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第三十八話 意外な再会


 文化祭、二日目の日曜日。

 今日は最終日ということもあり、

 夕方の十八時まで一般開放している為、

 近隣の中高生を中心に、家族連れの客や近所のご老人などの

 一般客の数が昨日より明らかに多かった。



 まあ帝政の文化祭は招待券がないと、入場できないので、

 そうは変な客が来ないから、安心と言えば安心だ。



 一般客の応対は、保健衛生係りの文実メンバーと体育教師が

 一組になり、校門の前で長机を置いて、そこで受付をしている。

 まあとにかく文化祭二日目も客の入りは順調だ。



 それは俺達二年四組の『メイド&執事喫茶』も同じだった。

 相変わらず男性客は苗場さん目当て、

 女性客は来栖目当てという構図は変わらない。



 だが苗場さんは文実の記録雑務係りなので、

 午後からは文実の仕事に専念する必要がある。

 なので苗場さんのメイドさん姿を見れるのは、午前までだ。

 

「じゃあ、私は文実の仕事に行ってくるね!」


「うん、早苗。 頑張ってね!」


「うん!」


 というわけで一番客が入る午後の時間帯に

 主武装メイン・ウェポンである苗場さんを失ったから、

 当然苗場さん目当ての客は不平を漏らした。


「マジかよ、あの子居ないのかよ~」


「じゃあ、ここに居る意味なくね?」


「そだな。 しゃあねえ、別の店に行こうぜ」


 と、露骨に不満を漏らして去っていく客達。

 その光景に里香はなんか納得いかない表情だった。

 いやあ、まあ気持ちは分かるけどさ~?

 ああいう客層は結構シビアだからね。


 里香のメイド服は十分可愛いが、

 ああいう連中のツボにはこないんだろうな。

 それを里香に説明するのも難しいし、

 説明したところで、彼女が納得するとも思えない。

 だから俺はウーロン茶が入った紙コップを彼女に差し出した。


「里香もけっこう働いたよな、少し休憩したらどうだ?」


「あ、健太郎。 あ、ありがとう」


 そう言って、里香は紙コップを受け取り、一口飲んだ。

 女性客の方は相変わらず来栖が応対しているが、

 徐々に客の数も減ってきた。 まあ最終日だからな。

 ずっと同じ場所に居たら、そりゃ飽きるよな。


「雪風くんと神宮寺さん、休憩入っていいよ」


 そう言ったのは、三つ編みが似合う女子の田村さんだ。

 あれだ、修学旅行で俺達の班になった人だ。


「ういっす」


「健太郎、この後どうするつもり?」


 多分遠回しに私を誘えと言ってるんだろう。

 でも少し一人で行きたい所があるんでな。

 だから俺はこう答えた。


「いや今日はちょっと一人でぶらぶらするよ。

 あ、でも十六時から体育館でうちの生徒や

 有志団体による演劇や演奏があるらしいから、

 十五半時には、ここに戻ってくるから、一緒に観に行かねえか?」


「うん、いいね。 それ、行きたい!」


「おう、んじゃ十五時半まで自由行動な。 里香、また後でな」


「うん、またね!」



 俺はそう言って、教室を後にした。

 そこで左腕の腕時計に目をやる。 今は十四時四十分か。

 なあ五十分くらいあれば、ゆっくりできそうだな。

 といっても俺の目的地はすんげえ近場だけどな。


 そう、俺の目的地は美奈子が居る二年五組の教室だ。

 なんでも漫画喫茶をやっているとの話。

 だからちょっと顔を出して、美奈子と話してみようと思っている。



 あの夏のプールの一件以来、美奈子とは気まずい。

 文実でも一緒になったが、あまり喋る事はできなかった。

 だからこの文化祭というイベントを生かして、

 少しは美奈子との関係を正常化するのも有りだと思う。



 まあ里香の立場からすれば、俺のこういう行動は気に入らない

 だろうけど、美奈子は幼馴染だからな。 このまま疎遠になるのも

 なんか嫌だ。 とはいえ必要以上に優しくする気はない。

 でも都合が良いかもしれんが、前みたいな関係に戻りたい。



「二年五組は漫画喫茶してま~す。 三十分で百円です。

 延長料金は十五分ごとに百円なので、お得ですよ~」


 と、二年五組の前で呼び込みをしている女生徒を見かけた。

 とりあえずこの子に美奈子が教室に居るか、どうか聞いてみよう。


「あのう、ちょっといいかな?」


「はい、何ですか?」


「みな……葉月さんはこの教室の中に居るかな?」


「ああ、葉月さんなら結構前に文実の仕事に行ったわよ。

 でももう少しで帰ってくるかも? 何? 彼女に何か用?」


「そうか、なら中で待たせてもらうよ。 三十分で百円だよね?」


「うん、毎度あり。 良かったら名前教えてもらえるかしら?

 葉月さんが戻ってきた時にあなたの名前を教えてあげるから」


「あ、ああ。 二年四組の雪風健太郎です」


「あ、あなたが……ゆ、雪風……健太郎っ!?」


 俺が名前を告げるなり、目の前の少女の表情が変わった。

 なんなんすか、この反応? 少し傷つくんですけど~?


「って噂はアレだけど、結構良い男じゃない。

 葉月さんも意外とやるわねえ~」


 いや別にそういう関係ではないんですけどね。

 それよりどんな噂が流れているか、結構マジで気になります……。


「とりあえず中で待ってて、葉月さんが来たらすぐ教えるから」


「う、うん、ありがとう」


 そう言って俺は漫画喫茶に改造された教室に入った。

 ほう、思ったより漫画喫茶っぽい雰囲気だ。

 基本的に客は椅子に座って漫画を読む感じだ。

 教室にある椅子が大半だが、教室の隅には

 リラックスチェアやソファーなども用意されていた。


 そして色んな種類のドリンクが用意されており、

 一杯五十円で飲めるらしい。 



 漫画の種類も豊富だ。

 売れ筋の少年漫画から青年漫画、少女漫画など

 一通りのジャンルが揃えられている。

 更には漫画雑誌やファッション誌なども置いてある。


 ほう、これはなかなかの品揃えだ。 時間を潰すにはもってこいだ。

 とりあえず俺は最近読んでなかった売れ筋の少年漫画を

 片っ端らから読んでいく。 うむ、やはり漫画は面白い。


 ラノベも良いけど、お気軽に読めるという点では漫画の方が楽だ。

 まあ俺はどっちも好きだけどね。 でも疲れた時に何も考えないで

 読めるという点では、漫画の方が少し好きかも?


 気が付けば、既に十五分経過していた。

 だがまだ美奈子が帰って来る気配はない。

 仕方ないな、また新しい漫画でも読むか。

 と思い漫画本が詰まった本棚に近づいた。

 すると目の前を二十歳くらいのお姉さんが横切った。

 ほう、綺麗な姉ちゃんだ。 でもなんか既視感が……。


「あ、すみません。 先どうぞ……あっ!?」


「ん? ああっ!? アンタはっ……!?」


 俺は驚く眼前の姉ちゃんを見ながら、そう叫んだ。

 艶のある黒髪のセミロングヘアが似合う和風美人。

 そう、美奈子の家でTV電話越しに俺を誘惑した女。

 確か名前は美剣麻弥子みつるぎ まやこ


「け、けん……ゆ、雪風くん……だよね?」


 と、ややキョドり気味答える美剣。

 そう言えば、厳密に言えばこうして会うのは二度目だな。

 あのプールの一件の時にこの女も居た筈だ。

 まあ会話らしい会話は殆ど交わしてねえがな。

 

「美剣……さん、だよな?」


「う、うん、あははは。 まさかこんな場所で会うとはね」


 なんだ、この女。 TV電話越しでは、あんなに変態全開だったのに、

 妙に大人しいというか、こいつもしかしてネット弁慶の類か?

 そういえばリアルでは名門女子大の女子大生だったっけ?

 しかしこうして普通にしていると、本当に美人だな。


「……もしかして美奈子に招待券貰って来た感じ?」


「う、うん。 そんな感じ……。 あはははっ」


 なんかあんま会話が続かねえな。


「ん? 麻弥子、何しているの? 

 もしかして男子高校生にナンパされてるの?」


 と、美剣の友達らしきやや背が小さい女がこちらにやってきた。

 栗色の髪の毛を頭の後ろでお団子のように纏めている。

 声はなんか凄いアニメ声。 でもなかなか可愛らしい声色だ。


 身長は150なさそうだな。 そして胸元はあの氷堂以上に謙虚。

 赤いチェックのシャツに青いジーパンというスタイル。

 正直色気がない恰好だが、これはこれで似合っている。


香澄かすみ! ち、違うわよ!」


「ふうん、でも妙に親しい感じですなぁ~。

 というかなかなかイケメンじゃないか。 ん? でもなんか既視感あるね?」


 と、目の前の香澄と呼ばれた女がジロジロと俺を見る。

 お、おかしいな。 こういうロリタイプの女は俺の好みでは

 ないはずなんだが、妙に胸がどきどきするぞ。

 「なかなかイケメン」と呼ばれたのが、嬉しいのか?

 それとも俺って可愛い女なら、なんでも良いのか?


 ……。

 否定できないところが辛い。



「美剣さん、この人はあんたの友達なのかい?」


「あ、ああ。 同じ大学で同人サークル仲間の津山香澄つやま かすみだよ」


「ああ、同人仲間のわけね。 なんか納得した」


「ふに? 麻弥子、でこちらのイケメンは誰なわけ?」


「そ、それは……」


「ん? 俺は美奈子の幼馴染の雪風健太郎さ。 ここの二年生だ」


 きりがないので、俺は端的にそう自己紹介した。

 するとロリっ子の津山は口に手を当てながら――


「ええっ!? き、君が雪風健太郎……くんなのっ!?」


「ちょ、ちょっ……声がデカいって!?」


「あ、ああ。 ごめん、ごめん。 てへっ」


 と、舌を出して笑うロリっ子。

 不覚にも少し可愛いと思ってしまった。

 というか大声出したから、周囲の視線が集まってるんだけど。


「……よかったら、少し場所を変えない?」


「ふに? いいけど? 麻弥子もいいよね?」


「う、うん」


「じゃあそうことで」


「ご利用ありがとうございました!」


 と、案内係りの女子が大きい声でそう言った。

 でもその後にひそひそ声で――


「アレが雪風……くんでしょ? あの人たちは誰?」


「さあ、でも二人とも美人よねえ~」


「もしかしてここでナンパしたの?」


「さあ? でもあり得るかも」


 みたいな会話が聞こえてきた。

 ……俺は他のクラスの女子にどうも思われてるんだ?

 まあいいや、やましいことはしてない。 ……多分。

 とりあえず階段の踊り場に移動しよう。


「ふに? こんなところに連れてきて、どうする気?」


「誤解のある言い方はやめてくんね?」


「にゃはははっ! いやごめん、ごめん。

 お姉さんは健太郎くんとこうして会話するのが楽しいのだ!」


「アンタ等、俺達のクラスには来たのか?」


「うん、まああたしだけね。 麻弥子は来栖くんに面割れてるし~。

 でも生来栖くんはガチでヤバいね! いやあ~、良いものが見れました」


 なんかこの女のキャラ、嫌いじゃないかも?

 妙に乗りが良いし、会話してて少し楽しいな。


「まあそれはいいよ。 実は俺はアンタ達に話があるのよ」


「え? もしかして愛の告白?」


「津山さん、アンタ良い性格してるね」


「うん、よく言われる。 それと香澄でいいよ!」


 やれやれ、この女と話しているとなんか調子が狂うぜ。

 でもまあいい。 ここからは真面目な話だ。

 この人たちなら美奈子の近況をよく知っているだろう。

 ここはこの人達から、美奈子のことを色々聞いてみよう。


「実は――」



次回の更新は2020年6月14日(日)の予定です。



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