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フリーダムファイターズ ~月と太陽への反逆者~  作者: 夢神 蒼茫
第一章  雷神娘と黒鉄の人形
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第二十六話 新月の夜 兄と夫

 新月の夜がやってきた。満月を邪神の眼と呼ぶのであれば、新月は邪神の瞼が閉じた静寂が支配する平穏なる闇だ。邪神の眼が行き届かぬ月に一度の平和な夜。今日この夜だけは誰しもが安らぎと共に眠ることを許されるのだ。

 だが、休んでいる場合でない時もある。邪神が見ていないのをいいことに、妨害されない企みを行動に移せる夜でもあるからだ。

 『酒造国』レウマはその二つ名の通り、葡萄酒(ワイン)の生産で成り立っている国であり、それだけに西大陸一の美酒として広く知られていた。先頃、国を統治する十二伯爵家の当主が皆殺しに合うという壮絶な事件があったが、現在は新たに国王として即位したトゥーレグ伯爵家の当主フロンの指導の下、一応の平穏を取り戻していた。

 半月ほど前の凄惨な事件の現場となった国王の城館。事件当時のまま、あちこちの壁に穴が開き、窓もいくつも破られていた。散乱していた遺体はさすがに埋葬を終えていたが、血の跡や瓦礫の山が当時の悲惨な状況を如実に伝えていた。半月という短い期間では、復旧するのにも限界があり、現在国王の執務は崩れた城館の近くにあるトゥーレグ伯爵家の別邸にて行われていた。

 その館の隅にある小屋にて、一人の女性が瞑想を行っていた。坐を組み、精神を集中して、一心不乱に念のこもった祝詞や讃歌を口から発していた。

 そこは倉庫として使っていた場所で、造りは頑丈であるが窓はなく、中身は現在空っぽであったので、丁度いいとそこを使うことにしたのだ。誰も入ってこないように扉には厳重に封印を施し、足元の土間には大きな魔法陣が描かれていた。巨大な円と、その内側に書き込まれた無数の魔術文字(ルーン)や記号の数々。読む者が読めば、それは軍神マルヴァンスへの祝詞と黒竜王ネイデルへの讃歌が書き込まれていることが読み取れるであろう。

 魔力が注ぎ込まれ、淡く輝くその魔法陣の中央にいるのは、フィーヨであった。東大陸からの渡来者であり、かつては皇帝として一国を統治していたこともあった。現在は子供に譲位して自由の身となり、他の仲間たちと共に西大陸へと渡って来たのだ。

 彼女の目的はただ一つ。兄と夫の解放と復活である。

 兄ヘルギィと夫ルイングラムはかつての大戦で戦死している。しかし、どういうわけか、フィーヨが持つ神々の遺産(アーティファクト)真祖の心臓(トゥルーハート)》に取り込まれ、その魂は二匹の蛇へと姿を変えていた。常に彼女に寄り添い、時に剣となり、時に盾となり、彼女を守っていた。

 死してなお、呪いか奇跡か分からぬ状態のまま、二人はフィーヨを守り続けていた。しかし、この二人の自我は薄い。ほぼ、本能に近い状態で動き回り、“フィーヨを守る”という一点だけが行動原理となっていた。平時であれば自我が表に出て考えて行動していると見受けられる時もあるが、戦闘中は完全に道具になってフィーヨと一体化している。

 ただし、新月の夜だけは特別であった。この日は邪神の眼が完全に閉じているせいか、漂う魔力に揺らぎや不純な物がなく、非常に安定した状態になる。その純粋な魔力を魔法陣で集め、濃度を高めて《真祖の心臓(トゥルーハート)》に注ぎ込むことにより、二人は明確な意識を取り戻すことができた。

 ヘルギィが信奉する軍神マルヴァンス、ルイングラムが師事する黒竜王ネイデル、二柱の奇跡と力によって、僅かな時間だけ人の形を取り戻すことが可能であり、フィーヨはその二柱に祈りを捧げていた。

 そして、魔力は満ち足りて、時来たれり。


「ヘルギィお兄様、ルイングラム様、どうぞ私に姿を見せてくださいませ」


 魔力で満たされた魔法陣の中、フィーヨは対面して鎮座する二匹の蛇に語りかけた。そして、その呼びかけはすぐに現実となって目の前に現された。

 まず姿を現したのは赤毛の青年であった。長く癖のない赤毛で、それを紐で無造作に束ねていた。瞳は澄んだ青色をしており、意志の強さが光の揺らめきとなって瞳に宿っていた。また、長身で鍛え上げられた肉体を持つ見事な偉丈夫でもあり、見た者を圧倒する迫力があった。その圧倒的な存在感と威圧感はまさに帝王としての風格を見せつけていた。

 この赤毛の青年の名はヘルギィ。フィーヨの異腹兄であり、東大陸に存在する『奉神国』スヴァ帝国の皇帝であった男だ。

 ヘルギィは皇子と言えども妾の子であり、皇后から生まれた皇子がいたので本来は皇帝になるべき立場ではなかったのだが、皇位継承権を持つ者や反対者をすべてを殺し、さらに父である皇帝を幽閉し、皇帝の位を簒奪したのだ。その後の混乱に乗じて大貴族の大半を粛清し、国内を自勢力中心にしてまとめ上げることに成功した。数々の血生臭い行動によって権力基盤を固めたことから、《苛烈帝》の二つ名で呼ばれていた。

 そのような重い二つ名で呼ばれてはいるものの、帝国臣民からは神のごとく崇められている名君でもあった。敵対者には一切の容赦や情けはないが、民衆やよく働く臣下に対しては寛大で、気前よく褒美も与えていたからだ。また、フィーヨが行った数々の改革も実はヘルギィ在位中に始められており、その効果が出始める前に亡くなったため、フィーヨが改革を行ったと思われがちであった。しかし、当のフィーヨ自身から「先帝の功績であり、私はそれを忠実に堅守しただけ」と何度もしつこいくらい訂正が入ったので、民衆の間にもヘルギィの先見性や開明性が知れ渡るようになっていた。

 フィーヨにとっては唯一の血の繋がっている兄妹で、敬愛を抱く絶対的な存在であった。

 そして、もう一匹の蛇もその正体を現した。こちらは金髪の青年で、それは王冠を思わせるほどの輝きを放っていた。空色の瞳は優しくフィーヨを見つめており、その吸い込まれそうな感覚はいつもフィーヨを虜にしてきた。背丈こそフィーヨより少しばかり高い程度であったが、巨人を思わせるほどに巨大な気をまとっていた。桁外れの才覚と魔力を示し、ヘルギィとは違う形の王者の威を漂わせていた。

 この金髪の青年の名はルイングラム。フィーヨの“夫であった”とされる男だ。

 ルイングラムは元々フィーヨやヘルギィの所属するスヴァ帝国とは長年の敵対関係にある『信竜国』ヴァル帝国の貴族であり、将軍位にある軍人であった。ヘルギィとは戦場で剣を交えたこともある間柄ではあったが、《狂気の具現者(マッドメーカー)》ネイロウ討伐の際には共同戦線を張ることになった。その際にヘルギィは死に、ルイングラムはフィーヨの身柄を預かることになってしまった。当初フィーヨはルイングラムを祖国の敵と警戒していたが、その誠実さと圧倒的な実力に心打たれた。

 折悪く、フィーヨがルイングラムに連れられてヴァル帝国に入った直後に政変が起こり、国内情勢が抜き差しならぬ危険な状態となった。この政変で権力を得たのがルイングラムの政敵であり、ネイロウ討伐のために留守にしていた隙を突かれた格好となった。しかも、魔王軍と繋がっているとの情報も掴んでおり、国内に留まるのが危険な状態となった。

 この時、ルイングラムは後に魔王陣営と戦うに際して、戦局を大きく変えてしまう重大な決断を行った。すなわち、「不倶戴天の敵であるスヴァ帝国の力を利用し、祖国を一時的に滅ぼす」という一発逆転の策を実行に移したのだ。

 何しろ、手元にはフィーヨがいた。国内に留まっては彼女を守るには不安があると感じ、かつ祖国から魔王側に加担した愚か者どもを一掃するためには、とにかく兵力が必要だった。そう判断するとルイングラムは信用する部下に国内に潜伏して時期が来るまで待つように指示する一方、囮役も兼ねて自身はフィーヨを伴って何重にも張り巡らされた包囲網を突破。状況が二転三転する中、ようやくスヴァ帝国の領域まで落ち延びた。

 当時のスヴァ帝国ではヘルギィの死は伏せられ、ごまかしながら平静さを偽装し、国政が執り行われていた。だが、いつまでごまかせるか、という不安が重臣一同の心配の種となっていた。そこへ、フィーヨとルイングラムの到着である。粛清によって皇室の血を引く者が軒並みいなくなっており、フィーヨの帰還は願ってもない出来事であった。ただちにフィーヨを即位させて国内の安定化を図ろうとしたが、《氷の魔女(チルドウィッチ)》ミリィエがそれに対して、明らかな実力不足を理由に大反対した。

 結局は「このままごまかし続けて崩壊するよりかは幾分マシ」という宰相の意見に押し通され、女帝フィーヨの誕生となった。

 そして、女帝最初の仕事は、敵国の将軍の処遇をどうするかという裁決であった。フィーヨ個人で見るならばルイングラムは恩人であるが、国単位で見ればルイングラムは長年対立してきた敵国の将軍であり、その身柄をどうするかを決めねばならなかった。宰相はルイングラムの登用に大賛成であったので口やかましく横やりを入れようとするミリィエを丁寧に無視し、空席のあった官職が書かれた表を新帝に差し出した。そして、フィーヨが選んだのは“近衛騎士団長”、つまり、皇帝の警護を敵国の将軍に委ねるという、傍から見ればとんでもない決定を下した。

 これについては廷臣達から難色を示す言葉がいくつも飛び出したが、その頭たる宰相が大変結構と了承し、それがルイングラムにとってスヴァ帝国での肩書となった。後に非公式ではあるが“兵学師範”の役目も請け負うことになり、ルイングラムは皇帝の身辺を守りながら、その師範として様々なことを教えることとなった。また皇帝親征が行われる際にはそれに同行し、他の追随を許さぬほどの武勲を上げていった。

 その一方でルイングラムは黒竜王ネイデルに手解きを受けることとなった。ルイングラムの祖国であるヴァル帝国は『信竜国』の二つ名の通り竜を信仰の対象として尊び、伝説の時代より存在する漆黒の鱗に覆われし竜王ネイデルを神のごとく崇めていた。ヴァル帝国の貴族には竜の血が流れているとされ、稀にではあるがそれが色濃く出てくる場合があった。その竜の力を宿せし者は“竜身術”と呼ばれる竜に変身する術式を使えるのだ。

 ネイデルはヴァル帝国内のとある場所にて深き眠りについているのだが、その精神体を分離させて見どころのある者を鍛え上げることをしており、ルイングラムのずば抜けた才覚と“竜身術”の適性の高さが竜王の目に止まったのだ。

 与えられた試練を乗り越え、ネイデルは自身の娘である《白鱗の竜姫(ホワイトプリンセス)》をルイングラムに与えた。こうして、白き鱗の竜に跨って戦場を縦横無尽に駆け巡り、敵からも味方からも《天空の騎士(スカイ・ワン)》と呼ばれ、畏怖されるようになった。

 そのような多事多難な国政や親征を行う傍らで、フィーヨはルイングラムに安らぎや悦楽を求めた。フィーヨが強引に押し切る形で男女の関係を持つこととなるが、立場上はあくまで皇帝とその臣下という扱いであり、その件で二人に詰問するのは『慈愛帝の四名臣』と呼ばれる帝国最重鎮の面々だけであった。

 そして、魔王との最終決戦の折、ルイングラムは魔王の片腕とされる大幹部を激闘の末に討ち取り、ほぼ相打つ形で自身も燃え尽きてしまった。フィーヨは再び愛してやまぬ存在に先立たれたが、腹に子供を宿していることに気付き、これを育て上げて次代に繋げることこそ自身の使命であると、次なる戦いへと身を投じた。

 まず行ったのは、生前に遡ってのルイングラムとの婚姻であった。フィーヨとルイングラムは公には皇帝とその臣下であって、結ばれた伴侶ではない。『奉神国』とも呼ばれるスヴァ帝国において、婚姻とは神の前で誓う神聖なる儀式であり、契約でもある。それもなしに子を成したとなると、それは神の祝福を受けない堕とし子となる。フィーヨにしろ、ヘルギィにしろ、妾の子が粗略に扱われるのも、こうした国柄であるからだ。

 そのため、もしこのまま腹の中の子供が生まれた場合、皇帝の身でありながら臣下と関係を持った結果の不義密通の子となってしまうので、実はルイングラムとすでに結婚していたとしておかねばならなかった。ルイングラムには大公位が贈られ、婚姻証明の書類に時系列上の不備がないように手を加えて、ようやく二人は書類の上では夫婦となることができた。

 こうして生まれてきたのは男女の双子であった。フィーヨは生まれた二人の子供を育てつつ国政も切り盛りし、そして国内が安定してきたのを見計らって譲位を行った。女児の方には併呑していた旧ヴァル帝国領を与え、夫の名から取ってルイングラミア帝国と改名し、男児の方にはスヴァ帝国をそのまま与えた。自身は両国の国境に新たな街を築き、そこで両国が仲良く手を取り合って行けるよう様々な取り組みを実行した。そして、いつの間にか《真祖の心臓(トゥルーハート)》に宿っていた兄と夫の解放を目指し、一人旅立ったのだ。

 それから大陸中を旅して回り、何年か経過した後、白鳥の要請を受けて大陸間航路の開拓へと乗り出した。

 長く苦しい旅路ではあったが、その傍らには常に兄と夫がおり、フィーヨは孤独とは無縁であった。そして、月に一度の新月の夜には二人と会話することも許されていた。神には感謝してもしきれなかった。


「嗚呼、ヘルギィお兄様、ルイングラム様、お会いしとうございました」


 魔法陣から発する淡い光と、周囲の燭台に備え付けられた蝋燭の灯が三人を照らし、普段は姿を現せぬ二人を確かな存在であると証明していた。

 フィーヨは泣いていた。大粒の涙がいくつも瞳から零れ落ちていた。先月の新月の時にはこうはならなかったが、この一か月の間に大きく情勢が動き、心細くてたまらなかったのだ。それゆえの涙であったが、いつまでも弱気な部分を見せるわけにはいかなかったので、急いで涙を拭い、気持ちを落ち着けた。


「フィーヨ、こうして声をかけられるのは一月ぶりよな。何かと苦労多き一月であったが、よくぞ乗り越えた。兄として鼻が高い」


 ヘルギィはフィーヨの側に歩み寄り、優しい笑顔であの頭を撫でた。フィーヨは少々気恥しいのか、顔を赤らめながら兄に飛びついてその胸元に顔を埋めた。

 ヘルギィにしろ、ルイングラムにしろ、今の体は仮初の物で、本物ではない。フィーヨの中にある二人の記憶に《真祖の心臓(トゥルーハート)》が反応して、“実体のある投影”を行っているのだ。

 ちなみに、この人体投影を覚えた頃、二人は素っ裸で呼び出された。フィーヨは特に気にしなかったが、二人が「さすがに毎回裸はちょっと・・・」と難色を示してきたので、呼び出す際は衣服も投影するようになっていた。

 一応、新月の夜以外でもこの人体投影はできるのだが、新月の夜以外で行うと意識がないので人形を作り出すのと大差ない。フリエスが見ていないときには、稀に抱き枕として投影しているのは内緒の話である。


「フィーヨ、再会を喜ぶのは結構だが、積もる話もあろう。時間は有限、急いで詰めよう」


 ルイングラムは抱き合う兄妹に対して淡々と話を進めるように促した。

 ちなみに、ルイングラムはフィーヨと男女の関係にあったが、夫婦になったのは死後の事であり、生前はあくまで君臣の関係として公の場では陛下と呼ぶことにしていた。ただし、生前においても他人の目を気にしなくてよい場合はフィーヨと呼んでいた。というより、フィーヨがそう呼ぶように命じていたのだ。

 今現在、目の前にヘルギィはいるが、嫌々ながらも身内に含めているので、義兄がいる場合でも呼び捨てで呼んでいた。

 ヘルギィはルイングラムに促されたので、渋々ながらも妹を放し、そのまま振り向いてルイングラムを睨みつけた。

 なにしろ、ヘルギィは妹のために、皇帝簒奪に国内の大粛清、果ては蘇生の儀式に魔王への騙し討ちと、ありとあらゆることをやってのけたのだ。とにかく妹が可愛くて仕方がないので、その言動は内容に関わらず基本的に全肯定で通していた。《苛烈帝》の二つ名がどこかへ吹っ飛んでしまったかのような大甘な対応だ。

 一方のルイングラムも基本的にはフィーヨに対して大甘なのだが、“兵学師範”という非公式ながらも与えられた役目があるので、言うべきところや修正せねばならない部分はしっかりと述べており、その点でヘルギィと異なっていた。

 その辺りの温度差が、二人の間に大きな壁を作ってはいるが、フィーヨを助けるという点で完全の一致を見ており、その点では互いに信頼していた。


「そうでした。何も成しえない自分の非才を嘆くばかりです。どうかお二人のお考えをお聞かせください。当然、話の内容は《狂気の具現者(マッドメーカー)》についてでございます」


 フィーヨの言葉を聞くまでもなく、目の前の二人にはネイロウに浅からぬ因縁が存在していたので、渋い顔をしていた。倒したと思っていた相手が復活を遂げており、しかも以前よりも強力になって現れたのだ。当然の反応と言えた。

 蛇の姿では本能での行動であるが、魂に刻まれし数多の傷跡はあの存在を拒絶していた。新月の夜となり、明確な意識を持つようになると、その傷がより鮮明にうずき出していた。

 当然、あれを討滅する事には賛成であり、その点で二人は完全な一致をみていた。


「問題は、どう倒すか、だな」


 ヘルギィの発した言葉は、まさに問題の核心部であった。現状、魂のみで活動が可能なネイロウを倒す方法がないので、殺したところで再び復活するだけなのだ。穢れた存在であればフィーヨの使う神術で対処できたが、先頃の対峙の際、防御系の術式を一切使うことなく涼しい顔で凌がれた。つまり、ネイロウは罪も穢れもない真っ当な人であり、聖属性の術式では傷一つ付けられないのだ。

 捕縛の方法もない。捕らえたとしても、魂を抜いてしまえば逃げられる。魂だけを捕縛する方法もなくはないが、フィーヨもフリエスもその術式を習得していない。

 つまり、打つ手がないのだ。


「どこにいるか分からんが、ミリィエを探さねばならんな」


 結局はそこに行きつくのであった。ミリィエは相手の精神活動を停止させる〈魂魄停止(ソウルフリーズ)〉を使えるだけでなく、魂を直接切り裂ける神々の遺産(アーティファクト)心斬剣(マインドブレイカー)》を持っているのだ。いるといないのとでは、ネイロウへの対応が大きく異なってくる。

 ヘルギィはかつての自身の片腕であり、恋人でもあった女性の魔術師を思い浮かべた。

 ミリィエはヘルギィにとって古くからの顔馴染みであった。ヘルギィは妾の子として軽く扱われ、その養育も母方の遠縁にあたる中流の騎士に任される始末であった。その騎士の娘がミリィエであった。ミリィエから見れば雲の上の存在である“皇子”が現れて、父親の下で武芸や学問の修業に明け暮れているのだ。少女時代特有のある種の憧れや恋心をヘルギィに抱き、皇子様の役に立ちたいと考えるようになった。

 貴族社会において、女性は教養など必要としなかった。民衆のような労働をするわけでもなく、子を産んで門地を守ることが最大の仕事であったためだ。せいぜい、手紙を書けるように読み書きができる程度の最低限の教養で十分だった。

 しかし、ミリィエは貴族とは名ばかりの騎士の娘だ。男であれば戦場で武功を上げれば出世の糸口となるが、帝国では女の従軍が認められていないのでそれはできなかった。そこで女性は学を修め、魔術師や神官、あるいは学者として立身出世を計ろうとすることがあり、ミリィエもまたそれを選択したのだ。

 ただ、ミリィエが他と違う点は、魔術師や賢者としての才覚が頭二つほど抜きんでていたことと、それを魔王陣営に付け入られたことだ。とにかく自身の才を伸ばし、ヘルギィの役に立とうと必死になった結果、帝国内に手駒を欲する魔族が彼女に触手を伸ばし、様々な知識や技術と引き換えに取り込もうとしたのだ。

 ミリィエはとにかく実力を付けたかったので、この誘いに乗ってしまった。元々才能豊かなところに魔族の知識が上乗せされ、魔術師としての力は急速に伸びていったが、手駒として使役される日々が続き、徐々にその精神を蝕んでいた。

 そんなある日、とうとうヘルギィにその件がばれてしまった。魔族と密会している場面を押さえられたのだ。ところがヘルギィは彼女を問責するどころか、その場にいた魔族に対して自身も企てに参加したい旨を伝えたのだ。

 条件として、いずれは皇帝位を奪い取るつもりでいるので、その際は協力してほしいというものであった。息のかかった者を皇帝に据える、魔族側にも大きな利益のある提案はすぐに受け入れられ、ヘルギィとミリィエは口外できぬ秘密を共有する同志となった。

 だが、ヘルギィはミリィエも魔族も見事に裏切った。元々、皇帝となったあとには手を切るつもりでいたが、妹フィーヨの死によってヘルギィは大きく変貌したのだ。魔族に従順な姿勢を続けて儀式に必要な知識や道具を手に入れ、皇帝の座も手にすると、即座にミリィエに取り憑いていた魔族を切り伏せ、彼女を解放した。

 このまま魔道を堕ちていくものだと思っていたミリィエにとっては、この突然の救済によって縛っていた鎖から解放されたのだ。無論、魔族側の報復を恐れたが、ヘルギィがニヤリと笑いながら「今こうしているように邪魔立てするなら切り伏せればよい」と言い放ち、彼女は返り血に染まる皇帝に心の底からの忠誠を誓った。


「あいつは役に立つ。それにこの大陸に来ている、あるいは来るであろうしな」


 ヘルギィはあっさり断言した。ミリィエが行方知れずとなって十数年、東大陸では一切の目撃情報がないのだ。人知れず僻地にこもっている可能性もあったが、貪欲な知識への探求心の持ち主である。西大陸への渡海が容易になったと知れば、動くであることが予想できた。


「お兄様、そうまで断言される理由とは?」


「経験からくる“勘”だよ。それにあいつのことはよく理解しているつもりでいる」


 ヘルギィの返答はフィーヨをムッとさせた。単純に嫉妬である。フィーヨ自身も自覚していることであるが、兄や夫への甘えと、強烈な独占欲があった。そのため、自分以外の女性に好意を向けられると、すぐに妬んでしまうのだ。

 直したいとも思っているのだが、魂の奥底まで染み付いた感情は拭うことができず、結局また二人に依存したり、助けてもらったりするのだ。蛇の姿をしているが、四六時中べったりであるので、もはやどうしようもなかった。


「あとはヴァニラを連れてくるべきだったな。これは明らかな失策だ。あいつがいれば、黒鉄(くろがね)のゴーレムごときにああも苦戦することはなかっただろうに」


「あ、そこはやっぱり突っ込まれますか」


 予想できた叱責とはいえ、ルイングラムの指摘にフィーヨは項垂れた。

 ヴァニラとは《二十士》の一人で《白鱗の竜姫(ホワイトプリンセス)》の二つ名で呼ばれていた。黒竜王ネイデルの卵より生まれたのだが、親に似ず白い鱗を持つ竜として生まれ落ちた。竜王を除けば、数ある竜の中でも飛び抜けて高い魔力の持ち主であり、吐息(ブレス)攻撃のみならず魔術を用いた戦闘にも長けていた。

 竜騎士となったルイングラムがネイデルとの修行の後、騎乗用として娘を差し出し、その死まで戦場を共にした相棒でもあった。数多の魔族を屠り、この白竜と竜騎士の勇姿は非常に人気があり、今でも絵画の題材としてよく用いられるほどであった。

 ちなみに、竜には性別がない。どちらかというと“雌体”であり、誰でも卵を産むことができた。かなりの労力を要するため、卵を産めるようになる成体になった後は百年に一度くらいの間隔で産むのが普通だ。むしろ、面倒なので産まないという竜も多いくらいで、竜全体の個体数はかなり少ない。

 そのため、竜は産み落とした我が子を殊の外可愛がり、大切に育てるのだが、ネイデルのヴァニラに対するそれは特にその傾向が強かった。ネイデルは長き眠りについているが、精神体を分離させて活動しており、それを用いてヴァニラの教育を行っていた。数々の知識や技術を惜しげもなく伝えたのだが、指定した領域外へ出ることは固く禁じ、竜の世界における深窓の令嬢の様相を呈していた。

 ルイングラムに好きな竜をどれでも連れて行っていいと言った際に、ヴァニラを選んだ。可愛い娘を手放すのが嫌であったが、「好きな竜をどれでも」と仰られたので一番いいのをもらい受ける、そうルイングラムに言われたので渋々娘を手放すこととなったのだ。

 ようやく外出の許可が出たヴァニラはルイングラムを乗せて外の世界へと喜び勇んで飛び出したのだが、人間の世界に馴染むのに苦労をした。なにしろ、それまでの行動範囲が寝床にしていた洞窟と水浴び用の湖、それと餌の狩場となる山だけであったので、建物が立ち並ぶ街中などではよく建物を壊してしまった。

 〈変幻自在(パーフェクト・トランス)〉の術式が使えたので人に化けて活動することもあったが、寝ているときに術が解けてしまい、“隣で寝ていた”ルイングラムが潰されかけることもままあった。

 それよりも問題なのが、とにかく好奇心と知識欲の強さであった。興味に引かれたことがあると、空気を読まずに突っ込んでいったり、それに夢中になって回りが見えなくなることであった。戦闘中は大いに頼りになるが、通常時は竜の巨体でひっきりなしに動き回られ、周囲の迷惑を考えずに遊び回っていた。

 そんなヴァニラをフィーヨは苦手にしていた。その性格のせいもあるが、人型に変身している際の姿形が自分にそっくりだからだ。ヴァニラが初めてまともに見て意思疎通を図った人間の女性がフィーヨであり、〈変幻自在(パーフェクト・トランス)〉で変身する際に最初という最も強烈なイメージがあってか、それ以降も人間に変身する際にはフィーヨの姿になることに慣れてしまったのだ。さすがに紛らわしいからと髪は白銀色となったが、それ以外は寸分違わず同じ姿なのだ。

 しかも、相棒ということもあって、ルイングラムとは常に一緒に出歩いていた。自分のそっくりさんが愛する男性と歩いている様を見せつけられるのは、いくら中身が竜とはいえ、フィーヨとしては言い表しようのない複雑な感情を抱かせることになった。

 さらにひどかったのは、ルイングラムとの情事を邪魔されたことだ。寝室に入っていざことに臨もうとした際に乱入してきて、「人族の交尾というやつに興味がある。是非拝見させてくれ」などと宣ったときには、さすがのフィーヨも生まれて初めてブチ切れた。

 そんなわけで、騒々しさと苦手意識から戦力としては申し分なくても、フィーヨは西大陸にヴァニラを連れてくることを良しとしなかった。これにはフリエスも同意しており、戦力よりも面倒事を引き込む体質を問題視して、東大陸に置いてきたのだ。


「おいおい、それはおかしいだろう。そもそも、今回の仕事は“手紙の配達”だったではないか! 自称魔王を連れて歩いているだけでも過剰戦力だろうに、さらに戦力増強だと? 無駄もいいとこだ」


 ヘルギィはフィーヨとルイングラムの間に割って入り、妹を責める義弟を睨みつけた。ああ、これは始まるな、とフィーヨは身構えた。

 ヘルギィとルイングラムは基本的に仲が悪い。そして、意識がはっきりする新月の夜はいつも口論が絶えないのがお約束であった。


「西大陸は東大陸の者にとっては未知の領域であり、戦力は多い方がいい。実際、問題が起きて、危うく全滅しかけたではないか!」


「あんなもの、予想できるか! 当初の手紙の配達や文化交流、あとは駅舎を始めとする遺跡の調査か。これらが主目的であれば、白竜は不要であろう。あやつの性格はお前が一番知っているだろうが! 騒動を起こして、交流が台無しになったらどうする気だ!」


「ヴァニラを連れてくる件は、万一の事が起こった際の事を言っているのだ! 実際、そのありえないような事態が発生した。そうした万が一の事態に備えていれば、もっと易く対処できたではないか!」


「その万一のために、あの自称魔王を飼っているのだぞ。今回もあやつが動いたからこそ、あのイカレ魔術師は引いたのだ!」


「魔王を戦力として見るのはどうかしている! 今回の件で言えば、ヴァニラがいれば、十分に対処可能だった。お前は妹が痛めつけられるのを容認するとでも!?」


「認めるか! そもそもだな・・・」


 延々と続きそうな二人の激論を、フィーヨは微笑ましく見守った。会話の内容は揚げ足取りの応酬であり、とても英雄と呼ばれる者同士のやり取りとは思えないほど程度の低いものであったが、フィーヨにとっては二人のこうしたバカバカしいやり取りすら眺めていて楽しかった。

 そもそも、この二人は生前、まともに会話をしたことすらほとんどない。敵対国の皇帝と将軍であり、戦場で殺し合うのが普通であった。しかし、互いに実力は認め合っており、ヘルギィに至ってはフィーヨの嫁ぎ先にルイングラムを候補に挙げていたほどだ。

 戦場では何度か顔を合わせたこともあったが、二人が平時で会ったのは《英雄王》の国王即位の式典の時だけであった。当時はまだヘルギィは皇子であり、即位の祝辞を述べに特使として赴いていたのだが、その際に同じく特使として来ていたルイングラムとばったり会ったのだ。特に言葉を交わすことなく、睨み合っていただけであったが。

 死後のこととはいえ、こうして戦以外の方法で意志や意見を伝えられるのは、フィーヨにとってはうれしい限りであり、いつまでもこういう時間が続けばいいとすら思っていた。実際、これまでの新月の夜はだいたいこのような感じであり、フィーヨは兄と夫の喧嘩をずっと見守ってきた。

 もちろん、仲良く酒でも酌み交わしてくれれば理想なのだが、さすがに今の状態では無理であり、そういう状態にしていくことこそフィーヨの願いであった。

 フィーヨの頭の中にはすでに望むべき未来図が出来上がっていた。ヘルギィやルイングラムが酒杯を交わし、自分や子供らもそれに加わり、一緒に和やかに過ごす光景だ。その光景を現実のものにするために旅に出たとも言える。死したる者を蘇らせる自然の循環を破壊してでも手に入れたい未来だ。神の定めた世界の理を曲げることなど、彼女にとっては些細な問題に過ぎない。


「お前なんか、魔王軍の幹部一人も倒さずに死んだだろ!? このクソ雑魚皇帝め!」


「貴様の無茶ぶりな作戦も、もとはと言えばスヴァ帝国の戦力ありきだ! 兵員や物資、誰が準備したものだと思ってる!?」


「死んで使い道のなかったのを世の中のために使ったのだ。感謝してくれてもいいんだぞ」


「さすがは自身の祖国を蹂躙した男よ。言い方が一々嫌らしいな」


「そもそも、物資を前線に送っていたのは、宰相と白鳥だろうが!」


「その一人と一羽をしかるべき官職に付けたり、必要な権限を与えたのは私だ!」


 フィーヨが物思いに耽っている間に、二人の会話は今回の件とはまったく関係ないことで口論を続けていた。さすがにそろそろ止めないとまずいと思い、フィーヨは睨み合って今にも掴みかからんほどの勢いの二人の間に割って入った。


「お二人ともいい加減にしてください。ここで言い争っていても、何の解決にはなりません。ネイロウがニタニタ笑うだけですよ」


 さすがにそこまで言われては、二人も引き下がらざるを得なかった。まだまだ言い足りない罵詈雑言は頭の中で積み上がっていたが、建設的でないことも分かっていたので、フィーヨの仲裁に乗ることにした。

 この二人に限らず、二十五人の英雄全員に言えることだが、とにかく負けず嫌いで諦めの悪い性格の持ち主ばかりであった。だからこそ、魔王相手に困難な戦いを折れることなく戦い続けることができたとも言えた。

 そんな負けず嫌いな者同士の不毛な揚げ足取りは、フィーヨの仲裁でようやく終わりを告げることができた。フィーヨとしてはこうした不毛のやり取りすら愛おしく感じるので、そのまま眺めているだけで幸せであったが、今日は決めねばならないお題目があるので、不本意ながら止めに入ったのだ。


「つまり、今後の予定としては、戦力増強を計ることが第一。具体的には、ヴァニラをこちらに呼ぶこと、ルークと合流すること、ミリィエを探すこと、これでよいですね?」


 フィーヨが確認のために尋ねると、二人は頷いて応じた。とにかく、ネイロウとの対決には戦力増強が不可欠であるし、集結できる戦力を早く集中させる必要があった。


「どのみち、ミリィエが見つかるまでは、消極的な対応にならざるをえないがな。魂を直接攻撃できるのは、呪歌を使えるルークくらいだしな。もっとも、あのイカレ相手にどこまで効くかは分からんがな」


 吟遊詩人のルークは魔力を込めた歌や演奏を行い、様々な効果を引き出すことに長けていた。その中には相手の精神を揺さぶるものがあり、物理的な攻撃だけでは対処できない相手にも有効な手段を持っていた。


「あとはヴァニラだな。あいつと合流できれば、フィーヨが持っているもう一つの神々の遺産(アーティファクト)が使える。これの戦力増強も大きい」


 フィーヨは《真祖の心臓(トゥルーハート)》の他にもう一つ神々の遺産(アーティファクト)を所持していた。それは元々ルイングラムが使用していた物だが、夫の死後はそれをお守り代わりに身に付けていた。一応、使えないこともないが、ルイングラムほどの適性がないため威力が弱すぎた。そのため、余計な魔力を吸われないように現在は使うことなく封印しているのであった。

 しかし、ヴァニラの補助があれば、適性をある程度ではあるが底上げできるので、まともな運用が可能となる。


「結局のところ、合流待ちということですね。しかし、戦力が整う前にネイロウが仕掛けてきた場合はどうされます?」


「「逃げる」」


 二人はフィーヨの問いかけに即答で答えた。倒せない、あるいは倒してもすぐに復活する相手と戦うのは徒労でしかない。それならば撤退するのが常道と言えた。


「問題は、あのイカレが逃がしてくれるかどうかだな。《妖精の羽筆(フェアリーブラシ)》だったか、奴の持っている遺産は。あれは負荷の掛け過ぎで暴発するという欠点はあるが、陣構築と魔力供給を並列して行い、しかも瞬時ときた。持つ奴次第で化ける道具だが、最悪な奴が手にしてしまったと言わざるを得んな。感性の良い奴が持つと無限の可能性を秘める道具だ」


 ルイングラムもあの状況を蛇の状態ではあったが眺めており、途切れ途切れであるが記憶には残っていた。あれを使われてはまず勝ち目はないと考えていた。勝ち目がるとすれば、手数で押し切ることだが、現状ではそれが足りていない。

 唯一の希望がセラであるが、セラが本気を出せるのは夜だけだ。前回のように昼間に出て来られては、セラに加えてフリエスとフィーヨが参戦しても、厳しいかもしれない。なにより、あの気分屋が思惑通りに動くとは思えなかった。魔王を戦力として見ることには、穴が多すぎて不安でしかない。

 しかも、先頃の戦闘では昼間とは言え、セラを一方的に押し込むほどの力を示した。それが可能なほど、ネイロウの実力とそれを出し切る羽筆との相性は飛び抜けているのだ。


「やれやれ、この体が恨めしいな。自由に動き回れたら、あんなのに大きな顔をさせないのだが、一晩限りの自由とは歯がゆい限りだ」


 ヘルギィの率直な感想であったが、フィーヨには重たい言葉となった。二人を縛り付ける申し訳なさと、それを解放できない自身の不甲斐なさが重なったからだ。


「お兄様には気苦労ばかりかけてしまい、申し訳ございません」


「なに、気にするな。可愛い妹のためならば、この程度など苦にはならん」


 ヘルギィはにこやかな笑みで応じ、妹を心配させまいとした。実際、ヘルギィは妹のために国も自分の命さえも賭けた過去があるのだ。今更難敵が一人現れた程度で怯むような、軟弱な精神など爪先程も持ち合わせてはいなかった。


「やはり、トゥルマースの知恵を借りねばならんか。こういう場面でこそ、あいつの捻くれた頭脳は役に立つ」


 ルイングラムは親友の顔を思い浮かべた。かつて肩を並べてネイロウを討伐したこともあり、その知見にはなにかと助けられてきた。できれば渡海して再び肩を並べたいところであったが、先方も子育てと研究で忙しい身である。それらを全部捨てて、西大陸に来いとは言いにくい状況であった。


「でしたら、こちらも考えがまとまったことですし、フリエスと合流しましょうか? この魔法陣を出ればまた蛇の姿に戻ってしまいますが、意識を保てるだけの魔力は集積できましたので、今夜中は大丈夫なはずです。あちらもあちらで、盛り上がっている最中かもしれませんが」


 現在、フリエスは秘術を用いて東大陸にいるトゥルマースと長距離通信術式にて、今後の打ち合わせをやっていた。三人としても、あの大陸一の賢者の意見を聞かねばならなかった。

 フィーヨとしては、このまま兄妹夫婦三人水入らずで会話を楽しみたいことろであったが、状況がそれを許さないので今夜ばかりは諦めざるをえなかった。

 そして、魔法陣から足を踏み出すと、二人はまた蛇の姿に戻ってしまった。魔力を込めれば人型にすることはできたが、それでは意識を保つ方の魔力が枯渇してしまうので、やむなくこの姿というわけであった。


「さて、急ぎましょうか」


 フィーヨは二匹の赤い蛇を体に巻き、フリエスがいる『金の成る畑』へと急いだ。



              ~ 第二十七話に続く~

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