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第十二話 どうしてこうなった!?

累計50ポイント超えました。

これも全て読者の皆様のおかげです!



 ……少し状況を整理しよう。 

 まず俺は来栖と里香の三人でプールに遊びに来た。

 んでなかなか良い雰囲気で楽しんでた。 ここまではいい。


 そして昼食に行こうとしたら、

 何故か偶然に陸上部の一年生・竜胆美雪と出会った。

 まあここまでなら、まだありえる話だ。 



 うん、だがその後にこの間から少し気まずい

 幼馴染の美奈子とその同人サークル仲間の美剣麻弥子と

 この場で遭遇エンカウントするのは、

 いくらなんでも偶然に偶然が重なり過ぎじゃね? 

 とりあえず俺は神を呪った。



 しかし神を呪ったところで、

 この状況から解放されるわけではない。

 ならば偶数を数えて落ち着こう。 

 2、4、6、8、10、12、14……。

 まずは一つずつ問題に対処しよう。


「へ? な、何? こ、この人達も健太郎の知り合い?」


 驚きを隠さず、顔をややしかめる里香。 

 ここで手順を間違えたら、アウツだ。

 だからここは安全に安全に爆弾処理をするしかない。


「ん? ああ、彼女は俺の幼馴染の葉月美奈子。 

 俺達と同じ帝政の生徒だよ」


 とりあえず俺は無難に安全牌を切った。


「ど、どうも。 は、葉月美奈子です」


 ややおどおどしながら、そう自己紹介する美奈子。


「……どうも、神宮寺里香です」


 やや威嚇するように双眸を細める里香。

 というか里香もこういう目つきするんだ。 

 女子の怖さの一端を見た気がする。


「……要するにその後輩の子とも

 この葉月……さんとも偶然会ったというわけ?」



 里香は胸の前で両手を組みながら、

 俺にちらりと視線を向けた。

 うん、俄かには信じがたいが、そうなんだよな。 

 里香が不審に思うのも無理ない。



「ああ、そうだよ。 なあ、竜胆、美奈子?」


「……ええ、そうです。 私達は本当に偶然です」


 竜胆、なんで「私達」はとか言うの? 

 もしかして竜胆も疑ってる?


「う、うん。 私はこちらの麻弥子さんと二人で遊び来ただけだよ」


 美奈子はおどおどしながら、視線を隣の美剣に向けた。


「ふうん、そっかあ。 こういう偶然ってあるんだ~」


 急に笑顔に戻る里香。 どうやら誤解は解けたようだ。


「で、ですね」と力なく笑う竜胆。


「う、うん。 ホントびっくりだね」


 と、美奈子も相槌を打つ。

 どうやらこれで丸く収まりそう――


「あのう~少しいいかな?」


 と、急に来栖が言い出した。 

 すると来栖は美剣に視線を向けた。


「……何ですか? さっきから俺の方ずっと見てませんか?」


 そういう来栖の口調は冷たい。 

 珍しく怒っている感じだ。

 というかこの変態露出狂女の事を忘れていた。 

 この間のようにいきなり滅茶苦茶な発言しないよな?


「い、いえ……どういう状況か

 分からず戸惑っていましたので」


 ん? なんだ、この女。 

 この間のテレビ電話の時と様子が違うぞ。

 ん? もしかしてこいつ実際に会えば、

 かなり内気なタイプか?


「……ならいいですけど」


 と、言いながらも来栖の口調は冷たい。

 恐らく美剣の奴、

 ずっと来栖の事をガン見してたんだろう。

 だがこう見えて来栖は女相手でも不快と感じたら、

 言いたい事を言うタイプ。


「な、なんかすみません……」


「いえいえ」



 そう言いながらも、美剣の顔は紅潮している。 

 まさかこの女、「これもご褒美」とか思ってないだろうな。 

 というか多分そう思ってそうだ。 

 この女はそういうタイプだ。


「ん~? 要するに本当に健太郎の知り合いと

 偶然ここで出会った、という感じ?」


 と、来栖が顎に右手を当てながら、そう言う。 

 相変わらず理解が早くて助かる。


「お、おう。 俺もビックリしている感じ」


「もういいわよ。 私も納得したし、

 さっさとお昼御飯食べに行こうよ」


 機嫌を直した里香がそう言った。 

 どうやらこれでこの場は丸く――


「あ、あのう!」


 と、急に美奈子が声を上げた。


「はい?」


 と、美奈子の方に振り返る里香。 

 その表情はやや不機嫌だ。


「……」


「……私達にまだなんか用でもあるの?」


「じ、神宮寺さんは健太郎の事をどう思ってるんですか?」


「はい?」


 と、俺も思わずそう口走った。 

 み、美奈子さん、なんでこのタイミングでそんな事を言うんだ。 

 つうかなんでこんな修羅場みたいな展開になっているんだよ?


「……それ貴方に関係ある?」


 そう言う里香の声は何処までも冷たい。

 美奈子もだよ。 なんでこの状況でそんな発言するんだよ。


「……関係なくはないです! 

 だって私は幼稚園から健太郎と一緒だもん」


 美奈子は何かを吐き出すようにそう言った。 

 しかしこの流れはまずい。


「ふうん、それこそ関係なくない?」


 里香はばっさりとそう斬り捨てた。


「えっ……」


 と、美奈子がそう言葉を詰まらせた。

 そして里香はつかつかと美奈子の方に歩み寄った。


「子供の頃の話なんてどうでもいいじゃない。 

 そんなのに高校生になってこだわるなんて、

 貴方って子供ね? 大切なのは今でしょ?」


「ど、どうでもいいって! ひ、酷いっ!?」


 里香も容赦ねえな。 

 しかしこの状況下で中途半端の美奈子を擁護するのは悪手だ。

 人間偏差値44の俺でも分かる。 


 子供のように全員仲良くなんか無理だ。

 だから俺はギリギリまで様子を見るという選択肢を選んだ。


「じれったいわね? 

 要するに貴方は私に嫉妬してるんでしょ?」


「なっ……!?」


 うわあ、里香もど直球投げるなあ。 

 でも多分里香の言う通りだ。

 それはこないだの件で分かる。 そしてこれも分かる。 


 ここで里香にも美奈子にも良い顔をしようとしたら、

 駄目という事もな。 でもどうしてこうなった?

 俺達はただプールに遊びに来ただけだよな? 



 なんでこんな修羅場になってるの?

 というか気が付けば、

 周囲の人間がこちらをちらちらと見ている。

 しかし里香も美奈子もお互い睨みあったままだ。 

 正直少し怖いぜ。


「そうやって健太郎の同情を引きたいわけ?」


「ち、ち、違うわよ!」


「ならもういいでしょ? 『私達に』構わないでくれる? 

 行こ、健太郎、零慈」


「……」


「……そうだね」と、来栖。


 う~ん、正直釈然としない。 

 この間の件で美奈子とはぎくしゃくしている。

 しかしこんな形で再会して、

 こういう結末になるのはなにか釈然としない。



 来栖ならこの場も上手く治められるだろう。 

 だがそれでは駄目だ。

 ここは俺が里香か、美奈子か、

 どちらかを選ぶしかないのだ。

 だからここはあえて俺は里香を選ぶ、というか選ぶしかない。



「……そうだな。 じゃあまたな、美奈子。 それと竜胆も」


「け、健太郎……」


「は、はい。 雪風先輩お疲れ様です」


 泣きそうな顔で俺の名を呼ぶ美奈子。 

 引きつった顔の竜胆。

 だが俺は振り返らず里香の後を追った。



「……」

「……」



 俺達はあの後、

 喫茶店に移動してソフトドリンクと焼きそばを注文した。

 そして部屋の隅っこにある円卓の椅子に俺、来栖の順で座り、

 里香は俺達の正面に座った。 


 里香は無表情で自分のオレンジジュースをストローで啜っている。

 何か話さねば、でも何を言えばいいんだ? 

 俺はさりげなく来栖に視線を向けた。

 でも来栖も珍しく困った表情だ。 やべえな、この空気。


「……で実際どうなの?」


 と、冷気の帯びた声でそう言う里香。


「え? 何が?」


 いやなんとなく分かるけどさ。 

 とりあえずこう言うしかねえだろ。


「……健太郎とあの子の関係」


「いや実際ただの幼馴染だよ」


 これは嘘じゃない。 


「ふうん、でもあの子は健太郎に気あるよね~。 確実に……」


「まあだろうな……なんとなく分かってたよ」


「で健太郎としては、私があの子にああいう事を

 言ったのが気にいらないのよね?」


「!?」


 やべえ、あまりにも図星だったので、

 心臓が止まりそうになった。


「……ふうん、やっぱそうなんだ~」 


 里香の声は相変わらず冷たい。 

 しかしこの場は適当に言葉を濁して逃げるのは良くないと思う。 

 だから俺は言葉を慎重に選びながら、自分の思いを伝えた。


「……そりゃあ友達が幼馴染と喧嘩してたら、

 気分良いもんじゃないだろ?」


「うん、そうね。 私も今最悪な気分。 自分の事が嫌いになりそう」


「まあまあ、二人とももういいじゃない」


 と、来栖がやんわりと場を収めようとしたが――


「ゴメン、零慈は少し黙ってて。 私は今健太郎と話したい気分」


「……了解」


 来栖はそう言い軽く両肩を竦めた。


「健太郎って中途半端に優しいよね~」


「そ、そうか?」


「うん、この状況でもあの子の事を心配しているでしょ?」


「まあな、それは事実だ」


 俺はぶっきらぼうにそう言った。


「でも同じくらい里香の事も気にかけている」


「分かっている。 だから中途半端に優しいって言ったの。 

 でもね、健太郎。 中途半端な優しさは時には仇になるのよ? 

 同情なんかされても、嬉しいのは一瞬だもん」


「……まあそうだろうな」


「だからいずれはどちらかを選ぶしかなくなるのよ。 

 少なくとも私はそうじゃないと嫌」


 里香の言わんとする事は分かる。 

 ここで美奈子に同情心から優しくするのは良くない。

 それくらいは分かる。 

 しかし俺はそれでもあえてこう口にした。


「里香と美奈子のどちらかを選べと言われたら、俺は里香を選ぶよ」


「……ホント?」


 俺が飾りっけなくストレートにそう言うと、

 里香も少し驚いたようだ。

 ここで止めておけば、とりあえず丸く収まる。 

 だが俺はあえてこう言った。


「でも俺としては、やはり里香に

 あまり美奈子の事を悪く言って欲しくないんだよ。

 たとえ俺の中途半端な優しさが招いた結果としてもだ」


「……そう」


「ああ」


「一応理由聞いていいかな?」


 表情を消したままそう問う里香。 


「そりゃ美奈子も俺の友達だからな」


「ふうん、そっか。 健太郎らしい答えだね」


「……怒ったか?」


 すると里香は首を左右に振った。


「ううん、いやホントはちょっとムカつくけど、

 許してあげる。 多分私が誰かに同じような事を言われたら、

 健太郎は私が居ない所でも、庇ってくれる気がするから」


「ま、まあな。 俺は本人が居なくても、

 庇えるのが本当の友達と思っているからな」


「……本当の友達、かあ」


「ああ、俺は里香や来栖の事そう思っているぜ」


「よくそんな事を真顔で言えるわね~」


 と、里香はやんわりと微笑を浮かべた。


「ま、まあそうだよな。 キモいよな」


「うん、少しキモい。 でもキモいけど、嬉しいよ。 

 健太郎、やっぱりアンタは普通の男子とは違うわね。 

 良い意味でも悪い意味でもさ」


「……そ、そうか」


「うん、零慈もそう思うでしょ?」


「そうだね。 確かに違うね。 

 でも俺は健太郎のそういうところも好きだよ」


「うん、私も嫌いじゃないかな」


 こうして面と向かって言われると、やっぱり恥ずかしいな。


「まあ今回の件は私も少しムキになったわ。 

 ゴメンね、健太郎」


「い、いや気にしてねえよ」


「でもさ、健太郎はずっと私と友達で居たいわけ?」



 里香はそう言いながら、大きな目で俺を見据えた。 

 恋愛偏差値13でも里香の言わんとする事は分かる。 

 正直出来れば無難な回答で逃げたいが、

 ここはあえてそれをさけた。



「ずっと友達か。 それも悪くないけど、

 それ以外の関係も悪くねえかもな」


「ふうん、例えば?」


「……いや具体的には考えてねえよ」


「……意気地なし」


「……」


「まあいいわ。 私も今は友達で満足してあげるわ。 

 でもね、健太郎。 とろとろしているとこんないい女、

 誰か他の男がさらっていっちゃうぞ?」


「それは嫌だな。 正直面白くねえよ」


「じゃあそうならないように、

 しばらくは待ってあげるわ。 しばらくはね」


「……色々と善処するよ」


「うん、じゃあ御飯食べよう。 食べ終わったら、

 二階のフィットネスルームへ行こうよ。

 私も少し運動したい気分だし、いいでしょ?」


「ああ」


「うん、そうだね。 俺も身体動かしたいな」と、来栖。


「じゃあ午後はフィットネスルームでトレーニングね。 決定ね!!」


「了解、お姫様」



 どうやら俺達のお姫様の機嫌が直ったようだ。 

 少しホッとした半面、やはり美奈子の事を思うと少し心が痛む。 

 だがこれを機に美奈子と距離を置く良いきっかけかもしれん。


 俺だって里香が俺や来栖以外の男と

 いちゃいちゃしていたら、そりゃ面白くない。

 それは里香も同じだろう。 



 だからもう中途半端に優しくするのは控えようと思う。

 でもしばらくの間は、

 まだこの三人で友達として、過ごしたい。 



 それから先の事はその時に考えよう。 

 だから今この瞬間をめいいっぱい楽しもう。

 それが俺の出した結論だ。



 まあ人間偏差値44、恋愛偏差値13の俺としては、

 今はこれが限界だ。

 だが来る時が来れば、その時は逃げずに真剣に向き合おう。

 それだけは頭の片隅に入れておこう。 

 この世に永遠のものなんかねえからな。



次回の更新は2020年5月1日(金)の予定です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 漫画あるある。 偶然、主要キャラ全員集合。 ギャグ漫画だと、遭遇する確率が高いです。 この傾向から察するに、この小説はコメディー? シリアスはまだまだ先なので、それまでのコメディーを楽し…
[良い点] 健太郎くんの優しさもわかるし、かなりリアルな人間関係が出来上がっていて、読んでいて楽しかったです!人間の感情ってこうなるんだよ複雑だ~!笑、ってそれぞれの気持ちに、一人で納得してました(*…
[一言] 雪風健太郎君にポチっと五つ星★とブックマークを差し上げましょう! 励みになりますよね!お互い頑張りましょう!
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