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第三十話 生徒会長、現れる!


 艶のある黒髪の前髪を綺麗に切りそろえたロングヘア。

 非常に端正な顔立ち。 知性と冷気を帯びた切れ長の瞳。

 そしてつるりとしたおでこがその美貌を更に際立てさせている。

 身長は女子にしては、なかなか高い。 

 170センチはなさそうだが、165センチ以上はありそう。


 

 白いブラウスの上にノースリーブの黒いセーターを着ているが、

 胸元は見事なまでに真っ平。 うん、全然自己主張してないよ。

 どうやら神は彼女に二物を与えなかったようだ。

 俺的には残念だが、これはこれで需要はある。 って何の話だ?



 そして細くて長い両足を包んでいるのは、肌が透けて見える黒のタイツ。

 スカートの長さは標準よりちょっとだけ短い。

 俺はこの可憐な少女を知っている。

 というか帝政の生徒なら一度くらい彼女の名前を聞いた事があるであろう。


 特進科である二年八組の氷堂愛理ひどう あいり

 この氷堂は秀才の集まる特進科の中でも極めて秀でた存在だ。

 定期テストでも実力テストでも常に学年一位に君臨する天才少女。

 その頭脳に加えて、たぐい稀な容姿。 そりゃ当然目立つわな。



 その上で帝政学院の生徒会長を務めているから、誰もが知る有名人である。

 その氷堂の周囲をこれまた秀才オーラを放った男子、女子生徒が囲んでいた。

 何処かで見た顔だなあ。 ああ、多分生徒会の面々だな。



 まあ帝政の生徒会は殆ど特進科の生徒で占められている。

 この辺りの事情は進学校ならありがちの光景だ。


「生徒会長、こんにちは!」


「ええ、こんにちは!」


「……ん?」


 周囲の者の挨拶に当然と言った表情で応じる氷堂。

 だがその視界に俺を入れると、その表情を少し曇らせた。

 氷堂さん、何スか? その眼?

 まるで異物、というか汚物を見るような眼は?

 ……というか自分で言っててアレだが、汚物扱いは流石に酷いよな。


「え~と……彼は……何?」


 と、氷堂は苗場さんに視線を向ける。


「う、うちのクラスの文実メンバーの笹本君が盲腸でしばらく入院するので、

 彼――雪風君に代理で来てもらったのです」


「そう、ん? 雪風……?」


 氷堂はそう言って首を傾げた。

 何スか、そのリアクションは?


「……何処かで聞いた名前ね」


「……会長、例のボクシング部員ですよ?」


 と、おかっぱで眼鏡の女生徒が氷堂の耳元で囁いた。

 すると氷堂は「ああ~」と納得したように頷いた。

 へ? 何? なんで俺が生徒会の連中に名前覚えられているの?

 危険人物だから、この帝政学院から排除せよ、みたいな感じ?

 でも俺はそこまで非常識な事はしてねぞ。 ……多分。



 すると氷堂は露骨に値踏みするようにジロジロと俺を見据えた。

 う~ん、何だろう、この感じ? あんまいい感じはしねえな。

 つうか生徒会の奴等、正直感じ悪いな。

 露骨に斜に構えた感じが癇に障るぜ。



「え~と、俺に何か用っスか?」


「同級生だから別に敬語を使わなくていいわ」


 あ、さいですか。


「あなたは特進科でもちょっとした有名人よ。

 普通科でありながら、一年生からボクシング部のレギュラー。

 更に今年の夏のインターハイではあの剣持拳至に勝ったそうね」


 はひ? そうなの? 俺って校内でそんなに名が知れてたの?

 というか氷堂の口から剣持の名前が出るのは意外だな。


「……よく知ってるのね」


「私の家――氷堂家ひどうけと剣持家は不倶戴天の敵だったのよ。

 まあ何年も前に我が氷堂家が剣持家に勝ち、彼等は失脚したのよね。

 聞いた事ない? 氷堂財閥って? 私はそこの一人娘なのよ」


 財閥? 何? それ美味しいの?

 え~と……話の展開についていけないんですけど?

 端的に言えば、氷堂家ひどうけと剣持家はライバル関係だったが、

 数年前に氷堂家が勝ち、剣持家は失脚。



 んでこの目の前の高飛車な女はその氷堂財閥の一人娘。 

 そういう事?

 なんか「明日の翔」のヒロイン黒木葉子くろき ようこみたいだな。


「へえ、そうなんスかあ~。 凄いっスよね」


「でも小学生の頃の剣持くんはいじめられっ子だったのよ?

 まあ勉強の方はよくできたけどね。 でも私程じゃないわ」


「ん? 氷堂……さんは剣持と面識あったの?」


「ええ、小学校の小一から小四までクラスが同じでね。 

 でも彼の父親が政界で失脚して、

 その後、彼は大阪に転校したのよ。 まあ俗にいう都落ちというやつね。

 まあ実際は私の祖父が彼の父親を与党から追い出した形だわ」

 

 ん? 大阪を都落ち扱いは酷くね?

 というかな~んかこの女全体的に嫌な感じ。 

 剣持もムカつく奴だったが、俺的にはこの女の方がムカつくわ。


「あ、そうなの? ふうん、凄すぎて俺には無縁の世界だわぁ~」


「まあそうでしょうね。 でも私としてはあなたが剣持くんに

 勝ったのはけっこう気分が良いわ。 今後もあなたの活躍を期待しているわ」


「はあ、まあ頑張りますよ」


「でも確か剣持くんとの試合で怪我したのよね? 怪我の具合はどうなの?」


「はあ、まあ右拳に罅が入ったけど、そろそろ治りそうだよ」


「そう、なら良かったわ。 今後ともあなたには剣持くんに勝ち続けて

 欲しいわ。 彼も含めて剣持一族は油断ならないわ。 

 御爺様の話によると彼の父親は大阪でも有力野党の中で、

 勢力と発言権を増してるとの話らしいから」



 ほう、剣持の親父さんもなかなかやるじゃねえか。

 与党の権力争いには負けたが、活動拠点を大阪に移して

 再び力をつけるなんてかっこいいじゃねえか。 捲土重来を狙ってるのか?

 なら是非とも氷堂一族や氷堂財閥を叩き潰してもらいたいものだ。

 まあ小市民の俺にはスケールのデカすぎる話だがな。


「へえ、なんかスケールのデカい話だね」


「まああなたからすればそうでしょうね」



 あ、なんか分かった気がする。

 何故神がこの女に二物――端的にいえば「おっぱい」を与えなかったかを。

 要するにこの女は色々と凄いが、

 女の最大の武器の一つ「おっぱい」がない。

 一見完璧に見えて不完全な存在。 それはある意味辛い事だ。

 だからこそこの女はこんなにツンツンした性格なんだろう。


 里香も苗場さん、竜胆も美奈子も「おっぱい」あるからなあ。

 そう思えばこいつも可哀そうな存在だ。

 ならば多少の暴言も許してやれるぜ。


「ちょ、ちょっと何処見てるのよ!?」


 と、両腕で胸元を隠す氷堂。

 いやさ、隠すほどのものでもねえだろ。

 まあ逆にそれだから隠したいのか。 あ、納得。


「いえ特になにも」


 そう、観るような物は何もない(…………)。


「う、嘘!? 私の胸を見てたでしょ!? や、やらしいわ!」


 いや見たといえば見たけどさ。 そのすんごい謙虚な胸元をさ。

 性格は自己主張の塊だけど、胸元はとても謙虚ですね。

 とは流石に言えないな。 俺もそれ程酷薄な人間じゃないさ。


「はあ、まあとにかく俺は自分の仕事しますので! それじゃ!」


 俺はそう言って踵を返し、自分の席に座った。

 なんか周囲の視線が俺に降り注いでいる気がする。

 生徒会の連中は主に敵意と嫌悪という感じ。

 だがそれ以外の連中は好奇と興味という感じだ。


 多分ここに居る文実メンバーの何人かは氷堂及び生徒会の面々に

 少なからずムカついているのだろう。 なんとなくそう思う。

 まあいいや。 俺も氷堂と深く関わるつもりはねえ。

 俺は苗場さんのサポートができればいいだけだからな。


「ふん、まあいいわ。 さあそれじゃ皆、今日も頑張っていくわよ!」


「はい!」


 氷堂の言葉に周囲の連中は大きな声で答えた。

 んじゃ俺も適当に仕事でもしますか。

 まあつっても「記録雑務係」だからな。

 多分そんな大した仕事はねえだろうさ。 

 ちょちょいっと終わらせるぜ。




次回の更新は2020年5月23日(土)の予定です。



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