第二十二話 健太郎、デートの約束をする
放課後。
夏期講習から解放された俺達は来栖のバイト先のファミレスで、
軽い食事を取って、その後はドリンクバーで粘っていた。
「ああっ~、遊びに行きたい!!」
里香が気だるげに頬杖をつきながら、そう叫んだ。
それに関しては、俺も同意見だ。
なにせここまでは部活、大会、夏期講習で貴重な夏休みを潰した。
まあ来年の受験を考えたら、今から頑張るのは良い事だが、
やはり俺達も十六、十七歳の高校生。 やはり遊びたい年頃。
「ねえ、零慈。 次の休みはいつ?」
「ああ~、ごめん。 お盆まで休みなしだよ」
「ええっ!? それじゃ夏期講習と
バイトだけで夏休み終わりそうじゃん!」
「いやあ、まあ俺の家は母子家庭でしょ?
だからこうして休みにバイトしてないと、
大学の学費払えそうにないのよ。
かといって奨学金を借りるのは、
リスクがあるからね。 ごめんね、里香」
「い、いやなんか私の方こそごめん」
「いや俺は気にしてないよ?
というか健太郎と二人で遊びに行ったら?」
「え?」
来栖の言葉に一瞬戸惑う里香。
まあ必ずしも三人で遊ぶ必要はないからな。
とはいえ里香と二人っきりだと少し緊張しそう。
「健太郎はどうなの?」
と、来栖がちらりと俺を見た。
なる程、気を使ってくれてんだな。 来栖は本当に良い奴だ。
「まあ俺も土日は暇……かな? 右手がこれだからな」
「……う~ん。 健太郎は私と二人で遊びたいの?」
やや探るようにそう言う里香。
しかしここで否定するのアレだ。 ここは素直に答えよう。
「俺は里香がいいなら、二人で遊びたいぞ」
「う~ん、どうしようかな~?」
と、やや勿体つける里香。
でもその表情はにこやかだ。 これはあえて焦らしてるな。
「……嫌か?」
「ん~、別にいやじゃないけど~」
「ならいいじゃん」
「まっ、いっか。 それで健太郎、何処へ行くつもりなの?」
おいおい、俺に丸投げかよ?
まあつっても急に決めた話だからなあ。
とはいえ何処に行ったもんだか。
まあ里香が行きたい所なら『東京ディスティニーランド』を選べばいいだろう。
でもこの真夏に『東京ディスティニーランド』に行くのは避けたい。
とはいえ動物園やプールはこの前行ったからなあ。
そういう意味じゃ遊園地という選択肢は悪くないかもしれない。
ああいう場所なら里香もそれなりに喜んでくれるだろう。
「……遊園地、とかどうよ?」
「え? ディスティニーランドへ連れてってくれるの?」
急に上機嫌になる里香。
というかお前、どんだけディスティニーランド好きなんだよ?
俺には分からん。 そんなにいいもんか、ディスティニーランドって。
「いやあそこは混みそうだから、別の場所にしない?」
「ええ~、遊園地行くならディスティニーランドがいいよ~」
「まあまあ、とりあえず他の場所で予行演習としようよ?
なんか近場でそんなに混んでない所の方にしない?」
「……う~ん」
「俺、あんまディスティニーランドに行った事ねえからさ。
ネットとかで色々調べたり、勉強するからさ。
だからディスティニーランドは今度にしようぜ? な?」
「う~ん、そんなに下調べとかする必要ないじゃん。
普通に楽しめばいいわけだし~」
まあ正論だな。
でもなあ、ディスティニーランドってぶっちゃければ、超リア充空間じゃん?
そんなところで恋愛偏差値13の童貞小僧が女の子を連れて、
遊ぶと考えただけで、胃が痛いのよ? 俺にはハードル高いよ?
だからもうちょい気楽なところで予行演習をしたいというか。
「いやさあ、俺って色々アレじゃん?
ディスティニーランドで女の子連れてエスコートする自信がないんよ~。
だからまずは近場の遊園地で予行演習というか……」
「……分かった。 健太郎がそこまで言うなら、違う遊園地でもいいよ」
「そ、そうか! 助かるよ、里香」
「……で遊園地の候補は?」
「え~と……東京アルティメットランドとかどうよ?」
「……東京アルティメットランドねえ。 まあ悪くはないかも?」
「そうか、なら東京アルティメットランドでいいよな?」
「うん、いいよ。 なら早速今週の土曜日辺りにでも行く?」
「お、おう! 俺もネットで色々調べておくよ!」
「うん、それじゃ約束ね」
そう言って里香は右手を前に差し出し、小指を立てた。
え? もしかして指切りしろっての? この俺に?
しかし里香はとても良い表情で笑っている。 し、仕方ねえなあ~。
「おう、俺は友人との約束は破らねえぜ」
そう言って俺も右手を差し出し、自分の小指を里香の小指に絡めた。
そして上下に何度か振って、指切りをした。
「健太郎、楽しみにしているよ」
「お、おう! 俺も楽しみだぜ!」
「それじゃ零慈。 私達はもう帰るね」
「うん、里香、健太郎。 またね!」
「おうよ!」
俺と里香はファミレスから出て、大きく伸びをした。
「健太郎と二人で遊ぶのは初めてだよね?」
「あ、ああ。 そ、そうだな」
「健太郎、もしかして緊張している?」
「……少しな」
「へえ、健太郎でも緊張する事あるだあ~」
と、里香はころころと笑った。
俺の事なんだと思っているんだ? 俺も一応人間なんだよ?
まあ里香は軽い気持ちでからかっているだけだろうけどさ。
「リングの上じゃあんなにカッコ良かったのにね!」
「え?」
お、おい。 急に褒めるなよ!?
なんか急に強烈なカウンターを喰らったような気分だぜ。
「まあ私は健太郎のそういうところも好きだよ?」
「そ、そうか」
「それじゃ私ももう帰るから、またね!」
「おう。 気を付けて帰れよ」
「うん」
そう答えて、里香は最寄り駅まで歩いて行った。
こうして今週の土曜日に里香と二人でデート?決定。
しかし今更だが女の子と二人で遊ぶって緊張するなあ~。
デートって具体的に何をすればいいんだ? ……分からん。
で、でも変に気取らない方がいいよな?
自然体が一番だよな? でも一応ネットで調べておこう。
こういう時ってネットって便利だよな。
というか帰りに本屋によってデート本でも立ち読みするか?
付け焼刃な気もするが、何もしないよりはいいだろう。 ……多分。
次回の更新は2020年5月11日(月)の予定です。