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石を積み上げる仕事

作者: 恵原 悠

 僕の高校の入学式の日、通学路の土手を歩いていると河原で石を積み上げる男の人を見た。

 その日の帰り同じ道を通ると男の人はまだ石を積み上げていた。

 その男の人は次の日も、その次の日も、僕が高校を卒業する日も朝から夕方まで毎日、河原で石を積み上げていた。

 卒業式の帰り道、今日でここを通るのも最後になるので僕は男の人に何をしているのか聞いてみることにした。

 赤色に染まる河原で一人石を積み続ける男の人の背中に僕は話しかける。

 「何をしているのですか?」

 男の人は答える。

 「石を積み上げているのさ。」

 「何で石を積み上げているのですか?」

 「それが俺の仕事だからね。」

 「石を積み上げることが?」

 「そうさ。俺は朝から夕方までここで石を積み上げる。夕方になって帰る時にその日積み上げた分を崩して帰るのさ。」

 「崩してしまうのですか?」 

 「ああ、崩すよ。」

 「どうして?」

 「そこまでが仕事だからさ。」

 「この仕事にどんな意味あるのですか?」

 「そんなの知らないよ。俺はやれと命令されたからやってるだけ。」

 「お話聞かせてくれてありがとうございます。お時間取らせてすみませんでした。」

 「いいってことよ。」

 僕は頭を下げると河原から離れる。

 男の人は僕と話している間も手を止めることなく石を積み上げ続けていた。


 僕は高校を卒業すると県外の大学に進学しそのまま県外で就職した。

 家族も僕が進学するのと同時に引っ越しをしたので僕がこの土地に帰ってくることはしばらくなかった。

 

 僕が高校を卒業してから20年ほど経ったある日仕事の関係で僕はこの地に戻ってきていた。

 高校時代を懐かしみながらかつての通学路を歩いていた。

 この時の僕は20年前の河原で石を積み上げる男の人の事などすっかり忘れてしまっていた。

 土手を歩いていると河原で石を積み上げている一人の老人を見つけた。

 僕はその老人の事が無性に気になり土手から河原に降りる。

 近くで見ると老人はぼさぼさの白髪で、長くて整えられていない髭を生やし、体はやせ細っていて皮の下の骨の形が浮き上がっていた。

 僕はそんな小さな老人の背中に話しかける。

 「何をしているのですか?」

 「石を積んでいるのさ。」

 老人は答える。

 「何で石を積み上げているのですか?」

 「それが俺の仕事だからね。」

 そう答える老人の手は石を積み上げ続けていた。

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