第五話 卒業式
「剣持さん、影浦さん、御卒業おめでとうございます!!」
「おう」
「お前ら、ありがとな!」
卒業式が終わり、オレと影浦はボクシング部の後輩に卒業祝いの言葉をかけられた。
「おお、ありがとな」と、影浦。
「おう、ありがとよ」
「剣持~、最後なんだぞ? もう少し愛想良くしろよぉ~?」
「五月蠅い。 オレなりに愛良くしてるつもりだ」
「その態度でかぁ? ったくオメエは最後までホント変わらねえな」
「あははは、先輩達のその掛け合い漫才を見るのもこれが最後ですね」
と、新主将の亀崎が苦笑しながらそう言った。
「「掛け合い漫才じゃねえよ!!」」
「ほら、息ぴったりじゃないですか!」
「チッ、真似するなよ、影浦」
「そりゃこっちの台詞だ。 まあそんな事はどうでもいいんだよ。
剣持、お前は今後ボクシングを続けるつもりなのか?」
と、影浦が少し探りを入れるように、そう言った。
まあ最後だしな、最後くらい本音をぶちまけてやろう。
「おう、やるつもりだぜ」
「マジでか? でもH橋大は国立だし、スポーツ推薦でもないのにボクシング部に入部するつもりなのか?」
ああ、成る程、影浦なりに気を使ってるんだな。
ちなみにオレは受験した大学をほぼ合格した。
もっともT大は落ちたけどな。 まあ正直残念だ。
彼女と――氷堂愛理と同じ大学へ通いたかったぜ。
それでもH橋に合格したから、悪くはない受験結果だ。
とりあえずオレはこの春から、上京するつもりだ。
だから影浦やボクシング部の後輩に会うことももうないだろう。
なのでオレは最後に自分の素直な思いを打ち明けた。
「いや大学ではやらねえよ。 プロでやるつもりだ。
実は去年から聖拳ジムにスカウトされててな。
だからオレは聖拳ジムからプロデビューするつもりだ」
「ま、マジかよ!」と、驚く影浦。
「プロ入りですか!? しかも聖拳ジム!! す、凄いです、剣持さん!」
やれやれ、影浦や亀崎達が驚いていやがる。
まあプロ野球選手やJリーガー比べたら、
プロボクサーなんて世界王者でもないと生活もできないからな。
だから現時点ではそこまで威張ることじゃない。 現時点ではな。
「契約金も用意してくれてるぜ。 だがプロは甘くない世界だからな。 だから俺は大学四年+大学院二年の間に世界王者になるつもりだ。 その猶予期間が過ぎたら、プロも引退するよ」
「へっ、流石は計算高い剣持さんだぜ。 でもまあ応援してやるよ」
「ありがとよ、ところで影浦、お前は今後どうするつもりなんだ?」
「ああ、俺はとりあえずスポーツ推薦で大学へ進学するよ。 お前がプロに行くなら、俺もライト級に転級しようと思ってる。 最近けっこう身長が伸びてな。 正直、バンタム級じゃキツい」
そう言えば、影浦の奴、いつの間にか身長が伸びたな。
前は172くらいだったが、今177の俺とそれ程変わらない。
「そうか、なら俺が居ないライト級で天下でも狙えや」
「けっ、お前は最後まで変わらないな。 ある意味、お前らしいよ。 でもお前のプロ入りは、同じ部の仲間として歓迎するよ。 剣持、必ず世界王者になれよ!」
「プロのライト級は厳しいからな。 オレも絶対とは言わねえよ。 だがやるからには、頂点を目指すよ。 じゃあな、影浦」
「おうよ、剣持。 またいつか何処かで会おうぜ」
「ああ」
そう言ってオレは踵を返して、この場から去った。
その後、取り巻きの女連中に写真をせがまれたから、快く承諾した。
まあなんだかんで楽しい高校生活だったと思う。
だからオレは校門を出るときに、一瞬後ろに振り返ってこう言った。
「あばよ、オレの青春」
……どうやらオレも卒業式というイベントで、少しセンチメンタルな気持ちになったようだ。 まあいいさ、人間時には酔いたい時もあるからな。 今日くらいは構わないだろう。
だがオレの人生はまだまだ続く。
さしあたっては、プロボクサーとして世界を目指すぜ。
やはりオレは人と居るより、独りの方が好きな性格だからな。
オレはそう思いながら、卒業証書の筒を片手に持ちながら、今度こそ校門から去った。