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第五十三話 新人戦



 修学旅行から終わって、しばらくすると中間試験が行われた。

 天国の後の地獄とはまさにこのこと。

 とは別に思わんな。 あらかじめ分かってたことだしな。

 んなわけで試験の一週間前はファミレスなどでいつも面子で勉強してた。

 俺の来栖、里香、苗場さんの四人だ。



 まあ里香の奴がテンション超低くて文句ばかりだったが、

 苗場さんが試験範囲を丁寧にまとめてたので、今回それが役に立った。

 そして三日間続いた中間試験がようやく終わった。



 午前中に二~三教科の試験を受け、午後は家に帰って勉強。

 という非常に退屈な作業からようやく解放された。

 ちなみに俺の試験の手ごたえは悪くない。

 今回は理数系科目もわりと本気で頑張ったからな。



「あ~、ようやく試験から解放されたぁ~」


 と、自分の席で大きく伸びをする里香。

 まあ修学旅行の後の試験だからな。

 普段以上の解放感があるだろう。


「早苗、帰りにどっか寄ろうよ?」


「いいけど何処へ行くの?」


「ん~、カラオケとか?」


「うん、いいよ」


「健太郎……は今日から部活なの?」


「ああ、新人戦も近いからな。 ちょい本気で練習するつもり」


「ふうん、そうなんだぁ~。 じゃあ頑張ってね」


「ああ、じゃあな。 里香、来栖、苗場さん」


「うん。 雪風君、頑張ってね!」


「健太郎、試合は必ず観に行くよ」


「おう、じゃあ行って来るわ」



 その後、しばらく練習に励む日々が続いた。

 もう拳に不安はないので、サンドバッグ打ちやミット打ちも

 ガンガンやった。 だが少し不安要素がある。


 それは世代交代が行われて、

 スパーリングパートナーの質が少し低下したことだ。

 今居る部員の中でライト級の俺より大きい奴は――



 ライトウェルター級の身長177センチの森川。

 そしてウェルター級の身長179センチの島本。

 一番大きいのがミドル級の一年生の中村で身長182センチ。



 しかし森川も島本も公式戦の経験は少ない。

 まあ二人の階級には、郷田さんと武田さんが居たからな。

 中村に関しては、一年の春から公式戦に出ているが、

 性格に少しムラっ毛があるタイプで都大会止まりだ。



 まあ新人戦レベルなら、この面子でも十分だが

 全国大会を視野に入れると少々物足りないのも事実。

 となると古巣の神山ジムへ出稽古に出たいところだ。

 あそこのジムならスパーリングパートナーには困らない。



 だが学校外での練習には許可を取る必要があるからな。

 早い段階でそれをやると、新島辺りが「雪風だけ特別扱いじゃね?」

 と文句を言いだすかもしれない。 

 故にこの件は一月の関東選抜大会で優勝してから、監督に申し出るつもりだ。



 まあ個人競技とはいえ、最低限周囲と合わせる必要があるからな。

 自分勝手な行動は控えた方が良い。

 そんな感じでしばらくの間は部活内で練習に励んだ。



 そして迎えた十一月上旬。

 新人戦が我が校の練習場で行われようとしていた。

 そこそこの広さの練習場の中央にある見慣れた青いリング。

 リング前の広いスペースにパイプ椅子が五十脚くらい並べられていた。

 そして試合会場やその外で帝政以外の高校のボクシング部員が

 張り詰めた表情で試合の準備をしていた。



 まあ都内では帝政のボクシング部は頭一つ抜けた存在だ。

 レギュラーの殆どがスポーツ特待生や推薦者入学者。

 その殆どの選手が中学、あるいは小学生からの経験者。

 だからこの新人戦や都大会レベルでは、負けることはあまりない。



 ちなみに今回の新人戦における帝政の出場者は合計七人。

 ライトフライ級の一年生の戸船とぶね。 フライ級の香取。

 バンタム級の新島。 そしてライト級の俺。 

 ライトウェルター級の森川。 ウェルター級の島本。 ミドル級の中村。

 という顔ぶれだ。



 会場には来栖、里香、苗場さんの姿があった。

 いや良く見るとその三人だけじゃない。

 陸上部の竜胆や幼馴染の美奈子、それに生徒会長の氷堂の姿も見えた。

 まあ試合会場が学校の敷地内だからな。 来るのは簡単だ。

 とはいえ氷堂辺りが来るのは、正直いえば意外だ。

 まあいい。 誰が見てようと関係ない。 ただ勝つのみ。



 そして軽いクラスから順に試合が行われた。

 ライトフライ級の戸船こそ判定負けという結果に終わったが、

 フライ級の香取、バンタム級の新島は共に1RラウンドRSC勝ち。

 そしてライト級の俺の出番がやってきた。



 俺の相手はかがみという選手で私立・俊礼しゅんれい高校の二年生。

 今年のインターハイ予選の準決勝で戦った相手だ。

 まあ悪い選手じゃないが、全国クラスの選手ではない。

 


「健太郎、頑張って~!」


「雪風君、ファイト!」


「雪風先輩、頑張ってください」


 観客席から里香や苗場さん、竜胆の黄色い声援が飛ぶ。

 俺はダンスでもするように、

 軽やかステップを踏みながらリングインする。

 対戦相手と目が合う。 相手は目を鋭くして睨みつけてきたが、

 俺は相手せず冷ややかな表情で相手を一瞥する。

 レフリーから試合前の注意事項が説明され、試合が開始された。



 試合開始早々、相手は物凄い形相でこちらに向かって来た。

 力強いが大振りな左右のフックが繰り出される。

 だが俺は慌てる事なくダッキング、ウィービングなどの防御テクニックを

 駆使して相手のパンチを躱す。



 俺は観察するように相手の顔を凝視する。

 闘志が漲った表情だ。 だが俺は臆する事無く、

 教科書通りの綺麗な左ジャブを相手の顔面に叩き込む。



 パンパンパン、という一定のリズムで繰り出されるジャブが

 相手の顔を捉える。 相手はジャブに怯みながらも、

 後ろに下がらず前へ出て左右のフックを繰り出す。



 ――後ろに下がらない度胸は褒めてやるぜ。

 ――だがそれだけじゃボクシングは勝てない。



 俺は左右のフックをダッキングで躱し、左ボディフックを相手に繰り出す。

 強烈なリバーブロウの衝撃で相手のガードが下がる。


 ――甘いぜ!!!


 俺はその隙を逃さんとばかりに、ウェイトを乗せた右ストレートを放った。

 強烈な右ストレートが相手の鼻っ柱に直撃して、

 鼻から鮮血が飛び散り、相手は倒れた。

 レフリーがカウントする中、

 俺は背を向けてニュートラルコーナーでたたずむ。



 相手がピクピクと身体を痙攣させ、

 身動きしないのを見取るとレフリーは、

 腕を大きく交差させて試合終了を宣言する。



 俺はそれをさも当然という表情で聞きながら、

 会場に視線を移し、里香達の姿を探した。


「健太郎、かっこいいわよ!」


「雪風君、すごい!」


「健太郎、おめでとう!」


「雪風先輩、マジで凄いっス!!」


 いいね、みんなが俺を祝ってくれてるぜ。

 やはり友人や後輩の前でRSC勝ちするのは気分が良いぜ。

 まあここで負けるようじゃ話にならない。



 俺の目標はあくまで三月の選抜大会。

 それまでは誰にも負けるつもりはないぜ。

 俺はそう思いながらも、気が付けば笑みを浮かべながらリングを降りていた。



 ライト級 雪風健太郎(帝政学院高校) 1R42秒RSC勝ち



次回の更新は2020年8月30日(日)の予定です。



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