恋のキューピットな天使と舞踏会
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舞踏会。
ここ、カトリの街でも貴族を中心に大流行中で頻繁に開かれているそうです。
そして今夜も、大きなお屋敷で舞踏会が開かれています。
貴族たちは皆それぞれに、華やかなドレスやタキシードを見に纏い男女でペアを組んで踊り、豪勢な食事を楽しむ中、一人浮かない顔をしている天使がいます。
「はぁ〜、帰りたい」
少し珍妙なご縁があり、私は今貴族たちの間で流行りの舞踏会に参加しています。
とは言っても、踊りなんてやったことも無く、挑戦する気もないので一人寂しくせっせと料理を食べているだけですが。
「あ、美味しい」
流石貴族の食事、何を食べても一級品でつい舌鼓を鳴らしてしまいます。まあ高級品を食べた所で「なんか美味しい」という感想しか出てこないのですが。
「素敵なお嬢さん、私と踊らないか?」
「すみません、食事中です」
「ハハハ、そんなものは後でいいじゃないか。私と踊ろう」
「食事中です」
「私と踊⋯⋯⋯⋯」
「食事中です」
と、言った調子で何度か声を掛けられるのですが、絶対に恥をかく事は目に見えていますし、人前で踊るなんて私に出来るわけがありません。
なので、頑なにお断りをさせて頂いています。
「わ、これも美味しいです」
蜂蜜とパンケーキの相性抜群です。売ってもらうとするならどれだけの値が張るのでしょう。
「あのー、レミリエルさん」
「ああ、貴方ですか⋯⋯」
私の目の前には貴族でありながら下手に出てくる青年、シューベルさんがいます。歳の頃は私と近く、彼もまた立派なタキシードを身に纏っています。
そして、そろそろ私が何故貴族の舞踏会にお呼ばれしているのかお話しましょう。
時は三日前に遡ります。
その日私はいつもの様に上々気分で書店で本を物色していた際、恐らく私を書店で張り込み待ちしていた彼に声を掛けられました。
「あ、貴女が僕の恋のキューピットですか!?」
「はい?」
これが、簡単に説明した彼との出会いです。
簡単というかこれが全てかもしれないですね、とにかく第一印象は「逃げなきゃ」という印象でした。
なので逃げました。
「ちょ!待って、話があるんだ!」
「私には貴方と話すことはないので!本当にないので!」
しばらくの追いかけっこをした後、しつこく追いかけてくるシューベルさんに私が根負けしてお話を聞くことになりました。
「実は三日後、舞踏会が開かれるんです」
「ほほう、なるほど」
「そこで僕は好きな女の子に告白しようと思う」
「はい。どうぞご勝手に」
想いを伝えるだけの事なら、何故私を追いかけてきたんでしょう。
もしかして私の事が好きで三日後の舞踏会に招待して告白する気でしょうか。
それなら今、きっぱりとお断りさせて頂きたいのですが。貴族の舞踏会というのも興味がありませんし。
「幼なじみのティアに告白したいけれど、小さい頃からずっと一緒だったから異性と見られていない気がして」
あ、私じゃありませんでした。
「それで、三日後の舞踏会に一緒に来てもらいたいんだ」
「え、何故ですか?」
シューベルさんは勿体ぶるように「それは初めに言っただろう?」と焦らし始めました。
「僕の恋のキューピットになってもらうためさ」
と、言う事で今に至ります。
私が簡潔明瞭に説明を致しますと、告白したいけれど自信が無いから一緒に舞踏会に着いてきて何かと手助けをして欲しいとの事です。
本当に、悪魔を倒してから名が広まったせいか変な願いが舞い込んでくるようになってきました。
ちなみに面倒くさかったので何度かお断りしましたが、「本たくさん買ってあげますよ」に吊られて二つ返事で了承してしまいました。
「レミリエルさん、ティアがこっちを見てますよ」
シューベルさんの意中の相手、ティアさんは確かにこちらを見ています。
ティアさんは肩にかかる程度に伸びた栗色の髪に藍色の瞳、とても美人さんです。
シューベルさんが惚れ込むのも無理はないなぁと素直に思います。
「あ、こちらに来ますよ。今が告白のチャンスです」
ティアさんはカツカツとヒール音を鳴らしてこちらに近付いてきます。当のシューベルさんは慌てた様子で「勇気、勇気をください」と私の肩を揺らしてきます。酔いそう。
「告白さえすれば絶対に上手くいくと思いますよ」
「何を根拠にそんな⋯⋯」
「神のお告げです。とにかく、好きだと言うことを伝えてください」
結局、シューベルさんはティアさんから逃れるようにその場から去ってしまいました。
本当に、告白さえすれば上手くいくのに。
「レミリエルさん、シューベルが逃げてしまいました⋯⋯私、嫌われているのでしょうか」
今度はティアさんが落ち込んだ様子で私に話しかけてきます。
「照れているだけですよ。告白さえすれば上手くいきます」
そう、何を隠そう私が三日前にシューベルさんと別れた後、程なくしてティアさんが私の元へやって来ました。
しかも「三日後の舞踏会にシューベルに告白したい」と。
私が裏で手回ししなくても、気付いていないだけで二人は既に両想いだったのです。なので告白さえすれば上手くいくというのも嘘ではないのです。
「うぅ⋯⋯シューベル、私のことが嫌いなのね」
ただ、ティアさんは常に後ろ向き、シューベルさんは幼なじみだというのに照れて直ぐに逃げ出してしまう。
「これは⋯⋯まだまだ先は長そうですね」
そして、そんなふたりの苦悩等知る由もない貴族たちの踊りは終盤に差し掛かっていきました。




