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9、職場改善のお時間


「あの」


「違うの!」


「シルアさんですよね」


「違うわ。生霊のシルルコよ」



 その乗り切り方は天使相手には無理かと、というか多分人間相手でも通用しないです。


「まあ、お仕事とプライベートは別ですもんね」


「うぅ、理解が早くて助かります。私仕事が終わるとこんなんでして」


 まあ猫がいたら撫でてしまいたくなるのはごく普通の事だと思うので特に思うことはありませんが、確かにお仕事をしている際のインテリチックなイメージとは随分かけ離れていましたね。


「この事はどうか内密に」



「話す相手もいないので、了解しました。ではさようなら」


「ありがとうございます。私も帰るとします、さようなら」


 私たちは互いに別れを告げ、その場で解散と思いきやお互いに同じ方向に歩き始めました。


「あのー、レミリエルさんもこちらの方向なんですか?」


「え、まあ。先程の宿主さんの所に泊まっています」


「あー。アソコなら私の家のすぐ近くです」


 どうやら私たちは帰る場所が凄く近くなようです。ただこういう時に「一緒に帰りませんか?」が言えないのが長年の引きこもり儀式を通過している私なのです。


「レミリエルさん、一緒に帰りませんか?」


「ええ、構いませんよ」


 よし、向こうから言って貰えました。何故か彼女の前ではさほど人見知りを発揮しないので、少しお話してみたい気持ちがありました。


 私と歳が近そうですが一体お幾つなのでしょう。いや駄目です、まだ話を振れるほど親密度があるわけではないです。もし話題が相手の興味を誘わず、挙句の果てに「は?」という顔をされたらというマイナス思考が私から一歩踏み出す勇気を奪い取っていきます。


「そういえばレミリエルさんって十七歳でしたっけ?私も同い年なんですよ」


「え、同い年ですか。歳が近そうとは思っていましたが、まさか同い年とは思っていませんでした」


 これもまた、私が言いたいことを言って貰えました。もしかして私たち気が合うんじゃ。こういう勘違いは過去に何度もして痛い目を見ているのでやめておきましょう。


「レミリエルさんって白髪ですけど、本当に十七歳なんですか? じつは年齢を偽っていたり」


「いや⋯⋯歳をとって白髪になった訳では無いですから。」


 前言撤回、やっぱり気が合いそうにないです。加齢だと思ったとか、めちゃめちゃ失礼じゃないですか。そんなこと言われたらこの髪コンプレックスになるじゃないですか。



「え、それは失礼しました」



「あ、いや、お気になさらずです」


 内心気にしまくりではありましたが、シルアさんとの関係値的に毒を吐くことはしませんでした。というか心を許しきった人にしか怖くて毒は吐けません。


「もうすっかり暗くなってしまいましたね」



「ええ。休日だからこの時間に帰れて良かったです」


「はい?」


「ですから、休日なので早くお仕事が終わったんです」


 休日とは。シルアさん、もしかして。



「もしかして、人間界名物、社畜と言うやつですか?」


「あはは、名物って。事実すぎて笑えないのでやめてください」


 笑顔で怒られました。目が笑ってなさすぎて背筋がぞくりとしました、人間界ではこれが普通なのでしょうか。私だったら休日も働くなんて考えただけでも鬱になりそうです、まあ働いた事ないから分からないですけど。


「辛くないんですか?お休みがないんですよね」


「まあ、初めは辛かったですけど身体が慣れてしまいました。かれこれ3ヶ月は休みのない生活でしたので」


「何故お休みを取れないのですか?」


「え、駄目って言われるんですもん」


 いや、言われるんですもんって。というか闇すぎません?いくらシルアさんが若くてもいつか過労で倒れてしまうかもしれません。


 これは、見過ごす訳にはいきません。天使として職場改善を要求します。


「そこの施設長にどうやった会えますかね」


「はい?施設長に」


「悪い様にはしませんので、お休みを取らせてくれるように交渉しようかと」


 ルシアさんは「ええ?」と困惑した様子でした。それもそうでしょう、私たちは出会ったばかりです。


 しかも先程まで私は利用客でしたし。


「まあ、任せてください」



 翌朝、私はルシアさんに案内され、現在以前の施設内の椅子に腰掛けています。


「どうしましょう。注意するにしても何から話してていか分からないです。勢い任せに言うんじゃありませんでした」


 人見知りの私が、施設長に直談判しにいくなんて我ながら私らしくない事を言うなと思っていましたが、どこかでその勢いでやれるんじゃないかと思っている私もいましたが、実際そうではありませんでした。


 待合室でガクガクと恐怖に震えています。間違えました、武者震いです。そう信じましょう。


「あのー大丈夫ですか?どこか具合でも悪いんじゃ」


 ルシアさんが心配そうに見つめてきます、すみません正直帰りたくなってきました。


「レミリエルさん、施設長はこの先のお部屋にいます。お話は通しておきましたので」


「あ、ありがとうございます。行ってきます」


 促されるまま扉のガラス越しにその施設長の顔を覗いて見ます。無理だ、なんか強面だし天界じゃ絶対みないめっちゃ悪そうな顔してる。


「頑張ってください」


「あ、はい。善処はします」


 頼みます!という視線を感じますが、力なく曖昧に応えるしか私には出来ませんでした。


なんとか腹を括り、扉を開けて入室しました。


「どうも」


「ああ、貴女がルシアの言っていた」


 強面の施設長さんと目がバッチリ合います。いざ、職場改善の時間です!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あ、出てきた。どうでしたか?」


「駄目でした⋯⋯」


 早々と施設長室から出てくる私に結果が気になる様子のシルアさんに無慈悲な結果を突きつけます。


 どうしてこうなかったのか。


 否、原因は分かっています。話をして早々に私の態度から口下手を見抜かれ、「そんな事はしていない」「貴女の勘違いでは」「失礼ではないか」等、無理な言い訳をしてきているのはすぐに分かりましたがあまりの語気の強さに押され、最後は私が謝っていました。情けなさすぎます。


「そ、ですか。駄目でしたか⋯⋯ありがとうございます」


 暗い表情をしながら私にお礼を言うシルアさん。やめてください、私はお礼を言われることなんてまだ何もしていません。私は貴女を期待させるだけさせておいて裏切ってしまったんですよ。


 罪悪感が押し寄せます。


 流石にこのままじゃ終われない、ですよね。



「あの、もう一度だけ私にチャンスをください!」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「で、私に相談してきたと」



「ええ、まあ⋯⋯」



 私は現在、天使学校時代からの仲のエリルにカフェで相談に乗ってもらっています。


「んー案外それが人間界では普通なのかもよ?」


 普通、だったらシルアさんはあんなに暗い表情をしたでしょうか。初めはもう慣れたなんて言っていましたが、きっと辛くても変に頑張ってしまうだけなんですよね。


 知ったような事を思ってしまいましたが。



「普通なわけないじゃないですか。ブラック中のブラックですよ。いくら人間界に来たばかりでもそれくらいは判断が着くでしょう、バカなんですか?」



「おお、言うねぇ⋯⋯」


 少しきつく言ってしまったような気がしましたが、エリルは特に落ち込む様子もなしに一口コーヒを飲んでから物珍しそうな顔でこちら見ました。


「レミが他人のために熱くなってるの随分珍しいね」


「別に熱くはなってないですよ」


「変化は少ないかもだけど私にはわかるよ〜だ。」


「むぅ」


「いいんじゃない?協力するよ」


 エリルが施設長の特徴を教えて欲しいと言うので、外見の特徴と頂いた名刺を手渡すと、「あっ、この人知ってる」と意外な反応をしてきました。


「私の所によく貢物しに来る人だ」


「エリル、まだあの天使様商法してるんですか」


 誤魔化すように笑顔になったエリルを尻目に、これは有益な情報を得たと確信しました。




 エリルと別れてから数時間が経ち、真夜中。私は今、宿屋で夢の中にいます。ちなみにただ睡眠を貪っている訳ではありません、厳密に言うと施設長さんの夢の中にいます。



「こんばんわ、いい夢を見ていますか?」


「んっ、貴女は今日訪ねてきた⋯⋯。いや、天使?」


 夢の中の私は天使の輪と羽を広げて、しっかりと白衣装を着込んでいます。


「その通り、天使です。貴方の夢枕にたって語りかけています」


「貴方は時折訪れる天使に贈り物をしているそうですね」


「なっ、なぜそれを。まさか幸福を届けに来て下さられたのですか?」


 なわけないでしょう。


「いいえ。貴方は人の上に立つ立場でありながら、下の者を蔑ろにしてきました。いくら贈り物を送ったところで幸福になれるわけがありません。」


「そ、そんなっ!」


「これが最後の警告です。内容は言わなくてもわかるでしょう。もし警告を無視するのなら⋯⋯」


「む、無視するのなら?」


 どうやら完全に怯えきっていますね。あの語気の強さは見る影もありません。


「貴方に不幸を。災いを」


 それだけ言って、私は彼の夢枕から消えました。最後に天使は夢枕に立った証拠に天使の羽を一枚残していくという決まりがあるので、それに従い魔法で羽を一枚彼の寝室に置いておきました。



「ふう、思ったよりあっさり行きましたね。慣れないことをすると疲労が⋯⋯」


 目が覚めて、ベッドから身体を起こします。


 何故私が夢枕に立ったのか。簡単な話です。彼は胡散臭いエリルの元へわざわざ贈り物をするほど信仰心は強いようだったので、まあ自分が幸せになりたかっただけだと思いますが、天使として夢世界で少し脅してやれば効果は敵面ではないかと思ったのです。それに羽も残しているので現実味が増すでしょう。


 次の日、私がまた例の施設に行くとシルアさんが働いていました。相変わらずお忙しそうで。


「あ、レミリエルさん!きいてください!」


「どうされました?」


「お休み沢山貰えることになりました!今まで働いていた分のお休みも!」


 やっぱり私の思った通り効果は敵面でしたね。


「もしかしてレミリエルさんが⋯⋯」


 おや、察しがいいですね。ただ、夢世界で脅したなんて言っても信じてもらえるか、いや、シルアさんなら信じてくれますね。



「いえ、私は何もしていませんよ」


 チャンスを下さいなんて言っておいてなんですが、今回は情けない所ばかりだったので最後くらいは何も言わず去る、くらいは格好つけてもいいですよね?


































読んでくださりありがとうございます。


良ければ、ブックマーク、評価ボタン等々お願いいたします。



今回の話、書いていて難しかったなぁ

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