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第二十九話 二学期


 二学期を迎えた二年四組だが、大体の生徒は夏期講習と

 文化祭の準備に参加していたので、これといって目新しさはなかった。

 まあ帝政の普通科や特進科の生徒は基本的に真面目だ。

 俺や竜胆美雪のように運動部に参加している生徒は珍しい。

 文化部の方は普通科や特進科の生徒も結構参加しているらしいが、

 ぶっちゃけ俺は文化部の事情をよく知らない。



 まあそんなわけで特に大きな変化もなく、今日もまたありふれた日常が

 始まろうとしていた。 

 だが二学期にはそれなりに重要な学校行事がある。

 そう、文化祭と修学旅行だ。



 我が帝政学院では、文化祭は九月末に開催される。

 そして修学旅行は十月中旬に京都へ行く。

 まあこの辺は他の学校とわりと同じかもしれない。

 一昔前は修学旅行先を国内は京都、国外はシンガポール。

 という風に選べたらしいが、この不景気に加えて少子化。



 保護者からクレームが来て、数年前に国外旅行は廃止されたらしい。

 まあパスポートを取るのも面倒だしな。 俺は別に京都でいいよ。

 そして新学期早々のLHRロングホームルームは、修学旅行の班分けが

 メインに行われた。 まあ俺達の班は四人はすぐに決まった。



 言うまでもねえ。 俺、来栖、里香、苗場さんの四人。

 残り二人。 ところがこの残り二人がなかなか決まらなかった。

 女子からすれば来栖零慈が居るお得の班、であると同時に

 二年四組の影の女王?である神宮寺里香が居るというデメリットもある。

 後ついでに俺という珍獣が番犬がわりになったかもしれん。

 誰が珍獣じゃ、でも番犬って響きは嫌いじゃねえな。 わん、わん!



 まあともかく結局誰も入りたがらず、

 男子は新学期早々に入院中で病欠扱いの真面目な眼鏡君の笹本を、

 そして同じく真面目で内気な女子・田村さんが我が班に加わった。



「よ、よろしくね!」


 と、露骨に緊張気味な田村さん。


「うん、よろしくね」


「うん、朋美ともみちゃん。 よろしく」


 朋美ちゃん? 苗場さんは田村さんと面識あるのか?

 というかクラスメイトだもんな。 そら少しは面識あるか。

 俺が少し特殊なだけだからな。

 

「田村さん、よろしく」


「う、うん。 来栖君、よろしくね」


「ういうい、俺もよろしくっす。 というか笹本は何の病気なの?」


「なんか盲腸の手術みたいよ。 十日くらい休むみたい。

 でも困ったな、笹本君はこのクラスの文化祭実行委員なのよね。 

 まあ私もなんだけど。 今日も放課後に文化祭実行委員会があるのよね。 

 誰か代理を立てないと……」



 へえ、苗場さんって文化祭実行委員もしてるんだあ。

 というか思い出した。 一学期の終業式間際のLHRロングホームルーム

 なんか誰もやりたがらず、渋々苗場さんが立候補していた気がする。

 そしてじゃんけんで負けた笹本が同様に

 文化祭実行委員を押し付けられた気が……。



 ちなみに俺はそのじゃんけん自体不参加。

 別に強権を発動したわけじゃない。 あの時はインターハイ本戦が

 迫ってたから、自然と除外された。



 つーか苗場さん。 クラス委員と文化祭実行委員を兼任するなんて

 えらいの通りこして、大丈夫か? と思ってしまうぞ?

 なんかこの子、真面目過ぎるから貧乏くじ良く引いてそう。

 どうせその時、皆で――



「苗場さんでいいっしょ?」


 みたいな空気で押し付けたんだろう。

 でもなあ。 俺も同罪だよ。 止めてねえんだからな。

 というかそもそも俺はその時の記憶すらない。

 なんか少し苗場さんが心配だ。 よしここは――


「ん~、俺結構暇な感じだし、笹本の代理で出席していいよ?」


「え? いいの? 部活の方は大丈夫なの?」


「まだ右拳も完治してないからね。 でもそこそこは右手も使える状態。

 だから文化祭実行委員会に参加するくらいなら問題ないよ?」



 ホントはそろそろ部活に精を出さないと、新島あたりが五月蠅いが

 そんな事はどうでもいい。 

 なんかこのまま苗場さん一人に任せてられねえ。

 だから俺が傍に居て、苗場さんを護る!

 ……ってのは言い過ぎかな?



 でも友人として放っておくわけにもいかねえ。 

 来栖はクラスの出し物の準備とバイト三昧の日々だからな。

 ならここは俺がやるっきゃないでしょ! ……みたいな感じ?


「あ、ありがとう。 正直助かったわ」


「いえいえこれくらいお安い御用ですぜ」


「でも健太郎に文化祭実行委員なんかできるの?

 だって健太郎よ?」


 なんですか、里香さん。

 その言い方は……少し心外ですぜ。


「里香ちゃん、大丈夫よ。 私と笹本君は記録雑務係だから

 そんなに難しい仕事でもないわ。 それに分からないところがあれば、

 私が教えるし……」


「ふうん、それなら健太郎でもできそうね。

 まあいいわ。 早苗、クラスの出し物の方は私に任せて!

 ちょっと久しぶりに本気出してみるわ!」


「うん、里香ちゃん。 お願いするね」


「うん。 健太郎、文化祭実行委員会で馬鹿な真似するんじゃないわよ?

 アンタだけでなく二年四組の恥になるんだからね!」


「ういうい、肝に銘じておきますわあ」


「え? 雪風君が笹本君の代わりに文化祭実行委員会に参加するの?」


 心配そうな顔で担任の飛鳥先生がこちらを見ながらそう言った。

 なんですか、その顔は? 「え? こいつに行かせて大丈夫?」

 みたいな顔は止めてくださいよ。 でもあれだな。

 もし俺が教師だったら、確かに俺みたいな人間を文化祭実行委員会に

 送るのは嫌だな。 うん、つまり飛鳥先生の反応は正常だ。 あははは!


「いやあ、まあ笹本が退院するまでの代理ですよ、代理」


「……そうね、まあ代わりにやってもらえるのは助かるわ。

 まあ苗場さんも居るし、大丈夫……かな? 

 うん。 じゃあ雪風君、お願いするわね」


「はい」



 こうして俺はしばらくの間、文実ぶんじつこと文化祭実行委員として

 文化祭実行委員会に参加する事になりそうだ。

 まあ俺と苗場さんは記録雑務係だから、そんなに大した仕事はねえだろ。



 というか俺はぶっちゃけ苗場さんが無駄な苦労をしょいこまないかが

 心配なだけだ。 まあそれを俺が防ぐみたいな感じでやればいいだけさ。

 まあ勿論与えられた仕事は真面目にするけどね。

 こう見えて俺、根は真面目だからな。



 放課後。

 今日は新学期初日なので、始業式とLHRロングホームルーム以外は

 授業もなく、部活や文化祭の準備する者以外は早めに帰宅していた。

 だが文化祭の準備の為に、里香や来栖をはじめとした何人かが教室に

 残っていた。 クラスの出し物は里香や来栖に任せておけば良さそうだな。


「んじゃ苗場さん。 文化祭実行委員会へ行こうか。

 場所は何処なの?」


「うん。 第一会議室よ。 私が案内するわ」


「うん」


 とりあえず俺は苗場さんの後について行った。

 第一会議室へと向かう人通りはまばらだ。

 というか第一会議室なんて行った事もねえよ。

 なんか普段は生徒会や職員会議なんかで使われてるらしい。

 そりゃ俺には無縁だな。


「ここよ、失礼します」


「……失礼します」


 第一会議室は通常の教室二つ分くらいの広さはありそうだ。

 なんか置かれている椅子や机もちょっと立派な感じがする。

 会議室に入ると、結構な数の生徒が集まってた。

 というか何人か、知った顔も居た。


「あれ~? 雪風先輩じゃないですか!?」


 そう言ったのはスポーツ焼けした栗色の髪のポニーテールの女生徒。

 そう陸上部の一年生の竜胆美雪だ。

 というか竜胆が文実とはな、少し意外だ。


「よう、竜胆。 お前も文実だったのか?

 部活で忙しいだろうに、よく引き受けたな」


「いやそれがじゃんけんで負けてしまって、嫌々引き受けた感じですよ」


「あ~、なる程ね」


「で先輩はなんで文実、というかここに来たんですか?」


「いやうちのクラスの男子の文実が盲腸で十日程、休むらしいんだわ。

 だから俺が代理で来た、みたいな感じ」


「へえ、そうなんですか。 でも少し意外ですね。

 先輩ってこういう学校行事とか興味ないと思ってた」


 まあ実際はその通りなんだけどね。

 今回は苗場さんの為に参加しただけだからな。


「竜胆は何を担当しているんだ?」


「い、いえただの記録雑務係ですよ」


「なら俺や苗場さんと同じだな」


「え? 雪風先輩と苗場先輩って同じクラスなんですか?」


 竜胆はそう言いながら、俺と苗場さんを交互に見た。

 まあ同じ記録雑務係という事で、苗場さんと面識があってもおかしくないな。


「うん、というか竜胆さんこそ雪風君と面識あったのね」と、苗場さん。


「はい。 部活の練習中にちょこちょこ話していた感じです」


「そうなんだ」


 どうやら苗場さんと竜胆はそこそこ話せる間柄のようだ。

 これは俺としても助かる。 退屈な時間も知り合いが居れば、

 話などしてりゃ時間つぶしできるもんな。


 だが知った顔は竜胆だけじゃなかった。

 もう一人の知り合いは、やや気まずい感じでちらちらとこちらを見ていた。

 そう俺の幼馴染の同級生・葉月美奈子だ。


 例の一件以来、美奈子とは気まずいからな。

 でもこういう場でお互い無視し合うのもあれだ。

 ここは俺から軽く話かけてみるか。


「よう、美奈子も文実だったのか?」


「け、健太郎……」


 そう言いながら、俯きがちにもじもじする美奈子。

 なんというかお互い何を話していいか分からない、みたいな感じだ。

 まあプールの一件もそうだが、美奈子の部屋へ行った時の事も

 考えたら、そりゃあ色々と気まずいはなあ。

 内気な美奈子なら尚更だ。 故にここは俺が会話を振るべきだ。


「美奈子は何の係りなんだ?」


「え、え~と宣伝広報係りだよ。 私は宣伝用のポスターとか描いてる」


「美奈子は絵上手いもんな。 なる程、なる程」


「ううん、そんな大した事ないわ」


「まあなんだ、俺はしばらく代理で来るから、色々教えてくれよ。

 ぶっちゃけ文実の事よく分かってねえからさ」


「う、うん。 私に分かる事ならなんでも教えるよ」


「ありがとな。 じゃあまたな、美奈子」


「う、うん。 またね、健太郎」


 という会話を交わして、俺は苗場さんや竜胆の近くの席に戻った。

 まあ里香との関係性も考えたら、美奈子とあまり仲良くしない方が

 いいのは分かってるが、文実の間に少し話すくらいなら問題ねえだろ。

 ……多分。



 その時、第一会議室のドアが開かれた。

 ドアが開いた瞬間、周囲の連中もぴしゃりと雑談を止めた。

 なんだ、こいつら? 何、急に黙ってるんだ?

 と思いつつドアの方向に視線を向けると――


 水を打ったような静寂の中、一人の可憐な美少女が立っていた。

 あ、あの女は!?




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