳しいかもしれない。


「認識しました。では、そこへ行くことにしましょう」


 あれだけの怪物(モンスター)の名を上げながらも、物怖じすることなく散歩にでも出かける口調で応じてくる女性に、マーベはやはりただならぬ者を感じた。


「支部長、質問いいですか?」


 今まで黙って二人のやりとりを聞いていたフリエスが突然手を挙げた。


「なんでしょうか?」


「火口湖から不死者アンデッドが湧いてくるのはわかったんだけど、それならその火口湖になにかしらの強烈な術具やなんかがあると思うんですけど、調査とかはしてないんですか?」


 不死者アンデッドは墓場や古戦場、滅びた古代の都市など、死の臭いが渦巻くところに現れる。つまり、不死者アンデッドが大量に現れるということは、それらを引き付ける何かがあるということだ。フリエスらが征服した死の島も、竜脈の特異点という最上級の餌が存在したことにより、そこを押さえた怪物モンスターが跋扈する状態となっていたのだ。


「もちろん調査はしましたが、とんでもない危険な場所なのですよ。普段は鮮やかな緑色の湖水を湛え、遠巻きに眺めて絶景を楽しむものなのですが、強烈な毒気を含む黄色い煙が漂い、湖水自体も強烈な酸らしく、入ることは不可能」


「あぁ~、それじゃあ無理だわ」


 大元さえ断てばどうにかなるとフリエスは考えていたのだが、そう簡単にはいかなさそうであった。実際、今の今まで祭典(カーニバル)が続いているということは、数百年間誰も対処できなかったということだ。


「ただし、百の満月の夜だけは例外です。先程言った居並ぶ最上位の不死者アンデッドを蹴散らし、百の満月の夜に火口湖に到達した者が、数百年に及ぶ祭典カーニバルの歴史において、たった一人だけ存在します。その記録によりますと、火口湖は消えてなくなっており、代わりに禍々しい魔力を放つ水晶か何かで作られた髑髏が枯れ果てた湖の中心に安置されていたそうです」


「たった一人でって、バケモンか、その人は」


 先程の名前の挙がった不死者アンデット達だが、一体ならフリエス単独でも勝てる自信ある。だが、複数同時となると、さすがに無理であった。つまり、その猛者は半人半神のフリエスですら、及びもしない領域に到達しているということだ。


「私がまだ現役時代だったころの話ですな。その者はワーニ村から出撃し、次々と不死者アンデッドの群れを押しのけ、一気に火口まで突破していきました。私は別の場所から出撃したのですが、後日その話を聞き、とんでもない人物と同じ時代に生まれたものだと思いましたな」


「でしょうね。てか、支部長の現役時代ってことは、数十年は前ってことですか。残念」


 もし、直近の話であれば勧誘しに行くところであるが、それは無理そうだとフリエスは諦めた。


「その戦いぶりを見た者の話だと、何本もの刃が流星のごとく飛び交い、群がる不死者アンデッドを寄せ付けることなく蹴散らしていったのだとか」


「え、それって・・・、《剣星スターブレード》ですか?」


「おお、かなり昔の話だというのに、お嬢さんみたいなお若いのにもしっかりと名が知れ渡ってますな。当時はまだ十代半ばの少年だというのに、すでに一等級の猛者ですらうかつに話しかけれないほどの、圧倒的な気配を漂わせていたのだとかなんとか。伝説の大剣豪ヴィッチェロの再来だと、当時は話題になったものです。ある日忽然と姿を消してしまいましたが」


 興奮しながら解説するマーベであったが、フリエスもフィーヨも相変わらずの腕前だと半ば戦慄した。


(リガールさん、マジでバケモンだわ、ほんと)


 リガール=グランヘル。《剣星スターブレード》の二つ名で知られる《五君・二十士》の中でも最強と謳われる剣士は、西の大陸の出身であり、東大陸に渡ってくる前にも随分と活躍していたということは聞いていたが、その話を聞けて、フリエスは満足であった。

 リガールを最強たらしめ、二つ名の由来にもなっている剣技〈流星剣シューティングスター〉は、とんでもない威力を誇っていた。なんでも、斬撃の際に生じる剣の残像にも力を与え、“実体のある残像”を作り出すのだという。意識を少し集中させれば発動できるため、“通常攻撃が六回攻撃”というとんでもない性能を誇っていた。

 フリエスも一度、それがどれほどのものかとリガールと訓練がてら戦ったことがあるのだが、二発目を防ぐのが限界で、残り四発は急所に直撃し、あっさり昏倒させられた。

 ちなみに、〈流星剣シューティングスター〉を凌いだことのある他の英雄は、三人いる。《英雄王》とヘルギィとヘルヴォリンの三人だ。《英雄王》は手にした魔剣の力で実体のないただの残像に戻し、ヘルギィは双剣で防ぎきり、ヘルヴォリンは六つの剣の軌道を読み切ってかわしたり流したりしたそうだ。

 これだけでも十分に強いというのに、手にしている神々の遺産アーティファクト明けの明星ルシフェル》という剣も厄介な効果を持っている。斬りつけた相手の精神を削る効果があり、余程強靭な精神力を持っていなくては、かすっただけで無気力状態に堕とされる。精神を直接攻撃できる特性から、亡霊レイスのような実体のない幽体だけ存在にも効果を発揮し、術者の援護なしでも倒すことができた。


「それで、《剣星スターブレード》も火口湖にあった“何か”について、対処できなかったのでしょうか?」


「ええ。報告書によると、『火口にあった髑髏は強烈な呪いが込められており、物理的に破壊するのは困難だった。解呪できる術者がいる』とのことです。あいにく、その場に彼についていけるほどの術者はいなかったので、やむなく諦めたのだそうです」


「なるほどなるほど」


 フリエスはそれで納得した。いかに最強の英雄といえども剣士であるので、術を必要とする状況には対処できなかったということだ。


(そして、自身の相方を務めれる術士を探し、モライナさんを“誘拐”していったと。んで、ペリエルさんとの因縁が始まってしまったってとこか)


 フリエスが聞いた話だと、リガールは幼子であったモライナを自身の相方にするために、誘拐したと聞いていた。ずば抜けた才能を有する術士の卵を一から鍛え上げ、自分に付いてこれる術士に鍛え上げようとしたのだ。当然、その家族と諍いになり、モライナの異母姉ペリエルと死闘を演じることとなった。結果、リガールが辛くも勝利し、モライナを強奪していった。

 瀕死の重傷を負ったペリエルも傷が癒えると同時に二人を追いかけた。だが、どれだけ探しても見つけることができずにいると、東に大陸に渡ったとの情報を聞きつけ、二人を追って東大陸へと向かった。


(で、いつもの殺し合いと追いかけっこが始まったと)


 東大陸に渡ってきたペリエルは、東大陸においても武名を轟かせていたリガールをすぐに見つけることができた。無事に成長していた妹の姿を見てペリエルは歓喜すると同時に、それを誘拐した忌まわしい存在の姿も確認できたので、当然ながら殺し合いとなった。だが、問答無用で襲い掛かろうとしたペリエルに対し、モライナが二人の間に入って止めてしまったのだ。モライナはリガールにすっかり惚れ込んでおり、冒険者としての相方であると同時に、伴侶ともなっていたのだ。

 誘拐犯と結ばれるなど言語道断とペリエルは妹に正気へ戻るように訴えたが、そうした事情もすでにリガールの口から直接モライナに伝えられており、その気持ちに変化はなかった。

 ペリエルはやむなく引き下がったが、妹を正気に戻すべくどうにかせねばとあれこれ悩んでいると、そこに一羽の“白鳥”が現れて、図々しくもいきなり求婚してきたのだ。無視しようかとも思ったが、気晴らしにからかってやるかと考え、その申し出を条件付きで受けることにした。

 こうして、天使と白鳥の追いかけっこが始まり、それは今もなお続いている。ペリエルの方は気晴らしの冗談であったが、からかわれている白鳥の方は本気も本気であり、その迸る情熱をもって数百年閉ざされた世界に大穴を開けたのは、偶然というにはあまりにも奇跡的な出来事と言えた。


「ちなみに、参考程度にお聞きしたいのですが、もし山にかかってる呪いを解くことができましたら、どの程度の等級が見込めるでしょうか?」


 フィーヨのいきなりの問いかけにマーベは目を丸くして驚いた。あの《剣星スターブレード)》ですら成し遂げらなかった偉業をやって見せると口にしたのである。驚くのも無理はなかった。


「そう・・・ですね、もし達成できれば、実際の等級がどうなるかは分かりかねますが、等級外指定と同等の扱いを受けるのは確実でしょう。なにしろ、大陸中から冒険者が集い、その実力を皆に示したわけですから。誰もそれに異議を挟むことなどできますまい」


 もちろん、マーベはそれが可能とは考えてはいなかった。それでも、いい線までは行けるかもしれないと感じさせる何かを、目の前の二人からは感じとることができた。


(カミンの奴めが便宜を図ったのも、何かを感じたからなのやもしれんな。ならば、私も一口乗っておこうが。達成できずとも、唾を付けておいて損はない)


 マーベは先行投資のつもりで、カミンの提案に乗ることにした。腕利きの冒険者と懇意にしておけば、助けを借りることも情報を渡してくれることも期待できた。支部長としては、そうした事情もあるので、二人とは仲良くするのは当然であった。

 マーベは手元の呼び鈴を鳴らし、隣室で控えていた秘書に必要な物を持ってくるように伝えた。しばらくすると、紙と筆、他にもいくつかの小道具が運ばれてきた。


「ワーニ村の長は私の従兄弟でな。あやつに融通してもらえるよう手紙を書いておこう。食堂も営んでおるから、そこに顔を出せばすぐに会えよう」


 マーベは書き終えた手紙を革製の封書に入れた。しっかりと封印し、それをフィーヨに手渡すと、フィーヨは改まってマーベに対して頭を下げた。


「支部長、突然押し掛けながら、ここまでの便宜を図っていただいて恐縮です。ご期待に添えるよう、勤めさせていただきます」


 フィーヨは礼を述べ、フリエスもそれに続いて頭を下げた。そして、マーベが手を差し出して握手を求めると、フィーヨ、フリエスの順で握手を交わした。

 そこでマーベは気づいたのだが、目の前の二人はやはり相当な場数を踏んでるのを確認できた。手の甲や肌はとても綺麗なのだが、手のひらはゴツゴツしており、剣ダコが出来上がっていた。これは相当な訓練を積まなければ出来なあものであり、これだけでもやはりただ者ではないと感じた。


「では、成功を期待しているよ。もし、件の髑髏を手にすることができたら、是非拝見させてくれ」


「ご期待に添えるよう鋭意努力します」


 こうして二人は予定通り支部長からの協力を取り付け、優遇措置を受けられることとなった。

 目指すは、激戦が予想されるワーニ村。かつて《剣星スターブレード)》と同じ道を辿り、満月の夜に火口湖へ突撃することを決意した。


       ~  第五話に続く  ~


 


 

 

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