零陸 翳り
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「では、天地の当主代理は無才の死に損ないか」
「ええ、死んだと聞き及んでおりましたが、まさか生きていようとは」
「ふむ、我らを押しのけて無才を棟梁に据えるとは。あの女何を考えている」
「本当に生意気な女よ。澄まし込む態度が気に食わん」
とある屋敷の一室。灯りを抑えて密談をする影あり。
「倅が見聞きした通り、無才は天地の威厳を背負うには見合わぬ」
「まだ二十三の若造だろう。國を守る力も持たぬのに家紋を背負うとは、呆れた若造だ」
「元はと言えばあの小娘が我々を更迭して、新たな当主を用意せよと言い出したことが問題だ」
天地の分家、当主の座を下ろされた御隠居が集結し、現本家当主の陰口を零していた。
「先代であればこのような暴挙に出ることも、それを許すことも無かったろうに」
「先代の事は残念で仕方がない。我々が駆け付けていれば、悔やんでも悔やみきれぬ」
「同感する。今代の暴君を生み出してしまったのは我々だ。その責を負わなくては」
そう言って目を伏せる御隠居達。そのうちの一人が呪術符を庭に放る。
すると忽ちに暗雲が立ち込め、ゴロゴロと空は唸り声をあげた。
「なんと、あの者たちを使うのか」
「心配ない。奴らの命綱を握っておるのは我々だ、逆らえるはずもなかろう」
「儂らはあの小童どもを当主の座から引き摺り下ろせれば良いのだ。その程度の使いにはなる」
空が激しく光り、呪術符に向かって雷が落ちた。
地面が破裂して土煙が舞う。
「破天荒雷、雷神八柱が一人、稲田 凄簡ここに推参」
そして、その中から現れたのは忍装束に身を包んだ男。
「よく来た、凄簡よ。早速だが仕事だ。十日後、小田原の城下町に火を放て」
「それはやり過ぎでは無いか。領民を危険に曝すなど、天地家の名折れですぞ!」
「問題はない。焼くのは税を払えぬ貧乏人たち。それに、儂らの差し金と分からねば良いのだ」
外道の所業。然るべき者がこの会話を聞けば、一瞬の内にこの者たちの首は落とされるであろう。
しかし、ここにこの者たちを咎める者は居ない。故に老害たちは気づかない、道を外れた者は相模には必要ないと。
「凄簡よ、これが火を放つ地域の絵図だ。印の付いた家屋に押し入り、住民を皆殺しにしてから火を放て」
「期待しておるぞ、破天荒雷の忍よ」
「はっ、この任務、命を懸けて遂行いたします」
「では散れ!」
その声と共に凄簡に雷が落ちる。
爆音と閃光の後には何も残っては居なかった。