47、幸せになって下さい
「入ってみましょう」
本当に今でも奴隷たちがいるのか、中に入って確かめないといけません。
「え、ええ⋯⋯」
私が中に入ろうと進めても、ジュリーナさんは返事だけで一向にその場から動こうとしませんでした。
「怖いですか?」
「そんな訳⋯⋯ないでしょ⋯⋯」
強がり言う割に足は震えています。想像を絶する様な酷い目にあったのでしょう。
「私が先に中を見てきます」
「まって!私も行くわ」
ジュリーナさんが着いてきていることを確認にして、扉を開けます。
「ここが⋯⋯」
扉を開けると直ぐに沢山の牢屋の様な物が目に飛び込んできました。
牢屋の中には親から売られたであろう少年少女たちが私たちをまるで化け物を見るかのように見つめています。
まさに、この世の終わりの様な光景です。
「何も、変わっていない⋯⋯」
ジュリーナさんは過去を思い出したかの様に呼吸を荒くしています。
「お、お客さんですか?」
何処からか、下衆な面持ちの男が私たちに話しかけてきました。
「いえ、お客さんではないですが。ここでは何をしているんですか?」
「客じゃねえのかよ。見てわかんねえのか、奴隷で金儲けだよ」
男は私たちが客ではないと分かると、態度をころっと変えてきました。
私の嫌いなタイプです。
「え、お前⋯⋯ジュリーナ?」
「っ⋯⋯!?」
男はジュリーナさんを指さしました。
ジュリーナさんはビクッと怯えるように肩を震わせました。
「アイツ、アイツに閉じ込められてたの⋯⋯」
消え入りそうな小さな声で、ジュリーナさんは私に囁きました。
「なんだ?逃げ出したのに戻ってくるなんて馬鹿な女だ」
男はジュリーナさんに近付いて来ます。
あの時は、誰にも助けて貰えなかったでしょうが今は私がいます。
「奴隷商売は今日で終わりですよ」
私は、男の目の前で魔法で次々と牢を壊していきました。
閉じ込められていた少年少女たちは未だと外へと飛び出していきました。
「お前っ、何をしている⋯⋯!?」
「貴方に人を縛る権利はありません」
男は私を敵と認識したのか、杖を取りだし炎魔法を放ってきました。
なので丁寧に水魔法で全て消化して差し上げました。
「なんだと⋯⋯っ、俺の魔法が通じない⋯⋯」
彼に魔法使いとしての格の違いを見せつけたところで、ジュリーナさんに問いかけます。
「さて、この男。どうしてやりましょうか」
ジュリーナさんは考え込むように俯いた後、「痛みを教えてあげて」と呟きました。
「了解しました」
私は彼女とここに閉じ込められていた方々の無念を晴らすべく、致命傷にならない程度に魔法を放ちました。
男は直ぐに崩れ落ちました。
ジュリーナさんが国を乗っ取ってまでやろうとしたことは呆気なく達成されました。
この男が崩れても、他の奴隷商人たちが出てくる様子もなく、恐らく一人でやっていた事なのでしょう。
「終わりましたね、ジュリーナさん」
「まだよ⋯⋯まだ終わってないわ」
ジュリーナさんは倒れている男に近づきいつの間に持ち込んだのか、短刀を手に持っていました。
「死ね!!この悪魔!」
ジュリーナさんは倒れている男に、思い切り短刀を振り上げて突き刺そうとしました。
「っ⋯⋯」
間一髪、私は彼女の手を掴んで止めることが出来ました。
「何するの、この男はまだ生きてるのよ」
ジュリーナさんはきっと私を睨みつけました。
「辛い思いをしてきたのなら、これ以上手を汚す必要はないと思うんです。」
黙るジュリーナさんに更に問いかけます。
「国王様のことは好きですか?」
「は?」
「本当に、国王様を殺せたと思いますか?」
国王様は、ジュリーナさんの為にありとあらゆる事を尽くしたと言います。そこにはきっと心の底から彼女を想う気持ちがあったと信じたいです。
なので、私は彼女から見た国王様が本当はどう映っていたのか知りたいのです。
「煩いわね⋯⋯利用するだけ利用して、消す予定だったのよ」
「本当に?嘘偽りないですか?」
私が聞きたいのは、本心の方です。どうにも、ジュリーナさんが本気で国王を殺せるほど憎んでいると思えないんです。
「あんなに優しくしてくれた人⋯⋯あの人が初めてなんだよっ⋯⋯」
ジュリーナさんは泣きました。
その場で泣き崩れました。
「お城に戻りましょう⋯⋯」
奴隷商人の処遇や少年少女達の保護はエリスに任せて、私はジュリーナさんを抱えて城に戻りました。
城へ戻るとジュリーナさんが居なくなったと大騒ぎになっていました。
ジュリーナさんが戻った事を聞いた国王様は慌てて駆けつけてきました。
「ジュリーナ!城を抜け出して今までどこに言ってたんだ」
「まあ、それは」
「心配したんだぞっ⋯⋯⋯⋯」
国王様は、ジュリーナさんの頭を優しく撫でました。
「そちらは?」
「ああ、彼女は噂の天使様よ」
私の存在に気が付いた国王様にジュリーナさんが紹介をします。
「お初にお目にかかります。天使、レミリエルです」
さすがに国王様の前なので、それらしい自己紹介です。
「貴女が天使⋯⋯国王の、クリムです」
クリムさんは私に一礼をしました。国王様に頭を下げさせてしまっていいのでしょうか。
「どうも。それでは私はこれで」
「まって! 本当に⋯⋯ありがとう」
お礼の言葉を述べるジュリーナさん。
まるで、初めてあった時のことが嘘のようです。
今まで辛い思いをしてきた彼女だからこそ、これからの人生を本気で謳歌して欲しいと心の底から思います。
「また会いましょう」
私は、何時までも手を振るジュリーナさんを尻目に城を後にしました。
そして一つ決心したことがあります。
それは、このカトリの街を出ることです。




