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第三十六話 健太郎、里香と二人で適当にぶらつく


 その後も我が二年四組の『メイド&執事喫茶』は大盛況だった。

 主に客の目当ては、男ならメイド服姿の苗場さん。

 女なら執事服姿の来栖だ。 


 俺の予想通り苗場さんのメイドさんは受けた。

 なんというか大人しそうな眼鏡男子とかいった層を中心に、

 本校の生徒だけでなく、他校、一般客にも受けた。

 それに関しては、来栖も同じだ。



 一方、里香のメイド服姿もそこそこ受けた。

 なにせ元が良いからな。 何を着てもそれなりに着こなす。

 そして俺の執事服は大して需要もなく、

 居ても居なくてもどうでもいい感じだった。



 結局、接客は来栖と里香、苗場さんに専念させた方が

 客入りも回転率も良くなり、

 結果的に俺を含めた他の執事、メイドは戦力外。

 結果、厨房ペースで食べ物や飲み物を作る係りに加わった。



 なんか皆、微妙な表情だったが、お互い妙に気を使い合って、

 普段より少し多く会話を交わした。 

 なんか嬉しいような悲しいような現象。



 そして気がついたら、午後の三時を過ぎていた。

 ここで一端、休憩を入れる形だ。

 


「いやあ、結構お客さん入ったわね」と、里香。


「うん、大盛況だね!」と苗場さん。


「里香はこの後、自由時間だよね?」と、来栖。


「うん、その辺をぶらぶらするつもり」


「俺はどうせ暇だし、このままウェイターやるから、

 良かったら健太郎と二人で何処か行ってきたら?」


 流石、来栖だ。

 こういうさりげない気遣いができる男がモテるのは当然だな。

 すると里香はやや微笑を浮かべながら――


「元々そのつもりよ? だって今日は全部健太郎が

 奢ってくれるんだから! ねえ、健太郎!」


「あ、ああ……お、お手柔らかにな!」


「なら私ももう少しお店を手伝うから、

 里香ちゃんと雪風君はゆっくりしてきたら?」


「あ、ありがとう、早苗」


「ううん、気にしないで」


「じゃあ健太郎、着替えたら早速行くわよ!」


「あいあい、お姫様」


 五分後。

 俺と里香はとりあえず中庭で開催中の出店を回った。

 焼きそば屋とか、お好み焼き屋とか、たこ焼き、フランクフルト屋とか

 一通り見て回ったが、焼きそば屋で知った顔を発見。


「おう、雪風じゃねえか」


 頭に黒い三角頭巾、制服の上から黒いエプロンという格好で、

 ボクシング部の主将の武田さんが鉄板でソース焼きそばを焼いていた。


「ん? ああ、武田さんじゃないですか?

 もしかして武田さんが焼きそば作ってるんですか?」


「おう、俺等、三年一組は焼きそば屋よ。

 んで俺と郷田が焼きそばを作る係りだ」


「よう、雪風」


「あ、郷田さん。 どうもっス」



 郷田さんも武田さん同様に、

 頭に赤い三角頭巾、制服の上から、

 白字で根性と書かれた赤いエプロンをつけていた。

 根性か。 郷田さんの好きそうな言葉だ。

 でもなんか意外に似合ってるな。



「そっちの可愛い子はお前の彼女か?」


 と、郷田さんは右手のフライ返しで里香を指した。


「え? ああ……同じくクラスの友達です」


「ど、どうも~。 じ、神宮寺里香です」


「ふうん、雪風。 お前もなかなかやるじゃねえか。

 そっちの子の代金は要らねえから、焼きそば頼んでけや?」


「いいんスか?」


「おう、俺の奢りだ」


「そ、それじゃ焼きそば二つください!」


「あいよ、焼きそば二つね!」


 そう言って郷田さんは手際よくフライ返しで

 焼きそばをよそって、透明のタッパーに詰め込んだ。

 そして上から紅しょうがを乗せて、青海苔を振りまいた。

 なんか郷田さん、手慣れてるな。

 テキ屋の兄ちゃん並みの手際の良さだ。


「はいはい、二人前お待ち! 一つは郷田くんの奢りだから、

 三百円です。 サービスでウーロン茶二つつけておくね」


 会計と商品受け渡し係りの三年生の女生徒が

 笑顔を振りまきながら、ビニール袋に焼きそばの入った

 透明のタッパー二つと割り箸を二本入れて、こちらに手渡した。


「どうもっス」


 俺は手渡しで目の前の女の先輩に三百円を渡した。


「毎度あり~! クラスの友達も呼んできてね!

 はい、これウーロン茶!」


 と、感じの良い女の先輩は、

 笑顔でウーロン茶の入った紙コップ二つを差し出した。

 俺はそれを受け取り、「どうもっス」と返した。


「はい、これ里香の分」


「ありがとう、というかさっきの人達はボクシング部の先輩なの?」


「ああ、そうだぜ。 主将キャプテン副主将ふくキャプテンだよ」


「ふうん、でも奢ってもらえてラッキーだわ」


「そだな、とりあえずその辺のベンチで食うか」


 俺の問いに里香は「うん」と頷いて、近くのベンチに腰掛けた。

 そして俺はその左隣に座って、割り箸を割って焼きそばを食べた。


「!?」


 なんだこれ、めちゃくちゃ美味いじゃねえか!?

 とても高校生の文化祭の出店とは思えないレベル。

 そう思ったのは、俺だけでなかった。


「ん! これ、美味しい!」


「な? 凄げえよな」


「これで三百円はお得よね。 明日も買おうかしら」


「またサービスしてもらえるかもな」


「だといいね、それじゃその辺ぶらぶらしようよ」


「おうよ!」



 その後、俺達は他の出店でも色々買った。

 フランクフルトとたこ焼きにクレープを買って食べてみた。

 でもこちらの方の味はそこそこって感じのレベルだった。

 いやあ、高校生の出店にしたら、上出来の部類と思うよ?

 でもさっきの武田さんや郷田さんの焼きそばと比べると、

 どうしてもね? みたいな感じになる。


「う~ん、お腹いっぱい。 もう食べ物はいいや」


「そうか、ならこの後どうする?」


「そうねえ~、他のクラスや校内の展示物とか見てみる?

 私、あんまり他のクラスに友達居ないから、

 他のクラスが何やってるか知らないのよ」


 まあそれに関しては、俺も似たようなもんだ。


「俺も同じだよ。 とりあえず適当に教室とか見て回ろうぜ」


「うん、そうしよ」



 そんな感じで俺と里香は校内を適当にぶらぶらした。

 校舎内では文科系のクラブの展示物が多かったが、客入りは少ない。

 まあこういうのはどこの学校でもあるからな。

 俺達は校内の展示を適当に見ながら、一年の教室棟へ向かった。

 なんか知り合いが居ないと、上級生の教室って行きづらいからな。

 その分、一年生の教室ならまだ行きやすい。



 この帝政学院は一学年につき八クラスある。

 体育特選コース一クラス、普通科五クラス、特進科二クラス

 といった感じだ。 一年の教室でも体育特選コースの一組は

 少し行きづらい空気だが、

 それ以外の一年生達は普通に俺達を歓迎した。



「一年二組でお化け屋敷やってます! 是非来てください!」


「一年四組ではカジノやってます。 ポーカー、ブラックジャック、

 バカラ、とにかく色々やってます!!」


 お化け屋敷とカジノか。 少し面白そうだな。

 だが里香はまるで興味を示さない。

 しかし次の呼び込みの声にはぴくりと反応した。


「一年五組で占い屋さんやってま~す~。

 今日のあなたの運勢から、カップルの相性まで色々占います」


「占い屋さんかあ、なんか面白そう」


「じゃあ行ってみるか?」


「うん!」


 とりあえず俺達は一年五組の教室へ向かった。

 すると一年五組の教室は占いの館っぽく、

 黒を基調した外装、内装でそれっぽい雰囲気を出していた。


「そこのカップルのお二人さん! あなたたちの相性を占いますよ?

 一回たったの百円、カップルなら二百円。 これは占わないと損ですよ!」


 と、紫のローブを着た呼び込みの女生徒がそう言った。

 すると里香は小声で「……カップルじゃないし」と言いながらも、

 教室の入り口付近の列の一番後ろに並んだ。

 列に並ぶ客は殆どが帝政、あるいは他校の女生徒だ。

 よく分からんが、女って生き物は占いが好きみたいだな。


 ちなみに俺は占いなんか全然信じない。

 何故なら運命とは自らの手で切り開くものだからだ、わははは!

 アホっぽいが男性諸君なら理解してもらえるかもしれない。

 とはいえ友人の女の子に付き合うくらいの度量はある。


「では次のカップルさん、入ってください!」


「はあい」


 俺達は案内係りの男子生徒に誘導されて、

 教室内に入った。 カーテンを閉めて、電気を最小限しか

 付けてないので、教室内はかなり暗い。

 だが雰囲気は出ているので、誰も文句は言わない。


「ではそこの椅子に腰掛けてください」


「あい」「はい」


 俺と里香は占い師役らしき黒いローブを着た女生徒の指示に

 従い、水晶球が置かれた机の前の椅子に腰掛けた。

 というか水晶球まで用意しているとは意外だ。


「それではまず見料を貰おう。 カップルだから二人で二百円だ」


「あ、はい」


「うむ、ではおぬしらの名前と血液型を教えてもらおうか」


 一人百円か。 まあお遊びだし一回くらいなら払ってやるか。

 俺は財布から二百円を取り出し、眼前の占い師に手渡した。 

 というかこの占い師の女の子の声、なんか聞き覚えあるな。 

 まあいいか。



「雪風健太郎、B型」


「神宮寺里香です、O型です」


「ふむふむ、ではこの女預言者シビュラジェンシャンが占ってやろう」


「シビュラ?」と、小さく首を傾げる里香。


 女預言者シュビラか。 なんか役に成りきってるな。

 でもジェンシャンがわかんねえ、なんか聞き覚えはあるんだがな。

 まあいいや少し面白くなってきた。

 ここは少し真面目に占いの結果を聞いてみるか。




次回の更新は2020年6月7日(日)の予定です。



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