45、国王暗殺計画
「まあおかけになって?」
彼女に言われた通り、高級そうな椅子に腰掛けます。
さてさて。
「なんの御用件でしょうか」
「私が国王から愛されているのは知っているわよね?」
「まあ意中の相手というのは聞いてます」
彼女は嬉しそうに微笑みました。
惚気話なら聞く気はないんですがね。
「それでね彼ったら、もし自分が死んだら私に国を任せるとまで言ってくれたの」
「溺愛されてるじゃないですか」
「だから彼を殺して欲しい」
彼女の声のトーンが一弾、低くなりました。
そして二人だけの部屋に張り詰めるような空気感が漂います。
いきなりの事で理解が追いつかない頭で必死に返事を探します。
「それってどういう⋯⋯」
「あの男を殺して欲しいと言ったのよ?」
⋯⋯私に、人を殺せと。
目の前の彼女は国王の心を奪い、この国を牛耳るつもりなのでしょうか。
呆然とする私に彼女は淡々とした様子を保っています。
「自己紹介がまだでしたね。私の名前はジュリーナ」
「れ、レミリエルです⋯⋯」
「よろしくね、レミリエルちゃん」
ジュリーナさんは私の手を握ってきます。
宜しくする気も無かったので、慌てて握られた手を振り払いました。
「悪魔を祓ったあの名高い天使様ですもの。あの男に悪魔が憑いて殺さないといけないと貴女の口から言って貰えたら直ぐに事は収まるのに」
「な、何を言って⋯⋯」
「だから、貴女があの男に悪魔がついてるとでも嘘を吹聴して回れば民衆は信じ込むのよ」
つまり、大衆に呼びかけて国王を「殺さざるを得ない」状況をこの街でつくれということですか。
「都心がその話題で持ち切りならば当然、他の街にもすぐに伝わるわ」
「そんなこと私が協力するとでも⋯⋯」
「拒否する事など許されないわ。これは命令よ」
ジュリーナさんの目が一気に私を従わせる冷たいものへと変わりました。
「悪魔が現れて、天使が悪魔を倒した。そして天使が英雄になる」
「何が言いたいんですか」
「感動したのよ。ついにあの男を殺して私がこの国を牛耳る機会が訪れたんだから」
狂気とも思える発言に、少なからず私は恐怖心を抱いていた事でしょう。
「暗殺、毒殺、ありとあらゆる手段を考えたけれど、やっぱり何処かで近しい人間の私が疑われるんじゃないかと思ったわ」
「でしょうね」
「でも、貴女の言う事ならみんな信じるもの。この国を救った英雄なんだから」
確かに、悪魔を倒した直後では街を彷徨く度に話しかけられたり、随分とチヤホヤされることはありました。
しかし、それだけの話です。
「無理があると思います。私一人の力で国王暗殺なんて大それた事を民衆に納得させるなをて不可能です」
「私の権力と貴女の人望を使えば直ぐにこの街、カトリの街中に広められるわ」
ジュリーナさんは、私が大人しく従わないのに腹が立ったようで爪を噛んでいます。
全く、どこが穏やかで優しい方なのか。
「だとしても、国王様の側近の方々が目を光らせている中でそんな事が可能だと思いますか?そう簡単に国王を殺されてくれるなんてことはないと思いますよ」
「余計なことは考えなくていいのよ。貴女は私の言うことだけを聞いていれば上手くいくの」
ジュリーナさんは自分の綻びだけの計画を着かれ、徐々に苛立ち始めました。
「とにかく、従わないのなら力ずくで従わせる迄よ」
「悪魔を倒した私に勝てるとでも?この国の兵力を幾ら集めた所で魔法でひとひねりですが」
「そう?貴女、人間を守るために戦ったのに人間を傷つけられるの?」
っ⋯⋯。
ジュリーナさん無理な話ばかりするので馬鹿かと思っていましたが、嫌な所をついてきますね。
ただ、ジュリーナさん一個人が簡単に兵士を個人に向けて動かせるとは思いません。
それこそジュリーナさんが不審に思われるだけでしょうし。
「とにかく、私は帰りますから」
「そう、残念ね⋯⋯⋯⋯」
私は踵を返して扉を開けました。
ジュリーナさんは特に動く様子もなく、こんなにあっさり返してくれるのかと不気味に感じてしまいます。
「タダで済むと思うなよ」
扉を閉める際、ジュリーナさんが怨みの言葉を私へ向けてきました。
ジュリーナさんの部屋を出ると、兵士たちが待ち構えていました。
「もう終わったのか」
「ええ、要件は済んだので。帰ります」
一瞬兵士たちに攻撃されるのではと、ヒヤリとしました。
私は広い城をてくてくと歩き、外へと解放されました。
「はあ、何だか気分悪いですね」
ジュリーナさんの口振りでは私がいないと国王暗殺に踏み切れないようですし、暫くの間は大丈夫でしょう。
私は周囲に人が居ないことを確認すると羽を広げて家まで飛びました。たまに飛ぶとストレス発散になっていいです。
「ただいまです」
家に帰ってきましたが、リルさんは寝ているようで返事はありません。そして私も今日は慣れないことをしたので疲れました。
なので私も寝てしまいましょう。
「おやすみなさい⋯⋯ぐぅ」
翌朝、私はジュリーナさんの提案を蹴って呑気に寝ていた事に後悔しました。
いつもの様に館を出て、パンでも買おうかと露店にふらりと立ち寄った時に信じられない光景が展開していきました。
「お前が天使だな」
私が露店に姿を現すとどこからとも無く武装した兵士たちが当たりを取り囲みました。
「ちょ、なんの真似ですか」
「ジュリーナ様がお呼びだ。城まで来い」
兵士たちは殺伐とした空気を放っており、拒否できる感じではありませんでした。
「はい⋯⋯」
結局、私は再びジュリーナさんの待つ城へ再度向かうことになりました。




