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第二十話 西と東の戦い


---三人称視点---



 年が明けた新年。

 拳至は愛理と共に近くの神社に初詣に行った。

 またそれ以外でも休みの日には何かと理由をつけて彼女と会った。


 19歳という年齢で初めて出来た彼女。

 拳至自身、初恋の女性と付き合う事となって、日々に潤いが生まれた。

 だがそれは一大学生としての拳至の姿。


 そして彼の本業である学生兼プロボクサーという役割もきっちりと果たした。

 また拳至の先輩にあたる南条勇も世界挑戦に向けて、順調に練習と試合をこなしていく。

 二人が所属する聖拳ジムは南条と拳至を二枚看板として売り出していった。

 

 基本的に南条がメインイベンター、拳至はセミファイナルという形で

 二人一組として試合が組まれ、二人はジム側と観客の期待に見事に応えた。



 まず年明けに組まれた拳至の日本タイトル初防衛戦。

 この試合はチャンピオン・カーニバルの中でも一番注目度が高かった。

 若き王者に挑むのは、大阪の天景寺てんけいじジムの世界ライト級8位の竹村京介たけむら きょうすけ


 竹村は25歳で20戦17勝(13KO勝ち)2敗1引き分けという戦績だ。

 過去には東洋太平洋ライト級王座を保持していたが、

 世界戦線に進むべく、二戦ほどライト級の世界ランカーと戦ったが、いずれも惜敗。

 所謂東洋王者止まりのボクサーと周囲に云われていたが、良いボクサーである事には変わらない。


 また竹村の所属する天景寺てんけいじジムの赤川会長は西の名伯楽と呼ばれていた。

 西の赤川、東の松島というように日本で一、二を争う名伯楽という呼び声が高かった。

 だが当の本人達は、そんな名声を気にする素振りも見せずにただひたすら選手を鍛え育てていた。


 そして二人の育てたボクサーが日本タイトルをかけて2月26日に戦った。

 この試合は拳至にとって、プロ入り以来一番厳しい試合となった。

 試合開始早々、両者は左右のフックを振り回して激しく打ち合ったが、

 無尽蔵のスタミナを誇る竹村に押される拳至。

 そしてプロ入り以来、初めてラウンド終了のゴングを聞く事となった。


 これで拳至のプロ入り以来続いた初回連続KO勝ちの記録が途絶えた。

 だが拳至はそんな形ばかりの実績など気にせず、目の前の敵と激しく相対した。

 フックの打ち合いでは分が悪いと悟った拳至は左右のストレート系パンチも混ぜ始めた。


 しかし竹村は抜群の反射神経で、拳至の放つパンチをことごとく躱した。

 逆に小刻みに左ジャブでポイントを奪いながら、左ボディフックで拳至のスタミナを削る。

 更には頭を低くして、時折偶然に見せかけた頭突き(バッティング)を放ってきた。

 頭突き(バッティング)の直撃こそ避けたものも、竹村の気迫に押される拳至。


 気が付けば七ラウンドまで進み、ポイントも竹村が取っていた。

 これには流石の拳至も流石に焦りの色を見せ始めた。

 だがチーフトレーナーの松島はいつも通り無表情で一言漏らした。


「ポイント勝負では厳しいな。 だが奴もそろそろ疲れ始めている。

 だから頭突き(バッティング)を警戒しつつ、左ジャブで奴の顔面を打ちながら、

 左ボディフックで奴の肝臓リバーを叩け、とにかくひたすら叩くんだ。

 奴が悲鳴を上げるまでな、その後はお前の得意な左右のフックで料理しろ」


 拳至は松島の指示に「はい!」と応えて、指示通りに動いた。

 とりあえずひたすら左ジャブを竹村の顔面に叩き込んだ。

 殴打、殴打、殴打。 教科書通りの左ジャブでひたすら殴打。


 すると竹村は鼻から鼻血を出し始めた。

 そこで指示通りに左ボディフックで竹村の肝臓リバーを強打。

 左ジャブ、そして左ボディフックという二つのパンチを主体に攻め立てる拳至。


 すると次第に竹村の動きが鈍り始めた。

 だがそれでも拳至は松島の指示に左ジャブで竹村を突き刺した。

 そして相手のガードが下がった瞬間、左ボディフックで肝臓リバーを強打。


 同じような行動が七、八ラウンドと繰り返されたが、

 気が付けば、竹村の顔が拳至のパンチで腫れ始めた。

 更には鼻から血を流して、苦しそうに小刻みな呼吸を繰り返していた。

 そして第八ラウンドが終わり、赤コーナーへ戻る拳至。


「よし、俺の指示通りに動いたな。

 これで竹村の気力とスタミナは削った。

 次からはお前の得意な左右のフックを打ってもいいぞ。

 理想は左右の側頭部テンプルをお前の左右のフックで強打しろ。

 そうすればパンチによる痛覚の違いが出始める。

 奴は今、顔面と鼻がやられて、ボディで苦しんでいるが、

 ここに側頭部の痛覚が加われば、タフな奴でも耐えられない!」


 松島はいつになく興奮した様子でそう叫んだ。

 拳至はその姿に少し躊躇しながらも、「はい」と云って再びリングに向かった。

 対する竹村は重い足取りで、青コーナーからゆっくりと出た。


 ――コイツ、疲れてるのか?

 ――ならばここは攻めるぜ!


 拳至は先程のように左ジャブを連打。

 その左ジャブの連打が綺麗に竹村の顔面にヒット。

 そこから左ボディフックでまた竹村の右脇腹を強打。


 綺麗な肝臓打ち(リバーブロウ)が決まり、竹村の足が止まった。

 そして拳至はそこから怒濤のラッシュを繰り出した。 

 基本的に左右のフックで攻め立てながら、時折左右のショートアッパーもおりまぜた。


 拳至の激しいラッシュを喰らい、竹村はとうとうマットに左膝をついた。

 それと同時にレフェリーがカウントを始めた。

 だが竹村も意地を見せて、カウント8で立ち上がった。


 そしてレフェリーが試合再開を宣言。

 だがそこから先も拳至が一方的に攻め立てた。

 青コーナー側の赤川会長も渋面になりながら、試合を見守りながら一言呟いた。


「あかん、こりゃ物が違うわ。

 あの小僧、噂じゃボンボン育ちらしいが、

 ボクサーとしては本物や、そこは認めなあかん」


 そして竹村がロープに追い詰められた所で、赤川会長はタオルをリングに投げ込んだ。

 第9ラウンド2分34秒、それが正式なKOタイムであった。

 こうして拳至は見事に日本タイトルの初防衛を果たした。

 拳至はリング上でインタビュアーにマイクを向けられて、インタビューに答えた。


「これも全てジムのスタッフ、後援会。 そしてファンの皆様のおかげです。

 今日はプロ入り以来、一番の厳しい試合となりましたが、

 皆様の声援のおかげ、それとジムスタッフに助けられて何とか勝つ事が出来ました。

 今後とも練習に励みますので、どうか応援してください」


 高校時代の拳至からは考えられない優等生な発言だ。

 赤川会長は竹村の身体を支えながら、医務室へと向かう。

 そして一瞬だけリングの方に振り向き、こう云った。


「今夜は完敗や、流石松島や。 温室育ちのボンボンを

 見事に一流のボクサーに仕上げあげとる。 だが次は負けんで!」


 

---------


 またメインイベントのライト級東洋太平洋タイトルマッチは、

 王者の南条勇が同級3位のタイ人の選手を僅か2ラウンドで倒して、4度目の防衛に成功。

 これによって南条はまた世界挑戦へ一歩近づいた。


 拳至の初防衛に、南条の4度目の防衛。

 聖拳ジムは今二人の天才ボクサーを要して、黄金時代へ突入しようとしていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 剣持は順調ですね! 南条さんと一緒に世界にむけてまっしぐらでいきましょう!
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