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第十六話 あんま舐めるなよ

ここからスポコンパートです!

アマチュアボクシングにしては、

激しい描写が続きますが、

そこのところは小説ということで、ご了承ください。



「まさかこういう組み合わせになろうとはな」


「まあ別にいいっスよ。 これなら確実に奴と戦える」


 俺は忍監督の言葉にそう返した。 

 抽選会と開会式も終わり、

 各階級ごとのトーナメント表が配られた。 


 我が帝政学院から本大会に出場するのは、

 二年生のフライ級の香取、二年生のバンタム級の新島、

 そしてライト級はこの俺。 


 ライトウェルター級は副主将の郷田さん。 

 ウェルター級は主将の武田さん。 

 この計五人が本大会の個人戦の出場者だ。



 俺は一回戦からの出場だが、

 勝ち進めばシード扱いの大阪府代表の剣持と二回戦で

 当たるという組み合わせになった。 

 マジかよ、まさか二回戦で奴と戦う事になるとはな。


「うわぁ~、ついてねえな、雪風。 

 二回戦で剣持と当たるのかよ~」


「いえ武田さん。 これで一回勝てば、

 必ず奴と戦えるんで、俺としては嬉しいです」


「ほう、お前本当に打倒剣持に燃えているんだな」


「ええ、まあ見ててください」


「おう、俺も三年最後の夏だから頑張るわ」


「おーい、お前等、十分後にバスに集合だぞ? 

 今のうちに飲水やトイレ済ませておけよ」


 忍監督がやや大きな声でそう言った。

 俺達は東京だからな。 

 抽選会と開会式さえ終われば、スクールバスでとんぼ帰りだ。


「了解っス。 俺ちょっと自販機でジュース買ってきます」


「早くしろよ?」と、武田さん。


「はい」


 俺は体育館から出て、近くに自動販売機がないか探した。

 すると体育館の中央玄関から少し離れた所に自販機があった。

 俺は猛ダッシュで自販機に駆け寄った。 

 それと同時に別の方向から高校生らしき男が現れた。 

 その男は物凄い速さで自販機に近づいて、

 自販機の手前で止まった。


「悪いな、俺が先に使わせてもらうぜ?」


「ああ、どうぞ」


 ちっ。 先に割り込まれたな。 

 というかこいつ、相当足が速いな。

 そんな事を思いながら、

 俺は眼前の白い開襟シャツと青いズボンの男子高校生を見た。


 さらさらの黒髪。 少し長いもみあげ、

 身長は俺よりは低いな。

 全身がシュッとした細身の体型。 

 というかなんか妙な既視感が……。


「おい、剣持。 もう少しでバスが出発するぞ」


「!?」


 やや離れた場所から、

 眼前の男と同じ制服の男子生徒がこちらに向かって叫んだ。


「あいあい。 分かった……ん?」


 俺と眼前の男の視線が合った。 

 その時、俺は思い出した。 俺はこいつを知っている。

 間違いない、こいつは剣持だ。 剣持拳至だ。


「お前、何処かで見た顔だな?」と、やや首を傾げる剣持。


「俺はライト級の東京都代表だよ」


 すると一瞬剣持の表情が固まった。 

 だがすぐに口元に笑みが浮かんだ。


「お前、雪風健太郎か?」


「まあな。 高校三冠のアンタに覚えられているなんて光栄だよ」


「ふっ、お前ついてねえな」


 剣持はそう言って人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。 

 何だ、この野郎。

 こうして直に話すのは、初めてだがなんかこいつ感じ悪いぞ。

 露骨に人を馬鹿にしたような態度や言動が癇に障る。 

 俺の事を舐めてんのか?


「は? どういう意味だ?」


 俺は苛立ちと怒気がはらんだ声でそう言った。


「お前、そこそこ良いボクシングセンスしてるのに、

 二回戦でこの俺と当たるとはな。

 いやあマジついてねえわ。 おめえ、くじ運なさすぎるぜ?」



 かちん。 

 こ、この野郎、マジでムカつくぜ。 何様のつもりだ?



「おい!」


「あん?」


「あんま舐めるなよ!」


 俺はそう言って、双眸を細めて、剣持を睨みつけた。

 しかし剣持は怯むどころか、

 また他人を小馬鹿にしたような笑いを浮かべた。


「そう熱くなるなって? 恨むなら自分のくじ運のなさを恨みな。 

 俺にさえ当たらなければ、

 ベスト4くらいは行けそうだったのになあ。 

 まあこれも人生というやつさ」


「てめえ、喧嘩売ってるのか?」


「おいおい、よせよ。 

 俺はリング外で殴り合うつもりはねえぜ。 ん?」


 まあ流石の俺もここで殴り合うつもりはねえけどな。 

 でも気が収まらねえ。

 なんかこいつがムカつきそうな事を――


「おい! 剣持、何やっているんだ!?」


「ん? ああ、影浦か」


「……お前、他校生と揉めているのか?」



 そう言いながら、

 影浦と呼ばれた剣持と同じ制服姿の男子生徒がこちらにやって来た。 

 こいつも剣持と同じ顕聖学園のボクシング部員か? 

 というか影浦という名前は、何処かで聞き覚えがあるな。



「お前、何やっているんだ?」


「別に……こちらの雪風君とお話していただけだ」


「なにっ!? 雪風って……ああっ!!」


 俺の顔を見て驚く影浦。 

 だが次の瞬間、物凄い形相で剣崎の襟首を右手で掴んだ。


「お前、いい加減にしろよ? お前の事だから

 雪風……君を煽っていたんだろ? 

 いい加減その腐った性格直さないと、

 お前そのうち誰からも相手されなくなるぞ?」


「ちっ! 放せよ!」


「謝れよ!」


「は?」


「雪風君に謝れよ!」


「……何で俺が?」



 あれ? なんか俺を無視して、二人が争い始めたぞ。 

 いやあ、俺の怒りは何処にぶつければ、いいんですかねえ? 

 でも多分剣持はいつもやらかして、

 この影浦……君がフォローしている感じなんだろうな。 

 そう思うとこいついい奴かもな。


「あ~、いや俺はもう気にしてないよ」


「……ホント、悪いね。 雪風君」と、影浦。


「いや別にいいよ」


「……ほら、雪風もそう言ってるぜ?」


 いやお前がそれ言うか? 

 こいつ、マジで良い性格してるね。


「お前が言うな!」


「わ、分かったよ。 だから襟首から手を放せよ? 

 この開襟シャツ高いんだぜ?」


「ちっ! もうすぐバスが出発だ。 急ぐぞ」


「分かったよ」


「雪風君、マジごめんな」


 と、影浦はこちらに向かって小さく頭を下げた。

 影浦はマジいい奴だな。 こいつとは友達になれそう。 

 だが俺も一言だけ言わせてもらう。 

 そうでないとやはり気が収まらない。


「剣持」


「……何だ、雪風?」


「俺はボクサーだ。 リング外で殴り合いや舌戦ぜっせん

 する気はねえ。 だからこの借りはリングで返してやるよ?

 あんま人を舐めんなよ? 高校三冠王者さんよぉ~」


 すると剣持は僅かに口の端を持ち上げて――


「お前、意外と骨があるね。 俺、そういう奴嫌いじゃねえよ。 

 じゃあな、次はリングで会おうぜ。 

 お前との戦い楽しみにしてるぜ」


 と、言って剣持は影浦の後を追い、この場から去った。

 剣持の野郎、この俺を舐めやがって! 

 まあ良い、この借りはリングで返すぜ。


「おい、雪風! 何してんだ? もうバスが出るぞ!」


「あ、武田さん、すみません。 すぐ行きます」


 クソッ、剣持のせいでジュース買いそびれたぜ。 

 でもなんか燃えてきたぜ。 

 見てろよ、俺の力を見くびった事を後悔させてやる。



 そして翌日の月曜日。

 インターハイ本戦が始まり、熱戦の火蓋が切られた。

 ライト級の一回戦も順当に消化されて、

 ようやく俺の出番が回ってきた。


「健太郎、頑張れ~!」


「健太郎! 負けるなよ!」


 この声は里香と来栖だな。

 あいつら、ちゃんと応援に来てくれたんだな。

 ならばここで負けるわけにはいかねえ。 

 カッコいいところ見せないとな。


 俺は歓声を浴びながら、身体を上下に揺らせてリングインする。

 俺はリングに上がり、軽く首を回した。 

 呼吸も正常だ。 心音も確かに聞こえる。

 状態は万全だ。 



 俺の対戦相手は和歌山代表の二年生の松原。

 ライト級にしては小さいな。 身長170前後ってとこか。

 インターハイは初出場のようだ。 

 松原は目を細くして睨んできた。


 だが俺は相手せず、目線を反らし応援席へと視点を移した。

 そして軽く右腕を上げてくるくると回す。 

 それと同時に里香達が叫んだ。


「健太郎、負けるなぁっ!」


「健太郎、勝てよ!」



 勿論そのつもりさ。 

 ここで勝たないと剣持と戦えないからな。

 俺はレフリーの試合前の注意を聞き終えて、

 ゆっくりと自分のコーナーへ戻る。



 ビーというブザー音と共に両者がリングの中央に駆け寄る。

 それと同時に試合が始まった。 

 先手を取ったのは、和歌山代表の松原。

 松原は距離を測るように左ジャブの連打を放つ。



 基本に忠実な綺麗なジャブだ。 悪くない。 

 だがこの程度なら俺には通用しないぜ。

 俺はそれをパーリングで難なく弾く。 

 まだお互い射程園内に入ってない。



 俺も綺麗なフォームから左ジャブを繰り出して、

 松原の顔面にヒットさせた。

 松原も左ジャブを受けながら、

 体勢を崩さず牽制するように左ジャブを放ってきた。



 左の差し合いが望みかよ。 いいぜ、受けて立つぜ。

 左ジャブと左ジャブの激しい応酬が繰り広げられる。 

 だが松原のジャブは空を切り、

 俺の左ジャブが的確に松原の鼻と顎を捉える。 



 左の差し合いでは俺の勝ちだ。

 だが松原も意地を見せた。 

 身体を上下左右に揺らせてステップインして前へ出る。

 それと同時に松原が体重を乗せた左ボディフックを打ち放った。



 俺はそれを見越して、右腕でガードするが重い衝撃と痛みが走る。

 うほっ……。 結構良い左フック持っているじゃねえか。

 ガード越しにも効くパンチだ。 

 どうやら松原はパンチ力には自信があるようだ。


 そこから松原は至近距離で左右のフックを連打する。

 俺はそれをガードやスウェイバック、

 ウィービングなどの防御ディフェンステクニックを駆使して回避。 

 松原の重いパンチがガード越しに響く。 だが俺は怯まない。



 焦らず冷静にパンチを目で追い、相手の表情を冷徹に観察する。

 松原が懸命に放つパンチを紙一重で躱し、

 俺は右アッパーカットを繰り出した。

 俺の右拳が松原の顎の先端(チン)を綺麗に捉えた。



 松原は予想外の角度からのパンチと衝撃に思わず腰を落としかけた。

 この機会を逃さず手はない。 俺は素早く連打を繰り出した。

 左右のフック、ワンツーパンチ。 

 左右のショートアッパーが面白いようにヒットする。 



 瞬く間に松原の顔が腫れあがり、呼吸を乱す。

 松原も意地と根性で俺のパンチを耐えながら、打ち返す。

 俺は冷静にパンチを完全に見切りながら、

 的確に相手の急所を打ち込む。


「ラスト三十秒!」


 両コーナーに陣取るセコンド陣がそう叫んだ。

 そろそろ仕掛けるか。 ――行くぜ!

 俺は一気に前へ出て相手との距離を詰める。



 最初に右アッパーで顎を、次に左フックで相手の頭部を、

 止めに右を顔面に放つ。

 ウェイトがたっぷり乗った俺の右ストレートが鈍い衝撃と共に命中する。



 それと同時に松原は顎を上げて口からマウスピースを吐き出した。

 そして次の瞬間、大の字になりリング上に倒れ込んだ。

 レフリーが即座に駆け寄り、腕を交差させた。


「健太郎、カッコいいわよ!」


「凄いぞ、健太郎!」


「今の見た? エグい右だなあ~」


「凄いパンチ力だ。 相手が気の毒だぜ」


「東京都の帝政学院の二年生か。 あの右は魅力的だな」



 豪快なRSC勝ちに観客席から歓声が沸き起こる。

 中には大学関係者やプロジムの関係者っぽい連中も

 俺の方を見て何か囁いていた。

 正直いって気分はいいぜ。 だがこれで満足するつもりはねえ。

 俺はそう思いながら、

 眩いライトで照らされた天井を見澄ました。



 ――これで奴と――剣持と戦える。

 ――剣持、次はてめえの番だ。



 ライト級一回戦 雪風健太郎[東京都代表] 1R1分48秒RSC勝ち




次回の更新は2020年5月5日(火)の予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 唯一のライバルである剣持が登場。 かなり頭にくるヤツ。御神籤風に言うと、性格に難あり。 2回戦で、その剣持とぶち当たるとは... 楽しみをとっておけないタイプorそこで負けるの2択。 そし…
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