第十四話 連戦連勝
---三人称視点---
プロデビュー戦を勝利で飾った剣持拳至は、その後も快進撃を続けた。
6月13日のプロ二戦目の相手は泉澤ジムの吉澤。
調整も減量も無事こなした剣持は体調万全で二戦目を迎えた。
そして試合開始早々の第1ラウンド6秒、右のロングフックでダウンを奪った。
咄嗟のダウンに足がおぼつかない吉澤。
剣持はそこからデンプシーロールで吉澤を攻め立てた。
果敢に左右のフックを振り回す剣持。
そしてリング上で棒立ちになる吉澤を救うように青コーナーからタオルが投げ込まれた。
正式なKOタイムは剣持の1ラウンド26秒KO勝ち。
この勝利によって剣持は六回戦ボーイから八回戦ボーイへと昇格を果たした。
しかし当の本人はさも当然という表情をしていた。
また大学の方も真面目に出席しており、前期試験では比較的優秀な成績を収めた。
そして夏休みに入るなり、友人の藤城に紹介してもらったアルバイト活動にも精を出した。
一日の大半をアルバイトとボクシングのトレーニングにつぎ込んだ。
もっとも一週間に一回くらいはサークルにも顔を出して、サークル仲間との親睦も深めた。
そして迎えた7月27日、この日が剣持のプロ三戦目となった。
相手は山城ジムのベテラン選手の赤城。 戦績二十戦を超える二十代後半の選手だ。
「今日の試合でお前のプロとしての力量が試されるな」
と、選手控え室でチーフ・トレーナーの松島が剣持にそう言った。
だが当の本人は全く緊張しておらず、リラックスしたままリングインした。
そしてこの試合でも剣持は圧倒的な力を周囲に見せつけた。
試合開始のゴングが鳴るなり、赤城が全力で飛び込んできた。
そして強烈な左のロングフックを放ってきたが、剣持はスウェイバックで軽く回避。
逆にライトクロスで赤城の顎の先端を強打する。
見事なカウンターパンチが決まり、赤城が尻餅をついてダウンした。 その後は前回同様にデンプシーロール気味に左右のフックを振り回して、赤城を攻め立てた。 赤城もガードを固めて、なんとか耐えようとするが、剣持の嵐のようなフックの乱打に防戦一方。
そして赤城が苦し紛れの右を出した瞬間に、剣持は右を外しながら左フックで赤城のボディを強打。 強烈なボディフックが決まり、赤城は二度目のダウンを喫すると、そのままテンカウントを最後まで聞いた。 これで剣持は三試合連続の初回KO勝ちで、戦績が3戦3勝3KO勝ちとなった。
その後も剣持はアルバイト、サークル活動も行いながら、ジムで厳しい練習に耐えた。そして聖拳ジムは大学の夏休み期間を生かして、もう一試合を組んだ。 相手は栄御門ジムのタイ人の輸入ボクサーのライト級日本4位シンヌン栄。
シンヌン栄は27歳の脂の乗った輸入ボクサーで戦績は26戦21勝13KO勝ち4敗一分けという戦績。
だが剣持からすれば勝てば日本ランクを貰える試合。
なので剣持サイドはこの試合を二つ返事で受けた。
そして迎えた9月28日。
剣持はこの日、初のメインイベンターとして後楽園ホールのリングに上がった。
リングサイドには藤城や瓜生、そして南条、神原先輩の姿もあった。
だが残念なことに、一番居て欲しい氷堂愛理の姿はなかった。
剣持はそれを少し残念に思いながらも、いつもと同じようにリラックスしてリングへ上がった。 そしてレフェリーから試合開始前の注意を受けて、自分のコーナーである青コーナーへ戻る。
「相手は経験がある。 だから序盤は様子を見ろ!」
「いえ最初からガンガン行きますよ!」
剣持は松島の言葉を従わず、ゴングが鳴るなり、意気揚々と青コーナーから飛び出した。
そして全速でダッシュして、一気に間合いを詰める。
これにはシンヌン栄も予想の裏をかかれた。
そして剣持はやや強引ながらも、左右のフックを振り回して攻め立てる。
シンヌン栄は両手でパンチを防ぎながら、カウンターチャンスを待った。
そして剣持の左ガードが下がった瞬間、ライトクロスを放った。
だが剣持はそれを右側にサイドステップして回避。
逆に右フックで輸入タイ人ボクサーの左の顎の側面を強打。
たまらず身体をぐらつかせるシンヌン栄。
そこから剣持は怒濤のラッシュを繰り出した。
剣持のパンチが面白いように決まり、シンヌン栄はグロッキー状態になる。
しかしこの輸入タイ人ボクサーにも意地があった。
ダウンする事は拒み、なんとか手を出して反撃を試みる。
だが左ジャブの打ち終わりに剣持が右のクロスを合わせてきて、それをまともに顎に喰らった。 そしてシンヌン栄はもんどり打って、背中からリングのキャンパスに倒れ込んだ。
なんとか起き上がろうとするが、ダメージは深刻で立ち上がることはできず、
レフェリーがカウント7を数えたところで、赤コーナーからタオルが投げ込まれた。
そしてレフェリーは試合終了を告げた。
「すげーよ、剣持! カッコいいぞ!」
「剣持くん、おめでとう!」
と、リングサイドの大学の友人達も祝福してくれた。
だが当の本人はさも当然といった表情で勝ち名乗りをあげていた
これで剣持の戦績は4戦4勝4KO勝ちとなり、ランキング選手を倒したことにより、
翌月の十月に日本ライト級の5位にランクインされた。
連戦連勝、まさに向かうところ敵なし!
と、スポーツ新聞や専門誌は彼の事を褒め称えたが、当人はそれにおごることはなかった。
剣持拳至(聖拳ジム)【4戦4勝4KO勝ち】