38、殺意と姉からの溺愛
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全体的に木目調の店内に入り、アンティークな雰囲気を醸し出す椅子に腰掛けます。
「雰囲気出てる」
「ね!レミよくこんな所知ってたね」
「ふふん、外に出る回数が少ないので一回でいいお店を判断する力が強いんですよ」
これは誇っていいんでしょうか、と自分でも思います。いや、本当に。
「レミ、オススメはあるの?」
「オススメはブラックコーヒーとシェフのこだわったりこだわらなかったりサンドの組み合わせです」
ラミ姉は「サンドの方、名前長くない?」と苦笑しています。
「私は五度目で注文する際の羞恥心が消えました」
「レミリエルさんもこれは普通じゃないって思ってた様で安心」
あ、そう言えばリルさんって普通に食事できたんでしたっけ?
いつも魔力を供給していますが、食べ物を食べている姿は見たことがないです。
「あの、リルさんってこういう食事食べられるんですか?」
「栄養にはならないから食べてこなかったけど、味わうことは出来る」
なら皆で食べられますねと胸を撫で下ろします。一人だけ食べられないとか流石に酷なので。
「ぐうぅ〜お腹空いた」
「え、今口で言ったのかお腹の音なのかどっちですか?」
「どっちも」
とにかく、お腹が空いているようなので店員さんをラミ姉に呼んでもらいます。
「ご注文お伺い致します」
「私、ブラックコーヒーとシェフのこだわったりこだわらなかったりサンドで」
「右に同じ!」
「私もそれで⋯⋯」
あ、皆シェフのこだわったりこだわらなかったりサンドって言いたくなかったんですね。
私一人だけ恥をかけと。
「お待たせしました〜」
注文をして直ぐに、店員さんが注文の品を持ってきました。
「ありがとうございます」
テーブルに次々とブラックコーヒーとシェフのこだわったりこだわらなかったりサンドが並べられます。
「まあ、名前はアレですけど美味しいので食べてみてください」
リルさんとラミ姉は特に疑う様子もなく、コーヒーを口に運びました。
いや、そっちじゃないです。
程なくして、コーヒーにそこそこご満悦な様子で二人ともサンドイッチを口に運びます。
「あ、美味しい」
「いける」
二人とも素朴な感想を残して、次へ次へと食べ進めました。
本当に美味しいと言葉が出ないと聞きますし、悪くはなかったのではないのでしょうか。
オススメする側としては不評だとどうしようと言う気持ちが心の底にあったので、一安心です。
「さてと、私食べますか⋯⋯」
「あれ〜可愛い子発見。俺たちと遊ばない?」
不意に背後から話しかけられ、サンドイッチを食べる手を止めます。
後ろを振り返りと、柄の悪い男が二人たっていました。「獲物を見つけた」とでも言いたげな表情でニヤニヤと不敵な笑みを浮かべています。
怖い。
「あの、どちら様かな?」
ラミ姉が私を見て「嫌だ」という事を察したのか、笑みを浮かべながらも圧の乗った声で応対します。
「いや俺ら暇だったし?お姉さん達と遊べないかなーって」
「かなーって」
話しかけてきた体格のいい男の後ろにいる小柄な男がセルフエコーをかけます。
何なんですかお前は。
「私達は私達で楽しんでいるから、お引き取り願いたい」
「つれないこと言わないでよ」
「でよー。お、この髪の長い子好みかも」
エコーをかける方が私の髪に手を伸ばしてきました。嫌だと言わなきゃいけないのに、怖い気持ちが勝ります。
「触るな」
ラミ姉が、本当に圧のかかった声でエコー男を咎めます。
驚いたのか、エコー男は慌てて手を引っ込めました。私もこの男たちに対する恐怖よりも本気で苛ついているラミ姉に対する恐怖の方が強く、脳内で上書きされました。
リルさんも同様で黙りながらもその目には不安の色が浮かび上がります。
「お姉さん怖いよ?高嶺の花気どんなよ」
体格のいい男も一気に声色が下がり、その声圧には思い通りにいかない苛立ちを感じます。
「この子にそんなに触られたくないのかよ」
男は、謀った様な笑みを浮かべて私の手首を力任せに掴みあげました。
流石に声を出して反抗しようと思いましたが、それには及びませんでした。
「殺すぞ」
ラミ姉の、殺意の籠った一言に私の手首は解放されました。
そして、男たちはその場で頭を抱えて苦痛の表情を浮かべながら嗚咽を漏らしました。
天使が本気でただの人間に殺意を向けると、人間の身体に害をなすと聞いたことがあります。
そして、ラミ姉は今も殺意の籠った目を男たちに向けています。
「うっ⋯⋯頭がっ、割れるっ⋯⋯」
「助けっ⋯⋯死ぬ⋯⋯」
ラミ姉は苦しむ男たちをただ、無言で見つめていました。殺意を込めて。
人間にどれほどの害がでるのかは知りませんが、ラミ姉は天界でも戦闘に関しては最上位。
止めなければ本当に命を落としてしまうのでは。
リルさんもそう感じたのか、青ざめた表情で私に「止めて」と目で訴えてきます。
「う、うぁぁぁぁ!」
「死ぬっ!死ぬぅ!!」
その場に崩れ落ちる男たち。いよいよまずいかもしれない。
「ラミ姉!やめてっ、やめてください!」
幾らラミ姉の肩を揺すっても、殺意の湧いたあの目はやめてくれませんでした。
「もうっ⋯⋯いいから⋯⋯」
私の縋るような声に、ようやくラミ姉はいつもの穏やかさを取り戻しました。
「レミ、ごめんね」
私たちは店員さんに「突然体調が悪くなり、倒れた」と説明して、店を後にしてベンチのある噴水へと避難しました。
周りから見たら突然嗚咽を漏らしだしたようにしか見えないので、あの説明で何とかなったでしょう。
「ごめんね〜二人とも。レミも、行きつけのお店で変な騒ぎ起こしちゃって申し訳ない」
「本当ですよ。私の事になるとブチギレるのやめてください」
はぁと溜息を着くとラミ姉は「ごめんね⋯⋯」と心底申し訳なさそうにしました。
「まあ、怒ってくれて助かった所はありましたけど」
「うん、あのままだと面倒くさくなってた、かも」
リルさんも私に同調して、必死に頷いています。
「ありがとう、次来る時はもっとちゃんとするから」
ラミ姉は名残惜しそうに「そろそろ戻らないと、仕事が⋯⋯」と光の宿っていない眼で呟きます。
本当はもっとやりたい事があったのですが、私ももう子供では無いので駄々はこねられません。
「また、来てくださいね」
「うん。偉いよ、レミ」
振り絞った一言に、全てを見透かす様に頭を撫でられました。
「リルちゃんも、良くしてくれてありがとうね」
「今度来るときは、もっとゆっくりして行って」
同様にリルさんの頭も丁寧に撫でます。
「それじゃあ、また来るから」
ラミ姉は眩い光を放ち、光が消える頃には既にラミ姉の姿はありませんでした。
寂しい気持ちもありますが、不思議と私も天界に連れ帰って欲しいという気持ちはありませんでした。
私も、成長したのでしょうか。
ただ、寂しいものは寂しいのでその日はリルさんと手を繋いで帰りました。




