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第十五話 決戦はクリスマス(前編)


---剣持視点---



 十月を迎えて、大学の後期授業が始まった。


「では今日は、コレで終わりにシマス!」


 二限のイタリア語の授業が終わり、正午を迎えた。

 

「では皆サン、チ ヴェディアーモ!」


 そう云ってイタリア語教師のブローノ先生が教室を出て行った。

 ん? ああ、オレは第二外国語はイタリア語を選択したんだよ?

 え? なんでイタリア語?

 まあ何となくカッコいい感じがしたから、選んだまでさ。


「なあ、剣持、飯どうする? 学食?」


 と、同じくイタリア語を取っていた藤城が話かけてきた。


「ああ、まあそうだな」


「んじゃ混む前に行こうぜ! 瓜生も行こうよ!」


「いやボクはお弁当だよ? まあ付き合ってもいいけどね」


 と、瓜生は眼鏡のブリッジを右手の人差し指で押し上げた。

 なんか瓜生がすると、妙に様になってるな。

 まあいい、そんな事より早く学食へ行こう。


 

 昼間の学食は案の定混んでいた。

 席の殆どが埋まっていて、なんとか空席を探し出した。

 そして俺達は空いた席に腰掛けた。


「剣持は何食うの?」と、藤城。


「そうだな~、何食おうかな~」


「剣持くん、今は減量とか大丈夫なの?」


「ん? ああ、先月の下旬に試合をしたばかりだからな。

 だから今はまだ普通に飯を食って良い時期なんだよ」


 オレは瓜生の質問に対して、端的にそう答えた。


「そうなんだ。 でもボクも剣持くんのえんで生でボクシングの試合を

 観るようになったけど、リング上の剣持くんは本当に凄いね」


「だよな、だよな! 今で4戦4勝4KO勝ちだろ?」


 と、藤城が興奮気味にそう言う。

 だがここで変に気取るのは嫌みだからな、だから自然体でいこう。


「別にどうってことさ。 現状ではまだ一介の日本ランカーに過ぎないからな」


「え? 日本ランカー?」と、藤城。


「ん、ああ。 こないだの試合に勝ったから、最近ランク入りしたんだよ」


「ほへえ、スゲえな……いやマジで」


「うん、ところで次の試合はいつなの?」


 と、瓜生が話題を微妙に変えた。


「ああ、次の試合は十二月二十五日さ。 まあ所謂クリスマスってやつさ」


「へえ、決戦はクリスマス、って感じだな!」


 藤城、その例えはなんか違う気がするぞ。

 いやあえて突っ込まないけどな。


「で今度は誰と試合するの?」


「ああ、ライト級の一位と日本タイトルの王座決定戦をやる予定だよ。

 南条さんが日本タイトルを返上して、世界に焦点を絞るらしい」


「え? 南条先輩が遂に世界挑戦するの?」と、藤城。


「いやとりあえず東洋圏の世界ランカーと戦うみたいだ。

 まあアレだ、南条さんがオレの為にわざわざ日本タイトルを

 返上して、お膳立てしてくれたというわけさ。 だから負ける訳にいかねえ!」


「ほへえ、5戦目で日本タイトル挑戦って凄くね?」と、藤城。


 まあ確かにライト級としては、早い方だな。

 でも世界だとたった三戦で世界王者になった奴も居るからな。

 だから特別自慢する事でもない。


「まあ勝たなきゃ意味ないさ、それに仮に勝ったとしても、しばらくは地味に日本タイトルを防衛して、南条さんが東洋タイトル返上したら、またオレが東洋タイトルに挑戦、って感じになるだろうな。


「……そうなのかい?」と、瓜生。


「ああ、まあ要するにジムとしては、オレにも南条さんにも世界挑戦させたいんだろうな。 で先に南条さんに世界挑戦させてその結果によって、オレのマッチメイクも決まる感じだろうさ」


「そ、そうか。 なんか剣持ってマジで凄いんだな。

 今のうちにサインでも貰っておこうかな」


「馬鹿だな、藤城くん。 そういう言い方は剣持くんに失礼だろ? ところで興味本位で訊くけど、キミのデビュー戦の応援に来たあの女性は誰なんだい?」


 ん? 瓜生がこういう事を聞くとは以外だな。

 そう言う意味じゃ瓜生も人並みの好奇心と野次馬根性があるって事かな?

 まあいいや、そんな事で気を悪くするオレじゃねえよ。

 だからオレはありのままの事実を告げた。


「ん、ま……なんというか大事な人、って感じ?」


「ま、まさか彼女なのか! あんな美人な彼女が居ると云うのか!?」


 ば、馬鹿、藤城……声がデケえよ。

 周囲の連中もこちらを見てるじゃねえか。


「い、いやその辺はまあまだハッキリしないというか、

 まあでもオレは彼女に好意を寄せてるけどな」


「くっ、言いてえ! オレもそういう台詞言いてえ!!」


 と、何故か少し涙の藤城。

 というかさっきから周囲の視線が痛いんですけど?

 藤城は悪い奴じゃないけど、空気読めそうで読めないタイプか?

 などと思っていると、知った顔がこちらにやって来た。


「なんか盛り上がっていて、楽しそうだね! わたしも混ぜてよ!」


 そう云ってボートゲーム同好会の先輩でもある神原かみばらさんがのほほんとした口調でそう言った。

 神原さんは髪は黒髪のゆるふわ巻き、

 上はピンクのブラウスに下はやや丈の長い白いフリルのスカートという格好だ。


「あ、神原先輩! こ、こんにちは!」


「こんにちは、神原先輩」


「うん、藤城くん、瓜生くん、こんにちは! それに剣持くんもこんにちは!」


「あ、ああ……どうもッス」


 オレは神原さんの挨拶にやや戸惑い気味にそう返した。

 なんというかオレは少しこの先輩が苦手だ。

 彼女は所謂、ゆるふわ系の女子だが、性格はかなり天然だ。

 でも所々で空気が読めない、というか天然系の発言が目立つ。


 いや良い人なんだけどね?

 ただなんというか天然で男を誑かすというか、

 無意識に男を魅了するが、本人にはその自覚がない。

 みたいなタイプの女性なのだ。


 藤城も最初は積極的に神原さんにアプローチしていたが、

 いつまで経っても、成果が出ず、挙げ句の果ては――


「あの人って無意識で男を翻弄するタイプだよな?」


 とか言い出した。

 そしてそれが当たってるからも、オレも「あ、ああ」と曖昧に頷くしかなかった。

 まあそういう訳でオレだけでなく、藤城と瓜生も神原さんに少し苦手意識を持ち始めている。

 とはいえ基本的には、世話好きの優しい先輩だけどな。


「皆で何を話してたの? ん?」


「い、いえ他愛のない事ですよ、なあ瓜生?」


「う、うん」


「そう、ところで皆、次はいつサークル来る?

 わたし、今日は暇なんだよ。 だから暇なら放課後に部室でボードゲームしようよ?」


「あ、ああ~、まあ良いッスよ。 瓜生はどうする?」


 と、瓜生に目配せする藤城。


「ボクもバイトが始まる時間までなら、付き合えますよ」


「そう、それは良かった! 剣持くんはどう?」


 ……そうだなあ。

 試合までまだ時間あるし、今の時期なら少しくらい遊んでいいだろう。

 

「いいッスよ」


「やったぁ。 皆で遊ぶのも久しぶりだね!」


 と、満面の笑みを浮かべる神原さん。

 そしてこの人のこういう表情は反則的に可愛い。

 だから苦手意識を持ちつつも、結局彼女に付き合ってしまう。

 それは藤城と瓜生も同じだろうな。


「神原さん、ところで今日は南条さんと一緒じゃないの?」


「うん、南条くんは二ヶ月後の試合に向けて、早い段階から減量してるみたい!

 なんかご飯もお昼は水とコンビニ野菜しか食べてないみたい。

 というか聞いてよ、南条くんの今度の試合は十二月二十五日らしいのよ。

 つまりクリスマス、決戦はクリスマス、って感じだよね!!」


 と、興奮気味にそう云う神原さん。

 というか神原さん、藤城が似たような事云ってましたよ。

 とはいえ二ヶ月後には、オレも日本タイトルを控えている身だ。

 だから今ぐらいしか遊べそうにないな。

 でもだからこそ今日くらいは思う存分遊ぶか。


 そして講義が終わってからオレ、藤城、瓜生、神原さんという面子で

 ボードゲームしたが、最初から最後まで神原さんの一人勝ちだった。

 なんかこの人、滅茶苦茶適当なんだけど、いいマスに止まりまくるタイプ。

 そして「わあ、凄いでしょ!」みたいな事をオレ達に云うが、

 不思議と嫌みさはないので、なんだかんだで楽しい一時を過ごせた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 剣持も南条さんもいよいよ試合ですね! 2人とも必ず勝ってほしいですね! どんな闘い方をするのか楽しみです!
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