第一話 オレが剣持拳至だ!
オレの名前は、剣持拳至。
名門高校と名高い顕聖学園に通う高校三年生。
自分でいうのもアレだが、オレはかなり高スペックの男子高校生だ。
所属している部活はボクシング部。
つい昨日に国体の少年の部のライト級で優勝して、高校五冠を達成したばかりだ。
そういうわけで俺は戦闘力も高い。 53万くらいあるかもな。
更にそれでいて学力もかなり高い。 当然、大学は国立を狙っている。
身長は最近また伸びて177センチ。 顔もイケ面だ。 我ながら完璧すぎる。
そして俺が通う私立・顕聖学園高等学校はかなりの進学校である。
それでいて部活動にも力をそこそこ入れており、各学年のA組は、体育科の生徒のみで構成されたクラスだ。 そういうわけで運動部もそれなりに強い。
文化部の数も多く、そこそこの結果や成果を出しているようだ。
普通科や特進科の進学率も非常に高い。 それでいて比較的自由な校風で、
顕聖学園の女子の制服は大阪府内でも女子受けが良くて、顕聖の制服が着たい為に受験する女子も居るそうだ。
まあ意味年頃の女子らしい動機だが、
オレは単純に自分の学力に適していたから、中学受験して今に至る。
「拳至お坊ちゃま、そろそろ登校の時間でございます」
「ああ、分かっている」
オレは眼前の初老の男に向かって、そう答えた。
この男は我が剣持家に仕える執事だ。 そうオレは強い上に、学業成績優秀。
おまけにイケ面、実家も金持ちという究極の勝ち組なのだ。
だから学校へは自家用車で通っている。
電車とかは殆ど乗らない。 文句あっか?
「拳至お坊ちゃま、今夜、旦那様からお話がありますのでご帰宅はお早めに!」
「ああ、辻村。 分かったよ」
オレは執事の辻村にそう言うと、
既に待機していたリムジンのドアを開き、後部座席に座った。
そしてやや両足を組んで、右手で頬杖をつきながら、ぼんやりと窓へ視線を移した。
――親父の話は大体、見当がつく。
――恐らく進路についてだろう。
――まあその辺はオレもちゃんと考えてある。
――とりあえず今は受験勉強に専念だ。
――なら無事大学に合格したら、またボクシングをやるのか?
――多分やるだろう。 だが問題は何処まで続けるかだ。
――……まあ今はまだ考えなくていいだろう。
そうこうしているうちに学校に到着。
するとオレの姿を見るなり、周囲の女生徒が「おはよう、剣持クン!」
と朝の挨拶してきたので、オレも右手を挙げて「おはよう」と挨拶した。
それを遠巻きに観る男子生徒達。
その多くが不機嫌そうだ。 まあわからなくもない。
だからオレは取り巻きの女連中を適当にあしらいながら、教室へ向かった。
さて今日も真面目に勉強するか。
放課後。
もう部活は引退したから、本来なら暇なんだが今日は三年生の
お別れ会をやるので、部室に顔を出す必要がある。
まあオレ自身はこういう催し物はさして興味ないが、
一応、三年間ボクシング部に所属してたからな。
最後くらい出てやるよ。
オレはそさくさと歩いて、部室を目指した。
五分後に部室に到着。
すると同学年の影浦を含めた三年生が既にこの場に居た。
「よう、剣持。 ちゃんと来たんだな」と、影浦。
「まあ最後くらいはな」
「そうだよな、俺達は引退したんだよな。
今日が終われば、もうこの部室に来ることもないな」
なんだ、影浦の奴。 妙にセンチメンタルになってるな。
まあ気持ちは分からなくもないけどな。
すると宮下監督がこの場の空気をほぐすように明るい口調でこう言った。
「三年生諸君、本当に長い間良く頑張ったな。
ボクシングという厳しい競技をよく最後まで頑張ったな。
毎年こうして三年生を送り出しているが、
毎度のことながら寂しさと嬉しさが混ざったような
気分にされられるよ。 おまえらは俺の誇りだ」
「……」
意外だな、宮下監督がこんなことを言うとはな。
もしかしたら監督もセンチメンタルな気持ちなのか?
でも監督にこう褒められると、正直嬉しいぜ。
「では三年生を代表して主将の影浦、一言頼む!」
「はい!」
監督に言われて、影浦は監督の傍に立って軽く深呼吸した。
そしていつになく真面目な表情でこう告げた。
「皆と三年間、一緒に汗を流せて本当に良かったです!
そしてもう半年もすれば、卒業です。 オレは皆が高校卒業後に
ボクシングを続けるか、やめるかは個人の自由と思うけど
皆と過ごしたこの三年間は、まさにオレ達の青春そのものだと
思います。 では今日は最後ということで、皆でわいわいがやがや
楽しみましょう!」
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。
周囲の部員達が拍手する。 オレもそれに習うように拍手した。
そこからは予め用意されたお菓子や飲み物に手をつけながら、
皆が皆、談笑を重ねたが、オレは一人で部屋の隅っこに立っていた。
「おい、剣持。 そんな隅っこで一人で立ってるなよ」
「影浦、オレに構うな。 オレは一人が好きなんだ」
「あのなぁ~、もう最後なんだから少しは周りと協調しろよ!」
「最後じゃねえよ、少なくともオレは今後もボクシングを続けるつもりだ」
「へえ、そうか。 大学に合格したら、大学でやるつもりか?
実は俺も既にスポーツ推薦で大学に合格してるんだよ。
だからとりあえず四年間はボクシングを続けるつもりだ」
「……そうか」
「ああ、でも大学じゃ階級を上げるつもりだ。
身長が急激に伸びてな。 今じゃ178センチだ。 もうバンタムじゃきつい」
「ライト級は止めておけよ?」
「はぁ? なんでだよ?」
「決まってるだろ、ライト級にはオレが居るからだ」
すると影浦は一瞬顔をしかめたが、軽く嘆息してこう言った。
「お前、本当に良い性格してるなぁ~。 ある意味感心するよ。
でもまあそういうお前をリングでぶっ倒すと気持ちが良さそうだぜ」
と、にやりと笑う影浦。
「まあ精々夢をみておきな」
「……まあ次はリングで再会しようぜ」
そう言って影浦は右手を前に突き出した。
オレも右手を突き出して、影浦の右拳に自分の右拳をこつんと合わせた。
まあオレ個人はこいつ――影浦のことを少し認めている。
少なくとも他の取り巻き連中とは違う。
こいつは言いたいことはハッキリ言うし、オレに媚びたりしない。
だからオレもこいつの言葉には、最低限耳を傾けていた。
けして友達と呼べるような間柄ではないが、
戦友といえる間柄だったかもしれない。
「おい、剣持。 こっちに来い」
と、宮下監督が急に声をかけてきた。
「……何スか?」
「ちょっと俺と一緒に北館の応接室まで来てくれ」
「いいですけど、何の用ですか?」
すると宮下監督は俺に顔を近づけて、こう耳打ちした。
「プロの名門ジム・聖拳ジムがお前をスカウトに来てるぞ!」