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第二十八話 夏祭り


 十五分後。

 無事成戸駅中央改札口前に到着。

 夕方という事もあり、道行く人で成戸駅周辺はそこそこ賑わっている。

 こう見えて成戸という街は、そこそこ栄えているからな。

 交通のアクセスも結構良いし、住むのに便利な街だ。



「あ、居た、居た! 健太郎!!」


「健太郎、こっち! こっち!」


 声が聞こえた方向に視線を向けると、

 里香と来栖、そして苗場さんの姿があった。

 里香の服装はピンクの浴衣姿であった。 

 なんかちょいミニスカっぽい感じ。

 派手な外見と相まって、なんか成人式のギャルって感じだ。


「おお、里香! 浴衣姿じゃねえか! いいね!」


「そ、そう?」


「うん、なんかすんげ~エロい感じ!」


「え、エロいとか言うな!」


「ははは、健太郎は相変わらずだね」


 と、いつものようにフォローを入れる来栖。

 ん? よく見ると来栖も浴衣、いや黒い甚平を着ている。

 いつもような洋風スタイルも似合うが、

 こういう和風スタイルも合うな。

 なんかマジでこいつ美の神に愛されてるね。 爆発しろ!


「ほう、来栖。 そういう和風スタイルも合うじゃねえか」


「そう? ありがとう」


「雪風君、こ、こんばんは!」


「ん? おお、苗場さんも浴衣なわけね! 

 いいね、いいね、マジでいいね!」


「ゆ、雪風君! ちょっと声が大きいわよ!?」


 と、恥ずかしそうにそう言う苗場さん。

 華やかな白と黒の格子柄の浴衣。

 里香とは違い、正統派の着物が似合う和風黒髪美少女という感じで、

 これはこれで素晴らしい。 なんというかマジで両手に華という状態。


「うむ、俺って勝ち組かもしれん」


「はあ? 何言ってんのよ? 意味不明~」


「まあまあ里香ちゃん。 多分雪風君も照れてるのよ?」


「健太郎、そうなの?」


 苗場さん、的確な突っ込み。

 苗場さんは本当によく空気を読めるね。 いやあ凄い。

 しかしここで肯定したら、苗場さんはともかく里香に主導権を

 握られそうだ。 正直最近尻に敷かれ気味だからなあ~。


「んじゃ全員揃ったし、さっさと行こうぜ!」


「ふん、逃げたわね」


「まあまあ里香ちゃん」


「とりあえず行こうよ?」と、来栖。


 俺達はそれぞれそんな事を言って、目的地である神社向けて歩き出した。

 五分後、目的地である神社に到着。

 神社には思ったより、人は多く結構賑わっていた。


 金魚すくいや射的、輪投げ、型抜きなどの屋台が並び、

 たこ焼き屋、焼きそば屋をはじめとする色々の店から

 良い匂いが漂っていた。 うん、いいね。 

 これぞ、祭りという感じだ。


「へえ、結構いい感じじゃん。 私、こういう雰囲気好きよ」


「うん、いかにも地元のお祭りという感じでいいわね」


 苗場さんが里香の言葉に相槌を打つ。

 よく見ると周囲に小学校や中学校の同級生の姿も見えた。

 少し懐かしい気分になるが、わざわざこちらから声を掛ける気もしない。

 それは多分向こうも同じだろう。 

 精々軽く手を上げて「よう」と言うぐらいだ。



 まあ中学の頃は俺も色々あったからな。

 今は別に気にしてねえが、今更小学校や中学校の同級生と慣れ合う気もねえ。

 来栖や里香、苗場さんもその微妙な空気を察したようだ。



「そう言えば、里香ちゃんと来栖君は雪風君といつからの付き合いなの?」


「んとね。 私も零慈も高校になってからの付き合いよ?」


「うん、そうだね」


「そうなんだ~、随分と仲が良いから付き合い長いのかと思った」


 まあ傍から見ればそう見えるだろうな。

 でも付き合いの長さだけで親しくなるもんでもないけどな。

 しかしなんか微妙な気分になるなあ。


 時々見かける小学校や中学校の同級生を見ると、

 なんか胸がムカムカする。 奴らは俺を見ると視線を反らすか、

 あるいは曖昧な笑みを浮かべて、最低限の挨拶しか返さない。

 でも小学生時代には、この連中と毎日遊んでいたんだよなあ。

 

 まあある程度気付いてるかもしれんが、

 小学生時代の俺は所謂ガキ大将のような存在であった。

 多くの子分を引き連れて、毎日毎日学校内でも学外でも

 遊び回っていた。 その構図は中学に上がっても、ある程度は同じだった。



 俺は中学に入学して、すぐにバスケ部に入部。

 そこからは部活と勉強漬けの日々が続いた。

 中学時代の俺は学校の成績も良く、

 バスケ部でも秋の新人戦からレギュラーになった。


 そのままいけば俺の中学生活は順調に進む筈だった。

 しかし中二の夏休み前に――


「……たろう、健太郎! どうしたの?」


 と、里香が俺を呼んだ。

 いかん、いかん、つい嫌な事(・・・・・・・・・)を思い出しそうになった。

 まあいや。 過去なんてどうでもいい。 大切なのは今じゃねえか。


「いやなんでもねえよ。 それより何か食わねえか?」


「そうね、健太郎は何が食べたいの?」


「うん、まあここは無難にたこ焼きだな。

 あ、妹がお土産買って来い、って言ってたから一箱多く買うわ」


「それじゃここは私が奢るね! 最近健太郎に奢ってもらって

 ばかりだったし、ここはその恩返しという事で! 早苗も一緒に行こう!」


「う、うん、じゃあ私少し行ってくるね」


「あいよ、いってら」


 そう言って俺は里香と苗場さんを見送った。

 すると来栖が俺の隣に立ち、やや難しい表情になっていた。

 何かを言うか、言わないかで悩んでいる感じだ。

 恐らく察しの良い来栖の事だ。 



 俺と出会った小中学校の同級生の微妙な反応で何かを察したのだろう。

 でもその話題に踏み込むか、踏み込まないかで悩み中、というとこか。


 まあでもね、当の本人である俺はもう気にしてねえわけよ。

 だから俺は思った通りにこう打ち明けた。


「あ、変に気を使わなくていいぞ? 別に俺はもうどうでもいいからな。

 それに俺は来栖や里香や苗場さんとつるんでいる方が楽しいからな」


「そっか」


「ああ」


 そう俺ももう高校生なのだ。

 だから終わった事にいつまでもくよくよしない。

 大切なのは現在と未来。 だから前を向いて生きてくぜ。


「お待たせ~」


 そう言って里香はたこ焼きが何箱か入ったビニール袋を

 手にぶら下げながら、こっち向かって歩いてきた。


「おお、ありがとさん!」


「いえいえ、お安い御用です」


 そう言って里香は俺にたこ焼きの箱を手渡した。

 でもここで焦って食うと、喉が焼けるからな。

 少し冷ましてから食うか。 というか飲み物が欲しい。


「はい、雪風君。 スポーツドリンクでいいかな?」


 と、絶妙なタイミングで苗場さんがスポーツドリンクの入った

 ペットボトルをこちらに差し出した。 なんて気が利く人なんだ!?

 一瞬惚れそうになったぜ。 というか少し惚れたと思う。


「うん、苗場さん。 ありがとうね」


「ううん、お礼なんていいよ」


「苗場さんはきっと良いお嫁さんになれるよ」


「雪風君!? な、何を言ってるの!?」


 苗場さんが両手を頬に当てて、小さく身体を揺らした。

 え? いや俺としては誉めたつもりなんだったけど……。


「ふん!」


 何故か里香が不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 ……どうやら俺は選択肢を間違えたようだ。

 だが残念これは現実リアル

 故にやり直しはきかないし、このまま進めるしかない。

 現実リアルって理不尽なゲームだよな。



 まあいいや。 そんな事よりたこ焼き食おうぜ。

 俺は爪楊枝でたこ焼きを刺し、口の中に放り込んだ。

 ……うん、悪くない。 75点というところか。

 夏祭りのたこ焼きにしては、上出来な部類だろう。



 まあ俺自身そんなに美味いたこ焼きを食った事がないけどな。

 たこ焼きと言えば、大阪。 大阪といえば剣持の野郎も大阪人だったよな。

 まあなんかあいつは大阪人って感じがあまりしないが、

 野郎も家ではたこ焼き器でたこ焼きを焼いてるのだろうか?

 なんか滅茶苦茶こだわりとかありそう。 なんとなくそう思う。



 そうこう思っているうちに、俺はたこ焼きを綺麗にたいらげた。

 まだ食い足りねえな。 そういうわけで俺は焼きそばを購入。

 こちらの方もまあまあ美味かった。 80点くらいだな。

 その後、フランクフルトやベビーカステラを追加で買って、

 皆で分けて食べた。 どれもこれも悪くない味だ。 80点だな。



 腹も膨れたところなので、食べ物はこれくらいにしよう。

 その後、里香と苗場さんが金魚すくいやヨーヨー釣りなどをする様を

 俺と来栖で横から見ていた。 里香はヨーヨー釣りで手に入れた

 水風船をぶら下げて、上機嫌だ。 ……俺等も何かして遊ぶか?



 だがこういう場所での型抜きは止めた方がいいな。

 どんなに上手く型抜いても何癖つけられるのが落ちだ。

 んなわけで俺と来栖は暇潰しがてらに射的に挑戦。


 しかし俺はなかなか的を射る事ができない。

 対する来栖は結構な数の景品を落としている。



「零慈、凄っ! 健太郎、しょぼっ!」


「う、うるせえよ!」


 というか来栖ってなにげに色々出来るよなあ。

 なんだよ、愛されるてるのは美の神だけじゃねえのかよ。

 俺も神に愛されてえよ。 できれば愛の神(エロス)に愛されてえな。

 なんならサキュバスでもいいぞ。 まあサキュバスは神じゃねえけどね。


「それじゃそろそろ帰りましょうか」


「そうだね」「そうね」


 里香の台詞に来栖と苗場さんが続いた。

 まあそうだな。 これ以上やる事もなさそうだしな。

 でも意外と楽しかったぜ。 地元の夏祭りも捨てたもんじゃねえな。



「そうだな、帰るか」



 そう言って俺達は夏祭りの会場を後にした。

 その後の夏休みも大体は夏期講習か文化祭の準備、部活で終わった。

 まあ文化祭の準備の後や土日には四人で集まり、駅前の喫茶店で

 お茶したり、軽くボーリングしたりして遊んだが、

 俺達の関係も結局大きな変化がないまま、ついに夏休みが終わった。


 そして迎えた九月一日の朝。

 高二の二学期が始まろうとしていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 夏休みも終わってしまいましたね。 夏祭りの屋台に点数を付けてしまう健太郎。 女子にだけ浴衣を強要する辺り健太郎っぽくてグッド。 そして、来栖も巻き込む辺りグッド。 来栖の困る顔が目に浮かび…
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