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第五十五話 ビバ! ディスティニーランド(前編)


 俺は新人戦が終わってから、予備校に通い始めた。

 まあ部活も大事だが、やはり学生の本業は勉強だからな。

 とりあえず今のところは英語と現国の講義だけ受けているが、

 予想に反して、講師の教え方が上手く勉強も捗っている。


 そしていつのまにか里香や苗場さんも同じ予備校を通うようになった。

 彼女等もとりあえず英語と現国だけ受けていたが、

 講師の講義や教え方に満足しているようだ。

 まあ来年になれば、本格的に受験勉強に励むことになる。

 だから今から受験勉強をやってても早い、ということはない。


 そんなわけで部活と予備校、そして勉強三昧の日々が続いた。

 そして気が付けば十二月の中旬。

 期末試験も終わり、もうすぐ冬休みに入ろうとしていた。


「よし、テストも終わったし、後は冬休みを待つだけね!」


 と、やたらハイテンションでそう言う里香。


「でも里香ちゃん、予備校の冬期講習があるじゃない?」


 真面目な苗場さんがそう言って現実に引き戻す。

 すると里香は「うっ」と言いながら嫌そうな顔をした。


「さ、早苗は相変わらず真面目ねえ」


「だってもう少ししたら私たちも三年生になるんだよ~?」


「ま、まあそうだけどクリスマスくらい遊んでも罰は当たらないでしょ?」


「まあ確かに……で里香ちゃん、クリスマスに何か予定あるの?」


「ふふふ、よく聞いてくれたわ! 

 じゃじゃーん、見よ、このチケットを!!」


 と言いながら、里香が何かの紙をぴらぴらさせた。

 ん? なにかのチケットか?


「あ、それ……ディスティニーランドのチケット!?」


 と、やや目を輝かせて言う苗場さん。

 ん? もしかして苗場さんもディスティニーランドが好きなのか?

 まあ苗場さんも年頃の女子高生だし、珍しくないか。

 よく見るとチケットは四枚ほどあった。


「これ、どうしたの? 四枚もあるじゃない」


 すると里香は凄くドヤ顔でこう言った。

 「よくぞ聞いてくれた」みたいなドヤ顔だ。

 俺がすればウザいことこのうえないが、里香だからギリギリ可愛い。


「ふふふ、うちのパパがなんか取引先のお偉いさんに貰ったらしいわよ。

 そういうわけでこの四人で、

 クリスマスにディスティニーランドへ行こうよ!」


「え? わたしも行っていいの?」


 苗場さんはそう言いながら、ちらりとこちらを見た。

 すると里香が良い笑顔でこう言った。


「うん、というか私と早苗、

 それと健太郎と零慈の四人で行きたいな」


「え? お、俺も?」


 と、珍しく少し戸惑う来栖。


「うん、流石の零慈もクリスマスにはバイト入ってないでしょ?」


「い、いや普通にシフト入れてるだけど……」


「え? マジ?」


「う、うん。 まあ今からなら調整できなくもないけど……。

 でもいいの? どうせなら健太郎と二人で行けばいいんじゃない?」


 と、さらりと話題を変える来栖。

 まあありがたいといえばありがたいんだけどね。

 でもな、来栖。 俺にはクリスマスのディスティニーランドなんて

 超リア充空間は少し、いやかなり荷が重いんだよ。

 

「いやさ、健太郎ってあまり気が利かないじゃない?

 どうせ二人で行っても「混んでる」とか「待ち時間だりぃ」

 とか言うに決まってるじゃん? 

 だからそれなら四人で遊んだ方が楽しいでしょ?」


 ……いかん、里香に俺の思考パターンが読まれているな。

 正直そう言われて否定できない自分が居るよ。


「まあ俺は里香や健太郎がいいなら、参加してもいいよ」


「私も二人さえよければ、一緒に行きたいわ」


「問題ナッシング! 零慈と早苗の参加決定!

 健太郎もそれで文句ないわよね?」


「あ、ああ……」


「では決戦はクリスマス! 

 各自、当日は目一杯お洒落してくるように!」


「ういうい」「「うん」」


「健太郎、ちゃんと返事しなさい!」


「はいっス!」


 なんだよ、お前は俺の母ちゃんかよ!?

 でもそんなこと言ったら、キレそうなので言えない。

 こうしてクリスマスという一大ベントでこの面子で遊ぶこととなった。

 まあクリスマスに里香と過ごすのは、

 いいが正直この時期のディスティニーランドへはあまり行きたくないなぁ。


 でもこんだけ里香がテンション高いのも珍しい。

 だから今年は特別に付き合ってやるよ。

 どうせ来年の今頃は受験でそれどころじゃないだろうからな。



 そして迎えた十二月二十五日。

 俺達はディスティニーランドにやってきた。

 面子は俺と来栖、里香、苗場さんの四人だ。

 

 里香は千鳥柄のチェスターコートにハイネックの黒いセーター。

 少し短めの黒とグレイのチェックスカートに黒タイツと黒パンプスという格好。

 全体的に黒い感じだ。 でもなんだかんだで似合っている。


 一方の苗場さんは白いコートにベージュのニットセーター、

 手には黒いミトン、下はやや丈の短い黒のプリーツスカートだが、

 黒タイツと茶色いロングブーツを履いてるので、意外と露出は少ない。

 ふむふむ、苗場さんは苗場さんでいいじゃないの。

 俺的には二人が黒タイツを履いているのがポイント高い。


「ちょ、ちょっと健太郎、あまりジロジロ見ないでよ?」


「あ、悪い悪い。 つい見惚れてしまってな」


「そ、そう? まあでも健太郎もそこそこ良いセンスしてるよ」


「そうか?」


「うん、その黒のダウンジャケットとか良い感じ」


 俺は黒のファー付きのダウンジャケットにグレイのニットセーター、

 下は黒いズボンに黒いスニーカーというシンプルなスタイル。

 というか来栖も似たような格好だ。

 男の冬場のファッションは、けっこう似たような感じになりがちだよな。

 まあでも我らがお姫様に合格点は貰えたようだ。


「じゃあ、早速だけど行くわよ!」


「「「うん」」」


 なんか里香さん、超ノリノリだ。

 そんなにディスティニーランドが好きなのか?

 今までも色んな所へ遊び行ったけど、あきらかにテンションが違う。

 まあ里香とディスティニーランドへ来るのは随分久しぶりだからな。

 でもあの時は苗場さんは居なかったなぁ。

 そういう意味じゃ今回は両手に華状態とも言えなくない。


 とりあえず俺達は入場待ちの列に並んで、チケットをパスに

 引き換えてもらい、エントランスゲートから中に入った。

 そのまま進みに広場に出ると、俺達は思わず息をのんだ。


 ちょうど良い場所に設置された大きなクリスマスツリーに

 イルミネーション、西洋風の建物が並んだメインストリート、

 そしてその後ろでそびえたつ白亜の城。


「うわぁ、綺麗……」


「うん、凄いよね」


 里香と苗場さんがうっとりしながらそう言う。

 かくいう俺もこの光景には、眼を奪われた。

 すげえ、まるで映画みたいだ。

 

 ああ、こうして生で観るとなんか分かる気がする。

 日本全国でディスティニーランドが愛されている理由を。

 確かに女の子からすれば、こんな光景観たらたまらんよな。

 まさに夢の国、夢の世界だ。


 里香と苗場さんはキャーキャー言いながら、

 クリスマスツリー前で撮影待機列に並び始めた。

 まあ確かにこりゃインスタ映えするわな。


 しかしクリスマスということもあり、

 撮影待機列はかなり長く撮影するまで随分待たされた。

 一応俺達四人でも一緒に撮ったりしたが、

 正直俺は四枚くらい撮ったところで、飽き始めた。

 とはいえ流石にそれを態度に出すわけにもいかず

 辛抱強く二人の撮影が終わるまで待った。

 そしてようやく撮影が終わり、場所を移動する。


 んで最初に乗るアトラクションについて随分と悩んだ。

 一番人気はスプライト・マウンテンだが、

 ターンテッド・ハイマンションも捨てがたい。


 しかしここはあえてスーパーギャラクシーマウンテンを選んだ。

 いや実は俺は未だにスーパーギャラクシーマウンテンに、

 乗ったことねえんだよ。

 というかディスティニーランド自体数える程度しか来てない。

 みたいなことを言うと――


「そうね、まあ私は皆で楽しめたら何でもいいよ」


「うん、私もそれでいいよ」


 と、予想に反して女性陣二人はすんなり折れた。

 自分で言っておいてアレだが、この反応は意外だ。


「本当にい、いいのか?」


「うん、だって零慈や早苗は別だけど、健太郎はわりと

 無理して付き合ってくれてるでしょ?

 だから健太郎の要望にもある程度は応えるよ」


 俺はこの里香の言葉に少し胸が打たれた。

 なんだかんだで里香は俺を理解してくれてるな。

 そうだな、俺ももうちょっと頑張って皆に合わせるか。


「じゃあ早速行って並ぼうよ」


「あ、ああ……」


 そして俺達は三大コースター系アトラクションの一つ、

 スーパーギャラクシーマウンテンの列に並んだ。

 だが流石は人気アトラクション。

 冬場だというのに超混雑しているよ。

 そして待つこと、六十分以上。


 ようやく俺達の搭乗時間が回ってきた。

 そしていざ走り出すギャラマン(略称である)。

 いやねえ、これがもう凄いの、何の!!

 暗闇の中をハイスピードで急上昇、急降下、

 急旋回しながら走行するんだな。

 いやさ、前も言った通り俺はジェットコースター系苦手なのよ?



 でもさ、天下のギャラマンだよ、ギャラマン!

 もう怖がってる場合じゃねえ、このビッグウェーブに乗らなきゃ!

 みたいな訳の分からんテンションになって、心から楽しんだよ。

 まずね、ギャラマンの良いところは、

 暗闇で何処に行くか予想できないこと。


 

 俺くらいの年齢になるとさ、もう普通のことじゃ感動しないのよ。

 何事に対しても、「ま、所詮予定調和だし」みたいな男子高校生特有の

 冷めた目で見るところあるじゃん? 

 でもさ、やはり予測不能とか体験したことに対しては、

 熱い思いが沸き上がるじゃん。 え? 俺だけ?



 まあいいや。

 とにかく暗闇の中をけっこうなスピードで走るわけよ。

 急降下はあまりないけど、急旋回がすんげえ激しいの。

 でも俺的にはこれが良かった。



 未だに急降下には慣れないが、意外と急旋回は平気なのだ。

 そんな感じで実は最初から最後まで楽しんでましたよ。

 でも里香や苗場さんの女性は「きゃーきゃー」言いながら

 楽しんでるのよ、里香はともかく苗場さんはこれ系のアトラクションが

 苦手と思ってたが、実は里香以上に楽しんでいた気がする。



 また普段はクールな来栖もこの時ばかりは随分とテンションが

 高く普段は見せないような表情や絶叫をしていた。

 よく分からんが、ディスティニーランドには俺達高校生を

 童心に返すような何かがあるのかもしれんな。

 でも散々面倒くさがったが、こうして来てみるとけっこう良いもんだな。



 そして夢の時間が終わり、俺達はギャラマンから降りた。

 なんか思った以上に足元がふらふらする。

 まあこれに関しては俺だけじゃなさそうだ。

 来栖も里香も苗場さんも同じような反応をしている。



「なんか足がふらふらする。 でも楽しかったぁ~」と、里香。


「う、うん。 実は私も初めて乗ったけど、凄かったね」と、苗場さん。


「俺も実際に乗るのは、小学生以来かも」


 と、来栖がしんみりとした表情でそう言った。

 まあ東京住まいとはいえ、

 そんなしょっちゅうディスティニーランドへ行くもんでもないからな。


 ある意味しょっちゅう行ってるJKに尊敬の念すら覚えるよ。

 こんだけ混んでいる場所で糞長い列に並んで、

 限られた予算と時間でディスティニーランドを楽しみ尽くすんだからな。

 俺には一生真似できそうにない。


「じゃあ次行こう、次!」


 と、元気にはしゃぐ我らが里香さん。

 でもその表情はとても楽しそうだ。

 やれやれ、しゃあねえな。

 その笑顔の為なら多少の我儘を聞いてやるか。


「んじゃ来栖、苗場さん、そろそろ行こうぜ」


「うん、そうだね」「そうね」



次回の更新は2020年9月13日(日)の予定です。


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