序章(プロローグ)
この世には男と女が居て、
恋のキューピットによって結ばれた者達は恋人、
そしてやがて夫婦になる。
これは人間界だけの話ではない。 自然界の動物にも当てはまる。
だがそれに当てはまらない者も多々と居る。
人は前者をリア充と呼び、後者を陰キャや喪男、喪女と呼ぶ。
そしてここにも一人の彼女ができない男が居る。
その男――厳密には少年は、
眩いライトに照らされた四角いリングの中で戦っていた。
少年の名前は雪風健太郎。
前年度の全国ボクシング高校総体インターハイ大会ライト級ベスト8。
全国八位である。 立派な戦績である。
そして今このインターハイ予選東京都大会ライト級の決勝の舞台に立っている。
リングに立つ少年の容姿はなかなか悪くない。
そこそこイケ面だ。
身長は176センチ。 鋭い野生の獣のような双眸。
眉目もそこそこ整っている。
身体は細めだが、余分な贅肉は一切なく、鍛えられた筋肉はしなやかだ。
そしてその少年――雪風健太郎は果敢に対戦相手にパンチを浴びせ続けた。
まずは教科書通りに左ジャブで距離を測り、
そこからの右ストレートを放つ。
対戦相手も思わずガードを固めるが、
放たれた健太郎の右拳が命中するなり、
両手が弾かれて、身体をぐらつかせながら、
後ろにふらふらと下がった。
「いいぞ、雪風! そこから連打を繰り出せ!」
リングサイドの私立・帝政学院高等学校の体育教諭であり、
監督である忍正仁がそう叫ぶ。
その言葉に呼応するように、
リング上の健太郎は左右のフックを振り回して、
対戦相手をひたすら殴打、殴打、殴打する。
その姿はまるで獲物を狩る山猫のようだ。
「いいぞ、健太郎! カッコいいわよ!」
観客席から同年代と思われる女子高生の黄色い声援が上がった。
それとほぼ同時に健太郎の左フックが対戦相手の右側頭部を打ち抜いた。
ヘッドギア越しだが、
効いたようで対戦相手はわずかに身体をふらつかせた。
そこから更に返しの右フックで左側頭部を殴打。
左右に頭を揺さぶる行動な技術。
そして健太郎は、止めといわんばかりに右ストレートで
相手の顎の先端を打ち抜いた。
会心の一撃が決まり、
対戦相手は青いキャンバスにもんどりうって背中から倒れた。
「ダウン! ニュートラルコーナーへ!!」
レフリーがそう告げると観客席が一斉にどよめきたつ。
だがダウンを奪った当人は涼しい顔に自分のコーナーに戻った。
レフリーはカウント6まで数えたが、対戦相手は起きる気配すらない。
そこでレフリーは両手を交差させて、試合が止められた。
この瞬間、健太郎の1R1分15秒RSC勝ちとなった。
それと同時に二年連続の全国大会出場権を獲得したのである。
「健太郎! おめでとう!」
再び黄色い声援が上がった。
だがリング上の勝者はポーカーフェイスでリングから降りた。
これだけ見れば、
彼はボクシングに打ち込むさわやか少年ボクサーのように見える。
だが残念ながら、そうではない。
残念ながら、彼もまた彼女できない男である。
確かに雪風健太郎はそこそこのスペックの持ち主だ。
(無駄に)高い戦闘力、(ネットで得た)豊富な知識、
(文系科目限定)意外に高い学力、
容姿も比較的良い方というそこそこのスペックの男子高校生であった。
だが彼はそれらの美点を全て打ち消すアレな性格の持ち主の少年であった。
空気読まない、というか読めない性格。 基本的に我儘。
ノリと勢いだけで生きている。
そのくせ興味ある事への拘りは無駄に凄い。
そして「人間偏差値44」に加えて「恋愛偏差値13」という
人間離れした偏差値を叩き出す男であった。
だから当然彼女も居ない、というかできない。
できるわけがない。
というか彼女どころか、友達も少ない。
だがそれでいて無駄に行動力が高く、
無駄にフラグを立てる能力を持っているという
漫画やラノベの主人公のような少年。
これはそんなアレな性格の持ち主の主人公・雪風健太郎が
友人やヒロインの美少女達と過ごす青春?の日々を綴った
青春ヒューマンドラマである。 ……多分。
本作品は新人賞投稿作品に加筆・修正を加えたものです。
誤字脱字などもあると思いますが、
その際にはご指摘していただけると幸いです。
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