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第六十三話 選抜大会開幕!

ここからラストまでスポ根&シリアスパートになります!



 全国高等学校ボクシング選抜大会。

 通称・選抜大会。 選抜大会は高校三冠の一つであるが、

 高校からボクシングを始めた一年生は、「一年間は試合禁止」

 というルールの為に出場できない故に、

 二年生及び経験者の一年生がメインの大会だ。



 大体は他の大会と同じルールだが、

 この選抜大会においては、高校生でも一ラウンド三分で試合が行われる。

 たかが一分長いくらいじゃ、どうってことないように思われそうだが、

 実際一分違えば三ラウンドで9分となり、この差は地味に大きい。

 俺も故にこの大会に向けて、スタミナ面の強化も図った。



 ちなみに開催地は群馬県。

 出場選手である俺、新島、香取、それと忍監督の宿泊費は、

 学校の援助に加えて、東京都からの助成金もあって無料で済んだ。



 また大会に出場しない部員の交通費も出たので、

 部員の殆どが早朝にスクールバスに乗って、日帰りで群馬にかけつけた。

 まあ東京から群馬ならギリギリ行けない距離でもないからな。

 でもこれで惨敗したら、みんなに合わせる顔はない。

 だから最低でも準決勝には勝ち進みたい。



 それと里香と苗場さんはどうやら苗場さんの親戚が群馬に

 住んでいるようなので、大会期間中はそこで宿泊するようだ。

 尚、来栖に関してはバイトが忙しくて、

 応援に来られるのは、準決勝の日からだそうだ。

 そういう訳で何が何でも負けられない。



 ちなみに高校ジュニアの男子ライト級は総勢十五名。

 関西代表の剣持と東北代表の財前が推薦選手扱いなので、

 別々のブロックに分けられた結果、

 俺が順当に勝ち進めば、準決勝で財前、決勝で剣持と当たる。


 全部で四試合勝てば優勝だ。

 だが短い期間で四試合が連続して行われるから、

 スタミナの配分や疲労やダメージを残さないことが大事だ。

 そして選手である俺、新島、香取は無事計量と検診を終えた。



 試合会場はなかなか大きくて、わりと新しかった。

 観客もそこそこ入ってるな。

 よく見るとメディアやプロのジムの会長、トレーナー陣、

 あるいは大学の関係者の顔もちらほら見えた。


 まあ大学へのスポーツ推薦を考えたら、

 全国大会は選手としては恰好の見せ場であり、

 有望な高校生ボクサーの品表会である。

 

 そのせいか、どいつもこいつも気合が入った表情をしている。

 自然と俺も気合を入れるが、この大会においては俺なりに考えがある。

 それはコンディションのピークを準決勝、決勝に持っていくことだ。

 だから一回戦や二回戦は相手や状況次第で少し手を抜くつもりだ。

 とにかく少しでも良いコンディションで財前と剣持と戦いたいからな。


 そしていつも通りに軽い階級から試合が行われ、

 フライ級の香取とバンタム級の新島も大差の判定勝ちで二回戦へ進出。

 それからも試合は順調に消化されて、ようやく俺の出番が回って来た。


「健太郎、頑張って!」


「雪風くん、ファイト!」


 リングインする時に応援席から里香と苗場さんの声援が聞こえた。

 本当は手を振り返したいが、それは周囲の顰蹙を買うからやめた。

 一回戦の相手は北海道代表の二年生・一文字いちもんじ

 昨年度のインターハイベスト16、国体ベスト8という高成績を

 収めている。 特筆すべき長所はないが、全体的に基礎能力が高く

 それでいて穴のない左構え型(サウスポー)の選手だ。



 左構え型(サウスポー)かぁ~。

 一回戦から左構え型(サウスポー)に当たるとは運がねえな。

 ここは無理せず、序盤は慎重に試合を進めよう。

 そして試合が始まった。



 俺と一文字は共にトントンと青いキャンバスを

 リングシューズでリズミカルに踏みながら、様子を見る。

 そして射程圏に入るなり、俺は果敢に左ジャブを出した。



 何発か、綺麗に顔面に入ったが一文字も右手で綺麗にジャブを払う。

 そこから時折、右ストレートを叩き込んで、相手を威嚇する。

 そして右を打つと見せかけて、左ボディフックで相手のリバーを強打。

 あるいはまた小まめに左ジャブを出して、的確にポイントを稼いでいく。



 非常に地味でやや単調だが、これがある意味無難な戦いだ。

 いや俺も出来るなら、全試合RSC勝ちしたいよ?

 でも全国大会ともなると、そう簡単にはいかないのよ。

 だから俺はちっぽけな自尊心プライドを捨てて、目先の勝利を追った。



 そしてあまり盛り上がりもないまま、第3ラウンドに突入。

 とりあえず1ラウンド3分の影響は今のところはない。

 ならばここは攻勢に出るべきだが、俺はまた慎重に試合を運んだ。

 時々観客席からため息が漏れるが、それにもぐっと耐える。

 俺は相手の右ジャブをパーリング、ブロックしながら

 逆に左ジャブを喰らわせて、更にポイントを積み重ねた。



 そして消化不良のまま試合終了のゴングを聞いた。

 結果は大差で俺の判定勝ち。 だが里香は歓声を上げず、

 どこか退屈な表情で投げやりな拍手をする。

 苗場さんは控えめな声で「おめでとう」と言ってくれたが、

 それ以外の観客はややシラケ気味だった。


 まあ俺自身、消化不良な気分だ。

 だがこれはあくまでトーナメント大会。

 だからまずは確実に勝ち上がることが大事だ。

 と、俺は自分を慰めながら、試合会場を後にした。



 翌日。

 この日も検診と計量が行われ、男女合わせて全員無事にパスした。

 それからまた軽い階級から、試合が消化されていく。

 香取と新島はまた共に判定勝ちで準決勝に勝ち進んだ。

 そして再び俺の出番がやってきた。



 二回戦の相手は東海代表の一年生・鴨川かもがわ

 一年生ながら、昨年のインターハイベスト8、国体ベスト8という

 結果を出している好選手。 多分何処かのプロのジムで小学生か、

 中学生の頃からやっていたのであろう。

 しかし相手は一年生、俺にも意地がある。 だから負ける気はない!



 そしてゴングが鳴るなり、鴨川がコーナーから飛び出してきた。

 俺は鋭く放たれる左ジャブを綺麗に弾きながら、

 逆に左ジャブを相手の顔面に小刻みに叩き込んだ。



 いきなり飛び込んで来るとは、こいつなかなか度胸があるな。

 俺としても出来ることならば、真正面から打ち合いをしたい。

 だがここはぐっと我慢して、鴨川の突進を交わしながら

 左ジャブでこつこつとポイントを稼いでいく。



 すると鴨川は苛立った表情をしながら、

 間合いを詰めて左右のフックを振り回すが、

 俺はブロック及びウィービングで鴨川のフックを完璧に回避する。

 そしてまた左ジャブ、あるいは時折、右ストレートを叩き込んだ。



 鴨川はそれでも執拗に接近戦インファイトを挑んできたが、

 俺はそれに合わせず、足を使って逃げて、相手が更に攻めてきたら、

 左ジャブでカウンターを狙い、じわじわと相手の体力を奪う。



 そんなやや単調な試合運びで迎えた最終ラウンド。

 すると鴨川の動きが明らかに鈍り始めた。

 ん? 思いのほか、疲労しているようだな。

 そうだな、ポイントはしこたま稼いだから、頃合いを見て攻めるか。

 里香や苗場さん、他の部員の手前、あまりダサい姿は見せたくねえからな。



 鴨川はそれでも愚直に前へ前へと進み、左ジャブの連打を繰り出す。

 俺はパーリングとウィービングを駆使して、

 鴨川のジャブの連打を躱し、自由自在に四角いリングを駆け回った。



 鴨川が追い、俺がそれを闘牛士のようにひらりと躱し、

 離れ際に随所にパンチを繰り出す。

 そういう攻防が一分以上続き、鴨川の表情に疲労の色が

 濃く浮彫りになる。 よし、そろそろ仕掛けるか。



 俺は鴨川がステップインすると同時に左ジャブを顔面に叩き込んだ。

 すると鴨川の身体がぐらぐらと揺れ動いた。

 そこから俺は高速のワンツーパンチが繰り出して、

 綺麗に鴨川の顔面に命中させた。



 その衝撃で鴨川の身体は後方に泳いだ。

 そこから俺はひたすら左右の拳でワンツーパンチを繰り出した。

 ガードの上から強引にただひたすら左右の拳で強打。

 


 スタミナは……大丈夫だ、まだ余裕がある。

 ならばここは多少強引でも力で相手をねじ伏せる。

 周囲の評価も考えてのこともあるが、

 財前や剣持と戦ったら、必ずこういう局面が来るからな。

 とにかく攻めれる時は攻める。 それがボクシングで勝つ秘訣だ。



 鴨川は両腕で必死にパンチをガードしているが、苦しそうだ。

 時折レフリーがちらちらと鴨川の表情を様子見ている。

 そこで俺は一端後ろに下がり、苦しそうな表情をして見せた。

 すると鴨川が反撃の機会と見たのか、果敢に前へ出てきた。

 ――甘いな。 この程度の誘いに乗るようじゃまだまだ甘いぜ。



 鴨川は余力を振り絞り、全身をしならせて右腕を伸ばした。

 体重ウェイトが乗った良いパンチだ。 だが少し遅いぜ!

 鴨川の右ストレートが伸びたその瞬間に、

 俺はダッキングしてかわし、

 逆にカウンター気味に右ストレートを鴨川の顎の先端(チン)に叩きこんだ。



 右拳に確かな感触が伝わる。 こりゃ決まったかもな。

 俺は控えめに右手を上げて、ニュートラルコーナーへと戻った。

 鴨川は虚ろな表情でマットの上に長々と横たわっている。


「ワン、ツー、スリー……」


 レフリーがカウントを取り始めた。

 そしてレフリーのカウントがエイトまで数えると試合を止めた。

 それと同時に会場がどっと沸いた。

 しかし俺は勝利者コールを涼しい顔で受けた。

 そして里香や苗場さんと思われる声援を背にして、リングを降りた。


 これで無事準決勝進出。

 ここまでは言わば前座の戦い。

 これからの二試合が本当の正念場だ。

 だが俺としても負けるつもりはさらさらねえ。

 財前武士! まずはお前に勝つ!!



ライト級二回戦 雪風健太郎(関東代表・帝政学院高校)3R2分13秒RSC勝ち




次回の更新は2020年9月26日(土)の予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 次は、応援団のいる財前との戦い。 健太郎頑張れ!!!! 如月先生からバックブリーカー宣告。 非公式らしいけど、全く不憫だとは思わない。 何故なら、リア充だから!
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