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第三十三話 新たなる強敵(ライバル)

累計1500PV達成!

これも全て読者の皆様のおかげです!




「ゆ、ゆ、雪風く、くん。 ご、ごめんね。

 ぼ、僕が休んだせいで、か、代わりに文実の仕事を

 お、押し付けた感じになって。 ほ、本当にごめん」



 と、クラスメイトの眼鏡をかけた男子の笹本がひたすら平謝りする。

 なんなんすか? このキョドりようは?

 なんか俺が笹本を虐めているみたいじゃないですか?

 少し不本意だが、笹本からすれば死活問題なのかもしれん。



 相手は心が山猫レベルのボクシング部員。

 何をしでかすか、分からない怖さがあるのかもな。

 ……自分で言ってて、少し傷ついた。 まあいい。

 だから俺はこの場は優しくこう返した。



「いや気にしてねえよ。 というか俺は苗場さんの手伝いしただけだし。

 というか笹本、盲腸の手術は上手くいったのか?」


「う、うん。 それは問題ないよ」


「そうか、ついでに修学旅行の俺等の班にお前を入れておいたぞ?

 男子は俺と来栖と笹本。 女子は神宮寺と苗場さんと田村さん」


「そ、そう。 ありがとう。 

 く、来栖君と神宮寺さんと同じ班かぁ~」


 笹本は曖昧に笑いながらそう言った。

 まあ笹本からすれば、来栖や里香は付き合いにくい人種だろう。

 それに加えて俺が居るんだ。 正直居心地悪いだろうな。

 でもそこは病気とはいえ、休んだ奴が悪い。 

 現実を受け入れろ。


「まあそういうわけでよろしくな!」


「う、うん、よろしくね」


「雪風君、今日は文実に出るの?」



 場の空気を変えるべく、苗場さんがそう言葉を挟んだ。

 う~ん、行きたいような行きたくないような気分だ。

 ここ数日、文実の仕事を手伝っていたが、

 なんか事あるごとに氷堂に話しかけられて、

 その都度、仕事を任されている。 その仕事量が結構増えてきた。



 幸い今のところ苗場さんの負担は少ない。

 だから笹本も学校に来たし、少し文実に行くのは控えるかな。

 それにそろそろ部活にも顔を出しておくべきだな。



「今日は少し部活の方に顔を出すよ。 文実は気が向いたら行くよ」


「わかったわ。 部活頑張ってね」


「うん、苗場さんもあまり無理しないでね」



 そう言って俺はスポーツバック片手に教室を後にした。

 俺は軽く口笛を吹きながら、一階の下駄箱を目指した。

 すると二階の階段の踊り場の近くで、美奈子を見つけた。

 どうやら掲示板にポスターを張っているようだ。



 だが一番上にある掲示板は、美奈子の身長では少し高い位置にある。

 なので懸命に背伸びしながら、ポスターを張ろうとする美奈子。

 おいおい、そんなに背伸びするとパンツが見えるぞ。

 仕方ねえ、他人に美奈子のパンツが見られるのはなんか面白くねえ。

 ……じゃねえよ!! とにかく幼馴染として手伝ってあげよう。



「おい、美奈子」


「え? け、健太郎!」


 と、こちらを見て少し驚く美奈子。


「お前の身長じゃ少し厳しいだろ? 俺が手伝うよ」


「……いいの?」


「ああ、俺も文実メンバーみたいなもんだからな」


「じゃあお願いするね」


「おう」


 そう言って美奈子はポスターを俺に何枚か手渡した。

 なかなか良い出来のポスターだ。


「これ美奈子が描いたのか?」


「う、うん、全部じゃないけどね」


「ふうん、美奈子は本当に絵が上手いな」


「そ、そんなことないよ」


「んじゃ張るよ」


 俺はそう言葉を交わして、掲示板に一枚一枚丁寧にポスターを張った。

 作業はものの数分で終了。


「け、健太郎、ありがとうね」


「いえいえ、お安い御用ですぜ」


「健太郎はこれから部活?」


「ああ、最近は文実ばかり行ってたからな。

 たまには部活に顔出さないとなあ」


「そ、そう。 部活頑張ってね!」


「おう、じゃあな!」


 どうもあの夏のプールの一件以来、美奈子とぎくしゃくしてるな。

 まあ仕方ねえといえば仕方ねえが、ポスター張るのを手伝う

 くらいなら、里香も怒らないだろうさ。

 それはさておき今日は少し真面目に練習するかな。



 五分後。

 ボクシング部の練習場であるプレハブ小屋に到着。


「こんちゃーす!」


 とりあえず元気よく挨拶してみた。


「おう、雪風か! 久しぶりだな」


 と、三年生の主将・武田さんが挨拶を返す。


「雪風、右手の怪我の具合はどうだ?」


「郷田さん、もう少しで治りそうです」


「そうか、まああまり無理するなよ」


 そう言ってリング上で再びシャドーする副主将の郷田さん。

 そう、三年生にとっては、今後の秋の国体が最後の公式戦。

 だから他人に構っている余裕などないのだ。


「雪風、ちゃーす」


「あ、ああ。 香取、久しぶりだな」


 二年生の体育特選コースの香取が挨拶をしてきた。

 新島率いる二年生グループには、相変わらずシカトされてるが

 香取は普通に挨拶してくるな。 正直少し嬉しいぜ。

 そう思いながら、俺は自分のロッカーに向かい着替えた。



 上下ともに黒のジャージ。

 一応両手にバンテージを巻いておく。

 すると香取が更衣室に顔を出して――



「おい、雪風。 監督が事務室に来いと言ってるぞ」


「了解。 すぐに行くよ」


「じゃあな」


 と、すぐに練習に戻る香取。

 監督は俺に何の用があるのだろうか?

 まあいいや、とりあえず監督の居る事務室へ行こう。


「失礼します!」


 俺は元気よく挨拶して、事務室の中に足を踏み入れた。

 事務室の本棚にはボクシング雑誌や色々な雑誌、書類が収められていた。

 監督の座る小さな机の上には、銀色のノートパソコンが置かれている。

 このパソコンでボクシング部のホームページの更新とかしている。


「よう、雪風。 来たか」と、忍監督。


「ご無沙汰しております。 それで俺に何か用ですか?」


「ああ、ちょっとな。 このネットのニュース記事を見てみろ」


 そう言って忍監督がパソコンを指差して「見ろよ」と告げた。

 とりあえず俺は言われるまま、パソコンの画面を見た。

 するとパソコン内のネットの記事にこう書かれてた。



 二刀流の天才・財前武士特集!



 なんだ、この記事? 二刀流といえば某メジャーリーガーで

 有名だが、こいつは何の二刀流なんだ?

 とりあえず俺は記事によく目を通した。

 どうやらこの財前武士ざいぜん たけしはこの間の高校ボクシング

 インターハイ本戦のライト級の優勝者らしい。 



 自分が不戦勝になったから、その後の試合結果は

 見なかったが、普通に考えれば当然優勝者が出るもんだからな。

 それに加えて、この財前はピアニストとしてもかなり有望株らしい。

 なんでもボクシング部と合唱部を兼部しており、

 全国大会の合唱コンクールで金賞を取ったとの話。



 ふうん、確かにかなり凄い奴だな。

 それに顔もかなりイケメンだ。 来栖が洋風のイケメンとしたら、

 財前は和風の美少年。 ちくしょう、イケメンのくせに恵まれ過ぎだぜ。



「ふうん、ボクサー兼ピアニストかあ。 

 つらも良いし、話題になりそうな奴ですね」


「まあ俺達からすれば、この財前のピアニストとしての

 才能などはどうでもいい。 だがこの男はボクサーとしても一流だぞ。

 この間のインターハイ本戦の財前の戦いをDVDに焼いてみた。

 少し観てみるか?」


 と、こちらを見据える忍監督。

 この流れで断るのもあれだからな。

 ここは素直に従っておこう。


「んじゃまあ観てみます」


「そうか、ならこの椅子を使え」


 忍監督は椅子から立ち上がり、俺に座るようにすすめた。

 俺は椅子に腰掛けて、マウスをクリックして財前の試合を観てみた。

 最初はあまり乗り気でなかったが、試合の映像を観るにつれて

 次第に俺は財前の戦う姿を丁寧に眼で追っていた。



 この財前というボクサーは確かに本物だ。

 全体的にレベルが高く、穴らしい穴がないタイプ。

 特に技術テクニック防御ディフェンス能力が特に高い。

 まるでピアノを弾くように、リズミカルな動きでリング上を

 縦横無尽に駆け巡る。 不覚ながら少し見惚れたぜ。



 また防御ディフェンス能力だけでなく、攻撃センスも持ち合わせている。

 左ジャブや右ストレートのストレート系パンチは当然として、

 左右のフックも切れがある上に重い。 

 そして特筆すべき点は綺麗な軌道で放たれる右アッパーだ。



 元来、日本人ボクサーはアッパーがあまり得意じゃない。

 右ストレートは押し出す力が重要だ。

 野球などの球技で肩が強い者は、大体ストレート系のパンチが強い。



 かく言う俺も小学生時代は、少年野球をしており、

 肩の強さだけは、チームでも一、二の座を争った。

 またドッジボールなども学年で一、二番に速い球を投げられた。

 俺の右ストレートが強いのも、この辺が関与していると思う。



 次に左右のフックに関しては、引き手の強さが重要と言われている。

 これに関しては、柔道経験者などのフックが強かったりする。

 ちなみに俺のフックは、鍛錬によって得たものであって、

 持って生まれた天性の破壊力は備えていない。


 だが右利き型(オーソドックス)の場合は、

 左フックは絶対に欠かせないパンチなので、

 絶えず練習するものであり、ある程度の年数が経てば、

 誰でもそれなりの左フックを打てる。



 だがそれに対してアッパーカットは、体得が難しいパンチだ。

 アッパーカットの軌道は、下から上に突き上げるような動作。

 このような動作は、日常生活でもあまり行わない。

 故に自然にアッパーカットの威力が増すという事も少ない。

 強いてあげれば、土木作業などでスコップで土を掘るなどの

 動作がアッパーカットの威力向上に向いているのかもしれない。



 だが通常の日本人の学生には、あまり無縁な作業だ。

 それでいてアッパーカットは、命中させるのが他のパンチより難しい。

 またサンドバック打ちでも、アッパーを打つのはやや苦労する。

 一番効果的なのは、ミット打ちでアッパーを打つことだが、

 基本的にパンチというのは、とにかく何度も何度も手を出す必要がある。

 何度も何度も反復練習して、パンチを打つモーションと角度を

 身体に覚えこませる。 しかし相対的にアッパーを出す機会は少ない。



 当たりにくい上に、モーションが大きいので、

 パンチが外れると、ピンチに陥りやすい。

 故に日本人ボクサーで、

 アッパーカットをフィニッシュブローにする者は少ない。


 

 まあ左ボディアッパーや攻撃の強弱をつける為に

 ショートアッパーを使うボクサーは多々と居るが、

 アッパーカットでKO勝ちするという場面は、

 プロボクシングの試合でもあまりない。



 だがこの財前というボクサーは、そのアッパーカットで相手を倒す。

 特に右アッパーが強烈だ。

 綺麗に弧を描いた軌道で相手の顎の先端チンを綺麗に撃ちぬく。

 まさにお手本のようなアッパーカットだ。



「へえ、こいつ結構凄いですね」


 俺は率直な意見をそう述べた。


「ああ、剣持の陰に隠れていたが、こいつも一流のボクサーだ。

 秋の国体、そして来春の選抜大会でも優勝候補に挙がるだろう。

 まあお前の場合は、国体は無理だが、

 選抜大会では、戦う事になるかもしれんな」


「選抜ねえ、剣持や財前は国体本戦に出場するんスか?」


「ああ、剣持も財前も八月末の国体ブロック予選を勝ち抜いているからな」


「ふうん、となれば今後の高校ライト級の主役は、

 剣持か、財前ということになりますよね?」


「……まあ二人を食い止める者が出なければ、そうなるかもな」


 忍監督はそう言ってちらりと俺を見た。

 監督の言わんとすることは、俺にも分かる。

 要するにこの財前というボクサーを見せつけて、

 俺を試しているのだろう。



 そう、いつまでも剣持に勝った事で満足しているようじゃ駄目だ。

 どんな競技でも競技者アスリートは、日々練習や鍛錬を積み重ねている。

 そして試合が行われ、敗者と勝者が生まれ、

 最後に勝ち残った者がスターとなる。



 要するに高校ボクシング界も俺のことなんか忘れ始めているのだ。

 まあそういうものさ。 

 ファンや業界関係者も常に新しい試合や話題を好む。

 でもこれは勝負の世界の鉄則だ。



 そして俺としてもこのまま忘れられるのは、やはり面白くない。

 分かったぜ、監督。 俺、本格的にカムバックするぜ。



「財前武士……か。 ふふふふ、たしかに……

 たしかにもっと大きな勲章が欲しくなったぜ……!!」


 俺は自分にそう言い聞かせるように、そう呟いた。

 すると忍監督は「うむ」と頷いてから、


「じゃあ本格的に練習しないとな」


「ええ、今日は本気でやります!」


「うむ、その言葉を待っていた。 それと雪風」


「ん? 何スか?」


「さっきの台詞――まんま『明日の翔』のパクりじゃねえか!

 少しはアレンジしろ」


「……うっす」



 真顔でこう指摘されると、やはりかなり恥ずかしい。

 でも監督もやっぱり『明日の翔』を読んでたんだね。

 『最後の一歩』や『頑張るな元気』もいいけど、

 やはり至高の名作は『明日の翔』だぜ。

 まあいいや。 

 とりあえず柔軟終わったら、また校庭を走るぜ!



次回の更新は2020年5月30日(土)の予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 洗濯板の生徒会長。 そして、ブラインドタッチで驚かれる健太郎。 また新キャラが増えましたね。 陰キャ笹本。実は、ボクシング最強。...な訳ないか。 笹本に全員NTRされたら笑います。笑え…
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