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第六十五話 山猫対白鳥(スワン)・(後編)

累計100ポイント達成!

これも全て読者の皆様のおかげです!




 さあ、試合の始まりだぜ。

 この試合に勝てば決勝進出だ。

 だから出来ることなら、派手な勝利を収めたいところだが、

 相手は昨年度のインターハイチャンピオン。

 ある意味、技術テクニックに関しては剣持より上かもしれない。



 だから俺は慎重に慎重を重ねて、まずは左ジャブで距離を測る。

 財前は左ジャブを右手でパーリング、俺は更に左ジャブを連打。

 しかしそれもパーリングで弾かれた。

 逆に財前が左ジャブを打ってきた。 俺はそれを右手で払った。

 どうにも地味な立ち上がりだが、まずは様子を見ることが大事だ。



 俺達は中間距離でしばらく左ジャブの差し合いをする。

 しかし共に決定打は許さない。

 財前の奴、思っていたより手堅いボクシングをしているな。

 ならばこちらから攻めるか。 よし、少し攻めて見るか。



 俺は財前の左ジャブに対して、相打ち狙いで左ジャブを合わせた。

 次の瞬間、俺の顔面に軽い衝撃が走ったが、

 俺の左拳にも確かな感触が伝わった。

 財前の動きが一瞬止まる。 そこで俺は強引に右ストレートを放った。

 威力より、速度と精度を重視した右が財前の顔面を捉えた。

 そこから左肩を回して、ワンツスリーの左ストレートを打った。



 しかしそれは華麗にスウェイバックして回避された。

 逆に軽いが速い左ジャブを立て続けに顔面に打ち込まれた。

 ちっ。 やはり想像以上に技術テクニックが高い。



 本当はもっと攻めたい気分だが、この選抜大会は1ラウンド3分。

 だからいつもよりスタミナ配分を考える必要がある。

 とりあえず1ラウンドは様子見だ。



 俺は再度、左ジャブを繰り出して、財前の顔面にヒットさせる。

 財前も左ジャブを受けながら、

 態勢を崩さず牽制するように左ジャブを放つ。

 再び左ジャブと左ジャブの応酬が繰り広げられた。



 だが俺のジャブは空を切り、財前の左ジャブが的確に俺の鼻と顎を捉える。

 ちっ、痛くはねえが正確に急所を狙ってやがる。

 綺麗なフォームから放たれるお手本のような左ジャブだ。

 だが威力は大したことねえな。 ――よしこれならば!!



 俺は身体を上下左右に揺らせてステップインして前へ出る。

 それと同時に財前が体重を乗せた左ボディフックを打ち放った。

 俺は素早く右腕でガードするが重い衝撃と痛みが走った



 ガード越しにも効くパンチ。

 なかなかの威力だ。 こいつ、パンチ力もあるぜ。

 そこから財前は至近距離で左右のショートアッパーを連打する。

 俺はガードやスウェイバック、ウィービングなどで財前の攻撃を防ぐ。

 やはり財前はアッパーカットが上手い。

 だがそれで怯む俺じゃないぜ。



 俺は焦らず冷静にパンチを目で追い、相手の表情を冷徹に観察する。

 財前が懸命に放つパンチを紙一重で躱し、

 俺は右フックを繰り出した。

 俺の右拳が財前の左側頭部テンプルを綺麗に捉えた。

 財前も予想外の角度からのパンチと衝撃に思わず腰を落としかけた。



 その間隙を逃さず俺は攻勢に出た。

 左右のフック、ワンツーパンチ。 それらをひたすら連打した。

 激しい連打で財前をコーナーに追い込んだが、そこで第1ラウンドが終了。

 まあこのラウンドに関しては五分五分かな。



 俺は忍監督にマウスピースを外してもらって、

 パンチで切れた口の中を水でうがいした。



「……悪くない立ち上がりだ。 だが技術テクニックでは相手が一枚上だな」


「はい、特にアッパーカットの切れがヤバいですね。 後、防御も上手い!」


 俺は思ったままにそう言った。

 忍監督はそれを聞きながら、俺の身体をほぐすようにマッサージする。


「これが全国のトップレベルの選手だ。 お前も強いが相手も強い。

 でも気持ちで負けたら話にならない。 だがお前には必殺の右がある。

 相手のパンチを防いで、お前の右ストレートをぶち込んでやれっ!」

 

 まあそれが簡単にできりゃあこんな苦労してねえけどな。

 残り2ラウンド6分。 6分くらいならギリギリスタミナが持ちそうだな。


「んじゃここからは少し強引に攻めますよ!」


 俺はそう言いながら、マウスピースを口の中に入れてゆっくりとはめた。


「ああ、気持ちで負けるなよ!」


 忍監督の激励に俺は元気よく「はい!」と答えてリング中央へと進む。

 対する財前はガードを高く構えて、頭を振りながらゆっくりと歩み寄る。

 俺達はしばらく睨みあっていたが、

 財前が鋭くて速いジャブを繰り出して試合が動く。


 対する財前は足を使い中間距離から、

 左ジャブを主体としたストレート系パンチで俺の前進を食い止めた。

 鞭のようにしなる伸びのある左ジャブが俺の顔面を叩く。


 スピードはあるが、威力はそれ程でもねえな。

 これくらいならどうってことねえ、よしそろそろ本気を出すぜ。

 俺は多少ジャブを貰いながらも、強引に前へ出て打ち返す。


「いいぞ、雪風! そのまま力押しで攻めろ!」


 観客席から香取が大きな声でそう叫んだ。


「健太郎、頑張れー!!」


「雪風くん、ファイト!」


「健太郎、負けるな!」


 観客席から里香や苗場さん、来栖の声援が聞こえる。

 ああ、分かってるぜ。 俺はお前等の前で醜態を晒すつもりはねえ。

 俺はじわりじわりと前へ出て財前に重圧プレッシャーをかけたが、

 財前も足を使いながら、牽制まがいの左ジャブを繰り出す。


 俺は財前の左ジャブを懸命に防ぎながら、

 一見愚直に前へ出るようで、財前が移動する場所を瞬時に見抜き、

 じわりじわりと逃げるスペースを未然に潰していった。


 結果的に財前はまた足を使い、距離を取るという消極的な選択肢を選び、

 なかなか試合のペースに変化が訪れなかった。

 次第に場内の観客も「逃げるな、打ち合え!」という罵声を飛ばす。


 すると財前は覚悟を決めたのか、リング中央で足を止めた。

 俺はそれと同時に身体を揺らせてステップインして前進する。

 そこから財前は鋭い右アッパーカットで顎を狙ってきたが、

 俺はそれを紙一重のスウェイバックで回避する。


 だが財前は焦らない。

 身体を内側に捻り俺の顔面に向けて左ストレートを放った。

 パーンという激しい衝撃音が会場内に響き渡る。


 財前の左ストレートが綺麗にクリーンヒットして、

 俺はわずかに後ろにのけ反った。

 そこから追い打ちをかけるように、財前は再び右アッパーを放つ。

 タイミング的にもパンチの角度も完璧であった。


 これを貰ったら、終わりだ。

 だから俺は僅かにバックステップして、

 ギリギリのタイミングでアッパーをよけた。

 空振りした為か、財前は少しバランスを崩した。

 ボディががら空きだぜ! 



 俺はそう思いながら、左のボディフックを財前の肝臓リバーに突き刺した。

 次の瞬間、財前は右膝をマットについた。

 財前は口からマウスピースを覗かせて、

 身体を小刻みに震わせて悶絶している。


「ダウン、ニュートラルコーナーへ!」


 レフリーの指示と同時に俺はゆっくりと自分のコーナーへ戻る。

 レフリーがゆっくりとカウントを取り始めた。

 レフリーのカウントを聞きながら、

 財前は必死に足を動かせて立ち上がろうとする。

 屈辱と怒りに満ちた眼で財前はこちらを睨んでいた。



 ほう、お前もそんな眼をするんだ。

 なんだかんだでお前もボクサーなんだな。 

 だがそれでビビる俺じゃねえよ!

 財前はカウントエイトまで休んで立ち上がった。

 財前がファイテンィングポーズを取り、レフリーが形式的に、

 グラブのナックル部分を触り、「ボックス!」と言ってファイト続行を命じた。



 財前は両腕を折り曲げて顔面をがっちりとガードする。

 ボディブロウの衝撃でまだ足がふらついているな。

 俺はその財前の姿をじっくり観察するように双眸そうぼうを細めた。

 そして俺はリングの中央に向かって猛然とダッシュする。

 そこから俺は左右のフックを物凄い勢いで振り回した。



 パン、パン、バアン!

 俺は財前のガードの上からお構いなしに左右のフック、

 そして時折ショートモーションでワンツーパンチを叩きつけた。

 ぐらぐらと揺れながら、財前はニュートラルコーナーの方向に下がる。

 財前は強烈な連打を浴びながら、ロープを背にしたまま防戦する。



 レフリーが試合の状況を観察するように様子を眺めている。

 このままだと俺のRSC勝ちまで秒読みという状況であった。

 だが財前は試合を投げていなかった。



 俺が次に放った強烈な左フックを財前はダッキングで躱した。

 そこから天めがけて、

 突き上げるような右アッパーカットを俺の顎にめがけて放つ。



 体重ウェイトは充分すぎるほど乗っており、

 カウンターとしてのタイミングも完璧であった。

 財前の起死回生のカウンターアッパーが俺の顎を捉えたかに見えた。



 なる程、絶妙なタイミングだ。

 だがそれと同時にこの機会を潰せば、俺に圧倒的な好機チャンスが到来する。

 よし、あれを……山猫リンクスパンチを実戦で使ってみるか!



 財前の右アッパーが伸びたその瞬間に、俺はわずかにウィービングして回避した。

 アッパーを空振りした財前が身体のバランスを崩した。

 ――よし、今だっ!!



 俺は前へ出る勢いを利用して、押し出すように右拳を前へ突き出した。

 そしてその右拳が財前の顔面に命中する寸前に内側に回転を加えた。

 コークスクリュー・ジョルトブロウ。

 別名・山猫リンクスパンチが財前の顎を綺麗に打ち抜いた。



 すると財前は糸の切れた操り人形のように、

 前のめりに青いキャンバスに倒れ込んだ。

 財前はマットの上に長々と横たわり、身体をわずかに痙攣させている。

 それと同時に青コーナーからリングにタオルが投げこまれた。

 そしてレフリーが腕を大きく交差させて試合終了を告げた。



 決まった、完璧に綺麗に決まったぜ。

 正直公式戦で使うのは、初めてだったので少し緊張したぜ。

 だが財前相手にこのパンチを決められたのは、嬉しい誤算だ。


「大丈夫か、財前!」


「おい、担架だ。担架!」


 財前側のセコンドがリングに雪崩れ込み、興奮気味にそう叫んだ。

 だが財前は身体をぷるぷると震わせながら、マットの上で頭を左右に振る。


「……だ、大丈夫……です……」


「財前、意識はあるんだな。 無理するな、いいか頭を動かすなよ!」


「……はい」



 ふう、どうやら財前は大丈夫のようだな。

 俺の右手にも凄い衝撃が走ったからな。

 相手をぶっ倒すのは、ボクシングの醍醐味だが、

 やはり倒した相手にも最低限の気遣いが必要だからな。



 そして担架が運ばれてきて、財前がその上に乗せられた。

 それから俺はリング上でレフリーに左手を上げられて、

 勝利者コールを受けた。



 ん?

 よく見ると観客席に剣持が居るじゃねえか。

 そういや奴は第一試合を1ラウンドRSC勝ちで早々に終わらせたな。

 それで余裕綽々で高みの見物ってか?



 まあでもそれはそれで構いやしない。

 山猫リンクスパンチを剣持が観ていたとしても、

 それはそれでいい。 あれはある種の撒き餌だ。

 本当の狙いは別にあるからな。

 まあそれを出すまでの過程が大変なんだけどな。



 ま、いいや。

 とりあえず今は勝利の余韻に浸っておこう。



「健太郎、おめでとう!」


「雪風くん、おめでとう!」


「健太郎、やったな!」


 俺がリングに降りる際に観客席から、

 里香、苗場さん、来栖の歓声が聞こえた。

 とりあえずこれで決勝進出だ。

 あの三人もわざわざ遠出して応援に来てくれたからな。

 これで最低限の面目は保った。

 でもどうせなら明日も勝って優勝したい。


 まあでも今日はゆっくり休むか。

 俺はそう思いながら、微笑を浮かべて会場を後にした。



ライト級準決勝 雪風健太郎(関東代表・帝政学院高校) 2R2分52秒RSC勝ち




次回の更新は2020年9月28日(月)の予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 第二の必殺技があるパターン。 もしくは、山猫パンチ・改 のパターンかな? 財前、あんまり強くなかった? ボクシングがわからず、そんな印象を受けましたが如月先生、解説お願いします。
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