第三十四話 文化祭、始まる!
その後は部活を中心に、クラスの出し物の手伝いや
時々文実に顔を出してたりしたら、あっという間に二週間が過ぎた。
慌ただしい文化祭の準備で校内が活気づき、
至る所で金槌やのこぎりの騒音が鳴り響く放課後が続いた。
そして迎えた土曜日。 帝政学院高校の文化祭初日である。
今日は夕方の17時まで一般開放している為、
昼くらいから、生徒の保護者や他校の生徒、更には地元住民などの
たくさんの人がこの文化祭にやって来るだろう。
俺は普段よりも早い時間に学校へ向かった。
天気は快晴。 これなら結構客が来そうだな。
そして三十分後に学校に到着。
文化祭用に飾り付けられた校門。
中庭には横断幕が掲げられ、数々の万国旗やテープ、
リボンなどが校舎を飾り立てている。
まあ文化祭では馴染みの光景だな。
俺は下駄箱で上靴に履き替え、二年四組の教室に向かった。
教室は既に喫茶店に様変わりしていた。
まあ外装とか内装は結構良い感じじゃねえの?
高校生の文化祭にしては、上出来の部類だ。
この辺は里香や来栖が頑張っていた。
俺は主に力仕事や雑用、ゴミ捨て、買い出しなどしていた。
手先は器用な方じゃねえんでね。 もっぱら力仕事をしていたさ。
「あ、健太郎! おはよう」
「里香、おはようさん」
「はい、これ健太郎の衣装」
里香はそう言って、黒い執事服を手渡してきた。
真っ黒な燕尾服に黒いズボン。 更に赤い蝶ネクタイ。
そして白いYシャツにグレイのベストという感じか。
まあ嫌いじゃないデザインだが、やはりこれを着るのは少し恥ずかしいな。
「んじゃ着替えてくるよ」
「うん」
んで教室の隅っこの簡易的な更衣室で執事服に着替えた。
着替え終えた姿を全身が映る鏡で確認。
ほう、自分で言うのもアレだがそこそこ似合っているな。
ふっ、俺も捨てたもんじゃねえな。
「あ、健太郎! おはよう」
来栖の声がしたので、視線を声がした方向に向けた。
「!?」
そこは漫画やアニメに出てきそうなイケメン執事が立っていた。
普通の日本人なら衣装負けするが、来栖は完璧に着こなしている。
こうして見ると、来栖の身体は本当に均整の取れたバランスだ。
体型だけなら、下手なボクサーより上なんじゃねえの?
それでいて足も長い。 クソッ、俺の完敗だ……。
「け、健太郎? どうしたの?」
「……何でもないさ」
「そ、そう、ならいいけど。 でも結構似合ってるじゃん」
「そうか? 来栖ほどじゃねえよ」
「お、健太郎。 意外に似合ってるわね!
馬子にも衣装、というやつかしら?」
「里香ちゃん、それ褒めてないから!」
里香の言葉に的確に突っ込む苗場さん。
よく見ると、苗場さんもメイド服姿だ。
こうして見ると、苗場さんもなかなかスタイル良いな。
襟ぐりがやや広い艶やかな黒のワンピース型で、
スカートの長さは膝丈くらい。 袖の長さは半袖タイプ。
そして赤いリボンが胸元に結ばれている。
白いエプロンがセットになっており、胸当て付き、
腰の後ろで紐を結ぶタイプのシンプルなデザインだ。
そして艶やかな黒髪のツインテールを、
白いカチューシャで可愛く飾り立てている。
うん、いいぞ。
これはマニアだけでなく、幅広く受けそうだ。
なんかリアルのメイド喫茶では、客とメイドさんが写真を
撮れるらしいが、そのサービスを導入して、写真一枚五百円。
とかにすれば、すんげえ儲かるんじゃねえの?
でも高校の文化祭では、流石に無理か。
風営法だっけ? それに引っ掛かりそうだよな。
「ゆ、雪風君、あまりじろじろ見ないで」
と、恥ずかしそうに上目使いで見る苗場さん。
何、それ? もしかして狙ってるの?
仮に素でやってるとしてたら、大したものだ。
男を悦ばせるツボというものをよく分かってらっしゃる。
「いやあ、いいよ。 苗場さん、超いいよ!
これは客入るよ? 間違いねえよ、なあ来栖?」
「客が入るかは別問題だけど、俺も凄く似合ってると思うよ」
「そ、そんな二人とも褒め過ぎよ?」
そう言う苗場さんは本当に恥ずかしそうだ。
それがまたいい、萌える、色んなものが燃え盛る。
「零慈はいいけど、健太郎はなんかやらしいわね!
ちなみに私もメイド服着て、ウェイトレスするわよ」
「え? 里香も着るのか?」
俺は思わず素でそう返してしまった。
すると里香は柳眉を少し寄せ、不機嫌顔になる。
「何よ、その微妙な反応は? 私には似合わないとでも言いたいわけ?」
うん、はっきり言えば里香には似合わねえだろう。
よくあるじゃん? ギャルが何かのイベントでコスプレしたりするけど、
本人は超ノリノリだけど、ぶっちゃけ似合ってねえんだよね。
いや見てくれは、それなりにいいから、それなりには絵になるよ?
でもなんというか本人の自己満足止まりというかさ。
里香は確かに可愛くて、スタイルが良い。
メイド服を着てもそれなりに着こなすだろう。
しかしその金髪や派手な外見とメイド服がマッチしないんだよ、多分。
この辺のバランスは本当に難しい。 里香が悪いわけではない。
だが男がメイド服やメイドさんに求めるものとは違うんだよな。
「ちょ、ちょっと……健太郎。 何か言いなさいよ?
少し不安になるじゃない?」
まあ所詮は高校生の文化祭だからな。
金髪ギャルのメイドさんでもそれなりに受けそうだ。
なんだかんだで里香は可愛いからな。
「ん? いや大丈夫だと思うよ。
里香は口さえ開かなければいい女だし」
「なっ!? こ、この馬鹿あぁっ!!」
里香は顔を真っ赤にして、スナップを利かした右手のビンタを放った。
良いビンタだ。 スナップも良く利いている。
だが残念、俺はボクサー。
だから咄嗟的にダッキングしてビンタを回避。
「え? え? 避けたの?」
「なかなか良いビンタだ。 俺以外の男ならKOできたかもな」
「きいいいぃ……なんかムカつく!!」
と、顔を真っ赤にする里香。
「な、なんか今の動き凄かったね」と、苗場さん。
「うん、無駄に凄いよね。 本当に無駄に」
来栖も呆れ気味にそう言った。
「もういいわよ! 健太郎なんて知らない!」
そう言って、里香はこの場から去った。
やべえ、少し調子に乗り過ぎた。 どうしよう……。
「今のはないよ、健太郎」
「うん、私もそう思うわ」
来栖と苗場さんの言葉がぐさりと胸に刺さる。
「わ、悪い。 調子に乗り過ぎた」
「俺に謝っても仕方ないよ。 里香に謝りなよ?」
「あ、ああ、頃合いみて謝るよ!」
「駄目よ、雪風くん。 今、謝るべきよ」と、苗場さん。
「うん、俺もそう思う」
「……はい」
その後、俺は五分程、里香に平謝りした。
その結果、今日の里香の文化祭の食事代を俺が
全額持つ事で何とか許してもらった。
口は災いのもととは、まさにこの事ですね。
そしてこうとも言います。 ――自業自得、と。
次回の更新は2020年5月31日(日)の予定です。