第五十一話 自由行動
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修学旅行三日目。
今日は各自自由に行動できる日だ。
クラスもグループも関係なく、
部活仲間やカップル同士で過ごすのも自由だ。
場所も京都市内に限らず、大阪や奈良へ行くのも自由だ。
但し集合時間は遅刻厳禁。
まあ自由行動である以上、けっこう何でもありらしい。
勿論度の過ぎた非常識な行動は控えるべきだが、
友人や彼氏彼女と楽しく過ごす、特に何処にも出かけない。
それを選択するのも個人の意思に任される。
とりあえず俺は荷造りして、ロビーに荷物を出した。
三日目の夜は宿が変わるからな。 ちなみに場所は嵐山だ。
最近のホテルは便利で、荷物を次の宿泊先に届けるサービスがある。
これを利用しない手はないな。 というかほぼ全員利用している。
そして身支度を整えて、洗面を済まし、
制服に着替えて宿の玄関に向かった。
「お、健太郎、おはよう!」
「おう、里香。 おはようさん」
「健太郎、おはよう」
「「「雪風君、おはよう」」」
「うっす、おはよう」
俺は里香だけでなく、来栖、苗場さん、
そして田村さんと笹本にも挨拶を返した。
自由行動の日だが、俺達はグループ行動と同じ面子で行動する予定だ。
まあ田村さんも笹本もそんなに友達が多い方じゃないからな。
ここで二人を置いて、四人で行動するのもなんか抵抗を感じる。
そういうわけで今日もこの六人で行動することとなった。
まず最初の目的地はろーじ屋祇園店。
里香や苗場さんだけでなく、田村さんもあぶらとり紙が欲しいとのこと。
まあ俺や来栖も家族用に買う予定だからな。
ホテルから徒歩と電車移動を駆使して、ろーじ屋祇園店に到着。
とりあえず俺と来栖、それに笹本は適当に安めのあぶらとり紙を
購入して、ラッピングしてもらった。
ちなみに笹本は母親と姉に頼まれたらしい。
何処の家庭も似たようなもんだな。
しかし女子の方は随分と時間がかかった。
まあ女の買い物は得てして長くなるからな。
こればかりは仕方ない。
そして30分後、ようやく女子の買い物が終了。
そこからカフェへ移動して、それぞれ注文を取った。
俺と来栖、笹本は柚子フロートを注文。
俺は朝飯を食ってなかったので、サンドイッチも追加注文した。
里香と苗場さん、田村さんの三人は抹茶パフェを注文。
やはり女子はスイーツが好きなようだな。
しばらく経って、注文の品が届いた。
まあ俺の柚子フロートとサンドイッチはそこそこ美味かった。
「よし、食った、食った。 次は何処にする?」
「そうね、お腹も膨れたし、新京極辺りに行く?
その後に鴨川をみんなで歩くのはどう?」
「うん、それでいいよ」
俺は苗場さんの提案に素直に従った。
他の者も特に異論を唱えず、食後の運動を兼ねて徒歩で新京極へ向かった。
新京極とは端的に言えば、三条通と四条通の間に広がる
約500メートルの、京都の中心に位置する最も古い商店街の事を指す。
劇場、映画館、ゲーセン、土産物屋などと一緒に、
昔から続く老舗や寺社が共存している異種雑多な地域で、
いつも観光客で賑わっているらしい。
俺達は三条通から新京極通に入った。
すると緩やかな坂があった。 これが有名なたらたら坂か。
というか噂通り周囲は修学旅行生や観光客だらけだ。
外国人の姿もちらほら見える。
流石京都、何処へ行っても観光客が居る。
それから適当に新京極内をぶらついた。
適当に洋服や土産物屋を見たりする。
途中で里香がプリクラ専門店を見つけて、そこから撮影タイム。
まずは里香と苗場さんが何枚か撮り、続いて――
「次、健太郎! 一緒に撮ろうよ?」
「……そうだな、いいぜ」
俺は里香にそう促されて、プリクラの機械へと向かう。
というかこれカップル専用機じゃねえか!?
……まあいいか、プリクラ撮るだけだしな。
「んじゃお金入れるよ、えいっ!」
「ああ」
「フレームを選ぶわよ」
「おう」
里香は慣れた手つきでハートのフレームを選んだ。
更に画面にペンで二人の名前を書き込む。
「それじゃ撮るわよ!」
「あいよ」
ぱしゃっ。
俺と里香は取り出し口から出てきたツーショットプリクラを手に取った。
里香は慣れた手つきで鞄からハサミを取り出して、
プリクラを綺麗に二つに切る。
「……それじゃこれ健太郎の分ね」
「お、おう。 なかなか綺麗に撮れてじゃん」
「まあね、それに私は元が良いからね!」
と、良い笑顔でさらりと言う里香。
その後は来栖を加えて四人で撮影した。
更に田村さんと笹本を加えて、六人でも撮った。
合計で五枚くらい撮ったので、
俺と来栖、苗場さんはいくらかお金渡そうとしたが――
「いいのよ、私は好きでやってるんだから、気にしないで!」
里香はそう言ってお金の受け取りを拒否した。
まあ本人がそう言うなら、それでいいか。
その後、俺達は適当に土産物を買ってから、四条通りに出た。
そこから四条大橋を渡り、鴨川を眺めながらあてもなく歩いた。
時々舞妓さんの姿も見かけた。
舞妓さんの姿を見ると「ああ、ここは京都なんだな」と実感した。
そこから皆で見晴らしの良い所で鴨川をしばらく眺めていた。
「良い景色ね」
「うん、うっとりするね」
と、里香に同意する苗場さん。
でも確かに良い景色だ。 ずっと見てても飽きないな。
こうして見ると京都は、なんだかんだで良いところだと思い知らされた。
気が付けば、俺達は鴨川を三十分以上見ていた。
「どうする? まだ見ておくか? それとも嵐山に向かうか?」
「そうねえ~。 里香ちゃん、どうしよう?」
「そうね、そろそろ行こうか」
「んじゃ京都駅に戻って、バスで嵐山公園へ向かうぞ」
「「そうね」」「「「うん」」」
それから京都駅で市バスに乗った。
相変わらずバスの中は混んでいたが、なんとか我慢した。
そして約40分。
ようやく嵐山公園に到着。
「わあ、綺麗ね~」
「うん、こうして観ると本当に凄いわね」
バスから降りるなり、里香と苗場さんが感嘆の声を上げた。
ん、どれどれ俺も観てやろう。 ……こ、これは凄いっ!?
俺の視界には、紅葉のモザイク壁画とグラデーションされた山並みが観えた。
た、確かにこれは凄えわ。
京都でも屈指の景勝地と呼ばれるだけのことはあるな。
「これは……本当に綺麗だね」
「ああ、俺もそう思うぜ」
俺は来栖の言葉に同意した。
俺達はそこから渡月橋まで行き、嵯峨野方面へと向かった。
おお、なんか人力車があるぞ。
観光客を乗せて車夫さんが勢いよく人力車を引いている。
「あ、人力車だ。 なんかいいね、少し乗りたいかも?」
「うん、でも修学旅行生の私たちにはちょっと無理よね……」
里香の思いつきの発言を軽くかわす苗場さん。
まあ里香はただ思いついたまま言ってるだけだからな。
いくら里香でもここで人力車に乗るような真似はしないだろう。
「ねえ、健太郎。 一緒に乗ろうよ、もち健太郎の奢りで!」
と、とても良い笑顔でそう言う里香。
なる程、自分の懐は痛めず、金は男に出させるという算段ですか。
なんか高校卒業したら、里香はキャバクラとかで普通に稼げそうだな。
そのうち小悪魔ragehaの表紙とかも飾ったりしてな……。
あ、でもあの雑誌って廃刊したんだっけ? まあいいや。
「い、いや俺とお前だけ乗っても仕方ねえだろ?」
「それじゃ残り四人分の料金も健太郎が払うの?」
……なんでそうなるんだよ!?
俺はお前等のATMじゃねえよ!!
「払えわけねえだろう! というか金あっても払わんわ!」
「なにムキになってるの? 冗談に決まってるじゃない?」
「そうっスか」
「まあまあ里香ちゃん、それぐらいにしておこうよ」
「ん~、まあいっか」
俺達はそう冗談を飛ばし合いながら、嵐山の道を進んだ。
天龍寺へ入る道は曲がらず、更に先へと進んでみた。
すると青々としたたくさんの竹が茂っており、
風に揺られて葉を鳴らしていた。
これが嵐山の代表的な観光名所の一つである竹林の道のようだ。
俺は圧巻の風景に軽い感動を覚えた。
「すげっ! これが有名な竹林の道か!?」
「た、確かに凄いわね」と、里香。
「夜にはライトアップされるみたいよ」と、苗場さん。
「早苗、それ本当? ちょっと観たいかも」
「お、よく見ると足元に灯篭があるじゃん」
「あ、ホントだ。 なんかこれ可愛い~」
「こういう場所を好きな人と歩くとロマンチックよね」
苗場さんがうっとりした表情でそう言う。
どうやら彼女も年相応の乙女っぽい側面もあるようだ。
「まあ雰囲気は良いけど、やっぱり相手が重要でしょ?」
里香はちらりとこちらを見ながら、微妙な表情になった。
まあアレだ。 確かに相手は重要と思うな。
心が山猫レベルの恋愛偏差値13の男相手じゃ盛り上がらんよね。
「あ、あははは……まあそうかもね」と、曖昧に笑う苗場さん。
「でも本当に良い場所だよね。 夜に皆で来ない?」
「そうね、それもいいわね」
「うん、それいいと思う。 朋美ちゃんもいいかな?」
「う、うん、わたしはいいよ」
来栖の提案に里香と苗場さんが乗り、
更に田村さんも誘うことに成功。
「あ、ぼ、ぼくは少し疲れたから遠慮しておくよ」
「そうか、笹本。 残念だな」
「ううん、ぼくのことは気にしないで」
「ああ、分かったよ」
まあ笹本からすればこの面子と付き合うのは、しんどいだろうからな。
なんか色々付き合わせて悪かったな、笹本。
「んじゃとりあえず宿へ行こうぜ」
「「「「「うん」」」」」
そして俺達は修学旅行最後の夕食を済ませた。
ライトアップの時間は午後十七時から二十時半の三時間半と
短い時間なので、俺達は手短に入浴を済ませて、出かける準備をした。
「あ、健太郎に零慈! 待ってたわよ」
「悪い、悪い、少し待たせたか?」
「ううん、大丈夫。 じゃあ行こうよ!」
「ああ」「うん」
そして俺達は再び竹林の道へと向かった。
お、良い感じに月が満月だ。 こりゃ風情があるね。
数歩の間隔をあけて、灯された灯篭が淡い光で青々しい竹を照らしていた。
俺達は空高く伸びる竹の迫力と美しさを、夜風と共に感じていた。
「うわあ、綺麗~」と、里香。
「うん、本当に綺麗だね」と、苗場さん。
確かにこの光景は凄い。
そしてこんな素敵な風景を可愛い女の子たちと観れる俺は、
幸せものかもしれないな。
「これは修学旅行最後の夜に良い思い出ができたな」
「うん、そうだね」と、微笑を浮かべる来栖。
「もう明日には東京かぁ~。 あっという間だったね」と、里香。
「うん、私はもっと京都を散策したかったな」と、苗場さん。
「来年はもう受験だから、今ぐらいしか遊べないよね」
「うん、私は里香ちゃん達と友達になれて本当に良かったと思う」
「……私もよ、早苗」
無言で見つめ合う二人。
なんか俺こういう光景に弱いんだよな。
友情とかそういうの大好物。 あと少し百合っぽい感じもいい。
まあだけど俺は東京に戻れば、本格的にボクシングに打ち込むつもりだ。
剣持と財前が待つ選抜大会のリングに立ってやる。
その為にはまずは十一月の新人戦を勝たなくてはな。
でも今この瞬間は皆と一緒でこの素晴らしい光景を眺めていたい。
戦士にも休息は必要だからな。
そして俺達は並んで月日に照らされながら、
この美しい風景をしばらくの間、眺めていた。
次回の更新は2020年8月12日(水)の予定です。