彼女と夢の中で
僕は気が付くとかつていた城の中の暗い図書館にいた。窓から月の光が差し込んでいる。
ここは、僕にとって、誰の目にも気にせずに気を許せる場所だった。
僕は本をぺらぺらとめくっている。勝手に指が動く。僕の意思で体は動かすことができない。この本は何度も何度も見た本だった。全部覚えている。他のスキルについての本も全部見たし全部覚えている。それなのに僕はスキルを手に入れられなかった。
最後まで読み終えて、勝手に動く体は椅子から立ち上がり本を持って歩きだした。静寂に包まれていた図書館に僕の足跡だけが響く。
僕かある本棚に立つと隙間に本を戻した。
『そんなにスキルの本を見てどうするの』
声が聞こえた方を振り返ると窓からの月の光を浴びる彼女が立っていた。
ああ、僕は夢を見てる。 僕は昔の夢を見てる。
僕は今夢の中にいる。 僕は過去の夢の中にいる。
そうでなければ、彼女が、栞が僕の目の前に立つ訳がない。
『何も言わないんだ。だったら、質問を変えるよ。君はどうしてそんなに自信がないの?』
何も言わない僕に彼女は近づく。
『だって、僕にはスキルも何もない。みんなの足手まといだ。そんな、自分をすきになれる』
口が勝手に動く。これはあの日のことを再現している。
『そっか、答えてくれてありがとう』
そう言って、彼女は僕から離れていく。
もともとそんなに話したことがなかったが、この日、彼女から初めて声をかけられた。簡潔な会話で終了したが。そして、これを最後に生きている彼女の姿を見ることはなかった。数日後、彼女は魔王の幹部に殺された。
『それじゃあ、頑張ってね』
それを最後に彼女は僕の視界からいなくなる。そして、僕は違う本を取り、また読む。それが、あの日の記憶だ。彼女がどうしてあんなことを聞いてきたのか分からないが気まぐれだったんだと思う。それだけの話。
はずだった。
『君さ、自分が思っている以上にすごいんだよ。かっこいいんだよ』
彼女は再び僕の前に現れて、手をつなぐ。
こんなの知らない。こんなの無かった。こんな言葉かけてもらってない。手をつないだことなんてない。記憶ない。
『だからさ、これからがんばれ。私の分まであの人のそばにいて』
栞は笑って言う。
何を言っているのか分からない。彼女の笑った顔を僕は見たことない。あの人って誰だろう。
『そして、君とあの人が救われることを願ってる』
その言葉を言うと手や足が花びらになっていく。手を握ろうと伸ばしたが掴んだのは花びらだった。
「サクヤさん、朝ですよ。起きてください」
「いいから、寝かせておいてやれ。昨日無理に聞き出そうとしたから倒れてしまったんだよ」
聞きなれない女性の声と元気の声が聞こえた。背中にはやわらかいベットの感覚がある。
ゆっくり目を開けると木の天井と心配そうに僕を見る女性と元気の顔が見た。
「大丈夫。元気のせいじゃないよ。ちょっと体調が悪かっただけだよ」
僕はゆっくり起き上がった。女性はお水持ってくると部屋を出て行った。
「咲夜大丈夫か? 昨日はすまねぇ」
「だから、体調が悪かっただけだから。平気だよ。それより、さっきの人が元気が言っていた人なの」
「ああ、そうだ。美人だろう。優しいし明るいんだがちょっとあれなんだよ」
なんだよと聞こうとした時、ガラガラガシャンと大きな音ときゃあと女性の声が聞こえた。
「少し、いや、すごくおちょこちょいでよく皿とかガラスとか割るんだ。まぁ、そこもすごくかわいんだよ」
「のろけはいいから、助けに行こう」
そうだなと元気は答えて奥に行った。僕も手伝いに行こうと立ち上がった時、僕の手の中に花びらがあった。