討伐開始前
「いやー、あんたらもそうなのかぁ」
「ああ、店の人に頼まれてな」
「私は歩いてたら声をかけられてね」
「そんだけ、非常事態って事だよ。港町にいる冒険者だけじゃなくて、旅をしているにも声がかかるなんて」
「しかも、こんだけ人数でも足りないらしいな」
多くの人が集まり、がやがやとしている中でそんな会話が聞こえた。
夜更けなのにこんな騒がしいのは冒険者や元気のある戦える者が集まっているからだろう。
「しかし、海から湧いてくる謎のモンスター討伐をしないかと言われた時は驚いたよ」
「まぁ、港からの報酬が良いからいいけど。そんなにたくさん来るのかね」
「いや、今朝、聞いたんだけど数が多くて何体か強いのがいるらしい。怪我人や被害が多いらしいよ。死人も何人か……出たって。だから、町にいる戦える人達は全員駆り出されているらしい」
集まった人の中には引退したような人や怯えて周りの人に元気づけられている人がいた。
「俺は今回で四回目だけど、あれが何なのか分からねぇ。そもそも、あれはモンスターなのか」
「ダメージを与えても霧のように消える。死体も残さない」
「それに、何で朝になると消えるか海に戻るんだが」
何回も参加している人達の会話はほとんど何も聞かされていない僕にはとってもありがたいものだ。
だが、それよりも。
僕には大事な事がある。
「ねぇ、小刻みに震えて怖いの?」
一人の冒険者が心配そうに肩をたたいた。
うん、今すっごく怖がっているが。
「いえ、連れの夜に食べる食事を用意してこなかった事を思い出して、戻ったら……何をされるんだろうと思うと震えが……」
やっと、あのいびきから解放されると浮かれていて、忘れていた。
ああ、朝、宿屋に帰ったら僕は人間の原型を保っているだろうか。