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【本編&番外編完結】そこそこのスペックだけど、性格がアレで彼女できない男  作者: 如月文人
【番外編】かなり高スペックでアレな性格の男の拳闘伝
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序章(プロローグ)


 眩いライトに照らされた四角いリングの中で、二人のボクサーが戦っていた。

 高校ボクシングライト級四冠王者である剣持拳至けんもち けんじは歓声を一身に浴びながら、

 軽快なフットワークでリングを縦横無尽に駆け回る。


「下がるな、財前! 距離を詰めて左を打って行け!」


 青コーナーのリングサイトから福山田に激を飛ばされて財前武士ざいぜん たけしは、

 両手を上げてガードを固めて前進する。

 四冠王者である剣持は予め予測していたように、

 鋭い左ジャブを繰り出した。財前武士はそのジャブをパーリングで弾き、

 身体を捻ってステップインと同時に左ボディフックを放った。


 ガード越しに財前の左拳が絶対王者である剣持の右肘に強い衝撃を与えた。

 剣持拳至は高校ボクシング界きっての希望の星であり、

 将来的には五輪金メダルを期待されるほどの逸材であった。



 だがその剣持と相対する財前も昨年に続き、今年の夏のインターハイ優勝した二冠王者であった。

 両者の戦いは昨年の国体決勝以来のこれで二度目であった。



 本来なら財前武士はもっと脚光を浴びてもおかしくなかった。

 ただほぼ同世代に数十年に一人出るかの天才の出現により、

 その名声と栄光を全て持っていかれたのである。


 だが高校ボクシングのレベルにおいて財前武士は、

 十二分に優れたボクサーであった事は疑いの余地はない。


 ただ同時期にそれ以上の天才ボクサーの出現により、

 彼の実力と存在が軽視されたに過ぎない。 

 だがそんな周囲の評価は本人が誰よりもわかっていた。


「財前、距離を取らせるな。左から左右のアッパーに繋いでいけ!」


 コーチに言われるまでもなく、財前武士は左右のアッパーを繰り出しながら、剣持に狙いを定める。 

 剣持の上半身は顔面をガードしている両腕にパンチを受けるたびに、ぐらぐらと左右に揺れた。

 激しい攻防戦が繰り広げられ観客席がざわめく、

 剣持拳至はじわりじわりとニュートラルコーナーに追い詰められる。


 だが財前がいくらパンチを繰り出しても剣持のガードは

 下がらなかった。 財前は呼吸を乱しながら、その双眸で目の前の対戦相手を凝視する。

 端正なマスクとは裏腹に鋭い眼光を放ち、冷然たる表情でこちらを見据えている。

    

 しかし財前も怯む事無く、手を出し続けた。

 剣持はスウェイバックとウィービングを駆使して、財前のパンチを回避する。

 逆に左ボディフックを財前の右脇腹に叩き込んだ。 財前の動きが一瞬止まった。

 その隙に身体を入れ替えて、コーナーから脱出。


 そして今度は身体で八の字を描きながら、左右のフックを連打を繰り出した。

 左、右、左、右、左、右、左、右とひたすらフックを叩き込んだ。

 財前もガードを固めて、剣持のフックに耐えるが既に両腕が痛みで悲鳴を上げていた。



 それを待ち兼ねていたように、剣持の右腕が一瞬のうちに下がった。

 そこから狙いすましたように、右アッパーカットが突き上げられた。

 剣持の右拳がカウンター気味に財前の顎を捉えた。

 脳を揺さぶる衝撃とカウンターの破壊力で財前の腰がキャンバスについた。


 観客席が一斉にどよめきたつなか、レフェリーがカウントを数える。

 財前はなんとか立ち上がろうとするが、顎を打たれた衝撃で両足が思うように動かなかった。

 するとレフェリーがカウント8まで数えて、両手を交差して試合を止めた。


 剣持はニュートラルコーナーで、

 ロープに背中を預けたまま冷然たる表情で虚空を見据えていた。


 ――これで五冠か、まあ我ながら悪くないファイトだった。

 ――だがいまいち嬉しくねえな。 こいつ――財前も良い選手だった。

 ――でもオレが本当に戦いたかったのは、こいつじゃねえ。

 ――あの野郎――雪風健太郎。 奴は本当に勝ち逃げしやがった。

 ――このオレに二度も勝ったのに、ボクシングを辞めるとはな。


 ――まあいい、これで高校ボクシングは終わりだ。

 ――とりあえず明日からは、受験勉強に専念するぜ。

 ――そしてオレは彼女に――氷堂愛理に会う為、東京の大学へ行くぜ。



 こうして剣持はこの秋の国体も制して、高校五冠王者となった。

 そして国体・少年部門において優秀賞を貰ったが、本人はさも当然という表情だった。



 この男――剣持拳至はかなり高スペックだった。

 ボクシングだけでなく、学業成績も非常に優秀。 

 だが彼はそれらの美点を全て打ち消すかなりアレな性格の持ち主の少年であった。

 空気読まない、というか読もうとすらしない性格。 

 

 基本的にオレ様的な考えで我儘。 

 だから友達も殆ど居ない。 だが本人はさして気にしてなかった。



 ――孤独に悦びを感じてこその天才よ。

 ――そしてオレの青春は、孤独な青春でいいぜ!



 これはそんなアレな性格の持ち主の主人公・剣持拳至の物語である。




 ライト級決勝 剣持拳至(関西代表・顕聖学園高校) 2R2分38秒RSC勝ち


 国民体育大会少年の部・ライト級 剣持拳至(関西代表)三連覇達成!!



次回の更新は2021年3月6日(土)の予定です。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ってました!! 剣持の最強伝説のはじまり!? いやぁ、いろいろ楽しみです!
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