僕に潜むもの
音の原因である割れたグラスを三人で片付けると。女性が頭を下げて。
「片付け手伝って下さってありがとうございます。私はイヨといいます。サクヤさんの話はかねがねゲンキさんから聞いています。ゲンキさんの親友のサクヤさんと一度会いたいと思っていました」
そう笑うイヨさんは明るく、小柄で優しそうな女性だ。
「せっかくなので朝ごはん食べて行ってください。ねぇ、ゲンキさん」
「ああ、せっかくだ。食べて行けよ。昨日のは迷惑かけたからな」
「だから、あれは僕の体調不良だっただけで元気のせいじゃないから気にしなくていいんだよ。あっ、でも、まだ話足りないし。お言葉に甘えて朝ごはん食べてもいいですか」
尋ねるとイヨさんは是非と言って、嬉しそうに台所に入っていった。元気は気をつけてなとその背中に向けて声をかけた。
リビングに僕と元気だけになると元気はすごい勢いで頭を下げた。
「昨日はすまん。俺の考えなしだった」
「だから、元気のせいじゃないって、もう気にしないでよ。それに、お前が気にしてたらイヨさんが心配するだろ。もうこの話は終わり。その代わり、今度は元気の話を聞かせてよ。いっぱいあるだろう。それでおあいこだ」
僕がそう言うと、元気はああっ、分かったと頷いた。なんか素直に聞き入れた。学生の時は全然人の話を聞かなかった元気が人の言うことを聞いた。学生の時だったら、それでも悪いと謝り続けただろうに。これは、この世界に来て冒険したからなのか、イヨさんに出会ったからなのか、僕は後方だと信じたい。
「じゃあ、俺の話をいっぱいしてやる。結構長いぞ」
望むところだと言おうとしたとき、ご飯ができましたよとイヨさんの声が響いた。
「飯を食いながら、話そうぜ」
元気がイヨさんのところに行く前に僕は。
「あっ、でも、もう二度とあの話、城にいた時の話はしないで」
咲夜は一トーン落とした声で俺の肩をつかんで言った。力がこもっていて、俺はその時、親友が怖いと思った。親友の中に潜む何かが恐ろしく感じた。イヨが準備できましたよと声が届いてきて、咲夜は肩から手を外し、行こうかと言った。いつものあいつに戻っていて、さっきのは幻じゃないかと思いたかったが肩の痛みが幻じゃないと主張していた。
朝ご飯を食べながら元気は今までのことを話してくれた。イヨさんが作ってくれたご飯はおいしくて、どうだうまいだろうと元気は自慢そうに言って、三人でしゃべたり笑ったりしながら食べて楽しかったが時折、元気は僕を見ていた。少し、気もちわるいと思ったが言わなかった。