逃げられない。悪魔の笑み
「仮下僕って、どいうことですか?」
僕は恐る恐る尋ねたら、彼女はイジワルげに眼が光って見えた。
「我は高貴なる吸血鬼であるのだが、どうして、この棺に寝ていたのか全く分からん。分からんが、とにかく、起きたのだから、有能な下僕一人ぐらいは付けなければならないだろう」
はぁと頷いたが全く僕には理解は出来ない。
「そこで、目が覚めたら、いたお主を正式な僕が見つかるまでの代役として、使おうということじゃ」
「いやいや、使おうじゃないですよ。僕は嫌ですよ」
なんで、僕が仮下僕にならなくてはいけないんだ。
「ふむ、謙遜することは無い。喜んで僕となれ」
あっ、この人、話聞いてない。
「僕はただ、崖から落ちて、ここに来ただけなので、僕になりたく無いです」
言い切ると、彼女が睨んだ。これは、やばい。殺される。
僕は〈観察〉系のスキルを持っていないが、分かる。彼女が強いことを僕を簡単に殺せることを。
僕は彼女から距離を置こうと動こうとした時。
「お主はもう我から逃れられない」
彼女がそう言って、手を広げた時、僕の体が動かなくなった。手も足も顔も自分の意思で動かせない。言葉を紡ぐことも。
「吸血鬼は血を吸った相手が生かして逃れられないように血を吸う時に魔法をかけるんじゃ。吸血鬼の好きな時に血を吸った相手の行動を止める魔法をな」
まさか、それを僕に。
「もちろん、お主にもかけたから、甘美で使えそうな者をそうやすやすと逃す吸血鬼はおらんよ」
彼女は四度目の笑みを僕に見せた。悪魔の笑みを。