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第五十話 そうだ、金閣寺へ行こう!

 

 その後、バスを使って仁和寺にんなじ龍安寺りょうあんじを見て回った。

 まあ両方とも有名な寺だし、生で観るとそれなりに凄かった。

 世界的に有名な龍安寺の枯山水かれさんすいを生で観ると、

 やはりそれなりに感動した。 

 敷地内にあった大きな池――鏡容地きょうようちも想像以上に大きかった。 



 まあ実は枯山水かれさんすい鏡容地きょうようちも現地に来るまで、

 知らなかったんだけどな。 俺は旅の前に下調べはせず、

 自分の眼で見て「凄いか、凄くないか」あるいは「感動したか、しないか」で

 判断するタイプの人間だ。 俺だけでなく、里香や来栖もこのタイプ。


 

 一方、苗場さん、それと田村さん、

 笹本は旅の前に入念に下調べするタイプ。

 おかげで仁和寺や龍安寺について色々教えてもらった。

 こういうところで性格の差が出るよなあ。

 まあ来栖はともかく俺と里香は、

 説明を聞いている途中で飽き気味だったが。

 

「んじゃ次は金閣寺へ行くか」


「そうね、金閣寺は少し楽しみかも!」


「ん? 里香は金閣寺が好きなのか?」


「そうね、けっこう好きかも? 金ぴかってゴージャスで良いじゃない?」


「まあそうだな」


 まあ派手好きの里香には、確かに金閣寺が似合う。

 しかしその理由がいかにも里香らしいというか、

 その理由を聞いて、俺も思わず苦笑した。


「なんか龍安寺から金閣寺って徒歩で約二十分くらいで着くみたい。

 バスは混んでるだろうし、運動がてらに歩いてみない?」


 と、来栖が提案した。

 まあ確かにバスは混みそうだし、タクシーなら楽ちんだろうが

 1台で六人乗りは無理だからな。 男子と女子で三人に分けて、

 割り勘という手もあるが、あまり無駄な金は使いたくないな。


「俺は徒歩でいいよ」


「あ、私もいいよ」


「私も構わないわ」


 俺の言葉に里香と苗場さんも同意する。


「わ、私も皆に合わせるわ」


「ぼ、ぼくも……」


 これで満場一致だな。

 そして俺達は「きぬかけの路」と呼ばれる観光道路を歩いた。

 途中で某有名私立大の傍を通ると、大学生の姿がちらほら見えた。

 

 そして二十分後に金閣寺に到着。

 金閣寺の正式名称は「鹿苑寺ろくおんじ」。

 お釈迦様が菩提樹の下で悟りを開いたことは、

 有名な話だが、その場所がインドにあった林園「鹿野苑(ろくやおん)」らしい。



 この鹿野苑と、開基である室町幕府3代目将軍・足利義満の法号が

『鹿苑院殿』であることから「鹿苑寺(金閣寺)」と名付けられたそうだ。

 まあ全部苗場さんの受け売りだけどな。


「とりあえず何処を見て回る?」


「やっぱり金閣でしょ!」


 来栖の言葉に間髪入れずそう答える里香。

 里香らしい答えだ。

 まあ鹿苑寺は他にも名所はあるが、時間もあまりない。

 ここはちゃっちゃと金閣寺だけ観て終わりにしよう。


「もう午後の四時半過ぎだ。 ホテルの集合時間が午後の六時だから

 ここは金閣寺だけ観て終わりにしないか?」


「そうね、集合時間に遅れるのはまずいわね」


「早苗の言う通りね。 おっけ~、そうしよ!」


「そうだね」「「う、うん」」


 里香の言葉に来栖、田村さん、笹本が相槌を打つ。

 そんなわけで俺達は広い敷地を歩いて金閣(舎利殿)に到着。


「おおっ~、マジでピカピカじゃん! 凄い!」


 里香がいかにもJKらしい物言いでそう言った。

 

「でもこれって復元されたものでしょ?」と、来栖。


「うん、昭和25年に学僧による放火で全焼したみたいね。

 この事件をモチーフにした某文豪の長編小説「金閣寺」はかなり有名よね。

 現在の舎利殿はその事件から、

 5年後の昭和30年に復元したものらしいわ」


 来栖の問いに苗場さんがそう答えた。

 ああ、その話は俺も聞いたことがある。 小説は読んでないけどな。


「ふうん、そうなんだ。 とりあえず皆で集合写真撮っておく?」


 まあそうだな。 ここで里香の提案を断る理由はない。

 とりあえず俺達は近くの観光客らしき中年男性にデジカメを渡して、

 六人での集合写真を何枚か撮ってもらった。

 

「これでいいですか?」


「はい、ありがとうございました」


 俺は撮影を頼んだ中年男性からデジカメを受け取り、礼を言った。


「修学旅行の高校生ですか?」


「ええ、まあ」


「京都はどうですか? 良い所でしょう?」


「はい、もしかして地元の方ですぁ?」


「いえ私は岡山の方から来ました。

 京都が好きでね。 時々一人でぶらりと来ることがあるんです」


「そうですか、ではありがとうございました」


「いえいえ、修学旅行楽しんでくださいな」


 なる程、ああいう観光客も居るんだ。

 一人で京都旅行か、それはそれで楽しそうだな。


 その後、俺と来栖、里香、苗場さんの四人で何枚か写真を撮った。

 更に里香と苗場さんが二人で色々なポーズを決めて、写真を撮る。

 相変わらず里香は自分大好きだな。 

 でもそれに付き合う苗場さんが少し辛そうだ。

 しかし苗場さんは笑顔を絶やさない。 この人、マジで良い人だよな。


「んじゃそろそろホテルへ行こうぜ」


「「そうだね」」「そうね」「「うん」」


 そして俺達はバスに乗ってホテルに到着。

 ホテルに着いた時には、時刻は十七時四十分を過ぎていた。

 けっこう早く出たつもりなのに、意外に時間かかったな。

 こりゃ金閣寺で長居しなくて正解だったな。


 それから小休止して、十八時半にクラス単位で夕食を摂った。

 そして大部屋に移動して、それから来栖と一緒に風呂に入った。

 女子風呂の前では、

 相変わらずごつい体育教師が仁王像のように立っていた。

 よって覗きイベントは発生なし。 現実リアルはこんなもんだ。


 俺と来栖はちゃっちゃっと風呂に入り、大部屋に戻った。

 室内ではまた風間達が麻雀大会していたが、特に会話しなかった。

 う~ん、やることねえ、暇だなあ。


「来栖、良かったらお土産コーナーへ行かないか?」


「うん、いいよ」


 俺達はそう言葉を交わして、大部屋から出た、

 相変わらず女子の部屋へ続く階段の前には、体育教師が立っていた。

 でもああしてずっと見張ってるのも、けっこうしんどそうだ

 ご苦労なこった。


「健太郎、何か欲しいものでもあるの?」


「ん? まあ八つ橋くらいなら買っておこうかな、みたいな感じ」


「そっか、まあそれぐらいなら荷物にならないよね。 ん?」


 と、来栖が双眸を細めて前方を見据えた。

 その視線の先を目で追うと、昨日同様、氷堂愛理の姿があった。


「あら? 今夜も会ったわね。 来栖くん、雪風くん、こんばんは」


「氷堂さん、こんばんは~」


「ばんわ!」


 氷堂は湯上りなのか、髪をアップにしている。

 着ているものはなんか高そうだ。 多分ブランド品とかだろう。

氷堂の横にはいつもいるおかっぱ頭の眼鏡女子が立っていた。


「あなたたちは明日の自由行動で何処へいくのかしら?」


「ん、ああ……とりあえず京都市内をぷらぷらするつもりだよ」


 俺は氷堂の問いに適当にそう答えた。

 すると氷堂は眉毛を八の字にして――


「あなた、せっかく京都に来たのに、真面目に観光せず

 適当に街を散策するつもりなの?」


「いや一応新京極とか鴨川へも行く予定だよ」


「まあそこへ行くのも悪くないけど、

せっかくなら京都市内の観光名所を巡ればいいじゃない?」


なんか氷堂っぽい意見だな。

でもさ、もうけっこう色々な所へ行ってきたからな。

寺とかはもういいって感じなんだよ。

 

「……なら私が色々案内してあげてもいいわよ?

 来栖くんもどう?」


 そう言って氷堂は来栖を見据えた。

 ん? もしかして本題はそっちか?

 氷の女王?氷堂さんもやはり年頃の女子高生というわけか。

 来栖のようなイケメンには弱い、というわけか。

 まあそういうところは少し可愛いよ。 少しだけな。


「いや俺達は班行動だから遠慮しておくよ」


「……そう」


「でも機会があったら、京都の歴史とか知識を教えて欲しいな。

 氷堂さん、なんか色々詳しそうだしね」


「べ、別にいいわよ?」


「その時を楽しみにしておくよ、じゃあ健太郎。 もう帰ろうよ!」


 ん? まだ八つ橋買ってないが、まあいいか。


「じゃあね、氷堂さん。 おやすみなさい」


「んじゃ俺も……おやすみ~」


「う、うん。 二人ともおやすみなさい」


 そう言葉を交わして、俺と来栖は踵を返した。

 しかしあの氷堂も魅了するとはな、来栖のイケメン力は並みじゃねえな。

 なのになんで彼女作る気がないか、不思議で仕方ねえぜ。

 まあいいや、その辺には触れないでおこう。



 遠ざかる二人を目で追う愛理。

 すると彼女の隣に立つクラスメイトの美津子が耳打ちしてきた。


「愛理ちゃん、あの男はやめた方がいいよ」


「え?」


 急に言われて、少し驚く愛理。

 だがすぐ表情を整えてこう切り返した。


「ああ、雪風くんのことね。 彼、ああ見えて悪い人じゃないわよ?」


「違います!」


「え?」


 再度驚く愛理。


「あの男――来栖零慈には気をつけた方がいいよ」


「……美津子さん、来栖くんと面識あるの?」


 すると美津子は眼鏡のブリッジを右手の中指で、

 くいっと上げ、一言こう言い放った。


「彼とは中学が同じだったのだけど、あの見た目に騙されちゃ駄目よ?

 あの男は中学の時は性質の悪い不良グループに入ってたのよ」


「!?」


 予想外の言葉にクールな愛理も目を瞬かせた。

 しかし美津子は釘を刺すように真顔でこう言った。


「まああの見た目です。 愛理ちゃんが惹かれるのも分かるよ。

 でも中学時代の彼はワルでけっこう有名だったのよ。

 だから愛理ちゃんみたいな人間があの男に関わるべきじゃないわ」


「……美津子さん、その話は本当なの?」


「わたしが愛理ちゃんにこんな嘘をつくと思う?」


 多分それはないだろう。

 だが愛理の心情としては、にわかに受け入れがたいものがあった。

 こう見えて人を見る目には自信があるつもりだ。

 少なくとも昨日、今日と話してみた感じ来栖という少年から

 嫌なものは感じなかった、むしろその逆だ。


 だから少し納得がいかないものがあるが、

 この場は平静に美津子の忠告に従うふりをした。


「そうだったの、なら今後は彼には声をかけないわ」


「うん、その方がいいと思うわ」


「……じゃあ美津子さん、わたしたちもそろそろ戻りましょう」


「はい」


 そう言って女子の部屋に戻る愛理達。

 しかし愛理としては、なにか腑に落ちない気分だった。

 美津子を疑うわけじゃないが、あの少年がそんな悪い人間には見えなかった。

 ……これは少し自分で調べてみるべきかしらね。

 そう思いながらも、表情は崩さず黙々と階段を上る愛理であった。




次回の更新は2020年8月5日(水)の予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 来栖...ワルだったのか... は!これは、笹本と来栖が対立して 笹本vs健太郎・来栖etc になる展開!笹本ピンチ!
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