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第四十五話 世代交代



 その後、スクールバスは、女子陸上部のエースの先輩や女子バスケ部を

 それぞれの試合会場で乗せて、茨城から東京へとんぼ帰りする。

 少年女子A・陸上の100Mメートル決勝に出場した

 陸上部のエースの女の先輩は、8人中4位というまずまずの結果。


 女子バスケ部は惜しくも秋田代表チームに76対84で敗戦。

 しかし敗れたとはいえ、準優勝。 大健闘である。

 とはいえやはり負けた当人達は、敗戦のショックもあり、

 帰りのバスの中でもほぼ無言だった。 少し空気が重かった。



 そして約二時間後。

 俺達を乗せたスクールバスは、ようやく帝政学院に到着。


「じゃあ皆一度、部室に戻るわよ!」


「うん」「はい!」


 女子バスケ部の主将キャプテンがそう言うなり、

 女子バスケの部員達は学校指定のスポーツバッグを片手に

 バスから降りて行く。 なんかまだ悔しそうな表情だな。

 すると最後に女子バスケ部の主将キャプテンがバスから

 降りようとしたが、一瞬こちらを向いて――


「武田くん、郷田くん。 優勝おめでとう!」


「おう、ありがとよ」と、武田さん。


「……お前等も準優勝おめでとう」と、郷田さん。


「……ありがとう、じゃあまたね!」


「それじゃとりあえず俺等も部室へ行くぞ!」


「おう」「はい」



 五分後。

 部室に着くなり、武田さんと郷田さんは自分のロッカーを

 片付け始めた。 そうか、今日で二人の高校ボクシングは

 終わったんだな。 そう思うと感慨深いものがあるな。


「武田さんと郷田さんは進路どうするんですか?」


「ああ、俺は自衛隊体育学校に行って、

 アマでボクシングを続けるつもりだ。

 実はうちの親父が自衛官でな。 アマでやれるところまで

 やったら、自衛官に専念するつもりだ」


「武田さんのお父さんって自衛官だったんですか!?」


 は、初めて聞いたぞ。

 というか武田さんも自衛官になるのかあ。

 なんかイメージにぴったりかも?


「学校の奴にも殆ど言ったことねえけどな。

 だから周囲にはあまり言わんでくれ」


「は、はい」


「俺も最近知ったばかりだ」と、郷田さん。


「ちなみに郷田さんは?」


「ああ、俺はスポーツ推薦で大学に行くよ。

 その後、もしかしたらプロになるかもしれん。

 俺はお前と違って頭良くないからな。

 だから限界までボクシングをやってみるよ」


 そう言って軽く左ジャブを出す郷田さん。

 郷田さんは大学でボクシングを続けるのかあ。

 二人が高校卒業後もボクシング続けるのは、なんか嬉しいな。


「まあ一年なんてあっという間だ。

 お前も悔いのないような高校生活を送れよ」と、郷田さん。


「はい!」


 すると武田さんが少し真面目な表情になり、

 こちらを見ながら、落ち着いた口調でこう問うてきた。


「ところで雪風、お前。 主将キャプテンに興味あるか?」


「えっ!?」


 俺は予想外の言葉に思わず驚いた。

 そう言えばバスの中でもそんな話題をふってたな。

 俺はてっきり冗談かと思ってたぜ……。


「俺はお前なら主将キャプテンに向いてると思う。

 どうだ、雪風。 主将キャプテンをやってもらえるか?」


 そう言う武田さんの顔は真剣そのものだ。

 まあその気持ちは有り難いと言えば有り難い。

 だが俺は自分の気持ちを素直に打ち明けた。


「いやあ~、正直俺には荷が重いですわ。

 なんか俺って自分のことだけで精一杯のタイプなんで。

 それに普通科の俺が主将キャプテンに就任するのは、

 色々……まずいかと?」


「……まあ確かにな」と、武田さん。


「じゃあお前は誰が主将キャプテンに向いてると思う?」


「まあ無難に考えたら新島でしょう。

 あと副主将ふくキャプテンに香取。

 この人選が一番無難だし、この二人なら上手くやれるでしょう」


 俺は郷田さんの問いにそう答えた。

 なんだかんだ言って新島は強いし、人望もある。

 それと香取を副主将ふくキャプテンに置けば、

 色々とバランスが良くなると思うな。


「……まあそれが妥当かもな」


「でしょ?」


「俺はお前なら体育特選コースとか、普通科とか関係なく

 部をまとめられると思ったが、確かに新島の自尊心プライド

 考慮する必要があるな」


「武田さん、買いかぶらないでください。

 俺にそんな人望ありゃしませんよ。

 現に新島率いる二年の体育特選コースの連中からシカト

 されているんですよ? ここでもし俺が主将キャプテン

 就任したら、それこそ部がまとまるどころか、

 崩壊しかねませんよ? いやわりとマジで……」


「武田、雪風がこうも拒んでいるんだ。

 これ以上無理強いするのは良くないと思うぜ」と、郷田さん。


「ああ、そうだな。 悪い、雪風。

 この話は聞かなかったことにしてくれ」


「いえいえ」


「まあでもここだけの話だが、俺は二年生の中では、

 一番強いのはお前だと思っている。 なにせあの剣持に勝った男だ。

 ライト級には、剣持に加えて、財前という強敵が出てきた状態だが、

 俺はお前ならあの二人に勝てると思うぞ」


 と、武田さん。


「あざっす! そうなるように今まで以上に練習頑張ります!」


「うむ、まあ悔いのないような高校生活を送れや」


「ああ、俺達も高校卒業後もボクシングを続ける。

 お前等も残り一年全力で高校ボクシングに打ち込めや」


 と、郷田さん。


「はい!」


 俺は二人の言葉に元気よく返事した。

 まあ主将キャプテン就任は拒否したが、

 俺は今やる気に溢れている。

 とはいえもう少しで修学旅行。

 その後には中間テスト。


 まあボクシングも大事だが、やはり思い出作りや

 学業も大事だからな。 だからここは高ぶる気持ちを

 抑えて、目の前のことを一つ一つこなしていこう。


「まあ土曜日に俺達三年生の正式なお別れ会があるが、

 ひとまず先に別れの言葉を言っておくぜ。

 雪風、じゃあな」


「俺も言っておくぜ。 雪風、ひとまずお別れだ。 お前も頑張れよ」


「はい、武田さん、郷田さん」



 翌日。

 昨日さぼった分、その日はけっこう真面目に授業を聞いた。

 でも周囲は修学旅行が近いので、やはり何処か浮ついた様子。

 まあこの辺は仕方ねえよな、はしゃぐな、という方が無理な話だ。

 


 そして放課後。

 練習場に向かうと、正式に新主将しんキャプテンに新島が

 任命された。 副主将ふくキャプテンにはフライ級の香取。

 まあこれが一番無難な人選だよ。


「し、新主将しんキャプテンの新島丞太です!!

 至らない点があると思いますが、自分なりに頑張りますので

 どうかよろしくお願いしますっ!」


 と、皆の前で一礼する新島。

 すると「パチパチパチ」とまばらな拍手が鳴らされた。


副主将ふくキャプテン香取由松かとり よしまつだ。 

 まあ副主将ふくキャプテンなんてお飾りのようなもんだが、

 俺なりに新島をサポートするつもりなので、

 何かあれば遠慮なく俺や新島に言ってくれや」



 再び「パチパチパチ」と拍手がなる。

 この二人に加えて、俺を含めた三人の二年生。

 そして一年生四人。 この計九人が新生ボクシング部の全部員だ。

 まあ少々数は少ないが、量より質が大事だ。


 武田さんや郷田さんに笑われないように、

 俺達で新生ボクシング部を盛り立てていかなくてはな。



 こうして他の部だけでなくボクシング部も世代交代した。

 まずは十一月の新人戦。 ここに焦点を合わせる。

 そして新人戦を勝ち抜けば、来年一月に関東選抜大会がある。

 更にそこで勝てば、来春三月に開催される選抜大会に出場できる。


 俺の目標はあくまで打倒剣持、財前。

 だが先ばかり見て、目の前の練習や試合を疎かにしては、

 元も子もない。 要するに毎日の練習が大事というわけさ。

 ならば毎日練習に励み、目の前の試合を一つ一つ勝っていく。

 結局こうした小さな積み重ねが結果に繋がるからな。


 新生ボクシング部始動。

 そして俺の中でも激しい何かが燃え上がろうとしていた。



次回の更新は2020年7月8日(水)の予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 世代交代で先輩2人が... あれ、健太郎に優しい部員、他にいたっけ? 健太郎、部活でピンチ!部活の孤立はキツイぞ!
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