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零参 西洋魔術のすゝめ

「あゝ、今日は疲れた。まさか、あんな面倒な男の相手をすることになるとは....」

「ここは家ではないぞ、まだ腑抜けるでない」

「前向きに考えましょうよ、所長。国務機関からの協力依頼なんてそうそう無いですし、裏を返せば国に信用されているってことですよ!」


 いきなり舞い込んできた魔術省からの協力依頼。事務所の名声も高まるだろうが、その代償は大きかった。


「確かに其れもそうだね。ならさっそく、その式神用の籠を用意しよう。と言いたいところだけど、時間が時間だ」


 時計は十六時半を示している。今から準備しては、定時の十七時には間に合わないだろう。


「今日はもう事務所は閉めて、籠の用意は家でやるよ」

「わかりました。書類と戸締りはやっておくので、御二人は先に帰宅していただいて大丈夫ですよ」

「ありがとう、助かるよ桜菓ちゃん」

「感謝するぞ、桜菓。後は頼む」


 事務所は桜菓ちゃんに任せて、俺たちは鳥籠を買いに向かう。


「雷の力を求める者たちか、いつの時代にも愚か者は絶えぬな」

「そうだね。命を危険に曝してまで力を欲するなんて、本当に愚かだ。だけど、きっとこういう連中は居なくならないよ。人は際限なく欲する生き物だから」

「なんじゃ、珍しく後ろ向き差な物言いをするではないか。どうかしたのか?」

「何でもないよ。ただ、欲し続ける人間には心当たりがあってね」


 ふと漏らしてしまった言葉を拭い、別の話題に話を逸らす。


「そういえば、吉良さん達にもキャラメルを買ってあるんだけど、どんな反応するかな」

「んー、佳澄(カスミ)は謹んで受け取るじゃろうな。反対に、真澄(マスミ)は魂消て倒れてしまうのではないか」


 話題に上がったのは、我が家の女中親子。母の吉良佳澄さんと娘の真澄ちゃんだ。

 二人は訳あって家にやって来たのだが、それは今度語ることにしよう。


「確かに、反応を見るのが楽しみだ」


 そんな話をしていれば雑貨商に辿り着いた。



 ~  ~  ~  ~  ~



「「ただいま」」


鳥籠を購入した俺たちは帰宅した。


「お帰りなさいませ、万司郎様、灯様」

「佳澄さん、これを書斎にお願い。あとは、これはお土産」


 そう言って鳥籠を手渡し、まだ空いている左手にキャラメルを一箱握らせる。


「まあ、ありがとうございます。ですが、私共はお気持ちだけで充分です」

「いや、二人の勤めを評価した結果だよ。それに、褒賞を給うのは家主の役目だ、受け取ってくれ」

「万司郎様が仰るのなら。お言葉に甘え、賜ります」


 キャラメルを受け取った佳澄さんに荷物を任せ、居間へ向かう。


「灯ちゃん、風呂は先に入りたい?」

「いや、妾はおぬしの後で良い。まだ仕事が残っておるのじゃ、先に風呂で疲れを癒すがよい」

「ありがとう、お先に失礼するよ」


 灯ちゃんの気遣いに感謝して風呂場へ向かう。


「術式、術素、共に問題無し。温度の調節も問題なしだな」


 体を清めて湯船につかる。試作の湯沸かし機はしっかりと機能しているようで、湯船からは湯気が立つ程度の温度を維持している。

 これなら、姉上に提出しても問題ないだろう。


「しかし、破天荒雷か....」


 今までは、小さな武家屋敷や雷神を祭る神社を狙う程度だったのに、いきなり直轄事業に手をした。

 組織内で何か変化が起きたのか、それとも雷塔に関する目的があるのか。

 もしもの時は、俺の手で....


「万司郎様、着替えをお持ちしました!」

「ん、あゝ、ありがとう真澄ちゃん」


 俺の思考を遮る形で、真澄ちゃんがやって来た。

 ガラスの向こうで忙しなく動く影がその証拠だ。


「そうだ、真澄ちゃん。佳澄さんにお土産を渡しておいたから、後で一緒に食べるといい」

「えっ、本当ですか。ありがとうございます。では、失礼します。万司郎様!」


 彼女は溌剌な声で返事を返し、軽快な足取りで風呂場を後にした。

 嵐の様に活発で忙しい子だ。だが、これからの時代はそれ位の女性がいても良いのだろう。

 思考が逸れてしまったが、今は疲れを癒やし残りの仕事を片付けなければ。

 そう思い、湯船に体を預けた。



 ~  ~  ~  ~  ~



「随分と長風呂じゃったな、おぬし」

「あはは、ごめんね灯ちゃん。少し考え込んじゃってね」

「まあよい、夕食の前に仕事はこなしておく事じゃな」


 そう言い残し、灯ちゃんは風呂場へ。

 そして、それに対する様に俺も書斎へ。


「よしっ、やるか」


 鳥籠に向かい合って、術式を考える。

 やるべき事は必要時以外の情報遮断、かつ式神との繋がりを断たない事。

 『西洋魔術のすゝめ』を手に取り、引用できそうなまじないや呪文を探す。

 この本はバング・J・メイジ著の西洋魔術図鑑で、東海道の藩のみ販売された日本語で記された洋書だ。


「雷の対策も必須事項か」

「それに護符の研究も進めなくては」

「術素送配用灯篭の開発案も姉上に提出していなかったな....」


 本を読み返しながら、これから必要になる物を書き起こしていく。


「万司郎様、夕食の用意が出来ましたので、お伝えに参りました」

「いや、姉上に提出するならば、実物を用意した方が効果的か」

「あっ、あの、万司郎様?」


 あの人は少し理屈が苦手だから、実物を見せて有用性を示せばきっと開発に乗り出してくれるだろう。


「よい、佳澄は下がっておれ」

「なら、土曜日には建材の下調べに行かなくては」

「万司郎、返事をせぬなら押し入るぞ」


 そして、その足で雑貨屋に護符の素材を受け取りに行かなくては。


「夕食じゃ万司郎、机に齧り付くのはそこまでにせい!!」

「うわっ!?」


 声をあげて飛びあがり、後ろを向けば仁王立ちの灯ちゃんと、困り顔の佳澄さんがいた。

 慌てて時計を確認すれば、七時二十分。夕食の時間を二十分も過ぎていた。


「二人ともごめん。考え込み過ぎた」

「別に、研究や作業に集中するのは構わぬ。じゃが、呼び声は聞き取れるようにせよ」

「本当に申し訳ない」


 二人に謝罪し居間に急ぐ。


「真澄ちゃんごめんね、待たせてしまって」

「いえ、私にはお構いなく!」

「では、四人が揃ったのじゃ、家主よ音頭を」

「うん。それでは、いただきます!」

「「「いただきます」」」



 ~  ~  ~  ~  ~



「ごちそうさまでした」

「「「ごちそうさまでした」」」

「さあ、万司郎様は研究にお戻りください」

「さあ、どうぞ!」


 二人に追い出されるようにして書斎に戻る。


「さて、夜を更かす前に終わらせるか」


 俺は机に向き合い、研究に専念した。

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