第五十二話 旅の終わり
修学旅行最終日。
新幹線が来るなり、俺は意気揚々と乗り込んだ。
ちなみに席順は前回と同じだ。
一列に五席の三席に田村さん、苗場さん、里香。
残る二席に来栖と俺が座る感じだ。
ちなみに今回も俺と里香は窓側の席。
何も言わず窓側の席を譲る
来栖と苗場さんの度量の大きさは大したものだ。
「健太郎は寝るの? また富士山の前で起こそうか?」
「う~ん、まだ眠くないが寝てたら、起こしてくれ」
「了解~、それじゃ起きてる間は大富豪でもしようよ」
「ああ、いいぜ。 面子は俺と来栖、里香と苗場さんか。
あ、でも田村さんが一人残されるな」
「あ、わ、わたしのことは気にしなくていいよ。 あ、あはは」
「なんか悪いね」
「う、ううん、気にしないで!」
まあ田村さんもよく辛抱強く付き合ってくれたと思うよ。
二年四組の影の女王?神宮寺里香のグループだもんな。
おまけで来栖がついてくるのは、魅力的だがそれと同時に
心が山猫レベルの男も一緒だからな。 だから多分プラマイゼロ。
「ああ~東京帰ったら、すぐ中間テストあるのよねえ~。
なんか勉強とかしたくない感じ~」
「まあまあ里香ちゃん、来年は受験だし頑張ろうよ」
「まあそうよね。 テスト終わったら、皆で遊びに行きたいわね。
健太郎はテスト終わったらどうするの?」
「ん、ああ。 まあ部活に打ち込むだろうな。
それと予備校にも通い始めると思う」
「え? 健太郎、もう予備校に通うつもりなの?」
里香がやや驚いた表情でそう言った。
なんだよ、そのリアクションは?
俺が予備校に通うのがそんなにおかしいか?
それに高二で予備校に通うのは、けっこう普通と思うぞ。
「まあな、とりあえず英語と現国だけでも勉強しておこうかと、
日本史や世界史なら自分で勉強できるからな」
「私もそろそろ受験を視野に入れないとね。
雪風君は私立文系志望よね?」と、苗場さん。
「うん、まあでも選択肢を広げる意味も兼ねて、
もう少し理数科目も勉強しようかな、とか思ってる」
「そうよね、私学は学費高いからね。 私も予備校行こうかな~」
「健太郎、良さそうな予備校なら私にも紹介してよ」
まあそれぐらいなら別に構わんよ。
とりあえず俺が講義を受けてみて、良さそうなら紹介しよう。
「おう、まあまずは冬期講習とかだけでも受けたらいいんじゃね?」
「うん、それが良さそうね。 それで予備校通いながら、
部活も頑張るの?」
「ああ、まずは十一月の新人戦だな。 ここを勝たないと始まらねえ」
「ふうん、試合会場は何処なの?」
「ああ、うちの高校のボクシング部の練習場だよ。
地方予選では高校の体育館や練習場が会場代わりによく使われるよ」
「そうなんだ、じゃあ私も応援に行っていい? というか早苗も行こうよ?」
「え? わたし? というか私も行っていいの?」
「うちの生徒なら問題なく試合を見学できるよ」
「そうなんだ~」
「うん」
「じゃあ私も行っちゃおうかな?」
と、やや上目使いでこちらを見る苗場さん。
うん、可愛い。 この二人が応援に来れば、
むさ苦しいリングも少しは華やかになるだろう。
「うん、是非来てよ。 俺も頑張るからさ!」
「分かった、じゃあ行くね」
「うん」
「それじゃ俺も応援行こうかな~?」
「おう、来い、来い。 来栖も是非来い!」
来栖が来れば更に華やかさが増すだろうからな。
他校の女子マネとかも喜ぶんじゃね? ……多分。
「その新人戦を勝てば、次の試合はいつなの?」
「ああ、一月下旬に関東選抜大会が開かれるよ。
会場は千葉県だね。 そして優勝したら、三月の選抜大会に出場できる」
「そうか、なら優勝できるといいね」
「ああ」
インターハイ王者の財前と国体王者の剣持は推薦選手として、
選抜大会に出場するだろう。 俺はあの二人に勝ちたい。
俺はボクシングでプロを目指しているわけじゃない。
というかプロになるつもりはない。
ならば受験のことを考えたら、ここらで部活を辞める方が賢い。
ということも分かっている。
だがこのままではボクシングを辞められない。
俺は自分の力がどこまで通用するか、試したいのだ。
そういう意味じゃ剣持や財前は格好の相手だ。
奴等の実力は間違いなく一流だ。
その二人に俺がどこまで戦えるか、俺自身が知りたい。
そうなると部活だけだと、スパーリングパートナーが足りないな。
もう少ししたら古巣のジムに顔でも出すか。
見てろよ、剣持、財前。
よく分からないが、俺の中で今何かが燃え上がろうとしていた。
次回の更新は2020年8月19日(水)の予定です。