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第五十七話 関東選抜大会  



 そして年が明けて、迎えた新年。

 とりあえず大晦日には、いつもの面子で初詣に行ったが、

 それ以外は殆ど予備校の冬期講習へ行っていた。


 まあ今年から本格的な受験生になるからな。

 とりあえず今は英語と現国の二教科だが、

 そのうち古典や世界史の講義も取るつもりだ。

 そんな感じで勉強の方はそこそこ調子が良い。

 


 そして部活の方も絶好調だ。

 毎朝の日課であるロードワークは一日も欠かしてないし、

 毎日部活に出て、ひたすら激しい練習に励んだ。

 練習の大半は、スパーリングとマスボクシング。

 やはり実戦形式の練習が一番効果がある。



 とはいえ少々物足りないのも事実。

 フライ級の香取とバンタム級の新島は全国レベルの選手だが、

 階級の近いライトウェルター級の森川やウェルター級の島本は、

 全国大会を想定すると、スパーリングパートナーとしては

 いまいちだ。 いや悪くない選手ではあるんだが、

 剣持や財前と戦うなら、もっと強い相手とスパーしたい。


 だから忍監督に関東選抜大会が終わったら、

 古巣の神山ジムでスパーリングしたいと伝えた。



「まあお前がそうしたいなら、そうするがいいさ。

 ただし出稽古に行くのは、全国の切符を手にしてからだ」


 と、もっともな意見を言う忍監督。

 まあそうだな、まずは関東選抜大会で優勝しないとな。


 そして迎えた一月下旬。

 関東選抜大会(全国選抜予選)が開催された。

 試合会場は千葉県の市立体育館。


 我が帝政からの出場者は、フライ級の香取、バンタム級の新島、

 ライト級の俺、ライトウェルター級の森川、ウェルター級の島本、

 ミドル級の中村、この六人が本大会に出場する。


 とりあえず俺と新島はシード扱いで二回戦からの出場だ。

 そして香取、島本、中村の三人は順当に二回戦へ勝ち進んだ。

 ライトウェルター級の森川は残念ながら判定負けだった。


 翌日の二十五日。

 フライ級の香取とバンタム級の新島は判定勝ちで決勝に駒を進めた。 

 そして迎えたライト級の第一試合、この俺の出番がやってきた。


 俺の対戦相手は千葉県の幕割総合高校の森澤もりさわ

 全国レベルの選手ではないが、悪くない選手だ。

 だがここで勝てないようでは、話にならない。

 ちなみに今日は里香達は応援に来ていない。

 そういう意味じゃ気楽だ。

 

「頑張れよ、雪風!」


 俺がリングインする時に香取と新島と森川がそう声援を送ってくれた。

 最近は新島率いる二年生グループも俺に普通に接している。

 まあそういう意味でも少しは期待に応えないとな。

 そしてレフリーが試合前の注意をして、試合が開始された。



 俺は冷静な試合運びで相手のパンチを一発も喰らわず、

 的確に急所にパンチを打ち、相手のガードを下げる。

 そこから左ボディフックを相手の脇腹に打ち込み、最初のダウンを奪う。



 何とか相手は立ったが、最早勝負はついており、

 俺がラッシュを繰り出すと、レフリーが間に入って、

 腕を交差させて俺のRSC勝ちを告げた。

 まあ俺の目標はあくまで選抜本戦だからな。

 こんなところで負けるつもりはねえよ。



 その後、ウェルター級の島本は善戦むなしく判定負け。

 ミドル級の中村は序盤に猛攻をしかけたが、

 2ラウンドの中盤以降にガス欠して、

 3ラウンドに相手のカウンターを顎に喰らいRSC負け。

 結局、決勝に進んだのは、俺、香取、新島の三人となった。



ライト級二回戦 雪風健太郎(東京都・帝政学院高校) 1R1分18秒RSC勝ち



 更に日が明けて、迎えた二十六日。

 この日の決勝戦を勝てば、晴れて全国の舞台へ進むことができる。

 まあインターハイ王者の財前と国体王者の剣持は、

 推薦選手として、三月の選抜本戦に出場することが既に決まっている。

 そういうわけなので俺としては、

 この決勝戦を絶対に落とすわけにはいかない。



 そしてこの日も軽い階級から試合が行われて、

 フライ級の香取とバンタム級の新島が判定勝ちで優勝した。

 これにより香取と新島の二人も選抜大会の切符を手にした。

 こうなれば絶対に負けるわけにはいかない。

 決勝の俺の相手は埼玉県の浦和大南うらわだいなん高校の二年生・わたり

 ちっ。 左構え型(サウスポー)か。 めんどうだな。



「健太郎、頑張れ!」


「雪風君、頑張って~!!」


 観客席から里香と苗場さんの声援が届いた。

 今日は日曜日だからな。 彼女等も応援に来れたようだ。

 ならば二人の前でダサい姿は見せられないぜ。 この試合も勝つ!

 レフリーが試合前の注意をして、俺達は互いにニュートラルコーナーに戻る。

 そしてゴングが鳴り、試合が開始された。



 序盤から激しいジャブの応酬と打ち合いが展開されるが、

 お互いに決定打は許さない。

 渡はガードを高くして、

 教科書通りの綺麗な右ジャブをテンポ良く繰り出す。



 俺も例外なく左構え型(サウスポー)が嫌いだ。

 俺は右構え型(オーソドックス)とは違う構え、

 パンチの角度に戸惑いながらも懸命に応戦する。

 俺は渡の放つ鋭い右ジャブを懸命に躱しながら、左ジャブを打ち返す。

 そこから左ボディフックを渡の脇腹に向けて放つ。

 ボディブロウが綺麗にリバーに決まり、渡が苦悶の表情を浮かべる。


「いいぞ、雪風!」


「雪風、良い調子だぞ!」



 観客席で試合を終えた香取と新島が興奮気味にそう叫ぶ。

 俺は鋭く速いワンツーパンチを繰り出した。

 左、右と綺麗なパンチが渡の顔面を捉えた。



 思わず仰け反る渡。 だが渡は足を使い距離を取る。

 俺が追い、渡が足を使うという展開になり、

 試合はややこう着状態になり、一ラウンド終了のゴングが鳴り、

 両者共に自コーナーへと戻る。



 俺は軽くうがいしてから、忍監督にマウスピースを口の中に入れてもらった。

 そして俺は二ラウンド開始のゴング音と共にコーナーから出る。

 渡は先ほどと同じく右ジャブを繰り出しながら、

 足を使いリング上でサークリングする。

 俺はその右ジャブをパーリングで弾いたり、紙一重でパンチを躱す。

 そこから左ジャブを繰り出し、幾度か渡の顔面を捉える。



 多少距離の違いはあるが、やはり左ジャブなら当てられる。

 俺は更にジャブを連打、連打、連打。 マシンガンのように打った。

 ジャブを喰らいながら、後ろに下がる渡。

 よしこの勢いのまま攻めてやる!



 俺はジワリジワリと重圧をかけて、

 左右のフックの連打で渡に襲い掛かる。

 ガード越しだが構いやしない。



 俺はとにかく力一杯左右のフックを振り回した。

 渡はなんとかガードしているが、その表情は怯んでいる。

 俺はそこから左ボディブロウを放った。 

 渡は右腕をさげてなんとかガードする。

 だが俺は手を休めない。



 即座に右アッパーを繰り出し、渡の顎に打ち込んだ。

 綺麗に決まったアッパーに渡は思わず、

 身体を九の字にして身体を振るわせた。


「いいぞ、健太郎! そのまま倒しちゃえ!」


「雪風っ!! パンチを上から下に打ち分けるんだ!」



 観客席から里香や香取の声援が飛び交う。

 しかし渡も必死に足を使って逃げる。

 直線的な動きだな。 どうやらもうかなり足にきてるようだ。

 ならば小細工はいらねえ、力でねじ伏せる!



 俺は渡の移動場所を予測しながら、冷静に足で間合いを詰める。

 気がつけば渡はコーナーに追い詰められていた。

 渡が「やばい!」という感じの表情をする。

 気付くのが遅せえよ、貰ったぜ!



 俺はウェイトを乗せた右ストレートで渡の顔面を狙う。

 渡は咄嗟にガードしたが、そのガードを突き破り、

 俺の右拳が渡の顔面を捉える。

 鈍い衝撃音と共に渡の鼻から赤い鮮血がほとばしる。



 パンチの衝撃で渡はグロッキー状態になり、身体をふらつかせた。

 ボディががら空きだぜ!

 俺は左フックのダブルで渡の脇腹と顎を強打。

 渡の身体がバランスを崩す。



 そこから更に左右のショートアッパーで渡の顎を強打。

 顎を上げマウスピースを口から覗かせて、渡の眼が虚ろになる。

 だが俺は手を緩めない。

 その時、レフリーが俺と渡の間に割って入った。


「ストップだ、試合終了だ。タオルが投げ込まれた!」


 レフリーが鋭い視線でこちらを見ている。

 気が付けば渡はレフリーにもたれかかり、右膝をマットについていた。

 青コーナーからタオルが投げ込まれたようで、

 会場がにわかにどよめく。

 少し消化不良だが、まあ勝ちは勝ちだ。


「良い攻勢だった。 苦手なサウスポー相手によくやった」


 忍監督が俺の近くに駆け寄りそう呟いた。


「……まあ相手が誰であれ全力で向かうだけですよ」


 と俺はやや無愛想にそう言った。

 それから俺はレフリーに手を上げられて、

 観客から歓声を浴びて勝ち名乗りを受けた。


「健太郎、かっこいいわよ!」


「雪風君、おめでとう!!」


 まあ里香にも苗場さんにも良いところを見せれたし、良しとするか。

 これで選抜の出場権は得た。

 財前、剣持! 次はお前等の番だぜ!



ライト級決勝戦 雪風健太郎(東京都・帝政学院高校) 2R1分11秒RSC勝ち




次回の更新は2020年9月20日(日)の予定です。



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