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零壱 希望の水晶

初めての執筆なので至らぬ点が多いとは思いますが、よろしくお願いします。

 世界大戦。それは地球の術素を汚染し、世界中の魔術を使用不能にまで陥らせた忌々しき戦争。

 化石燃料、毒ガス、弾薬、それらに含まれる物質が汚染の原因だと知った人々はそれらの技術を封印し、既存の技術を発展させる道を選んだ。


 時は進んで大正。蒸気の立ち込める帝都にて、何者かに追われる男と抱きかかえられた少女が人混みを掻き分けて駆けている。


「おぬしは何故いつも事を仕損じるのじゃ。彼奴等を闇討ちすれば、戦わずとも盗品は取り返せていたであろうに!」

「分かってないな(アカリ)ちゃん。闇討ちは卑怯な行いだが、とても有効な手段だろう。しかし、全くもって“クール”ではない。だから、正面から奪い返すんだよ」

「おぬしはくーる、くーると煩いのじゃ。屁理屈などこねる暇があるなら、後ろの彼奴等をどうにかせい!」


 了解、そう男が少女に言葉を返すと、男はきびすを返して追っての方へ向き直った。


「なっ、何をする気じゃおぬし」

「やぁやぁ、音にこそ聞け、近くば寄って目にも見よ。我こそは、相模國を統べる天地家の長男、天地 万司郎(アマチ バンジロウ)なり!!」

「適当なこと言ってんじゃねえぞ若造が」

「その口、二度と開けねえようにしてやる」

「水晶ついでに小娘も頂戴すんぞ!」

 

 接近する双方。追手たちは身に着けている手袋や革靴は炎を宿し、男の瞳が常磐色に妖しく煌めいた。


「燃え尽きちまいなッ!」

「うるせえ、ぶっ飛べ小悪党!」


 追手たちの拳が届く前に男が手を振う。

 その瞬間、発生した微風は(タチマ)ち暴風に変わり、追手たちは勢いよく空へ吹き飛ばされた。


「...殺してしまうのか?」

「まさか、荒川まで飛ばしただけだよ。風で保護してあるけど、全身打撲位の怪我は負って貰うさ」


 そう言うと男は少女を下ろし、東京へと向かった。



 ~  ~  ~  ~  ~



「こんなものが二万円とは、研究者とは不思議な生き物よのう」


 灯ちゃんはそう言って、不思議そうに水晶を眺めている。


「それ、(イカヅチ)の研究に使うらしいから、あまり変なことはしない方がいいよ」

「雷!?」


 驚いた灯ちゃんは飛び跳ねて手箱(アタッシュケース)を手放した。


「おっと、何でもこの水晶は雷の術素と相性がいいらしく、雷塔(ライトウ)とかいうもの建材に使うらしい」

「なっ、何故おぬしはそんな物を平然と持ち歩いておる、そんなもの今すぐにでも捨ててしまえ!」

「まぁまぁ、対策がされていない危険物を運ぶわけないでしょ。この手箱に入れている間は水晶が術素と反応することは無いから大丈夫だよ」


 落ちかけた手箱を掴み取り、しっかりと施錠する。

 しかし、灯ちゃんが怯えるのも無理はない。雷の術素は厄災の術素と呼ばれるほど危険な代物だ。

 そんな物だからこそ、今回の依頼には疑問が残るが、怯える灯ちゃんの為にもこれを引き渡すことが急務だ。


「品川駅で受け渡しだから、それまでは我慢してね」

「うむ、しかしてその手箱、妾に近づけるで無いぞ。もしもその時は、分かっているな」

「分かってるよ。多々良屋敷の使者に無礼なことは出来ないからね」


 そう、彼女は俺の許婚である、《多々良屋敷(タタラヤシキ) 燈珂(トウカ)》の妹であり、俺を見定めるためにやって来た使者なのだ。そんな相手に無礼など働けるわけもない。

 三尾を逆立たせてる灯ちゃんを宥めて窓の外へ視線を向ける。

 カタンカタンと小気味のいい音と心地の良い風が流れ込んでおり、自然と目を伏せて座席に体重をかけた。



  ~  ~  ~  ~  ~



「・を覚ませ、万・・」


「・・・ぐ品川じゃぞ、いつまで寝ておるつも・・」


「とっとと起きぬか、寝坊助がッ!」

「ん、おはよう灯ちゃん」


 振り下ろされる手刀を受け止め挨拶を返す。


「ふんっ、起きているなら最初から返事をせい」

「ははは、ごめんね灯ちゃん。でも、わざわざ起こそうとしてくれてありがとう」


 手早く荷物をまとめて下車の準備をする。

 これから会う依頼者、菊池虎座衛門は町工場の研究者と名乗っていたが、怪しい影が見え隠れしている人物だ。


『列車は間もなく品川駅に到着します。お降りのお客様はお忘れ物の無いよう、ご注意ください』

「何をしておるのじゃ、おぬし」

「少しリスクヘッジをね」

「また、よくわからぬ横文字など使いおって。まあよい、好きにせよ」


 金属の擦れる少し不快な音と圧縮された蒸気の音が列車の到着を告げる。

 席を立ち、客車を降車して改札へ向かうが。


「やっぱり、工業地帯に灯ちゃんみたいな妖狐は珍しいみたいだね」


 ホームを行交う人々の目は、必ず灯ちゃんに向けられていた。

 それもそのはず、品川は工業地帯としての発展を遂げ、品川で働く妖怪は鬼や怪火が一般的だ。

 しかも、綺麗に着飾っていれば、さぞ珍しく見えるだろう。


「万司郎さーん、此方です!」


 改札を出た先では、分かりやすく虎座衛門が手を振って俺たちを迎えていた。


「どうも、虎座衛門さん。遅くなってしまい申し訳ない」

「いえいえ、依頼から2日で水晶の側索と奪還まで。これ以上を望むのは貪汚(たんお)というものです」

「あはは、ありがとうございます。でも、それを評価する前に依頼品の確認をお願いします」


 俺が手箱を引き渡すと、虎座衛門は中身を確認し、安堵の表情を向けて此方に向き直った。


「はい、水晶に別状はありません。やはり、貴方に依頼して正解だった」

「それは何よりです。では、依頼完了という事で報酬についてなのですが......」

「ああっ、これは失礼しました。此方が今回の依頼料です」


 俺の言葉を遮って手渡されたのは、三千円と書かれた小切手だった。


「依頼時に確認した料金よりもかなり多い金額ですが、よろしいんですか?」

「はい、社長の決定ですので。それに、時は金なりと言うではありませんか。我々の業務は急を要するものですから当然の額だと私も思います」

「虎座衛門さんがそういうなら、こちらは頂きます。また、依頼があればご連絡ください」


 依頼を完了し、俺たちはその場を後にした。



 ~  ~  ~  ~  ~



 事務所への帰路。灯ちゃんの尻尾はブンブンと音がしそうな程に揺らされていた。


「あー、灯ちゃん何見てるの?」

「えっ、いや、わっ、妾は何も見とらんぞ」


 振り返った灯ちゃんの目は右往左往と泳いでおり、口調が早くなっている。


「そっ、そうじゃ丁度良い、桜菓(オウカ)の奴に差入れを買って行くのはどうじゃ。彼奴も事務仕事で疲れておるじゃろうし、甘味は頭を冴させると言うではないか。それに、それに......」

「そうだね、情報収集の為に無理をさせてしまったし、今回は報酬が増えて余裕もあるから少し贅沢をしようか」


 言葉を遮るのは申し訳ないが、賛成の意を示す。

 すると、灯ちゃんの尻尾の揺れは激しさを増し、虹彩は赤々と煌めいていた。


「んー、でも、俺は甘味については無知なんだよね。灯ちゃんは良さそうな店、知ってたりする?」

「そっ、そうじゃな。遠回りになるが、新しい停留所の近くに“きゃらめる”なるものが販売されておるようじゃが、どうじゃろうか?」

「うん、そこに行こうか!」


 そう身を縮めて首を傾げられては、断るつもりもないが即答してしまう。


「では、さっそく向かうぞ。何を歩いておる、馬よりも早く駆けんか!」

「うん、それは無理そうだから、空から行くよ。捕まっててね」


 走り出した灯ちゃんを抱き抱え、停留所へ向けて飛ぶ。

 靡く彼女の飴色の髪から覗く景色を楽しみながら、俺は空を舞った。

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