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フリーダムファイターズ ~月と太陽への反逆者~  作者: 夢神 蒼茫
第二章  雷神娘と不死者の祭典
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第三話 反逆者

 『酒造国』レウマは五十年前の独立の争乱以来、比較的平和な時を過ごしてきた。独立以前は周辺国の政治的な駆け引きに使われることも多かったが、そんな混沌とした状態も今は昔。周辺国すべてと良好な関係を築き、西大陸一の美酒を生み出す産地としての地位を確立していた。

 先月、この地を治める十二伯爵家の当主が皆殺しにあうという痛ましい事件はあったものの、基本的には平穏なのである。強力な怪物モンスターの住処、不死者アンデッドが湧き出す古代の遺跡、そういう人々の生活を脅かす場所がないのだ。せいぜい、小鬼ゴブリン程度の妖魔が現れる程度だ。

 そのため、この国の冒険者組合ギルドは暇なのである。所属する冒険者に来る依頼といえば、小鬼ゴブリン退治や定期巡察、たまに隊商キャラバンなどの護衛任務、この程度だ。のんびり過ごしたい者にはいいかもしれないが、ガッツリ稼ぎたいと思う者や活躍して名声を得たいと考える冒険者には無用の空間と言えた。

 そんな暇な冒険者組合ギルドレウマ支部に、今日は二名の来訪者が来ていた。東大陸から渡ってきたフィーヨとセラである。二人は情報収集をしながら西大陸のどこかに潜む《狂気の具現者マッドメーカー》ネイロウを見つけるため、組合の情報網に食い込もうと考え、会員登録にやってきたのだ。

 もう一人の仲間フリエスは魔術師組合ギルドに赴いており、そちらでの登録を行っていた。

 二人は登録の手続きは終わったものの、等級に不満があると支部長のカミンに告げたところ、仕事を引き受けてくれたらどうにかするという運びとなった。その仕事の内容とは“訓練教官”、つまり登録して間もない新人冒険者に手ほどきをしてやって欲しいということだ。もちろん、それは表向きの話で、二人の実力がどの程度なのか見せてほしいという、支部長からの要請であった。

 そんなわけで、フィーヨとセラの二人は支部の建物の横にある訓練施設へと足を運んでいた。

 訓練施設も支部の規模に比例して、やはり簡素なものであった。的となる人形がいくつか立てられ、それに向かって剣や槍を繰り出している姿が見受けられた。他にも、弓の訓練を行う射撃場や、重量挙げに使うと思われる適度な大きさの石など、貧弱ながらも訓練場としての最低条件は満たしているようであった。

 訓練場にやってきた二人に気付き、先に来ていた支部長のカミンが二人に歩み寄ってきた。


「手続きは終わったようだね。では、早速だが、こいつらの手解きをしてやってくれ」


 カミンが指さした先には三人の若者がいた。齢としては十代前半から十代半ばといったところで、訓練教官を付けるとカミンから言われたので、その面持ちは緊張の色に染め上げられていた。

 しかし、やってきたのは今まで見たことのない美女である。若者達は一気に緊張の二文字を頭の中から叩き出し、胸の高鳴りと共に興奮の感情が沸き上がっていた。


(わかりやすいな~、この年頃の男子って)


 などと思いつつも、フィーヨは笑顔を崩さず、今のところは優しいお姉さん(四十歳)で通すことにした。

 

「どうも皆さん、初めまして。本日の訓練教官を務めます、フィーヨと申します。で、こちらはセラ。短い間となるでしょうが、よろしくね」


 フィーヨは片目を瞑り、少し色っぽい振る舞いで三人のやる気を引き出そうとした。そして、それはすぐに効果となって表れた。


「「「よろしくお願いします、教官殿!」」」


 威勢のいい三つの声が飛び出した。背筋をピッと伸ばし、フィーヨの次の言葉を待った。


(さて、三人の姿を見たところ、剣士ソードファイター槍使いランサー拳術士グラップラーといったところかしら。術が使えるのが一人もいない組み合わせだけど、この国でこなせる仕事なら、必要もないか)


 フィーヨはさてさてどういう訓練にしようか考え始めると、先のセラの方が動いた。近くにあった、訓練用の的であろう人形の横に立ち、三人の方に視線を向けた。


「おい、ガキ共、一つ質問しよう。剣でも、槍でも、拳でもいい、あらゆる武芸において、最強の極意とは何だと思う?」


 セラの迫力ある声とともに質問が飛び出した。三人はお互いに顔を見合わせ、その答えを必死で考えたが、何も思い浮かばなかった。


「教官殿、わかりません!」


 リーダー格と思われる剣士の少年が緊張しながらも必死で口を開き、そう答えた。


「ふむ、正直で結構。分からないことを恥じるの必要はない。分からないことがあれば学んでいけばいいだけだからな」


 魔王からの親切丁寧な言葉であった。三人はさらに緊張し、もう伸び切らないかと思われた背筋をさらに必死で伸ばすような姿勢をとった。


「よいか、あらゆる武芸における究極の極意、それは“一撃必殺”だ。十発二十発食らおうが、一発ですべてをひっくり返せばいい。いや、それすら生温い。相手が最初の一撃を繰り出す前に、こちらの一撃でしとめることを考えろ。初手で致命の一撃を叩き込め。外れたら死ぬ、それくらいの覚悟をもって相手に叩き込め。“一撃必殺”こそ、すべてを解決するのだ。このようにな!」


 そう言うとセラは拳を強く握り、人形に向かって振り上げた。狙い違わず顎の部分に命中し、そのままの勢いで打ち抜いた。強烈な衝撃を受けた人形は地面に固定する杭ごと引っこ抜け、空高く舞い上がっていった。

 三人の若者とカミンは大きく目を見開き、呆然と口を開け、人形の飛ぶ様を見上げた。哀れな人形は勢いよく回りながら落下し、最後は建物の尖塔に突き刺さった。まるで、串刺し刑にでもあったかのような無残な姿を晒すことになった。


「以上が模範演技だ。これくらいやれるようになれば、竜討伐とて夢ではない」


 人形の惨状に気が行って、もはやセラの言葉など誰も聞いていなかった。ただ一人、フィーヨだけはドヤ顔の自称魔王の後頭部に平手打ちを食らわせた。


「さっき言いましたよね? あまり驚かせるような真似をしないように、と」


「許容範囲内だろ、これくらい」


「どこが!?」


 フィーヨが指さす先には、大口開けて驚く四人の姿があった。開いた口が塞がらないとは、まさにこういう状態のことを言うのであろう。


「見なさい! どう見てもドン引きしてるでしょう。先程あなたも『小鬼ゴブリンすら倒せるのか怪しい』なんて言ってたのに、竜退治がどうこうなんて、何段階すっ飛ばすおつもりですか!」


「夢は大きく、目標は高く、希望溢れる未来に向かって突き進め」


「あぁ~、なにか魔王の口から出てはいけない言葉が聞こえてきましたわ」


 フィーヨはセラの態度にため息しか出なかった。普段ならこういうセラとのやりとりはすべてフリエスの役目だというのに、今日は別行動中であった。そのため、魔王の手綱はフィーヨが握ることとなっているのだが、まともに締め上げれる自信はなかった。

 とはいえ、流れが吹っ飛んでいった状況をなんとかせねばならず、フィーヨは強めに手を叩いて全員の注目を集めた。


「はいはい、皆さん、注目注目! このお兄さんが少々おいたが過ぎることをやってしまいましたが、こういうやり方もある程度に頭の中に入れといてください」


 フィーヨはそう言って少年達を宥めようとしたが、すでに手遅れだった。緊張も興奮もなく、そこにいる三人の頭の中にあるのは恐怖による萎縮であった。魔王の拳による一撃は少年達の心をしっかりと打ち抜いてしまったのだ。

 これでは講義にならないと、フィーヨは神の奇跡に頼ることにした。


「偉大なる軍神マルヴァンスよ、我は汝の信徒なり。この震える者達の心に勇気を奮い起こし、立ち上がる力を授けたまえ。〈勇敢なる心(ブレイブハート)〉!」


 神への祈りが完成すると、その体が淡く光だし、体の奥底から何かがフツフツと湧いてくるような感覚になってきた。フィーヨが使った神術は対象者に恐怖への耐性を強化し、勇気を奮い起こすものであった。

 術の効果に加え、初めてその身に浴びた神の奇跡にはしゃぎだし、興奮冷めやらぬ状態となった。

 隣で見ていたカミンもまた、この二人が相当な実力者であることが分かった。人形を吹き飛ばした一撃といい、怯える少年達を治した手並みといい、少年達と同じ十等級では不釣り合いにも程があるのだ。


(これなら、余裕で三等級は超えてるな)


 カミンはそう判断した。自身は現役時代の到達点は四等級であり、この二人はこの若さですでにそれを軽く超えているということだ。努力だけでは埋まらない、才能の壁をまざまざと見せつけられた格好だ。

 なお、二人の年齢は見た目通りではないのだが、そんなことはカミンの知るよしもなかった。


「では、次に私が剣技をお見せしましょう。・・・剣に」


 フィーヨはいつものように袖口から二匹の蛇を取り出し、それを剣に変えた。クルリと向きを変えて、人形の前に立ったがそこへ先程のお返しと言わんばかりにセラがフィーヨの後頭部へ平手打ちをお見舞いした。フィーヨは前のめりに倒れかけ、持っていた剣も蛇に戻り、セラに向かって大口開けて威圧を始めた。


「何をするのですか!?」


「お前もバカか。なに訓練で神々の遺産(アーティファクト)使おうとするかね。剣技を見せたいなら、そこらに転がっている木剣で十分だろう。備品を壊すな」


 遺産の一撃に耐えれる人形など、この場にはない。魔王からの警告は、反論の余地のない正論であるのだが、先程吹っ飛ばした人形については完全に忘却の彼方へ追いやっていた。

 なお、この段階で観客(ギャラリー)の数はかなり増えていた。訓練場の方がなにやら騒がしくなっていたので、何事かと建物の中にいた冒険者や職員がゾロゾロやって来たのである。やはりこの支部は暇なのであった。


「まったく、脳筋にも程があるだろ、この元皇帝め。お前らの育て方が悪いんだぞ、バカ面揃えてるお前らだ」


 セラは威圧してくる二匹の蛇に向かって言い放った。二匹の赤い蛇の中にはフィーヨの兄ヘルギィと夫ルイングラムがおり、フィーヨをずっと見守っているのだが、甘やかし過ぎていると非難したのだ。

 フィーヨはそれがカチンときた。自分を非難するのではなく、愛する二人の方を非難したからだ。


「軍神マルヴァンスよ、聖なる加護を我が得物に。〈武具聖属性付与(エンチャント・ホーリーウェポン)〉」


 二匹の蛇が再び剣へと変じ、さらに淡く輝き始めた。神の加護により、聖なる力を剣に帯びさせたのだ

 そして、魔力の波動が剣を介してフィーヨの手にまで伝わってくると、躊躇なくセラに向かって剣を払った。セラには不死者(アンデッド)としての特性があるので、倒せずとも痛い一撃にはなる。

 セラは特段慌てず、剣を指で摘まんで止めた。しかし、聖なる力が付与された剣であるので、摘まんだ指から煙のようなものが出始め、まるで火傷でも受けたかのようになっていった。


「痛くありませんか、指。放した方がよろしいですよ」


「指を放したら、首が飛ぶだろうが。そっちの方が痛いから断る」


「なら、斬首はやめて、串刺しで我慢しますわ」


 フィーヨはもう一方の剣を繰り出し、セラの顔面目掛けて突きを放った。これもセラは慌てず、体をそらせて素早くかわした。


「引っ掛かりましたね。鞭に」


 フィーヨの声とともに、両手の剣が鞭へと変わり、蛇のようにくねりながらセラの首と右の手首に巻き付いた。当然、聖なる力によって巻き付いている箇所がまた焦げ付いていった。


「〈限界突破オーバードライブ腕力増強アシストアームズ〉」


 フィーヨの腕にみるみる力が湧いてきて、その怪力をもってセラを振り回した。二回、三回とフィーヨを中心に空中で回った後、そのままの勢いで地面に叩きつけようとした。

 だが、セラは何事もなかったかのようにうまく着地し、そのまま踏み込んでフィーヨに蹴りを放った。フィーヨは素早く武器を手放し、後ろに跳躍してセラの蹴りをかわした。

 手放された武器も鞭から蛇に戻り、またフィーヨの手に戻っていった。


「いいねいいね。ようやく本調子になってきたようではないか。実力的には末席とはいえ、英雄という肩書きを持つ者として、そのくらいはやってもらわんとな」


「こういうときのあなたは、本当にイライラしますわね。〈限界突破オーバードライブ脚力増強アシストレッグス〉」


 蛇を再び剣に戻し、今度は足を強化して速度重視の攻撃に転じた。強化された足で一気に詰め寄り、その勢いのまま突きを繰り出した。セラはそれを横に飛んでかわしたが、着地からの切り替えしでフィーヨは方向を無理やり変えてセラに迫った。

 凄まじい速度で剣と拳がぶつかり合い、見ている野次馬連中を呆然とさせた。目の前のの英雄(十等級)と魔王(十等級)の戦いぶりに完全に見入っている状態となっていた。常人とは思えない身体能力、次々と姿の変わる武器、飛び交う色とりどりの術式、現実離れした戦いぶりだが、確実に目の前で繰り広げられており、夢かと疑う者は頬をつねって確認する者までいた。

 若者三人に至っては先程の術の効果もあいまって「すっげぇ~」と口々に漏らし、興奮して絶叫する有様であった。

 なお、これだけ訓練場を所狭しと暴れまわっているが、最初に吹っ飛ばした人形以外の備品にはまったく被害が及んでいない。ちゃんと気を使って戦っているところはさすがである。

 こうした一連の光景をカミンは冷静に分析していたが、もはや目の前の二人があまりにも強すぎて、自分の物差しでは測れない化け物だということが理解できた。


(三等級どころではない。この二人は“等級外指定”だ)


 冒険者組合ギルドの運営規定上、仕事を受けて無事に達成すると加点されていき、等級が上がっていくようになっている。つまり、実力はそれほどでなくても、地道にコツコツ仕事をこなしていけば、それなりの等級にはなれるということだ。カミン自身がその口で、旅仲間と程々の仕事をこなし、四等級にまで上り詰めたのだ。場数が多いので歴戦の風格は身に着けているが、そこまで高難度の怪物モンスターを倒したこともないので、四等級止まりなのだ。

 実際、冒険者の間でも、“四”と“三”の間には分厚い壁があるとされており、四等級は努力だけで到達できる終着点などと言われ、三等級以上となると努力に加えて運と才能にも恵まれていないとなれないと言われている。

 冒険者の最終到達点は当然一等級であるが、さらにその上が非公式ながら存在する。設定されていない等級なので“等級外指定”などと呼ばれているが、冒険者の間では俗に“特等級”とも呼ばれている。これになるためには一等級になって、さらに普通なら不可能な超高難度の偉業を成し遂げた者がそう呼ばれるようになるのだ。三等級以上から二つ名で呼ばれだしたりするのだが、特等級ともなると冒険者なら誰もが知ってるほどの有名な二つ名を持っているのが常だ。

 そして、目の前のぶつかり合う二人は、まさにそれに該当するとカミンは感じた。確かに、実力と等級の乖離に異議申し立てするのも納得というものだ。


(これはちゃんと待遇を考えてやらんといかんな。それにしても、新しい国王陛下はとんでもないのを紹介してくるものだ)


 これはきっちり面倒を見てやらないといけないとカミンは考えた。なにより自分のためでもある。これほどの逸材を発掘したとなると、富と名誉のおこぼれくらいは与れるというものだ。老境の最後の花道としては申し分ない、そう思い至ったのだ。

 などと考えていると、突如として稲光が周囲を照らし出した。そして、付近に雷が落ちた。いつ降り出してもおかしくない空模様であったのでとうとう降ってきたかと思ったが、そうではなかった。なぜなら、落ちた雷を右手で掴み、電光に包まれた少女が立っていたからだ。


「フィーヨさん! セラ! いい加減にしてください! さもないと、こいつを全力でぶつけますよ!」


 少女はフリエスであった。《小さな雷神リトルサンダー》の二つ名に相応しく、掴んだ雷を投槍に見立て、二人にぶつけようとしていた。

 フリエスが現れたことにようやく冷静さを取り戻したのか、二人は動きを止めた。


「フリエス、少し黙っていてくれませんか。この躾の悪い駄犬に思い知らせてるところですから」


「これだから嫌だね、爪先から頭の頂上まで筋肉と色情だけで構成されてる、お気楽皇帝様は」


 売り言葉に買い言葉。二人は睨み合い、そのまま飛び掛からん勢いであったが、フリエスがもう一発雷を落として、両手に雷の投槍を構えたところで二人は渋々ながら引いた。それを確認してからフリエスは雷を吸収し、電光は消え去った。


「やれやれ、常識人のあたしがいないと、すぐこれなんだから」


「世界一の問題児が抜かしおる。さっきの雷を放っていたら、どんだけ周囲に被害が出ていたと思ってるんだか」


「おやおや、魔王様が人間ごときの心配をしていらっしゃる。あたしの聞き違いかしら?」


 こっちもこっちで売り言葉に買い言葉。今度はフリエスとセラの睨み合いが始まった。


「仕事だ、仕事。そこのガキ三匹に手ほどきする依頼だ」


「それがどうして、フィーヨさんとの決闘になってんのよ・・・」


 先程の一幕をフリエスは少しばかり見ていたが、セラはまだ余裕のある戦い方をしていたが、フィーヨの方はかなり本気で戦っているように見えた。とてもではないが、若者三人に模擬戦を見せているとは思えなかった。


「依頼失敗で、報酬なしでいいんじゃない?」


「十等級を外したいんだよ」


「ぷふっ、十等級の魔王とか、自称魔王にはお似合いでは?」


 フリエスは腹を抱えて大笑いし、セラをこれでもかとなじった。冒険者組合ギルドについてはある程度調べていたので、等級制についてはおおよそのことを把握していたが、まさか十等級を与えられていたとは思いもよらなかったのだ。


「そういうお前はどうなんだ?」


「ほれ、見て驚け」


 そう言うと、手にしたばかりの身分証たる銀の腕輪を見せつけた。


「な、下級導師だと。ミーロの奴め、奮発したな」


 横で見ていたカミンがフリエスの腕輪を皆が目を丸くした。即決で決めれる最高位が下級導師というのを知っていたので、それだけの価値のある新規加入者だと判断したということだ。もっとも、先程の雷を落とした腕前を見れば、それも納得のいくことではあったが。


「これは失礼した。私はカミン、ここの支部長をやっている。ミーロとは古い馴染みでな」


「私はフリエスよ。よろしくお願いします。それと、身内が迷惑をかけてしまったようで、申し訳ありませんでした」


 フリエスは軽く頭を下げて謝意を示すと、そこらに落ちていた木剣を手にして、三人の若者の若者の方へと歩み寄った。


「さて、飼い犬の不始末は、主人がしっかりしておかないとね。さあ、御三方、誰でもいいから、得物を握ってかかってきなさい!」


 フリエスは木剣の先端を三人に向けて威圧した。三人は自分よりも背の低い少女にかかってこいと言われて困惑したが、先程の雷の件もあるので、ただ者ではないということだけは理解できていた。

 何度か交互に顔を見合った後、剣士ソードファイターの少年が木剣を握り、フリエスに向かって切りかかった。走りこみながらのけさ斬りだ。気合いのこもった一声と共に振り下ろされたが、次の瞬間にはひっくり返って地面の転がってしまっていた。

 少年は何がどうなったか理解できずにいたが、そこへフリエスの木剣が頭頂部に命中する。と言っても、小突く程度の軽い一撃だ。


「はい、これであなたは一回死にました」


 フリエスはにこやかな笑みを見せ、驚く少年を無理やり引っ張り起こした。

 ちなみにフリエスがやったのはけさ斬りの軌道を読んでギリギリでかわし、すれ違いざまに足を引っかけただけであった。周囲から見ていると単純な動きにも見えるが、目の前でやられると理解できないほどの速さであった。


「人形ばかりの相手に慣れ過ぎたようね。人形なら動かないけど、怪物モンスターなら、そういうわけにはいかないわよ。それと、素振りやらはちゃんとやっているようだけど、他もしっかり鍛えておきなさい。特に足。走りこんで下半身の強化と体力作り。下半身がしっかりしてくると、踏ん張りがきいて一撃の重さも違ってくるわ」


 フリエスは少年に剣の使い方から体の鍛え方まで、色々と丁寧に教えた。自分よりも小さな少女に教えられるのはなんとも妙な気分であったが、先程の魔王と皇帝のビックリ模擬戦を見た後ではそんなことなどは些細なことでしかなかった。

 次に槍使いランサーの少年が木槍を手に取って、フリエスに突っ込んできた。フリエスは慌てず穂先が当たるスレスレで身をひるがえし、そのまま横をすり抜けながら相手の木槍を掴んで奪い取ってしまった。いきなり武器を奪われ、少年は呆然と自分の手とフリエスの姿を交互に見やった。


「握りが甘いわね。緩めるときと、しっかり握るときの切り替えがなってない。それと、槍の構えは中段が基本、あなたのは少し高いわ。もう少し下げた方がいい。あとはひたすら打ち込みなさい。槍の基本は“突く”と“斬る”と“払う”よ。これだけでも十分、むしろこれこそが極意。基本をしっかり修めなさい」


 フリエスは奪った木槍を構え、これもしっかりと実演で教え込んだ。三人の少年達はすっかり目の前の少女の腕前に惚れ込み、真剣に話を聞いた。

 そんな光景をセラとフィーヨはジッと見守っていた。


「なあ、あの女神様は、案外先生でもやってた方がいいんじゃないか?」


「まあ、武芸は母親に半殺しになりながら教え込まれてましたからね。体が覚えてしまっているのでしょう。新人教育程度なら、あるいはフリエスが一番かも」


 先程まで周囲を置き去りにして暴れ回っていたこの二人の言いようである。自分達の不始末は忘れることにして、カミンに報酬の件を話そうかと思うと、支部長はフリエスに付いてきたであろうフロンと何やらお話し中であった。


「お二方、ちょうど話が付いたので、是非聞いてほしいことが」


 フロンは手招きしながらセラとフィーヨを呼び、二人ともそちらに歩み寄った。


「まず、君らへの報酬だが、約束通り任務達成ということで渡そう。加点を限界まで付与する。あんな戦いぶりを見せられたら、これでも不足なのは理解しているが、組合ギルドの規則上、こうならざるを得ないのは許してくれ。代わりにいい話を用意した。低い等級の冒険者でも参加できて、上手くすれば、いや、君らならば問題なく大成功を治めれる任務クエストがある」


 カミンの話は魅力的であった。とにかくどんどん等級を上げていきたいので、大量加点が見込める仕事ならば大歓迎であった。もちろん、二人は頷いて引き受けることを示した。


「では、説明する。このレウマ国から西へ街道を行くと、『華山国』ヒューゴ王国に行きつく。そこではもうすぐ大量の不死者アンデッドに襲われる予定となっている」


不死者アンデッドに襲われる“予定”とは・・・?」


 なんとも奇妙な話で、フィーヨは首を傾げた。不死者アンデッドは墓場や古戦場など、死の気配が濃い場所で勝手にわいてくる怪物モンスターである。人為的に呼び出さない限りは、襲われる予定などということはあり得ないことなのだ。


「ヒューゴ王国の中心にあるイーサ山はかつて魔王の一人モロパンティラによって呪いが施され、百の満月の夜を経るごとに、山から大量の不死者アンデッドが下りてくるのだ」


「なるほど、魔王の呪いですか。それなら理解できました。それをどうにかしろということですね?」


 フィーヨの問いにカミンは頷いて応じた。この話は冒険者の間では有名で、八年に一度のお祭りのようなもので、『不死者の祭典アンデッド・カーニバル』などと、いつの頃からか呼ばれるようになっていた。とにかく、不死者アンデッドが山崩れかと見紛うほどに大量に押し寄せてくるので、とにかく手数が必要であり、全等級参加可能という極めて珍しい任務クエストになっていた。

 実際、この日には大陸中から大量に冒険者がヒューゴ王国に集結する。そうなると、周囲に強さを誇示し、一気に名前が売れて箔が付く。まさにお祭り騒ぎなのである。


(人が集まるのは最高ですわ。集まる冒険者の中に英雄級の猛者も来るかもしれませんし、文句のつけようもない仕事ですわ)


 活躍具合によって大量加点が見込め、さらに人探しにもうってつけ。求めていた仕事とは、こういう美味しい仕事なのである。


「ただ、急がないと行けませんよ。なにしろ、百の満月の夜は、次々回の満月ですから。終わったところに到着しても、温泉に浸かってハイおしまい、なんてことにもなりかねませんので」


 カミンが言うには、ヒューゴ王国は普段は観光地として有名なのだそうだ。かつては火を噴き上げる山が存在し、その残り火が地下水を温め、丁度良い湯を地上に押し上げてくるのだ。そのため、温泉を求めて各地から旅行者がやって来る。そして、不死者アンデッド大量わきの時期には、冒険者が大量に入ってくるので、この時期も活況を呈するのだ。

 つまり、日常も非日常も、何かに取り憑かれたかのように人が集まるのが、『華山国』ヒューゴなのである。


「それでしたらば、馬車を出しましょう。二頭引きのいい奴が負債の形にワウン伯爵家から貰い受けたのがありますので」


 そうフロンが提案してきた。街道を進むのであれば、徒歩よりも馬車の方が早く、フロンの申し出はありがたかった。


「馬車など、かなり高価なものですが、よいのですか?」


「愛しい女神に寄進したと思えば、お安いものですよ。それで笑顔の一つでも向けてくれれば、十分おつりがくるくらいですよ」


「あ、はい、そうですね」


 フィーヨとしては苦笑いするしかなかった。フロンのフリエスへの入れ込み具合は加速度的に増してきており、本気で信仰の対象として捉えているようであった。身近な人間がそういう対象になるというのも、なんとも奇妙な感覚だとフィーヨは思った。


「それと、もう一つ提案なのですが、念のために部隊チーム登録もしておいた方がいいかと思いましてな」


部隊チーム登録とは?」


 カミンが言うには、臨時で組むのではなく、長らく連れ添うのであれば、組合ギルドに申請を出しておけば部隊チーム単位での加点もあるということだ。そうでもしないと、ガンガン怪物モンスターを倒す前衛職と補助や回復を行う後衛職では、加点に大きな開きが出てしまうため、稼いだ点数を部隊チーム内で分けれるようにできるのだ。


「まあ、それはいいですわね。そうでもしないと、働かない駄犬は一生七等級でしょうから」


「大物が出た場合は横からかっさらっていくから、それで追い抜いて、さらにおつりが出るわな」


 先程の続きかと言わんばかりに、フィーヨとセラは睨みあった。二匹の蛇もそれに倣って、セラを威圧した。


「本当に仲のよろしいことで。それで、部隊チーム名はどうされます?」


 そう言われて、ふっと思いつくほど、フィーヨには名前のストックがなかった。よくよく考えてみれば、なんとなしに集まって、なんとなしに旅をしているだけの三人である。ふさわしい名前と言われても、すぐには思いつかない。


「なら、《神々への反逆者フリーダムファイターズ》にする」


 悩むフィーヨを尻目に、セラはあっさりと答えてしまった。


「ちょっと、セラ、フリエスへの相談もなしにいいんですか?」


「冒険者登録をしたのは俺とお前。つまり、フリエスには関係ないということだ。お前さえ承認すれば万事解決よ」


 セラの言い分は確かにその通りである。冒険者の部隊チーム名であるのだから、冒険者が決めるのは当然と言えた。立場上、フリエスはたまたま冒険者の中に紛れ込んだ魔術師という扱いになるからだ。

 それでも、一緒にやっていく間柄ではあるので、確認くらいはとっても良さそうなのだが、当のフリエスはまだ少年らを相手に手ほどきを続行中であった。案外、教えるという新しい楽しみを覚えてしまったのかもしれない。


「ちなみに、その名の意味は?」


「決まってんだろ。お空に浮かぶお高くとまったいけ好かな神様への宣戦布告だよ」


 今は曇っているので見えないが、太陽は至高神イアの魂が、月には邪神の魂が、それぞれ宿っていると考えられている。神を打ち倒すことを至上目的とするセラにとって、反逆者の名はまさにそのまま直球で神々にケンカを売りつける行為の表れと言えた。


「あなたらしいと言えば、あなたらしい名前ですわね。まあ、他にいい名前も浮かびませんし、好きになさいませ」


 こうして、部隊チームの名前は《神々への反逆者フリーダムファイターズ》となった。所属は僅かに三名。半神(下級導師)と魔王(七等級)と元皇帝(七等級)だ。これから先、どのような困難が待ち受けているのかはわからない。

 ただ分かっているのは、月も太陽も“今は”手の届かない場所にあるということだ。

 そして、これから三人が向かう先は『華山国』ヒューゴ王国。まもなく『不死者の祭典アンデット・カーニバル』が始まろうとしている。


                      ~ 第四話に続く ~

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