クエストの誘い
「よし、これだけあれば町にいる分は足りる!」
旅には何かと金がかかるが一番負担となっているのはユキユリ、彼女の食費だ。彼女は本当に、本当によく食べるので金が結構、いや、いっぱいかかる。
町や村に訪れるたびに食べ物を買ってこいと言われ、道中も非常食や買っていた食材を食われてしまう。それゆえに出費をできるだけ抑えて、道中の食事は食べれるモンスターや動物を狩る。
まぁ、大変だがユキユリのあの良い食べっぷりを見たら文句は言えない。だから、金がかかるので旅の道中で作った道具や薬は売って金にしている。
店の中でガッツポーズをする僕に売った分のお金を渡した店員が憐みの目線を送る。
くっ、その目線が傷を負った僕の心に更なる痛みを与える。
いや、本当に。ここ、目的地である港町、ナミモに着くまで彼女、ユキユリの言葉や行動が精神的にも身体的にもきつかった。いや、本当に。
僕とユキユリの移動手段は徒歩だが彼女は歩くのが面倒臭いと影に入り、僕の影に重なる事で歩く事無く移動できる。彼女はその場合は会話をするか寝ているかで僕はただ歩いたり会話の相手をするだけなので他の事と比べたら楽なのである。そう、突然何か食べたいとか殴られる事がある。あれは正直、困るし痛い。それに、町にいる時以外は野宿で文句は言われながらも僕と彼女の代わりに影が見張りを交代しながら過ごすのだが寝た彼女のいびきが壁が無いので大きく響く。うるさいし眠れない。
だけど、それのおかげでモンスターや盗賊に襲われずに済んでいるので感謝はある。加えて、彼女の自由な振る舞いや笑みを見ると疲れも痛みも忘れてしまう。
自分はなんて、安い人間だと思ってしまうがそれを受け入れている自分もいる。
「それじゃあ、ありがとうございました」
僕は頭を下げて、店を出ようとした時、店員が。
「あっ、ちょっと待って! お兄さんに少し話があるんだけど」
僕は立ち止まる。
「お兄さん、とっても報酬が良いクエストやらない?」
僕は振り向いて、どこか必死さを感じる店員の顔を見る。
「どうか、お兄さんの力でこの港を守ってくれよ!」