第二十五話 女神の涙
フリエスはバルコニーでフロンと別れた後、宴の会場に戻っていた。少し酒に酔ってしまったので、寝床に付く前に水でも飲もうと思い、足を運んだのだ。
宴の会場はまだまだ賑わっており、あちこちで人々が談笑し、音楽隊も演奏を続けていたが、当初の熱気は幾分冷めていた。しかも宴の主役が不在であるし、さもありなんとフリエスは思った。
また、中には男女が連れ立って出ていくのも何組か見かけた。どこで何をするのかは察することができたが、フリエス自身も危うくそれに加わりかけたので、なんとも複雑な面持ちでそれらを見送らねばならなかった。
別にフロンが嫌いというわけではない。むしろ、好意的に見ている。だが、友人縁者としての好きと、男女としての好きは別物なのだ。フリエスはフロンの事を男としては見ておらず、短い期間ではあるが肩を並べて危機を潜り抜けてきた戦友と思っていた。
それを今更、男女の間柄に修正しろというのは難しかった。フリエスをねじ伏せられるくらいの強者であれば、あるいは惹かれてしまうかもしれないが、あいにくフロンの力は今後は為政者として輝くであろうことから、そうした力強さとは離れてしまうであろう。
(悪くはなかったんだけどね)
人から好かれることは嫌ではない。まして、事情を知ったうえでなお真剣に結婚を申し出てくるのは、フリエスの人生で初めての経験であった。神の力があると知ったら、大抵の者は“神”あるいは“強者”としてこちらを見てしまい、“女”として見てくれる者など存在しなかった。例外があるとすれば、同じく強者である英雄達である。もし《英雄王》が死ぬことがなければ、本当に四番目の妃として迎えてくれたかもしれない。
そんなことを悶々と考えながら、フリエスは水差しを手にして、それをグラスに注いだ。グイッと一気に飲み干し、大きくため息を吐いた。
「あら、本当に小さいお客様ね。フロン様の仰ってた通りだわ」
不意に声をかけられたので、そちらを振り向いてみると、そこにいは女性が立っていた。給仕と思わる女性で、動きやすい服装に前掛けを身に付けていた。フリエスの見立てでは年齢は三十前後で、実年齢ならば自分と同じくらいだと感じた。
だが、その女性の姿に注目したのは、その前掛けに黒いリボンが喪章代わりに付けられていたことだ。今日は亡くなった兵士達の追悼も兼ねていると、フロンが先程の演説でも述べており、出席していた遺族には一目でわかる喪章が付けられていた。
そうなると、目の前の御婦人は兄弟なり夫なりが兵士であり、それを今回の騒動で亡くしたのだろうと、すぐに推察することができた。
「御婦人、初めまして。縁者が亡くなられてというのに、給仕のお仕事をなさるとは、ご立派なことです」
「いえいえ。働いていた方が何も考えなくてすみますから、この方が楽なんですよ。夫が亡くなってしまったので、私が子供のために稼がないといけないし、陛下が城館内の仕事を割り振ってくださったのです」
なんとも気丈な女性だと、フリエスは素直に感心した。同時に、フロンの行き渡った手配りにも感心した。
「なるほど。・・・あれ、フロンさ、じゃなった、新国王陛下は遺族には慰労金を出すと仰ってませんでしたか?」
「ええ。それはそうなのですが、子供がもう一人増えるので、貯えを増やしておきたいのと、ちゃんと働ける職場が欲しかったというのもありまして」
そう言うと、女性はわずかに膨れた腹部を手で撫でた。フリエスはそれをしっかりと見つめると、僅かながら腹の中に生命の息吹を感じた。
「そうですか、亡くなった旦那さんのように、力強い子であるといいですね。少し耳を当ててみてもよろしいでしょうか?」
「それは構いませんが、まだようやくお腹が膨らんできたのが分かる程度で、蹴ったりするのはわかりませんよ」
「こう見えても魔術師ですから、別のものを感じれるんですよ」
フリエスは腰を折り、その耳を夫人の腹に当てた。確かに、中の子供は小さすぎて、動きを聞くことができないが、微弱な生命力を感じることができた。
「・・・元気な男の子ですね。旦那さんに似ていることでしょう」
「分かるのですか?」
「ええ。意外かもしれませんが、こう見えても産婆経験豊富な魔術師ですから」
実際、フリエスは出産に立ち会うことが多かった。東大陸の上流階級においては、出産は最も重要な行事であり儀式でもある。そのため、万一の失敗のないよう、また万一の失敗があったとしてもすぐに対応できるよう、神官や魔術師が出産に立ち会うのが習わしとなっていた。そうした事情があるので、あまり数の多くない女性の神官や魔術師というものはこういう時には重宝される。そのため女性の術者はよく出産に立ち会い、時には産婆として赤ん坊を取り上げることもあった。
フリエスの場合は王妃付きの侍女であり、同時に宮廷魔術師見習いという地位もあって、宮仕えしていた『鋼鉄国』において出産に立ち会うことが多かった。父から教わった医学や薬学の知識、加えて弱い電流を流して出産を促進させるやり方など、フリエスは産婆としては熟練の領域に到達していたのだ。
《英雄王》は三人の妃がおり、それぞれに一人ずつ子供がいるのだが、そのすべての出産に立ち会っていた。特に、第三妃の出産に際しては産婆として赤ん坊を取り上げたこともあった。あの時の赤ん坊の温もりと元気な泣き声、そして、王宮に上がってから初めて見せた第三妃の笑顔は、今でもフリエスの頭の中に記憶されていた。
「そうなんですね。男の子なら、夫に似てくれますわ」
「ええ、きっと立派なお子さんになりますよ」
フリエスは御婦人の腹をさすり、その子が早く元気な姿を見せるようにと印を組んだ。神官でもないので、特にこれといって意味のない印であったが、はったりであっても何かありそうと思ってくれれば、それはそれで気持ちの上で効果はあるのだ。
実際、フリエスのそれに喜んでいるのか、御婦人は笑顔で応じ、フリエスの手を強く握って礼を述べた。
「ありがとう、お嬢ちゃん。・・・あ、陛下のお招きした来賓に申し訳ないですわ」
「いえいえ、お気になさらずに。ほんの少し手伝っただけですから。それより、早く生まれてくるといいですね」
「ええ、そうね。お腹の中の私の赤ちゃん、よく聞いておきなさい。早く出てきて、大きくなりなさい。あなたのお父さんは兵士長として立派に働いた勇敢な人だったのよ」
御婦人が発したその言葉にフリエスは耳を疑った。普段感じる電流とは別の感覚が全身を駆け巡った。このトゥーレグ伯爵家において兵士長だった男は、フリエスの知る限りではたったの一人だ。そして、その兵士長を殺したのは、外ならぬフリエス自身だ。
フリエスは必死で顔に出さないように平静を装い、気を落ち着かせるために再び水差しからグラスに水を注いで、一気に飲み干した。
「御婦人、旦那さんが兵士長ってことですが、ベルネという方ですか?」
「はい、その通りですわ」
間違いなかった。自分の殺したベルネは、目の前の御婦人の夫であった。ということは、フロンから聞かされた例の話の婦人とも同一人物でもあった。
あろうことか、自分はトゥーレグ伯爵家の忠臣を怒りに任せて黒焦げにし、その結果、一人の女性から愛する者を奪い、その連れ子と腹の中の赤ん坊から父親を奪ってしまったのだ。そう考えると、なんともやるせない気持ちで心が締め付けられ、危うく吐き出しそうになったが、どうにか必死で堪えた。
「あたしも新国王陛下から、ベルネって人のことは聞かされていましたから」
「まあ、そうでしたか。陛下も仰ってましたわ。『ベルネは勇敢で、人一倍忠義に篤い男であった。強大な敵を前にしても怯むことなく、忠義と職務を全うした。全兵士の手本とすべき男だ』と。夫が聞けば、胸を張って喜ぶことでしょう。あの人は今頃あの世で、コレチェロ様に付き従って何をしているかしら」
御婦人が嬉しそうに夫を語ったが、その顔はどこか哀愁を漂わせていた。どれだけ夫の事を愛しているのかはよく伝わってくるし、その夫が二度と帰ってこないことも知っているからだ。気丈に振舞っていても、どこかに出てしまうものだ。
無論、それはフリエスにとってもつらいことであった。真実を話し、目の前の婦人から罵倒と拳でも浴びせられた方がまだ気分的には楽だった。
(フロンさんの説明や賞賛には嘘はない。嘘はないけど・・・)
嘘はないが、同時に真実も隠されている。事情を知らない人間はその真実に辿り着くこともないであろう。どこまであくどくなるのかと、フロンに問い詰めたくなったが、それはこれまでの犠牲を全て無駄にする行為であり、真実が明るみに出ることを防ぐ意味でも黙さねばならなかった。なにより、自分も隠蔽工作には参加しており、今更フロン一人を詰問するなど虫のいい話だ
「御婦人、亡くなられた旦那さんを愛していますか?」
「もちろんです。これまでも、そして、これからも。最初の数年間は親類縁者として付き合い、次の数年は夫婦として家庭を築きました。これからの数十年は私と二人の子供を見守る守護霊として過ごしてくれるでしょう。私はあの人に迷惑をかけてばかりでしたが、顔色一つ変えずにずっと寄り添ってくれました。そんなあの人が、私は大好きです」
そう言うと、御婦人は笑顔でフリエスに会釈し、その場を離れた。
きつかった。フリエスにとっては、黒鉄のゴーレムと対峙していた時よりもはるかに息苦しかった。ネイロウに話しかけられていた時のように気持ち悪かったが、その原因が自身であることがどうしようもないくらい許せなかった。
あの一撃は大失策であったのは知っていた。もう少しやりようはあったはずだ。怒りに任せ、感情の赴くままに殺戮してしまうなど、自分は小鬼などと変わらぬ醜悪な存在ではないかと自己嫌悪した。
音楽や談笑が呪詛に聞こえ始めた。それは無論、フリエスの勘違いであるが、和やかな雰囲気こそが暗く沈むフリエスには突き刺さった。
自分はここにいる資格はない。もうここにはいられないと、フリエスは逃げるように宴会場から離れた。
***
トゥーレグ伯爵家の領主の住む城館は大きく分けて、三つの館が併設されていた。領主が普段執務を行う執務室、あるいは客を招いて宴会や儀式を行う広間、集まって評定を行う会議室など、仕事や外向きの行事に使われてる本館、領主やその身内が寝食を行う別館、客人が来訪した際の控室や寝室として使われる客館の三つである。あとは執事や使用人が住んでいる住居も近くに建てられていた。
その客館の一室にフィーヨが寝台の上で横になっていた。部屋は寝台が二つと机、それに椅子が二つと簡素な物であった。しかし、旅から旅へと続く身の上としては野宿することもままあり、屋根のある部屋にちゃんとした寝台があるだけでも十分に豪勢であった。
かつては皇帝として一国を統治し、宮殿で立派な寝台に横たわっていたことを思えばとんでもなく質素なのだが、フィーヨはそれを全然気にしていなかった。
むしろ、このくらいの方がフィーヨには丁度良かった。幼少期は父親である皇帝から捨てられて帝都の外れの神殿で質素な生活を強いられた。一度死んでから復活した後は、後に夫となるルイングラムと一緒に方々を逃げ回る逃避行のため野宿が当たり前の生活を送り、皇帝になってからも一年の半分以上を戦場や御行先で過ごすことが当たり前となっていた。そのため、自然と質素な生活が身に付いてしまい、宰相からは「もう少し豪奢な生活を送られても構いませんぞ」と言われたくらいだ。
人前に出る際は皇帝として相応しい衣装を身に付けてはいたものの、「自分にお金を使うくらいならもっと別の事に予算を割きなさい」と言って、自身は普段着や食事も簡素な物で通していた。フィーヨが自身に関わることで予算の増額を宰相府に出したのは、子供への養育関連の出費くらいであった。
そのため、フリエスも同類なのだが、豪華な寝台では却って寝付けない癖がついてしまい、簡素な部屋をフロンに要望しておいたのだ。ちなみに、セラの部屋は用意されていない。理由は当人がいらないと言ったからで、今は闇夜の散歩を楽しみつつ、無粋な客が入ってこないように見張っているのだ。
しかし、フィーヨは目が冴えてしまって、寝付けないでいた。馬車での移動中も横になって、時折眠っていたので、今は眠気が全然わいてこないのだ。
仕方なく夜空を見ていると、星々が輝いているのが目に入った。誰もおらず、静寂が支配する夜、こういう時は決まって夫と初めて過ごした野宿の事を思い出すのであった。
《狂気の具現者》ネイロウとの決戦の後、その場にいた者はフィーヨを除いて、全員が満身創痍となっていた。フィーヨは当時、ようやくいくつかの神術が使えるようになったばかりで、重傷者を癒すような治療ができず、結果として、兄ヘルギィを失うこととなってしまった。
それからしばらくして、駆けつけてきた《全てを知る者》トゥルマースが回復薬を使用し、それでどうにか他の面々も助かった。だが、問題はそこからだった。
《苛烈帝》ヘルギィが死んだ以上、フィーヨが皇族唯一の生き残りとして皇帝に即位せねばならなかったが、それに《氷の魔女》が絶対反対の意思を示した。宮廷魔術師でしかないミリィエがそれを言う資格はないのだが、ヘルギィの死で感情的になってしまい、主君の遺体と遺品を回収して立ち去ってしまった。
残ったトゥルマースは気絶していたフリエスを連れて帰ることにし、フィーヨの身柄はルイングラムに任せると言ってこちらも立ち去ってしまった。
フィーヨとしては選択の余地もなく、ルイングラムに同道せざるを得なくなった。
神殿暮らしで政治に疎いフィーヨであっても、今の自分の置かれている状況がまずいことはすぐに察した。ヘルギィが死んだことによって、皇族の血筋は自分一人となり、しかもその身柄を預かるのは敵国の将軍である。政治的な利用価値は計り知れず、今後の両国の命運は目の前の青年が握っていると言ってもよかった。
それを理解していたからこそ、トゥルマースは親友に最高の手札を渡したのだ。使い方次第で絶大な効果を発揮する。それで勢力拡大するなり、御随意にどうぞ、と。
だが、ルイングラムは親友の邪な考えを一蹴した。
二人はルイングラムの領地へと向かったのだが、フィーヨはルイングラムを最初はずっと警戒していた。自分の置かれている身の上を考えれば、それは当然と言えた。その気になれば、このまま手籠めにしてしまうことも可能だからだ。無理やり契りを結んで婚儀を執り行い、兄がいなくなって混乱するであろうスヴァ帝国に攻め込み、その継承権を主張して強奪する。目の前の男が本気になれば、それくらいの事は出来てしまうのだ。
しかし、フィーヨの警戒はすべて無駄に終わった。ルイングラムはそもそもそんな考えはなく、フィーヨを賓客として招くつもりでいた。名前と身の上を伏せ、その存在を隠し通すことを考えていた。また、フィーヨが国元への帰還を願い出た場合、自分が責任を以て送り届けることも決めていた。
その旨を最初の野宿でルイングラムはフィーヨに告げた。そして、それをすぐに信じた。なぜならルイングラムはフィーヨに〈真実看破〉をかけさせた上で自分の考えを披露したからだ。
嘘偽りないルイングラムの本音を知った時、フィーヨは目の前にいる男に対して驚かざるを得なかった。敵国の将軍でありながら、兄を除けば初めて真心を以て接してくれる人が現れたからだ。
あの夜から、フィーヨの心はルイングラムに囚われ続けていた。というより、当人が進んで虜となったのだ。
生涯愛し続ける男が、初めて約束を交わしたあの夜は、ちょうど今のような星々が輝く、他に誰もいない静寂が支配していた夜だった。
そして、その誓いは今なお続けられている。その姿を変えてしまおうとも、フィーヨを想う二人の男は、傍を離れずに見守っている。
フィーヨは上体を起こし、侍っていた二匹の蛇を抱き寄せた。フィーヨにとっては何よりも大切なかけがえのない家族だ。この二人にかけられた呪いとも奇跡とも判別できないこの状態を解除し、いずれは人として蘇らせることこそフィーヨの望みであった。
だが、ネイロウの言葉がフィーヨを悩ませていた。「突き放すことも時には優しさなのだ」というあの狂人の言葉。筋は通っている。フィーヨがいつまでも二人の依存から抜け出せないのであれば、ある種の荒療治として二人と離別するという手段も取れる。
しかし、フィーヨにとってそれは悪夢以外の何物でもない。兄や夫から今更離れて暮らすことは、孤独を通り越して虚無とも思える世界が広がることを意味していた。
それでも、乗り越えていかなくてはならないと思いつつも、結局は自分の弱さがそれを拒否してしまうのだ。先頃の戦いで、それが炙り出されてしまい、その脆さがフィーヨの回復を遅らせてしまっていた。
どうにかしたいと思案を巡らせていると、部屋の扉が開いた。僅かな月明かりから、誰が入って来たのかはすぐにわかった。フリエスだ。小さな影と馴染みの気配からすぐに察することができた。
フリエスは無言で部屋に入ってくると、借り物のドレスだというのに大雑把に脱ぎ捨て、身に付けていた装飾品もいつもの首飾りを除いて全て投げ捨て、薄い下着だけの姿になった。そして、フィーヨの使っている寝台に潜り込んできた。
泣き声こそ上げていないが、涙を流しているのはすぐに分かった。フリエスはフィーヨの体に顔を埋め、しっかりと抱きついてきた。フィーヨはそれに対して、小さな女神の頭を撫でてあげた。
「フリエス、何か辛い事でもありましたか?」
フィーヨは娘に接する母のような優しい声で尋ねた。
フリエスは齢こそ三十路を過ぎたが、心と体は幼いままだ。見た目相応と言ってもよい。神の力を宿したその時から、時の流れから隔絶された存在となっていたからだ。
フリエスがトゥルマースに拾われたとき、それはひどい有様であったと聞いていた。まともに話すことすらできず、何かにひたすら怯え、光を嫌って部屋の隅でうずくまっているような状態であった。それを僅か半年ほどで、日常生活に支障が出ない程度には回復させた手腕はさすがと言わざるを得ない。
だが、そこまでトゥルマースは精神面に手を加えるのを止めてしまった。
「フリエスは神として不完全なのだ。その不完全さゆえに、不完全なままでいさせている。もし、その不完全さを補うのであれば、フリエス自身が動くであろう」
そう言っていたことは覚えていた。だが、いつまでも成長しないというのは悲しい事であるし、そのことで塞ぎ込むのは見ている分にも辛い事だ。
あるいは、フリエス自身が完全な存在、大人になることを拒絶し、不完全な存在、子供のままでいたいとどこかで思っていて、それが体と心を成長させない原因ではないか、フィーヨはそう思わずにはいられなかった。
一頻り涙を流し終えたのか、フリエスは抱き着いた姿勢のまま、顔を上げてフィーヨを見つめた。せっかくの可愛らしい顔が涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「フロンさんがね、ひどい事をするの。・・・ううん、ひどい事をしたのはあたしで、フロンさんはそれを隠そうとするの。全部ぶちまけたら楽になれるのに」
フリエスの泣き言を聞いて、フィーヨはおおよそ察することができた。
今回の騒動の後処理において、フロンは嘘と隠蔽を織り交ぜて見事に切り抜けた。もし、真実が明るみに出れば、この国は崩壊することが目に見えていたため、表に出ると面倒になる情報を必死で隠し通したのだ。
そのため、事情を知らない者には作り話が事実となり、真実は闇の中へと消えていった。随分とあくどい事ではあったが、それでも国が崩壊するよりかはマシな選択と割り切り、その隠蔽工作に三人組も協力した。
フリエスにとっては、理解はできても納得はしかねることもあるであろうし、幼いままの精神には随分と負荷がかかってしまったのだろう。宴の席でにこやかにしていても、その手が血と嘘で塗り固められており、喋る口には三枚もの舌があるのだ。
まともな神経をしていれば耐えられないし、まして少女の心ではあるいは壊れてしまっても仕方がない部分もあった。
「ねえ、フィーヨさん、愛する人がいて、その人が殺されて、殺した奴が目の前にいるのに平静でいられる?」
フリエスの問いかけに、フィーヨは急に首を絞めつけられるような息苦しさを感じた。この言葉はフリエスの口からは聞きたくなかった。なぜなら、敬愛する兄ヘルギィを殺したのは、外でもないフリエスだからだ。
何気なしの質問であろうが、そこまで気が回らないほど、フリエスが追い詰められているとも言えた。
フィーヨにとっては思い出したくもない記憶であるが、あの時のフリエスは紛れもなく神として裁きを下す存在であった。今のような少女の愛らしさなど微塵もない。背丈は自分と変わらない程度であったが、今よりはるかに長い金髪は雷を思わせる程に動き回り、身の丈を超える巨大が鎌を握り締め、憤怒の表情で周囲を睨みつけた。やり場のない怒りをたぎらせ、それを雷と鎌に乗せて振り回した。
フィーヨにとってあの姿のフリエスは死神にも映る恐怖の対象であった。
しかし、次にその女神に再会したときは、一年程が経過していたが、あの恐ろしい死神の姿はどこにもなく、愛くるしい少女の姿になっていた。憤怒の表情は満面の笑みに変わっており、とても同一存在とは思えないほどの変わりようであった。
それから何度も顔を合わせ、一緒に食事をしたり、あるいは戦場で肩を並べたりした。平和が訪れてからも時折顔を見せ、子供の面倒をみてくれたりもした。
そして、今は共に旅をする仲間となっていた。
兄の仇は“女神”フリエスであって、目の前の“少女”フリエス=ムドールではない。それを自分に言い聞かせて、わだかまりもなく共にいるのだ。
「フリエス、愛する人が殺されて平静でいられる人なんていないわ。だから、犯人が目の前にいたら、拳の一発でもお見舞いしたくなるわ」
そう言って、フィーヨはフリエスの頬に拳を打ち込んだ。と言っても、なぞる様な軽い一撃で、フリエスの瘦せこけた頬にはじき返されるほどであった。
「復讐は生きている人間にとってのケジメにはなっても、過去を取り戻す手段とはなり得ないわ。もし、犯人が過去を顧みずに生きていこうとするのなら、私はそいつを断罪します。逆に、過去を悔いて生きるのであれば、見守るでしょう」
「なら、フィーヨさんはあたしを許してくれるの?」
「許すつもりはありません」
きっぱりと言い切るフィーヨであったが、その顔は穏やかで、フリエスの頭を何度も撫でた。そして、不安そうな表情を浮かべるフリエスの顔を手で挟み込み、自分の顔を近づけた。互いの息遣いが聞こえるほどに二人の顔の距離が近づいた。
「いい、フリエス。もし、あなたを殺して、お兄様が戻ってくるというのであれば、私は少し悩んだ後に、あなたを殺すと思うわ。でも、そんなことは起こりえない。あなたは神であるけれど、同時に人でもある。神が犯した過ちを人が正すのか、人の背負いし罪を神が裁くのか。今のあなたは前者だと思うの。人として生きようとしている。たまに悪ふざけで神の演技をしてますが、基本的には人なのです。ならば、見守りましょう。人として精一杯に生きようとするのであれば、私はあなたをずっと見ています。雷神をその身に宿した小さな可愛らしい英雄さん」
フィーヨはもう一度頭を撫でてやり、そして、フリエスの額に口づけした。フリエスの瞳にはまた涙がたまり出し、またフィーヨの体に顔を埋めた。
声にこそ出さないが、フリエスは泣いていた。小刻みに伝わる震えが、フィーヨの母性をくすぐり、優しくフリエスを抱き寄せた。
この子が気のすむまでこのままでいよう、そう思った時だった。
突然、窓が開いたかと思うと、窓枠にいきなり人影が現れた。何事かとフィーヨがそちらを振り向くと、そこにはセラがいた。両手に何種類かの料理が盛られた大皿とパンの入った籠を持ち、器用なことに頭の上に水差し、両肩にグラスが乗っかっていた。
「よう、お取込み中だったかな」
そう言うと、セラは部屋に入って来た。いきなりの乱入者で、混乱以上に怒りが湧いてきたのか、フリエスはセラを睨みつけた。
「このクソ吸血鬼! ボケ魔王! さっきもそうだけど、空気読むとかしないの!?」
「魔王が人間の空気を読んで、わざわざ気を使うとでも?」
セラのすまし顔にフリエスはさらに怒り、寝台から飛び上がるように起きた。そして、セラに猛抗議したが、それを無視して、運んできた物を机の上に置いていった。さらに、水をグラスに注ぎ、それをフィーヨに差し出した。
「本調子までもう少し、といったところだな。まあ、食って、寝て、体力つけろ」
セラの優しい言葉にフィーヨは目を丸くして驚いた。目の前の自称魔王はとにかく自己中心的な言動に終始し、他人を労わるなどという行動をとることはなかった。
とはいえ、折角の行為を無下にはできなかったので、差し出されたグラスを受け取った。実際、喉も乾いていたので丁度良かった。
「え、なに、この紳士的な魔王。気持ち悪いんですけど」
フリエスはわざとらしく身震いし、疑惑の視線をセラに向けた。わけの分からない行動をするときは、大抵ロクなことがないときだからだ。
「アホ女神よ、フロンを盛大にふった後に、フィーヨに色目使うとか、節操がないにもほどがあるな。お前の頭の中には理性という言葉は入ってないのか?」
「うるさい!」
フリエスは手元にあった枕を投げつけたが、セラはそれを素早くかわし、入ってきた窓の枠上に腰かけた。
「趣味や嗜好が変わるのは別にいいが、月に一度の餌やりは忘れんようにな。番犬の番犬たるは、他ではありつけないまともな食事ができるからなんだぞ」
セラはニヤつきながら言い放ったが、それに対するフリエスの返答もまた、至って単純なものであった。指先をセラに向け、そこから周囲を照らす電光が生み出された。これ以上喋るならぶち込むと言わんばかりの視線で睨みつけていた。
セラはまだ言い足りない様子であったが、夜に漂う霧と化して消えてしまい、窓も何事もなかったかのように閉じてしまった。
気配がなくなったのを確認してから、フリエスは全ての窓と扉に〈施錠〉の術式をかけてまわり、それが終わると椅子に腰かけた。目の前には大皿に盛られた料理とパン籠、水差しにグラスと、立派な食事の用意がなされていた。
「なんの真似よ、まったく」
などと文句を言いつつ、小腹がすいていたので串に刺さった焼いた鶏肉を頬張った。料理自体は冷めていたが、魔王の心遣いは温かいものであった。
セラとしてはさっさと二人に元気になってもらわないと困るからだ。ネイロウは第二幕を用意すると言ったが、そのためには次の騒乱を呼び込まなくてはならなかった。この国が平穏に向かいつつある以上、次の場所に出立する必要があった。あの程度のことでウジウジしてもらっては、この先が思いやられるというものだ。
動機や理由はあくまで自分本位であるが、二人には魔王の笑うような心遣いがちゃんと伝わっていた。
「まあ、ネイロウ相手であれば、戦力として期待できるようになったというのが、ある意味で今回の騒動における最大の収穫でしょうか」
フィーヨも起き上がってゆっくりと歩きながら、フリエスと机を挟んで向かい合う形で椅子に腰かけた。
そして、パンを一つ掴み、それを千切って口に運んだ。実際、今夜は何も食べていなかったので、食べ物を見てから空腹感を思い出していたので丁度良かった。
「どのみち、あいつをどうにかしないことには、これから安心して旅もできやしないし、どうにか対処法を考えないとね」
そう言うと、フリエスは床を這ってフィーヨに近づこうとしていた二匹の蛇を掴み上げた。蛇は放せと言わんばかりにフリエスに向かって大口開けて威圧した。
「この二人の、どっちかでもいいから復活してくれないかな。正直、今後の事を考えると、本職の前衛が欲しいわ。次にまた黒鉄のゴーレムをけしかけられたら、あいつと事を構える前に消耗させられる。セラが戦力として期待できるのも、あくまであのイカレに対してだけだし、どうにかならないかな~」
フリエスはネイロウを死ぬほど嫌っていたが、その能力は認めざるを得なかった。あれほどの魔術を目の前で見せつけられたのだ。彼我の戦力を考察すると、英雄級の実力者をあと幾人かは揃えておかなくてはならなかった。
「そうなると、《白鱗の竜姫》は呼び寄せるのは確定として、ルークさんともできれば合流したい。《虹色天使》と《全盲の導師》が協力してくれたら最高なんだけどね。あとは、行方知れずの《氷の魔女》か。ん~、それと《武神妃》はどうかな?」
フリエスは右手で掴んでいた蛇の片割れに尋ねてみたが、止めた方がいいと言わんばかりに首を激しく横に振った。
《武神妃》の二つ名で知られるエレナカーラは《英雄王》の第二妃であり、フリエスにとっては侍女として仕えたこともある女性だ。ルイングラムの実妹でもある。性格は我がままかつ自由奔放で、なんでもかんでも自分のやりたいようにするきつい性格であった。しかし、一度惚れたり好意を持った相手には尽くす性格で、《英雄王》と二人きりの時だけは貞淑な妻であり続けた。
もっとも、《英雄王》に一服盛って、動けなくなったのを良いことに同衾した挙句、責任取って貰ってくださいと、押し付けの婚儀を行ったことには周囲を唖然とさせた。ルイングラムも妹の非常識すぎる行動に頭を抱え、親友に平謝りとなったが、当の《英雄王》はあっさり受け入れ、嫁ぎ先がなかった御転婆者の引受人となった。
それ以後、エレナカーラは《英雄王》の傍らにあり続け、数多の戦場をも共にし、魔王軍の幹部すら討ち取るほどの活躍を見せた。また、戦後には男児を授かることになり、その男児が現在の『鋼鉄国』の王となっている。
フィーヨにとっては義妹となるが、武芸に関する実力は足元にも及ばなかった。というのも、エレナカーラは武神マルコシアスの神官にして戦士であり、その神力をも使いこなす実力者であった。フィーヨの信仰するマルヴァンスと、エレナカーラの信仰するマルコシアスは兄弟神であり、“群(軍)”による力の集合と、“武”による力の結晶をそれぞれ主張し、どちらがより優れた力かで、延々と競い合うという神話が伝わっていた。
そのため、マルヴァンスの信徒は群の力を、マルコシアスの信徒は個の力を、それぞれ至上の物と考え、それに沿った鍛え方を行っていた。極限まで個の武を突き詰めたエレナカーラ相手には、フィーヨも及ばなかった。何度か手合わせしたことがあるが、ほぼ一方的に蹴散らされた。
実力は良しとしても、性格に難あり。しかも現在は国母という立場まである。一年以内で終わる予定であった航路開拓の初期段階なら遠征名目でどうにかなったが、大陸を渡ってどこにいるかもわからないネイロウの捜索を頼むなどできはしなかった。
「母さんは弟と妹の育児があるから無理だし、いっそ父さんに来てもらった方がいいかな。正直、今のあいつと魔術戦して勝てる自信ないわ」
先頃の戦闘ではセラ相手に押し込めるほどの戦闘を見せてきた。しかも、ミリィエに擬装していたため、氷雪系の魔術を主体とした戦術で戦っていた。もし、他系統の魔術も解禁し、全力で戦っていた場合はどうなっていただろうか、予想はつかない。
であるからこそ、今現在のセラは興奮冷めやらぬ状態が続いているのだ。セラは数百年もの間、生き続け戦い続けてきたのだ。しかし、全力を出して戦う相手にはなかなか恵まれなかった。かつての大戦が終結してからはなおさらだ。
そして、ついに真っ向から戦って、全力で力を振るえそうな相手が登場したのだ。フリエスにとってセラのあの顔を見たのは、《英雄王》と一騎打ちをしたとき以来だ。
「魔術師としては、あの人に勝る人はいませんからね。まあ、古い話ですが、お兄様は私の婿候補に考えていたくらいですよ。ちなみに、候補と考えていたのは、《英雄王》《皇帝の料理人》《全てを知る者》《天空の騎士》の四名です」
「へぇ~。それは初耳」
フリエスは言われた四人の顔を思い浮かべて、妥当かなと思った。もし、ヘルギィが存命でそのまま在位していた場合、フィーヨは皇帝唯一の身内であり、その愛情を一心に受ける妹姫となる。その婚姻ともなると、政略が絡んでくるのは必定であった。
しかも、ヘルギィは魔王を引っかけたので、目の敵にされて狙われる危険すらあった。そうなると、強力な味方を増やす意味で実力的に申し分なく、且つ政治的に有利に運べる相手が理想であり、選択肢に入る人物が限られてくる。
「まあ、結局はその中で一番結ばれる確率の低かった相手を、私が勝手に選んで添い遂げてしまったわけですが」
フィーヨは少し気恥ずかしそうに顔を赤らめ、それからフリエスが右手に握っていた蛇をもらい受け、その口に口づけをした。姿形がどんなに変わろうとも、夫へ向ける愛情には一切の変化はない。
なお、フリエスの左手に収まっていたもう片方の蛇は、なにか言いたいのか、大口を開けて相方の蛇を威圧した。
それをフリエスが自分の顔の目の前に持ってきて、ジッと見つめ合った。
「つまるところ、ダイスの出目によっては、あたしはフィーヨさんを母さんと呼び、この蛇の事を伯父上と呼ぶことになっていたかもしれなかったのか」
人と人の巡り合わせなど、ほんの些細なことから大きな差が生じるものだが、状況次第で自分に皇帝の座が回って来ていたかもしれないと考えると、そうならなくて心底よかったとフリエスは思った。
フリエスはそうした背負う家名やら門地というのは煩わしいだけで、できれば遠ざかりたいと思っていた。父のムドール家、母のアルング家、共に魔術師、軍人の名門として東大陸中に名が通っており、それを絶やさぬ意味で誰かが継がねばならなかった。幸いなことに、フリエスには弟と妹がいるので、それぞれがどちらかを継承し、その血脈と門地を守っていくことだろう。
元々、自分は養子であり、また魔術師ないし軍人の家を継ぐには中途半端な才能しか持ち合わせていないので、ある意味では気が楽であった。心置きなく西大陸へ渡海できたのも、こうしたことを考えないでよかったからだ。
「結局、こっちの大陸に渡って来れるのは、しがらみの少ない人だけってことか」
「そうですわね。それよりも、こっちでの実力者を探してみるのも手では?」
フィーヨにそう指摘され、フリエスはそれも当然かと頷いた。そもそも、東大陸に英雄がいるのであれば、西大陸にもそれに匹敵する実力者がいてもおかしくはないのだ。それにかつての英雄二十五人の内、三人は西大陸からの渡来者であった。しかも、魔王との最終決戦に臨んだ六人と一匹にその三人全員が含まれている。数は少なくとも、実力は飛び抜けていると言ってもよかった。
「ん~、そうなると、加入登録した方がいいか、冒険者組合と魔術師組合」
「それがいいと思いますわ。情報を集めるのには、大きな組織を利用しない手はありません。フロンさんにも協力してもらうとしても、伝手は多い方がいいですわ」
当初、西大陸に着いてから組合加入をどうするかについて悩んでいた。結局は手紙を届けるだけだし、道すがら遺跡の情報をのんびり探すくらいの感覚であったため、組合に顔を出すまでもないかと加入しなかったのだ。
しかし、この国の騒乱に巻き込まれてから、状況は大いに変わった。のんびりとした旅路であれば、今の三人でも問題はなかった。だが、ネイロウが復活していていつこちらにちょっかいを出してくるか分からない状況となったのだ。相手側の実力、こちらのいびつな編成、これらを考えると実力者を幾人か加えておきたいところであった。
そうなると、情報収集する上でも、実力者を探して勧誘する上でも、二つの組合に顔を出して、加入しておくのが妥当と思われた。
「よし! これで今後の方針は決まったわね。まずはもうすぐ来る新月の夜に、父さんと連絡を取って状況整理と助言を受ける。そこで最終確認をした後、組合に顔を出して登録を済ませ、情報収集を行う。狙いは神々の遺産、ないしそれを扱えるような実力者の情報ね。こんなところかしら?」
「そうですわね。こうなると、手紙が燃えたのは勿怪の幸いでしたわ」
「白鳥には悪いけどね」
悪いと思いつつも、二人は笑わずにはいられなかった。予定外の乱入者によって状況が変わってしまったため、当初の予定を変える必要があった。手紙がなくなった以上、届けるのは不可能であり、別の案件に取り掛かるのにはちょうど良かった。
白鳥は嘆くであろうが、諦めることを知らないので、何かしらの方法でまた恋文を届けようとするであろうが、それは二人には関係ないことであった。
「というわけで、手紙の件はやっぱり愛の女神の妨害によって焼かれたってことで!」
すべてを愛の女神に押し付けるのは少しだけ心苦しい事ではあったが、そもそも白鳥に呪いをかけたのが原因であるから、押し付けても問題ないと、二人は勝手に結論付けた。
「さて、それじゃあ、折角魔王が給仕を務めて配膳してくださった料理です。残さずきちんと食べましょう」
「魔王の気遣いとか、甘ったるすぎて吐きそうだけどね」
文句を言いつつも、しっかり残さず食べつくした。欲望を塗りたくった下心アリアリの差し入れであったが、あえて二人は腹の中に収めた。魔王の企みをどうこうできないようでは、人の身で神の領域に手を掛けた魔術師に対抗できようもないという決意の現れだ。
その後は他愛のない話で眠くなるまで過ごし、それから別々の寝台に潜り込んで眠りにつくことにした。
フリエスはまだ思い悩むことも多かったが、セラとのバカバカしいやり取りと、フィーヨの温もりで多少は気が晴れた。甘えを捨てなくては、生き残れない。そう決意を新たにして、静寂が支配する中、眠りへと落ちていった。
~ 第二十六話に続く ~




