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22、風呂の水で聖水を作る天使

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 初めて事件の事を聞いたあのうだるような暑さの日。あの日と同じように灼熱とも言える暑さで、汗が首筋をつたいます。


「あっつ⋯⋯もう帰りません?」


「レミリエルさん、およそ五百人の命がかかってるんだから頑張ろうよ」


 今日もカムさんとカトリの街を行ったりきたり、悪魔召喚をしようとする魔法使いを探していました。


 この数日間、色んな策を模様して、端から端まで虱潰しに探し回り、正直これ以上何をしたらいいのか分かりません。かといってそれが諦める理由にもならないので頑張っていますが。


「ねぇ、レミリエルさん」


「はい、何でしょう」


「私達って基本昼間に探し回ってるじゃん」


「あーそうですねー」


 暑さでとろけた脳で何とか話を聞きます。


「夜にしない?」


「はい?夜ですか」


「そう、夜に探し回らない?というかそういう事件って大体夜に起こるじゃん」


「言われてみれば」


 日が昇っている間の活動が無駄だとは思いませんが、確かに魔法使いが人間を襲っている場面にばったり出くわすなんて確率も夜間の方が高いはずです。


「そうしますかー」


「ってことで暑いから今日はもう帰ろう」


 数日前のやる気と使命感に満ちたカムさんはもう何処にもいませんでした。ただ夜間の方がいいかななんて、私も思い始めてきたので大人しく意見に乗ろうと思います。


「帰りますか」


「んじゃ、また夜に」


 カムさんは手を振りながらそそくさと「あっつー。本当死ぬ」なんて呟きながら走り去っていきました。


「あっつー。本当死んじゃいます」


 私もそそくさと陽の光から逃れるかのように家まで帰りました。屋敷に着くとひんやりとした空気が身体に染み渡ります。


「冷たい⋯⋯生き返ります⋯⋯」


「やっぱり帰ってきた。おかえり」


 ぱたぱたとリルさんが出迎えに来てくれました。


「ただいまです。リルさん、お昼に起きているなんて珍しいですね?」


「なんかレミリエルさんが帰ってくるような気がしたから、起きた」


 何ですかその可愛い理由。

 勢い余って無造作にリルさんの髪をくしゃくしゃと撫で回します。


「わ、何するの⋯⋯」


「ちょっと気持ちが高ぶってしまいまして」


「何その理由⋯⋯」


 リビングでソファーに腰掛けると、リルさんはブラックコーヒーを出してくれました。


「私好みの味ですね。ありがとうございます」


「レミリエルさん好みの味は知らないけど、美味しいなら良かった」


 日頃からブラックコーヒーを飲んでいる私の好みを知っていて出してくれたのかと思いましたが、そうでは無かったみたいです。


「それで、レミリエルさん。今日の成果は?」


「⋯⋯何の成果も得られませんでした」


「そっか、お疲れ様」


 三歳年下に励まされるのもなんだか情けない気もしますが、実際成果が無かったのは事実です。


「でも、最近は何の成果も無かったこと驚かないですよね?」


「だって連日の事だから⋯⋯」


 リルさんの台詞が心に刺さります。無能で申し訳ないです。


「まあ、今日は策がありますからね!取っておきの秘策です」


「それも毎日聞いてるよ」


「い、いや今回は本当に凄いんですよ。見ていて下さい」


 リルさんは「そうなんだ、頑張ってね」と口角を上げて応援してくれました。ただそれが愛想笑いだと言うことを私は見逃しませんでしたよ。


 とりあえず、リルさんに「頑張ります」とだけ告げて自室にこもります。日が沈むまであと数時間、急ぎで作業すれば間に合うかもしれません。


 私の計画はこうです、人間界に初めて来た時に訪れたあの小さな村。あの時に使った魔物よけの聖水の応用で見事魔法使いを見つけてみせます。


 具体的には、一定以上の魔力に反応して激しく発光して位置を知らせてくれる聖水を作り、カトリの街中にばら撒きます。そんな事をしたら普通に魔法を使っている人たちの魔力で反応して街中光まみれになってしまう可能性もあるのでは、と思いましたがそれについては心配ありません。


 人を殺す程の魔力を放とうとすればそれ相応の大量の魔力が消費されます。犯人が使うようなレベルの魔力にしか反応しないように上手く調合すればいいのです。


「さて、聖水に使う材料ですが⋯⋯あまり気は進みませんね」


 材料自体はすぐに集められる、なんなら私自身が材料というか。


 そう、天使の羽です。天使の羽は万能薬的な所があり、大体これさえあればありとあらゆる調合が可能です。


 しかし、自分自身のパーツを材料にするというのは些か恥ずかしいものがあるというか。アレですよ、自分自身の身体が材料って事は場合によっては髪とかも含まれるんですよ。嫌じゃないですか、そんなの。


「私今誰に説明して誰に文句言ったんだろう⋯⋯です」


 仕方がなく、天使の羽、もとい私の羽を数枚取り出しました。

 ちなみに羽は魔力で具現化するものなので地で生えているとかそういうものではありません。


「とりあえず準備はできたし、聖水を大量に生成しますか」


 自室から出て、リルさんにお風呂に水を張るようお願いして、偉そうに私はソファに腰掛け待機します。


「レミリエルさん、水溜まったよ」


「ありがとうございます。早かったですね」


「なんか急いでそうだったし、頑張った」


 リルさんの頭を撫で、水の張った浴槽へ行きます。


 そして私の羽、数枚を入れて魔法をかけて呪文を唱えます。


「レミリエルさん、呪文って?」


「いきますよ、聞いていて下さい」


「う、うん」


「レミリエール!」


 私が珍しく声を張って呪文を唱えたというのにリルさんは「えぇ⋯⋯」と困惑しています。何故。


「レミリエルさん、呪文って自分の名前なの⋯⋯?」


「いけませんか?レミリエール」


「伸ばしただけ⋯⋯もっと考えようよ」


 生涯これで突き通してきた私に変えろと言いますか。

 聖水は出来たので、このお風呂の水を運ぶとしますか。


「水の操作は久しぶりですね」


 水を浴槽からふわっと空中に浮かせ、私の後に続かせます。


「レミリエルさん、凄い⋯⋯」


「ふふ、こんなの朝飯前ですよ」


 正直かなり神経を集中させていてキツいとはドヤ顔をした手前言えないですね。


 窓の外から暗闇が見えます。どうやら日は沈んだようです。


「では、行ってきます」


「うん。気を付けてね」


 と言いつつリルさんは心配そうに袖を掴んでくるので「大丈夫ですよ」と落ち着かせた後、大量の水を連れて外へと飛び立っていきます。


 かなり高い地点まで飛ぶと、カムさんの姿が見えました。


「あっ、レミリエルさん。遅いよ」


「遅れてすみません、お待たせしました」


「で、その浮いてる水は何?」


 カムさんは浮いている水に目を細めて聞いてきます。その口調からは疑問の色が隠せていません。


 ですので私は自信たっぷりに、したり顔で言うのです。


「ふふ、この水こそが秘策です」






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