番外編 天使のバレンタインデー
番外編です!!是非に!!!
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雪。
カトリの街では雪が降った日には皆、「天からの贈り物だ」とその美しさに喜び、街中が活気付きます。
ただ、今日は何時もより一段と街の雰囲気が明るく、道行く人達は何かに期待しているように浮き足立っている様にも見えます。
「今日って何かありましたっけ⋯⋯」
「お答えしようか?お嬢さん」
いきなりお声掛けされたので少し戸惑ってしまいましたが、恰幅のいい男性がモノ欲しげな表情で立っていました。
「あの、どちら様でしょう」
「今日はバレンタインデー。主にだが女性が好意のある男性にチョコレートをあげる日だ」
ああ、それで。街の人達が浮き足立っている理由が分かりました。
「ところで君は僕になにか無いのかい?」
「そうですね。教えて頂きありがとうございました」
「違う!!!」
いきなり怒鳴られて肩を震わせてしまいます。
私、気に触るような事をしたのでしょうか。
「コホン。失敬、ではもう一度聞こう。僕になにか無いのかい?」
男はわざとらしく咳払いをし、同じ質問を投げかけてきます。
今度こそ答えて差し上げようと腕を組んで考えたのですが、特に何も閃は出ず。
「さあ、検討もつきません」
「こら!!」
「ひっ⋯⋯!」
何なんでしょう。なぜ私は見ず知らずの男性に二度も怒鳴られなければいけないのでしょう。
男性は見兼ねたようにため息を吐き、やれやれとでも言った様な手つきで見つめてきます。
ムカつく。
「全く、チョコだよ。チョコ」
「はぁ、チョコですか」
ん?先程の説明では好意を寄せている男性にチョコレートを渡すのでは。
私、この男性に関しては好すきというかどっちかというと嫌い寄りです。
「あの、私貴方のこと好きじゃないのでチョコはあげませんよ」
「だとこらー!顔が良いからって調子のんなや!」
男性が怒りの叫びを挙げたところで、その場から逃げました。
あの程度の情報量でこの仕打ちは割に合わないし面倒ごとは御免です。
暫く歩いた所で、いつものカフェが目に着きました。どうやらここもバレンタインが関係しているようで、期間限定でチョコレートサンドが売り出されています。
「うわ、混んでます」
私がこのカフェを贔屓にしている理由としては、正直人気のなさが落ち着くというものでしたが、今日はいつもと違い列をなしていて店内に入るだけでも一苦労しそうです。
「うわ、凄い混んでる」
私と同じ様な反応が聞こえて、ここの落ち着いた雰囲気が好きな方が他にもいたのかと声の聞こえた方向へ振り返ると、見知った顔がいました。
「あの、エリル?」
「レミじゃん! 今日めちゃくちゃ混んでるね」
カフェ前でたまたまエリルと遭遇しました。
彼女は冬の寒さに白い息を吐きつつも、夕焼け色の瞳は輝きを見せています。
「どうする?チョコレートサンド食べたいし並ぶ?」
「えー、食事で並ぶの嫌なんですよね。時間の無駄じゃありませんか?」
エリルは「時間の無駄かぁ」と苦笑しつつも、「一年に一度のイベントだよ?こういうのは参加した方がいいって」と長蛇の列へと私の背中を押します。
「全く⋯⋯こういうのに付き合うのは今日だけですからね?」
仕方なくエリルの提案を了承して、長蛇の列に並びます。
ここに並んでいる方々はそう迄してチョコレートサンドが食べたいんでしょうか⋯⋯。
きっとチョコレートサンドと言うよりもバレンタインデーという特別な日を味わいたいがための行為なのでしょう。
それはエリルと何だかんだで了承してしまった私にも当てはまることです。
「長いですね」
「まぁまぁ、並んだばかりだから」
足が疲れた、という視線をエリルに向けると、「ならお姫様抱っこでもしようか?」と返ってきたので大人しく立つことにします。
「レミはバレンタインデー誰かに渡す予定あるの?」
「あると思います?」
「レミは一生好きな男の人出来なさそうかな」
エリルが「私はいいと思うよ?」と自分は違うとでも言いたげな顔をしていますが、エリルも好きな男性とかいるイメージ皆無なのですが。
「もしかしてさ、レミって男の人じゃなくて⋯⋯」
「はい、何でしょう」
「女の子の方が好きとか?」
「うるさいです、有り得ませんから」
いきなり何を言い出すのかと思えば、私はただ恋愛に興味が無いだけでそういう趣味嗜好がある訳ではないです。
「へー、でもどちらかと言えば女の子でしょ?」
「口説いです。恋愛に興味が無いだけですから」
別に今日だって、バレンタインデーなんて。
「あ、そろそろ私達も中入れそうだよ」
「分かってます⋯⋯」
浮かれている訳では無いですから。
店内に入ると、やっぱり人間で溢れかえっていて、かろうじて私たちの席が確保されている程度でした。
「チョコレートサンド二つお願いします」
「大変申し訳ありません。チョコレートサンド、好評につきあと一つとなっております」
「あ、じゃあチョコレートサンド一つでお願いします」
毎度おなじみの店員さんが忙しそうにチョコレートサンド、ラスト一つだと言うことを告げてきました。
「最後の一つとかついてるね」
「仕方が無いので一つを半分しましょうか」
「えーもっと食べたかった!」
天界の大食い担当(私基準)のエリルにとってはサンドをわけわけではお腹を満たすにはあまりに足りないと思いますが、チョコレートサンドがない以上我慢してもらいましょう。
「お店に迷惑なのでごねないで下さい」
「これでも天使だからごねるような事はしないよ」
エリルはやはり不服そうな顔をしつつも、大人しく待っていました。お腹の音は騒音レベルでうるさかったですが。
「お待たせしました、チョコレートサンドです」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、テーブルに置かれたチョコレートに目をやります。
見たところ何の変哲もないですね。特別見た目に華がある訳でも、凝った食材が入っている感じもしません。
「え、凄い美味しそうなんだけど!」
「お腹が空いているせいですよ、きっと」
食欲をそそらない訳でもないですが、並んでまで食べる物かと言われると首を縦に振れないです。
「ね、食べようよ」
「わけわけするので、待っててください」
半分のつもりでしたが、エリルのお腹の音があまりにうるさいので半分より多めにエリルにチョコサンドを手渡しました。
「なんか私多くない?」
「気にしなくていいですから早くそれ食べてお腹の音納めてください」
すぐにチョコレートサンドに食らいつくと思いましたが、エリルは「んー」と考え込む素振りを見せます。
「これ、あげる」
「はい?」
エリルはわけわけした多い方の自分の取り分を私に手渡してきます。
「それだとエリルの食べる分がなくなりますよ?」
「だから、レミのチョコサンド頂戴?」
言っている意味とやりたい事が分からずに疑問をそのまま顔に浮かべると、「分かっていないなぁ」とでも言いたげな表情をエリルは見せます。
「だから、これは私からのバレンタインデーチョコなの! 」
「はぁ?バレンタインデーチョコって⋯⋯」
「レミからも欲しいからそのチョコサンド頂戴」
やりたい事も分かったところで、断る理由もないので素直にチョコサンドを手渡しました。
「わーい、バレンタインデーチョコだ」
「全く⋯⋯それの何が嬉しいんですか」
「いいから、食べてみなよ」
言われるがままに一口。
「まあ、美味しいですけど」
「良かった。バレンタインデー成功」
「成功って⋯⋯」
「んん、レミのも美味しい」
まあ、美味しいのなら何よりです。
エリルはあっという間にチョコサンドを完食しました。完全に私待ちの状況になりました。
「はぁ、美味しかった」
「私は私のペースで食べますからね」
「レミ、バレンタインデーって好きな人に想いを伝える日だよね」
「それが何か?」
エリルはすうっと息を吸い込んでから、珍しく真剣な面持ちをしました。
「好きだよ、レミリエル」
「ちょ、ええ⋯⋯!?」
いつもの冗談だと流したい所ですが、レミリエル呼びはガチ感が半端なくてどう応えていいのか分かりません。
「これからも、良い友人でいて欲しい」
「え?友人?」
「あれ、私変なこと言ったかな」
首を傾げるエリル。
てっきり私はエリルに好意を寄せられていたと一人あたふたしていましたが、勘違いだったようですね。
それならば安心です。
「へー、そうですか。貴女とは仲良くしませんよ」
「え、ちょっとぉ。どうして怒ってるの?」
「混んでるんですから、食べたら出ますよ」
私はエリルを置き去りにする形で店を出ました。エリルは後から慌てて私の後ろを着いてきます。
「ねえ、エリルが私の事どう思ってるか聞いてない」
「あの、それ言わないとダメですか?」
エリルは無言の圧でじっと見つめてきます。
「あの、最近は改善されてきていますが私は引きこもりでコミュ障なんですよ?好きじゃない相手と頻繁に会うと思います?」
「え、つまりそれって?」
「足りない脳みそで考えてください!」
少しキツイ言葉を使ってしまいましたが、照れ隠しという事で許してください。
引きこもりでろくに会話もできなかった私を見捨てずに何度も気にかけてくれて、出会ったあの日から私はエリルが大好きです。
あ、出会ったあの日は盛ったかもしれません。
とにかく私こそこれから先も良い友人、いや親友でいられたらいいなと思っていますよ。




