第二十一話 怒濤の快進撃
---三人称視点---
冬も終わり、春を迎えた四月。
拳至は大学二年生に、南条は大学四年生となった。
南条は既にH橋大の大学院への進学を決めており、
就職活動は行わず、プロボクサーに専念しようと決意を固めていた。
また聖拳ジムも南条と拳至を二枚看板して、彼等の売り出しに奔走した。
そして南条と拳至もその期待に見事応えて、組まれた試合を順調に消化していった。
まずGW中の5月4日。
この日に限っては、メインイベントは拳至が務めた。
拳至は南条が返上した東洋太平王座の決定戦に挑もうとしていた。
一方、セミファイナルを務めた南条はライト級世界4位のベネズエラ人のゼシル・アルバレスと対戦。 世界タイトルを狙う試金石となる大事な試合であったが、南条は序盤から左ジャブを中心にアルバレスを攻め立てた。
教科書通りの綺麗なボクシングで次々とパンチをヒットさせる。
被弾を防ぎ、ポイントを確実に稼ぐ大人のボクシングで試合を有利に運ぶ。
そして迎えた第7ラウンド。
南条は右のクロスカウンターでアルバレスから初のダウンを奪った。
アルバレスはカウント8まで休んでから、ゆっくりと立ち上がった。
そこから南条は左ジャブを軸に猛烈なラッシュを繰り出した。
南条のパンチが夕立のように、アルバレスの顔面に次々と命中。
そして第9ラウンドを終えた時点で、アルバレスの両眼が完全に塞がり、
レフェリーがそこで南条のTKO勝ちを宣告。
こうして南条は世界4位相手に見事に勝利を収めて、連勝をまた一つ伸ばした。
またメインイベントを務めた拳至は、
南条とも対戦経験があるライト級世界ランク11位の比国人のロニー・バンゴアンと対戦。
南条に負けて世界ランクを11位まで下げたバンゴアンだが、この試合に勝って東洋太平のベルトを巻いて、また世界戦線に躍り出ようという目論みであったが、その思いは完全に打ち砕かれた。
拳至は試合開始早々から、左右のストレート、そしてフックを振り回して、
ひたすらバンゴアンを攻め立てた。 そして左ボディフックでまず最初のダウンを奪う。
バンゴアンも意地を見せて、立ち上がるが、試合再開後に拳至の綺麗なワンツーが綺麗に決まった。
バンゴアンは背仲からキャンバスに倒れ込んで、リング上で大の字になった。
そこで青コーナーからタオルが投げ込まれて、試合が終了。
第1ラウンド2分13秒KO勝ちで、拳至は東洋太平洋王座の奪取に成功。
これで戦績を7戦7勝7KO勝ちと伸ばした。
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二年生になった拳至はボクシングだけでなく、学業にも勤しんだ。
また所属する「ボートゲーム同好会」にもちょくちょく顔を出した。
だが今年の新入部員は男子のみであったので、
拳至の友人である藤城は少し残念そうであった。
また同サークルの副部長である神原あかりも
南条と同様に大学院に進学するとの話。
だがその間の自由な時間を生かして、あかりは秘書検定などの資格の勉強に励んだ。
楽天家で脳天気に見えるあかりだが、実際、彼女は成績面ではかなり優秀だ。
だからそんな彼女を見て、拳至だけでなく、藤城や瓜生も緩んでいた気を
引き締めて、学業やアルバイトに励んだ。
また恋人関係になった氷堂愛理とも順調に交際を重ねた。
二人で美術館や博物館、植物園、クラシックコンサートなどへ行き、
プラトニックで真面目な交際だが、拳至はそれに不満は述べなかった。
こんな感じで剣至のキャンパスライフは順調に楽しんでいった。
そして拳至達は前期試験を無事終えた。
拳至、藤城、瓜生の三人は、今回の試験では今まで以上に良い結果を出した。
そんな感じで夏休みに突入。
夏休みを迎えた拳至は本格的にボクシングの練習に励んだ。
既に東洋太平チャンピオンとなったので、それなりの額のファイトマネーを貰える立場になった。
だからこの夏休み期間は、アルバイトはせずジムワークに専念した。
そして南条と拳至の次の試合が正式に決まった。
拳至は東洋太平洋王座の防衛戦を同級3位のタイ人・チャッチャイ・チュワタナ相手に行う。
一方のWBL世界ライト級2位の南条は、同級1位のロシア人・マクシーム・M・ザイツェフと空位となった王座をかけて、WBL世界ライト級王座決定戦へ挑む事が正式に決定した。
この王座決定戦に勝てば、南条は名実と共に世界チャンピオンになれる。
南条の戦績は18戦18勝15KO勝ち。
対するマクシーム・M・ザイツェフは、アマチュア時代に
ライト級で世界選手権で金メダル、五輪で銀メダルという実績を残している。
プロ入りは二十六歳と遅かったが、プロデビュー後のこの一年半で7戦7勝7KO勝ちという
パーフェクトレコードでWBL世界ライト1位の座に上り詰めた。
南条とザイツェフ、共に負けられない一戦。
WBL世界ライト級王座決定戦は日本で9月21日に行われる。
この試合に向けて南条は拳至を引き連れて、伊豆でキャンプを張る予定だ。
勝てば天国、負ければ地獄。
だがこの時の二人は知らなかった。
通称・シルバーホークと呼ばれるマクシーム・M・ザイツェフという
ボクサーの実力を、そして南条だけでなく、拳至のライバルとしてしのぎを削る事になるのであった。 だが二人はそんな事は知らずに目の前の練習に全力を尽すのであった。